【こちらデジタル・ガバメント対応推進室】デジタル・ガバメントの動向
──自治体の行政サービスデジタル化
室長 松下邦彦
6月、国のIT戦略(「世界最先端IT国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」)と各府省のデジタル・ガバメント中長期計画が相次いで公表されました。今回はその動向をもとに、自治体でデジタル・ガバメントを実現するための基本方針を検討します。
IT戦略の重要施策となった
行政サービスのデジタル化
IT戦略では四つの重点取り組みを掲げています。第一が「デジタル技術を徹底的に活用した行政サービス改革の断行」であり、その筆頭に「行政サービスの100%デジタル化」が掲げられています。行政サービスのデジタル化(手続きのオンライン化)は、いわばIT戦略の〝一丁目一番地〟の施策に位置付けられます。
これまでの電子申請は、紙による従来の事務をそのまま電子化しており、多くの手続きで法令・規則により〈紙の書類添付〉が求められていました。こうした添付書類等の制約を取り除き、行政サービスのデジタル化を推進するためにデジタルファースト法案が検討されています。
7月に開催されたデジタル・ガバメント閣僚会議の資料「デジタルファースト法案の策定について」によると、法案の内容は〈オンライン化の徹底〉と〈添付書類の撤廃〉が中心となります。原則すべての手続きをオンラインで実施する義務を、行政機関に課すとともに、行政機関の法令において添付書類を省略可能とするための規定が整備されます。
デジタルファースト法案では、自治体等についても〈オンライン化の努力義務〉を課すとともに、国がシステム整備や情報提供等を支援し、オンライン化を推進することを規定します。
また、各府省が策定したデジタル・ガバメント中長期計画にはそれぞれが所管する手続きの一覧表があり、そこに自治体で実施するものもリストアップされています。現時点では、大半の自治体手続きは「オンライン化検討可能」とされています。今後、オンライン化の可否が検討され、まずは介護、死亡・相続等のワンストップサービスに関わる自治体手続きが〈オンライン化可能〉になると見込まれます。国が制度を所管しない自治体独自の手続きについては、個々の判断でオンライン化が可能です。
ここで自治体の行政サービスをデジタル化するための基本方針を考えるにあたり、前提を整理します。
まず、100%オンライン化という原則はあるものの、自治体の手続きには〈対面による相談〉が必要なものがあります。申請の前に住民の相談を受け、それによって適用する制度が分かる手続きもあれば、申請後の審査・認定において相談や現地調査が必要な手続きもあります。
次に、デジタル機器を使いこなせない人がいること──すなわち〈デジタル・デバイド〉を考慮しなければいけません。デジタル機器に不慣れな人は、従来同様に来庁していただく必要があります。
そして、手続きにかかる国の制度は当面現行のままであると想定されます。国はデジタルファーストを唱えるにあたって〈業務改革〉を求めています。業務改革では、本来、複雑化している制度の見直しも必要ですが、国の制度が整理されるまでにはまだ時間がかかります。
行政サービスデジタル化推進へ
四つの基本方針
こうした前提に基づいて自治体の行政サービスデジタル化の基本方針を考えてみます。
◯基本方針1
「相談が不要なサービスは完全にデジタル化する」
相談が不要なサービスの手続きはオンライン化します。デジタル機器を使いこなせない人は従来同様に来庁していただき、庁内で職員が操作を補助します。申請にかかるシステムは、オンラインも庁内も同じものとして重複投資を防ぎます。申請以降の審査・認定、証明書等の交付、給付、賦課・納付などのプロセスでも、それを扱う基幹システムで電子化・省力化を図ります。
◯基本方針2
「オンライン申請は使いやすさを追求する」
オンライン申請は〝使いやすく〟なければ問い合わせが増えて実際の運用に耐えません。使いやすくするには、入力操作を減らすことが重要です。そのため、申請者に入力を求める代わりに、システムが自動的に情報を収集する必要があります。
住民の情報は基幹システムに格納されています。これを申請システムで使うには、個人情報を安全に保管し、本人が許諾したサービスにのみ情報提供を可能とする〈パーソナル・データ・ストア〉という仕組みが適用できるでしょう。他の行政機関にある情報は、マイナポータル経由で中間サーバーの情報を取得できます。こうした情報は、申請する人が自分に適用できる手続きを探す場面でも活用できます。
◯基本方針3
「対面が必要な手続きはデジタルで業務を支援する」
対面の相談が必要な手続きは、従来同様に庁内で実施する必要があります。ここでもITによって省力化・自動化を図ります。例えば、複雑で多岐にわたる福祉関連の手続き事務は、基幹システムと連携する福祉相談支援システムによって作業を省力化できます。また、AIによって審査事務等を支援できる可能性があります。
なお、相談が必要な手続きでも、相談の予約や現況届等は来庁する必要がなく、オンライン化が可能です。
◯基本方針4
「制度の対象者にお知らせする」
これまで自治体のサービスを利用するにあたっては、まず適用できる制度や手続きを自力で調べるか、来庁して相談する必要がありました。自治体の基幹システムの情報を活用すれば、制度の対象者を抽出して積極的にお知らせすることができ、「制度を知らなかった」という事態を減らせます。
◇ ◇ ◇
以上、四つの基本方針に基づき、オンライン申請だけでなく庁内の事務を含めて、自治体の行政サービス・プロセス全体のデジタル化を進めます。いずれの方針でも、住民の情報を保持し、手続きの庁内事務を取り扱う〈基幹システム〉が大きな役割を果たします。
行政サービスのデジタル化にあたっては、オンライン申請などフロントエンドのシステムを導入するだけでは不十分です。申請システムと、庁内事務を取り扱う基幹システムを一体的に整備することによって、初めてデジタル化の真価を発揮することが可能となるのです。
掲載:『新風』2018年10月号