2025年1月号Vol.137

【事例2】市民目線で進める、行政手続きデジタル化

かんたん窓口システム+スマート申請システム > 栃木県那須塩原市

デジタル推進課 主任 森腰俊一 氏

住所
栃木県那須塩原市共墾社108番地2
電話
デジタル推進課 0287-48-7852
面積
592.74平方キロメール
人口
113,700人(2024年11月1日現在)
栃木県那須塩原市

──行政手続きのデジタル化について、取り組み状況を教えてください。

森腰 那須塩原市では、デジタル化の進展などによる社会情勢の変化を踏まえ、2021年3月にデジタル推進課を設置し、翌年3月に目指すべき姿を示した『DX推進戦略』と『推進戦略アクションプラン(実行計画)』を策定しました。〈市民がデジタル化により、安心で便利に活動できる持続可能な新しい那須塩原市〉を目指し、①市民サービスの利便性向上、②行政の業務効率化と働き方改革、③地域社会におけるDXの促進、の三つを基本方針に掲げて各種施策へ取り組んでいます。
 行政手続きのデジタル化もその一環として進めているものです。現在、本庁と各支所・出張所で「書かない窓口」を実施するほか、オンライン申請の「那須塩原市どこでも窓口」を提供しています。これらを全庁的に推進するため、副市長をトップに各部局の長で構成される「DX推進本部」を設置。また、各課から推薦された約50名の職員を「DX推進員」に任命し、組織横断で実務的な課題の調査・研究や連絡調整などを担ってもらっています。

柔軟運用で〝書かない〟実現

デジタル推進課 主任 森腰俊一 氏

デジタル推進課
主任 森腰俊一 氏

──「書かない窓口」の導入の狙いや現在の状況を教えてください。

森腰 窓口手続きの簡素化は、市民サービスの利便性向上という点で大きな命題と捉えています。現状を見ると、手続きごとに申請書へ氏名や住所など何度も同じことを記入する必要があり、また申請書は種類が多い上に記載事項が細かく、手続きに不慣れな方や外国籍の市民の方にとっては非常に難解です。その結果、申請内容の訂正・差し戻しも発生し、市民と職員双方の負担軽減が急務です。私自身も課税課で窓口を担当していましたが、そうした状況を見て、「システムを有効活用できないか」と感じていました。
 コロナ禍を機に書かない窓口の導入が全国に広がる中で、市でも窓口手続きを簡素化し、市民の負担軽減と職員の業務効率化を図ろうと導入を決めました。市の住基システムと連携可能な「かんたん窓口システム」を採用して、22年10月から本庁の一部手続きでサービスを開始しました。翌年10月には西那須野庁舎、塩原庁舎、箒根(ほうきね)出張所の一部手続きでも運用を開始し、現在、9課・42手続きで利用しています。利用件数は23年度が2万件で、今年度も9月末までに1万件と、新たな窓口サービスとして順当に定着しています。

「書かない窓口」サービスの実施状況(2024年11月現在)

西那須野庁舎 市民課 専用コーナー

西那須野庁舎 市民課 専用コーナー


高齢福祉課 窓口対応の様子

高齢福祉課 窓口対応の様子

──運用後も対象手続きの拡大や窓口の増加など、継続してサービスの充実に努められています。

森腰 推進を後押しする一番の要因は市民の反響でしょう。書かない窓口を利用した市民の評価が職員のモチベーションとなり、対象窓口や手続きの拡大につながっていると考えています。
 また、市民満足の向上にはサービスの分かりやすさも重要なポイントです。そのため、書かない窓口を提供する手続きは、市民が迷わないように本庁・支所等を問わず同じくサービスを提供するようにしました。とはいえ、これが意外と大変な作業でした。当初は、本庁の成果をそのまま適用できると考えていたのですが、うまくいきませんでした。そのため何度も直接現場に入り、それぞれの業務フローの整理や設定、理解促進に努めました。
 運用面の工夫では、市民に〝書かせない〟ことを共通認識として、各課がこれを使ってどう応対するかは、利用者や手続き内容などそれぞれの状況に合わせて柔軟に運用しています。例えば、課税課では記載台を全て撤去し、窓口にタブレット端末を設置しました。市民課では記載台を半分撤去し、書かない窓口用の窓口を新設して市民に入力してもらっています。一方、高齢福祉課ではデジタルが苦手な方でも安心できるよう、職員が聞き取りをしながら入力しています。さらに、子育て支援課では手書きが必要となるケースを想定して、白紙の申請書をワンクリックで印刷できるようにしています。これにより、紙の申請書の在庫管理の手間の削減にもつながっています。

申請だけじゃないオンライン

──「どこでも窓口」の状況は。

森腰 「どこでも窓口」は23年6月からサービスを開始しました。最終ゴールは行政手続きの〝オンライン完結〟です。現在、個人向けでは常時100種類以上の手続きを提供しています。証明書交付や粗大ごみの収集申し込みなどでは、オンライン決済にも対応しています。利用者登録は3,958件以上で、申請件数は11月末時点で5,528件となりました。
 また、どこでも窓口は申請だけが目的ではなく、行政手続きの〝入口〟としての役割も担っていると考えています。この点、どこでも窓口を構成する「スマート申請システム」には手続き案内機能があり、ここからマイナポータルなど他の電子申請システムに誘導しています。また、窓口予約機能を活用して面談や相談などの予約も受け付けています。さらに、対象者が限定される固定資産税課の家屋調査などでは、通知書に印刷したQRコードから直接申請ページを開けるようにしています。
 このようにオンラインに完全移行できない中でも、市民目線での有効活用を心掛けています。

──継続的なサービス拡充のために工夫していることは。

森腰 職員のやる気を引き出すための環境づくりが大切でしょう。デジタル推進課では、職員が申請フォームを作成する際にシステムの操作研修などの支援はできますが、事務処理上の課題を全て解決することはできません。その点では現場の〝気付き〟が大切だと考えています。そのため、他団体や他部署での先進事例の共有により、オンライン申請を具体的にイメージしやすいような支援に努めています。
 一例として、那須塩原市と同じシステムを利用してオンライン申請サービスを提供する団体のリンク集を作成し、庁内向けに公開しています。加えて各部門の活用事例も共有しています。例えば、カーボンニュートラル課では、市独自の省エネ家電購入促進事業補助金の申請をオンラインで受け付けました。これは市としては初の補助金申請のオンライン化事例で、領収書などの添付が必要など複雑な申請でもオンライン化できる模範となっています。

バックヤード改革も視野に

DX推進の基本方針

──現状の課題や、その解決に向けた取り組みは。

森腰 書かない窓口については、市民の負担軽減という点で大きな一歩を踏み出せたと思います。
 また、この運用を機に、職員から「申請データをバックヤードで活用し業務負担を軽減したい」という意見が出されるなど、業務全体でデータを活用する意識も徐々に広がってきたと感じています。実際、各課からシステムの活用などに関する問い合わせが増えており、そうした場合には個別習得会を開催しています。
 その一方で、「書いたほうが早い」という意見もあります。これは継続して取り組むべき課題ですが、要因の一つにはデジタルへの慣れや業務フローの検証不足があると考えられます。解消するにはデジタルスキルの向上とともに、「将来のために少し苦労してみよう」と意識を前向きに変えてもらうことが大切でしょう。
 そこで、個別習得会などを通じてシステム研修や他部門の業務改善事例を紹介することに加え、システムの使い方などを分かりやすくまとめた職員向けガイドラインの作成も検討しています。これにより、システムを有効活用して業務改善につなげる事例が増えていければと考えています。
 また、窓口の混雑緩和という点では、どこでも窓口からの事前申請と、書かない窓口の連携にも期待しています。
 さらに市民と職員双方にとって理想の姿は、市民が〝行かない〟窓口の実現だと思います。その一つの手段が、どこでも窓口です。利用できる手続きの拡充を進めるとともに、手続きのオンライン完結を目指して決済手段の追加や電子署名によるオンライン交付の実装にも取り組む予定です。

──書かない窓口をバックヤード改革につなげる取り組みも、進められていますね。

森腰 市では以前からBPRへ積極的に取り組んできましたが、書かない窓口はフロントヤードのみならずバックヤードの業務改善でも有効であると考えています。そうしたチャレンジも少しずつ動き始めました。
 本庁と支所で受け付けている手続きについて、紙の申請書では拠点間での送付の手間が発生し、また全体での進捗管理が困難などの課題がありました。この点、申請をデータで受け付けることで紙の送付が不要となり、システムで全体的な進捗管理も行えるようになります。
 また、24年11月からは異動手続きの際に、市民課で手続き案内票を発行し、申請データを後続する課の手続きでも活用する横連携(データ連携)を試験的に開始しました。まずは転入・転出でのスモールスタートですが、これにより市民の滞在時間の削減や手続き漏れの防止につなげたいと考えています。なお、新庁舎の開庁(27年度予定)に向けデータ連携をさらに拡大できればと考えており、今後予定されるシステム標準化などの動きも見据えながら〝あるべき姿〟の検討も始めました。

──今後の計画を教えてください。

森腰 市では現在、DX推進戦略の見直しを進めています。これまでの取り組みを振り返ると、①組織内のデジタル化意識の差が全庁的なDX推進の妨げとなっている、②DX推進部署と各部門間で、DX推進に対する認識の格差がある、③前例踏襲になりがちな改革への消極的姿勢、現状維持バイアスがある──といった課題も残されています。そこで新たな戦略では、全庁が一丸となって取り組む機運を醸成するために「職員DX行動指針」を計画に併せて定めます。
 DXは各課の業務を体系的に整理し、業務プロセスや課題を可視化することから始まります。言葉でいうのは簡単ですが、実際に行動するのはなかなか難しい部分もあります。私たちも試行錯誤を繰り返しながら取り組んでいます。それでも小さな成功体験を重ねる中で、職員の意識も少しずつ変化してきました。推進担当としては、今後も他自治体の取り組みや庁内各課の工夫などを採り入れ、庁内で共有・展開しながら、市民と行政、地域の課題解決に向けたDX推進を支援していきたいと考えています。

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