2024年1月号Vol.133

【特集】大阪市が取り組む2040年の“未来像”を見据えたDX戦略

大阪市デジタル統括室
戦略担当課長 花森将彦氏
デジタルサービス担当課長 藤堂高士氏
聞き手 本誌編集委員 篠崎 智

2023年3月、大阪市は『Re-Designおおさか~大阪市DX戦略~』を策定した。
これは生活者視点でサービスや行政のあり方を再デザインし、市民や事業者など
多様な人びとが“幸せ(Well-being)”を実感できるまちを目指すものだ。
日本屈指のDX先進団体に、新たな局面を迎えた戦略の考え方や今後の展望を聞く。

──2023年3月に、新たにDX戦略を策定されました。あらためてこれまでの取り組みを教えてください。

写真左から花森課長と藤堂課長

写真左から花森課長と藤堂課長

花森 大阪市では、16年3月に『大阪市ICT戦略』を策定し、20年8月から「大阪市行政オンラインシステム」の運用を開始するなど、これまで最先端ICT都市の実現を目指して行政手続きのデジタル化などへ意欲的に取り組んできました。例えば、行政手続きのオンライン化では約2000手続きのうち、23年3月末現在で約700手続きをオンライン化しています。
 しかし、「2040年問題」といわれる将来の生産年齢人口の減少に伴う労働力の不足により、行政運営も従来のスタイルでは対応が困難となっていくことや、社会環境の変化により地域の課題やニーズが複雑化・多様化してきています。そこで、これまでのICT戦略を再構築し、新たに『Re-Designおおさか~大阪市DX戦略~』を策定しました。リアルの大阪市が持つ〝魅力〟を生かしつつ、データやデジタル技術の活用を前提として、生活者・事業者視点で再デザインされた便利で快適な行政サービスを提供し、市民のQoL(生活の質)と都市力の向上を目指すものです。そのために、市のサービスや組織・制度、仕事のやり方などの全てをよりよい形に再設計するという思いを込めて〝Re-Design〟と命名しました。
 戦略の策定は23年3月ですが、22年4月には基本的な考え方を先んじて公表し、併せて推進体制も見直しました。新たに発足したデジタル統括室はDX推進の司令塔としての役割を担うとともに1年間かけて戦略を練り上げました。戦略の策定にあたっては、専門用語を極力少なくし、施策方針一つひとつに「『ええやん。大阪』。より便利な行政サービスへ」などのキャッチフレーズを付けることで、より多くの方に市の取り組みをご理解いただくことを心掛けました。
 また、戦略とともに、具体的な取り組み計画として『アクションプラン』も策定。戦略に掲げた六つのバリュー(実現したい未来・めざす姿)ごとに、目標達成に向けた今後の主なロードマップと具体的な施策を掲げ、それぞれKPI(評価指標)を設定し、今年度から取り組みを始めました。

サービス・行政を再設計する

花森 戦略策定では、国が示す将来ビジョンも踏まえながら〈2040年頃までに実現したい大阪市の未来像〉を想像し、バックキャスト思考で、その達成のためにこれから何をすべきかを考えていきました。この中には、現時点では簡単に達成できない困難な目標や課題への挑戦も含まれています。
 変化が常態となる中で、目の前の仕事をこなすのに精一杯という状況では組織は疲弊し、柔軟で創造的な発想もなかなか生まれません。この点、「こうありたい」という目標を明確にすることで、軸がぶれることなく、ゴールに至る道筋や施策を考えられるようになります。これにより、市民・事業者目線で新たな価値を創出し、SDGsをはじめ、大阪市が抱えるさまざまな課題に対応し、まちの発展・成長に貢献していきたいと考えています。

──現在、どのような取り組みを進めているのでしょうか。

藤堂 六つのバリューを実現するため、30年までをめどに12プラス1で構成するストラテジー(施策方針)を実行します。ちなみに〝プラス1〟とは「全職員が自分事としてDXに取り組んでいく」ということを示しています。
 例えば、バリュー1「サービスのRe-Design」に掲げる一つの取り組みが〈ストレスを感じない窓口サービスの実現〉です。その一環として、9月から全区役所で「スマート申請」を開始しました。これは引っ越しや身近な方が亡くなられた際に、「大阪市行政オンラインシステム」を活用して必要な手続きが判定できるほか、事前申請を行うと来庁時にその内容が記載された申請書を受け取れるというサービスです。これにより、職員は申請内容を確認し、誤りがあった場合には事前に補正することができ、窓口の混雑緩和や市民の手続き時間の短縮につながっています。サービス開始から間もないものの、市民からも「申請書を書かないのは便利」と評価の声が寄せられています。
 また、バリュー6「しごとのRe-Design」では、とりわけ〈バックオフィス(内部管理業務)DXの実現〉が急務と考えています。予算編成、調達・契約、支払いの一連の事務、文書管理や人事・給与管理といった、いわゆる内部管理事務全般を対象としたDXですが、現状では、それぞれの業務ごとにシステムへデータを入力・転記するのに多大な労力を要しています。そこで、一度システムへ入力したデータは後続業務へ自動連携できるようにし、組織全体のパフォーマンスと業務品質を向上させたいと考えています。
 さらに、これらDXの取り組みを円滑に進めるため、今後は『大阪市システム刷新計画』(22年4月策定)に沿って、大阪市共通クラウドやSaaSなどの活用を前提としたデジタル環境整備なども進めていきます。

市民も職員も〝幸せ〟実感へ

本誌編集委員 篠崎 智

本誌編集委員 篠崎 智

──DXを着実に進めていくための人材育成や、推進体制・仕組みの創設などにも触れています。

花森 DXはあらゆる行政分野・施策で進めるものであり、それぞれの事業を所管する部署の職員の主体的な取り組みが欠かせません。そこで全職員の意識やリテラシーの向上を狙い、今年度からリスキリングに注力しています。
 全職員を対象とするものとしては、DXマインドやデジタルリテラシーを習得する基礎研修を実施。また、課長級職員向けでは、デジタル技術を活用したサービスのデザイン・再構築をするためのマネジメント研修を実施しており、その中ではMicrosoft Teams*などデジタルを活用したディスカッションの場も設けています。さらにコア人材の育成にも注力しており、3年間で200人程度を育成する計画です。
 こうした取り組みによって、さまざまな新規事業やイノベーションの創出につながることを期待しています。
 さらに、予算措置においても新たなスキームとしてDX推進経費を創設するなど、DX戦略を強力に推し進める考えです。

──今後の計画を教えてください。

藤堂 スマート申請のサービス効果が最も発揮されるのは、3月の引っ越しシーズンです。そこで、より多くの方に利用していただけるよう、区の広報紙などでの再告知を企画しています。
 ただ、サービスのRe-Designで最終的に目指すのは、市民や事業者が区役所に来庁しなくてもあらゆる行政手続きや相談が〈オンラインで簡素・簡単に完結できる〉ことだと考えています。その点では、オンライン申請が可能な手続きの種類をさらに拡充するのに加え、今後は業務見直しも必要になってくると思います。
 また、区役所のフロントヤード改革も急務です。これについては、区役所の実務を担当している職員とワーキングチームを発足して検討を始めたところで、今年度中には実行計画を策定したいと考えています。やはり、システムを導入するだけでは解決しないことも多く、BPRも必要です。推進には現場職員との〝共創〟が欠かせません。現場の課題を知っている職員と、デジタルソリューションの知見を持つわれわれが一緒に取り組むことで、互いの強みを十分に発揮できると期待しています。
 とはいえ、24ある区ごとに特徴や地域性はそれぞれ異なります。スマート申請でも、まず東淀川区と住之江区でモデル的にサービスを実施しましたが、フロントヤード改革の進め方としては、地域性などを加味しながらスモールスタートし、そこで課題の抽出・検証を行った上で全区に拡大するスタイルがベストかなと考えています。

──進化し続ける大阪市の取り組みから、今後も目が離せません。

花森 いまや多くの人が日常的にオンライン注文・決済を利用しています。行政サービスも、そうした人びとの生活スタイルやニーズを敏感に捉え、進化し続けていくことが肝要でしょう。そのため、アクションプランなどは、計画の進捗状況やデジタル技術の進展、社会環境の変化などを踏まえて、柔軟に軌道修正していく予定です。
 「デジタル社会形成基本法」において、地方公共団体は法の基本理念に則り、それぞれの区域の特性を生かした自立的な施策を策定・実施する責務を有する──とされました。
 いま、全国の市区町村にとってシステム標準化への対応が喫緊に対処すべき重要課題となっていますが、その結果を待ってから進めるのでは遅い。われわれとしては基本法の趣旨に則って〝大阪らしさ〟を生かしながら、できるところは先行して進めていこうと考えています。
 その結果、市民のQoL向上に寄与するのはもちろん、職員自身も 〝Well-being〟を実感できる社会を目指す。大阪市の挑戦はまだ始まったばかりです。

*Microsoft Teamsは、米国Microsoft Corporationの米国およびその他の国における登録商標または商標です。

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