2019年1月号Vol.113
【こちらデジタル・ガバメント対応推進室】スマート自治体とAI・RPA
室長 松下邦彦
本誌特集において、「地方自治体における業務・システムの標準化及びAI・ロボティクスの活用に関する研究会」座長である國領二郎教授へのインタビュー記事を掲載しています。
研究会発足のきっかけとなった「自治体戦略2040構想研究会」の報告書が公開されてから、自治体でもAI(人工知能)とRPA(ロボティクス・プロセス・オートメーション)が注目されています。
「自治体戦略2040構想研究会」の第二次報告書には、経営資源が大きく制約されることを前提に〈従来の半分の職員でも本来担うべき機能を発揮できる自治体(=スマート自治体)への転換が必要〉と記載されました。〝従来の半分の職員〟というところに強いメッセージがあります。また、そのためには〈全ての自治体で業務の自動化・省力化につながる破壊的技術(AIやロボティクス、ブロックチェーンなど)を使いこなす必要がある〉とし、AI・ロボティクスが処理できる事務作業は全て自動化することで、〈職員は企画立案や住民への直接的なサービスなど、職員でしかできない業務に注力する〉ことができるとしています。
こうした状況を踏まえ、総務省は2018年9月に國領二郎教授を座長とする研究会を立ち上げました。
試行が多い自治体のAI導入
AIは60年以上の歴史があります。近年は機械学習という技術で新たなブームを迎え、自治体でも導入事例が増えています。
自治体の住民向けサービスに関わる業務を、案内、申請、審査、実施(証交付・給付・賦課収納)に分けると、AIの導入事例が多いのは案内と審査のプロセスです。
まず、住民に行政手続きを案内するプロセスでは「チャットボット」の導入事例が増えています。チャットボットとは、人が送信したメッセージに対して自動的に回答し、あたかもおしゃべり(チャット)するロボット(ボット)のように振る舞うものです。これには、ごみの分別案内や水道の使用開始・中止の申し込み手続き、行政サービスの問い合わせなどの事例があります。マイナポータルで子育て関連の手続きを案内する「ぴったりサービス」も、メッセージサービスのLINEで利用できるチャットボットの一つです。
一方、職員が申請内容を審査するプロセスでは、審査作業そのものをAIが支援する事例があります。例えば、複雑な条件を考慮しなければならない保育所の入所選考や、介護給付費が適正かどうかの判定に導入されています。また、法令・規則、あるいは過去の審査事例を確かめるためのFAQやナレッジマネジメントでAIを用いることもあります。
これら住民向けサービス以外の分野でも、自治体でAIを導入する試みが進んでいます。
例えば、音声認識を使った自動翻訳や議事録作成の支援、広報広聴での利用、道路や河川の異状を検知するインフラ管理や防災分野、その他、ケアプランの作成支援やバスの配車で利用する事例もあります。なお、自治体におけるAIの導入事例の多くは、実用化や応用が本当に可能かどうかを実際の場面で検証する試みです。
本格導入では運用・保守に留意
一方、RPAはすでに実証実験の段階から本格導入の時期に移行しつつあります。
RPAとは、マウスやキーボードによる定型的なパソコン操作を人間の代わりに自動的に操作する仕組みであり、それによってアプリケーションやウェブブラウザーなどを人間の代わりに自動的に実行します。例えば、〈エクセルに入力したデータをシステムに入力する〉〈OCRソフトで読み取った内容をシステムに入力する〉〈システムの処理結果を別のシステムに入力する〉などが可能です。
システムの操作を自動化させることは、本来はシステムの機能強化で実現できます。ところが、システム改修が容易でないケースもあり、ここにRPAを活用する場が広がっています。システム改修が容易でない原因はさまざまです。既存システムがそもそも改修できない、あるいは、改修できても費用が高額といったこともあるでしょう。
また、ウェブブラウザーでファイルをダウンロード・アップロードしたり、メールの添付ファイルを取得するなどは、機能は単純ですが、自動化するにはプログラムを作成する必要があります。RPAを使うかシステムを改修するか──いずれかを判断するには費用対効果も考慮されるため、まずRPAで試し、効果が認められた場合にシステムを改修した事例もあります。
RPAを業務に導入する場合は、業務を止めることがないように、業務システムと同じ水準で運用・保守する必要があります。過去には個人が作成したエクセルブックが、本人が異動した後に保守できなくなったというケースが見られました。こうした事案は民間・公共を問わず起こりえます。RPAでは、その轍(てつ)を踏んではなりません。
RPAの動作を決めるものは一般に「シナリオ」と呼ばれ、システムのソースプログラムに相当します。RPAはパソコンの画面に従って動作するので、業務システムやプログラムが画面レイアウトを変更するだけで停止してしまうこともあります。そのため、業務システムの改修やバージョンアップに合わせてシナリオの動作も確認し、不具合があれば修正する必要があります。
シナリオの作成と保守は、自治体職員が担当するケースもあれば、外部に委託するケースもあります。いずれの場合でも属人化させることなく、業務として運用・保守する組織体制を作ることが重要です。また、ベンダーにシナリオ修正を依頼する費用、あるいは職員がシナリオを修正する際のベンダーサポート費用を、継続的に確保することも求められます。
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人口減少・職員定数の減少が進む中、自治体における業務効率の向上が喫緊の課題になってきました。
TKCはTASKクラウドの機能充実により自治体職員の業務効率向上を図ることに専心するとともに、AIやRPAについても、TASKクラウドを補完するような効果的な活用方法を研究してまいります。
掲載:『新風』2019年1月号