【こちらデジタル・ガバメント対応推進室】デジタル・ガバメントの動向

──添付書類の撤廃

室長 松下邦彦

 本誌4月号の特集記事「100%デジタル化へ ─転換点を迎えた行政サービス」でお伝えしたように、国は各種手続きのオンライン原則を徹底して行政サービスの100%デジタル化を図ろうとしています。
 これを実現する上で最大の課題は添付書類の撤廃です。本稿では、市区町村が行政サービスのデジタル化を検討する際のご参考となるように、添付書類の撤廃に関する動向を紹介します。

添付書類の撤廃が
デジタル化の最大の課題

 昨年12月に公表された『デジタル・ガバメント実行計画』では、行政サービスを100%デジタル化するための原則として、デジタルファースト、ワンスオンリー、コネクテッド・ワンストップの三つを掲げています。この中でワンスオンリー原則が、行政手続きにおける添付書類の撤廃を求めるものです。すでにいずれかの行政機関が保有している情報は、手続きにおいて再提出を求めないという原則です。
 e-Japan戦略以来、十数年にわたって行政サービスのオンライン化が進められてきました。ところが、国の手続きでオンライン化されたものは12%程度、オンライン化された手続きでもオンライン利用率は7割にとどまっています。この原因として、本人確認手段と添付書類の二つが指摘されています。
 本人確認手段の制約でオンライン化できない手続きは、窓口での対面や書面への押印を法令が求めているものです。解決策として電子的手法への代替が検討されています。
 より根深い問題が添付書類です。紙の添付書類によってオンライン化できない手続きもあれば、オンライン化しても紙を別送するのが不便なためオンライン利用率が伸びないものもあります。添付書類の撤廃は、添付書類をPDF等の電子ファイルに置き換えるだけでは不十分です。そもそも何を証するために必要な情報なのか、それは自庁や他の機関がすでに保有している情報ではないかという観点で業務そのものを再構築する必要があります。
 添付書類の撤廃についてデジタル・ガバメント実行計画は、他の行政機関が保有している情報についてマイナンバー制度等を活用すること、また登記事項証明書や戸籍謄抄本等の添付を不要にするための関連法案を国会に提出することを求めています。

マイナポータルのAPI提供

添付書類の撤廃に向けた考え方

 3月30日の政府IT総合戦略本部電子行政分科会では、添付書類の撤廃に向けた考え方が参考として示されました。府省へのヒアリングで添付書類を必要とする理由をパターン化し、それぞれに適切な解を選択するというものです。パターン化の調査事項として、①添付書類に記載されている何の情報を確認しているか②何を判断するために情報を確認しているか③情報が必要なタイミングは申請時か事後に必要が生じた際か、が挙げられています。
 解の例としては、「そもそも添付書類の提出を不要にする」「事後に必要に応じて参照する」「より簡易な手法に置き換える」「システムによる情報連携で添付書類に関する情報を取得する」「書類の省略が不可能な場合でも電子的な手段での提出を認める」──などが掲げられています。システムによる情報連携としては、すでにマイナンバー制度の情報提供ネットワークシステムが稼働しており、他の行政機関に情報照会が可能です。
 手続きの中には、民間企業が発行する書類を求めるものもあります。これを撤廃するため、民間企業の業務システムと申請手続きのシステムを連携させる情報連携プラットフォームという構想も提示されています。また、マイナポータルには民間企業による送達サービス*も組み込まれているので、民間企業が送信した電子ファイルを受け取って添付することも可能でしょう。
 4月から5月に各都道府県で開催された「社会保障税番号制度担当者説明会」では、マイナポータルの機能を企業や民間組織へAPI*で提供する構想が紹介されています。民間企業のシステムもマイナポータルとシングル・サインオンし、本人の許諾を得た上で行政機関が保有する情報を取得することができます。また、前述の民間送達サービスもAPIによって連携できるようになるでしょう。こうしたAPIによって、使いやすい電子申請サービスや、便利な民間サービスが実現できます。

市区町村もデジタル化を

 国が従来の「電子政府」に替えて「デジタル・ガバメント」という言葉を用いていることには、デジタル化によって業務そのものを変革するという思いが込められています。添付書類の撤廃は単に業務の中の紙文書を電子文書に置き換えるだけでなく、紙による業務をデジタルによる業務に変革することを意味します。
 昨年12月の経済財政諮問会議における総務省の報告では、市区町村は窓口業務のコスト削減のために、外部委託を進めるとともにICTを活用するとされています。
 また、3月30日の電子行政分科会では『地方公共団体におけるオンライン利用促進指針』(仮称)を作成しているという報告がありました。市区町村においても行政サービスのデジタル化が強く求められています。
 TKCは今春、デジタル・ガバメント対応推進室の新設など大幅な機構改革を実施。最新動向を注視するとともに、市区町村の行政サービスをデジタル化するための業務フローや基礎技術の研究、新サービスの開発に取り組んでいます。その一端を今年のTASKクラウドフェアに出展します。ご期待ください。

*民間送達サービス:
電子データをインターネット上で受け取ることができる民間企業のサービス。マイナポータルと民間送達サービスをつなげることで、IDやパスワードを入力することなくログインできる他、届いた資料をマイナポータルのお知らせ機能から確認することが可能。
*API:
アプリケーション・プログラム・インターフェース。アプリケーション同士を接続するインターフェースの仕様。APIを利用することで、外部システムの情報の取得・更新やサービスを利用可能。

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