2025年1月号Vol.137
【トレンドビュー】eL-QRを活用した公金収納の実現に向けて
総務省自治行政局行政経営支援室 課長補佐 阿部辰雄
地方税統一QRコード(eL-QR)を活用した公金収納は、2026年9月の開始を目指している。本稿では推進の考え方や検討すべき事項を紹介する。
推進の考え方
スマートフォンの急速な普及などにより、キャッシュレス決済のニーズは急激に高まっている。今後も増加が見込まれる共働き家庭などにとっては、金融機関の営業時間内に窓口で公金の支払いを行うことには大きな困難が伴う。これが自宅で24時間スマートフォンで行えるようになることは、住民の利便性を大きく高めることとなる。
これまでも自治体ごとに各種決済サービスへの対応が進められているが、これをeL-QRを活用して全国的に実現するのが「eL-QRを活用した公金収納」である。これにより住民の利便性向上につながることはもちろんだが、そのほかにもメリットがある。
一つ目は、金融機関の事務負担の軽減である。自治体は多種多様な公金を扱っているが、自治体ごと、場合によっては公金ごとに納付書の様式は異なっている。これを受ける金融機関では、納付書の記載事項をOCR機器で読み取り仕分けするが、全てを自動で行うことは困難であり、人手による作業も多く発生している。これがeL-QRが付された納付書では、eL-QRを読み込むことで仕分けが可能となり、事務負担の軽減が見込まれる。
二つ目は、事業者の事務負担の軽減である。自治体の区域をまたいで事業活動を行う事業者は、その活動範囲に比例して、多くの自治体に公金を支払っている(典型例が、電柱設置に伴う道路占用料の支払い)。支払い手段や支払い可能な金融機関は自治体ごとにさまざまであり、事業者は個々に支払い手段を確認し納付しなければならない。eL-QRが納付書に付されれば、全ての納付書を同一の支払い手段で支払うことができ、さらに、地方税共同機構が提供する「地方税お支払サイト」の機能により、それらをまとめて納付することも可能となる。
三つ目は、自治体のキャッシュレス納付の事務委託に係る契約・価格交渉事務に係る負担軽減である。現在、スマホ決済アプリによる公金収納を可能としている自治体は、委託事業者との契約により実施している。eL-QRを活用した公金収納ではこの個別契約が不要となり、納付書にeL-QRを印字するためのシステム改修など環境整備を行うことで、さまざまなスマホ決済アプリ等に対応できる。またこれらに係る手数料についても地方税共同機構が一括して交渉を行うため、その点の心配も不要になる。
このようにeL-QRを活用した公金収納は、納付者(住民・事業者)、金融機関、自治体のそれぞれにメリットがある「三方よし」の取り組みであり、多くの自治体で実現されることが求められる。
実現に向けて、検討すべき事項
eL-QRを活用した公金収納の実現には、そのための環境整備が必要となる。多くの自治体が、すでに地方税においてeL-QRの活用に向けた環境整備を経験済みのため、ここでは公金特有の検討事項を中心に見ていく。
1. 改修システムや事務フローの把握
地方税における環境整備は、税の担当課を中心とした、基幹税務システムの改修が主なものであった。他方で、公金の場合、担当課が複数にわたり、かつ、改修対象となるシステムも複数になることが考えられる。これがeL-QRを活用した公金収納の大きな特徴である。
まずは、会計担当部局を中心に、対象とする公金の範囲を確定し、それぞれの収納に係る現在の事務フロー、使用しているシステムの全体像を把握することが必要である。また、すでにコンビニ収納など複数チャネルの公金収納に対応している場合には、それらの事務フローも把握する必要がある。
2. システム改修手法の検討
納付書の発行や収納管理を行うシステムに、「eL-QRを印字した納付書の作成・発行機能」「eL-QRで納付を行う案件情報をeLTAXに登録する機能」「登録した案件に対する納付・入金情報をeLTAXから受け取る機能」を追加する必要がある(図参照)。大別すると、改修対象となるのは①収納管理システム、②財務会計システム、③個別の業務システム、の三つが考えられる。これらは、各自治体の公金収納に係る事務フロー、その事務に関連するシステムの構成等によりさまざまであり、1で全体像を把握した上で、関係部局と、関連するシステムベンダーとの間で認識共有を図りながら、検討を進める必要がある。
この際、特に留意すべきなのが、収納案件を一意に特定する方法の検討である。複数のシステム間で収納案件に関するデータのやりとりが発生するため、システム間で間違いのない案件特定を行うこと、別のシステムで生成された収納案件と重複が生じないことが求められる。この点、地方税共同機構が作成している「見積参考資料」において、収納案件の特定のために20桁の「案件特定キー」と6桁の「確認番号」が活用できることとされている。これについても、会計部局のみでなく、関連するシステムの担当課とそのベンダーも含めて、早期に課題のあぶり出しと認識合わせを行う必要がある。
eL-QRを活用した公金収納の実現に向けては、公金特有の検討事項が多々ある。総務省としては、参考情報を一斉調査・照会システムを通じ自治体に対して随時提供し、地方税共同機構と連携してベンダーへの説明会なども開催する予定である。
掲載:『新風』2025年1月号