2025年1月号Vol.137

【特集】先進事例に見る「フロントヤード改革」の進め方

小誌2024年4月号で取り上げた「フロントヤード改革」。DX推進の現場では、これを意識した取り組みも広がりつつある。そこで、従来の行政手続きのデジタル化を一歩踏み出し、改革に挑む2市の先進事例から推進のポイントを探る。

 「フロントヤード改革」とは、利用者を起点に住民と行政の接点(フロントヤード)から仕事を総合的に変えていこうというものだ。背景には、人口減少・少子高齢化による人手不足の深刻化に加え、社会的なデジタル化の進展に伴う行政手続きに対する利用者の意識やニーズの変化が挙げられる。
 住民の利便性向上という点では、いま全国で書かない窓口やオンライン申請の導入が進んでいる。しかし、〈書かないだけ〉〈オンライン申請だけ〉といった〝部分最適〟な取り組みも多く、本来目的であるDX(デジタル・トランスフォーメーション)の実現にはまだ道半ばといえるだろう。
 そもそも、これまでの行政手続きのデジタル化と何がどう違うのだろうか。総務省の君塚明宏行政経営支援室長は、小誌取材で次のように答えている。
 「これまでの取り組みは、紙とデジタルの申請が混在したまま住民との接点だけを複数用意するマルチチャネル化。これでは住民は便利になっても職員の業務負担は逆に増えかねない。フロントヤード改革は、フロントからバックヤードの業務までエンドツーエンドでデジタル化することで、住民の利便性向上はもちろん業務の効率化が期待できる」(小誌2024年4月号)
 ポイントは〝デジタル前提〟ということだ。書かない・待たない・迷わない・行かない窓口による〈住民接点の多様化〉に加えて、そのデータを活用して〈バックヤードの集約化・効率化〉を図り、これにより生み出された時間や労力を相談などの本来業務に集中する──それが最終ゴールだ。
 行政手続きのデジタル化はあくまでも〝手段〟であり、そこから一歩踏み出すことがいま求められている。
 これを推進するため、総務省は「自治体フロントヤード改革モデルプロジェクト」を実施し、人口規模別の総合的な改革モデルの実証支援と優良事例の横展開に取り組んでいる。23年度は12のモデル団体が選考され、今春に成果が明らかになる見込みだ。

小さな成功からコツコツと

市区町村における「住民との接点の多様化」の状況

 本号では、TKCシステムを活用して改革へ挑む神奈川県川崎市(人口約155万人)と栃木県那須塩原市(同約11・4万人)の事例を取り上げた。
 川崎市では、「原則全ての行政手続きをオンラインで受け付ける」方針を打ち出し、23年4月に「オンライン手続かわさき(e-KAWASAKI)」を本格スタートした。最大の特長は手続きの種類の多さであろう。
 那須塩原市では、本庁と各支所等で「書かない窓口」を実施するほか、オンライン申請「那須塩原市どこでも窓口」を提供している。特にユニークなのが、各課の状況に合わせて書かない窓口を柔軟に運用していることだ。
 次ページ以降でそれぞれの行政手続きのデジタル化の状況と、それを業務改革につなげるさまざまな工夫を紹介した。2市に共通するのは、行政手続きのデジタル化を手段として、中長期の視点から業務改革や住民サービスの向上に取り組んでいることだ。
 特にデジタル化で大きな障壁となるのが〝ヒト〟の問題だ。いかに現場を巻き込み、全庁的な推進機運を高めていくか。持続的な取り組みには、全ての職員がデジタル・リテラシーを身に着けることも必要となる。「なかなか一筋縄ではいかない」と悩む推進担当者も多いことだろう。
 この点、2市はいずれもデジタル化を〝自分ごと〟として職員自身が考え行動することを促進している。「小さな成功体験を積み重ね、次の挑戦につなげる」、「職員の心のハードルを下げる」、「利用者(市民・職員)視点の重視」、「短期・中長期の両面で活動を捉える」──など、その取り組みは多くの団体に参考となるはずだ。
 また、DX推進担当者が現場に寄り添い、それぞれの声に耳を傾け実情に即した施策を講じ続けていることも共通点といえる。2市も、いきなり大きな成果を得られたわけではなく、試行錯誤の中から自分たちのベストを見つけ出してきたのだ。

◇   ◇   ◇

 TKCでは「スマート行政DX」をコンセプトに掲げ、かねてより住民接点から行政内部の業務に至るプロセス全体をデジタル技術で変革するため、〈基幹業務システムの標準化・共通化〉〈行政手続きデジタル化〉〈内部事務デジタル化〉を一体で進めることを提案してきた。この考え方は、国が進める「総合的なフロントヤード改革」とも重なり、活動のギアを一段上げることが求められている。
 フロントヤード改革はまだ始まったばかりだが、今後、スピードを増すことは間違いない。成果が見えるようになるまでには時間がかかり、その間にデジタル技術も利用者ニーズもどんどん変わっていく。当社としても単なる〝手段〟としてのシステム・サービスの提供にとどまらず、円滑な運用支援や好事例の共有、あるいは新たな住民接点の創造などを通じて、改革に貢献していきたいと考える。

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