【トレンドビュー】どう影響する。官民データ活用推進基本法
株式会社TKC 番号制度対応推進室長 松下邦彦
官民が保有するデータを流通・活用することで、自立的で個性豊かな地域社会の形成、新事業の創出、国際競争力の強化などを目指す「官民データ活用推進基本法」(基本法)が昨年12月に公布・施行されました。その目的の一つに「効果的かつ効率的な行政の推進」が挙げられています。マイナンバーカードの利活用などにより便利な住民サービスの実現への取り組みが進む中、市区町村においても法律の趣旨を踏まえた業務体制の整備が必要です。
目指すのは活力ある社会と効果的・効率的な行政の推進
基本法の主旨は「個人及び法人の権利利益を保護しつつ情報の円滑な流通の確保を図ること」にあります。
また、活用を推進する「官民データ」について、基本法では公的機関(国、地方公共団体、独立行政法人)と民間事業者が「事務または業務の遂行に当たり、管理、利用、提供するもの」と定義しています。これは、官民を問わず業務で取り扱うデータ全てが対象となるということを意味します。
さらに官民データ活用の目的については、基本法第3条で①「活力ある日本社会の実現に寄与すること」②官民データを国や地方公共団体における施策の企画・立案に生かし、「効果的かつ効率的な行政の推進に資すること」と定めています。加えて、活用推進にあたっての留意事項として、①安全性・信頼性の確保②個人や法人の権利利益の保護③行政分野での情報通信技術のさらなる活用促進④個人に関する官民データ活用のための基盤の整備⑤AI・IoT・クラウド等の先端的な技術活用の促進──を求めています。
基本法では、これらを推進する上で国・地方公共団体・事業者それぞれの責務も定めており、地方公共団体に対しては「国との適切な役割分担を踏まえて、その地方公共団体の区域の経済的条件等に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する」(第5条)としました。
今後、都道府県では、区域における推進施策の基本的な方針と推進事項をまとめた「都道府県官民データ活用推進基本計画」を策定することになります。なお、市区町村の計画策定は「努力義務」とされました。
データは“保護”から“活用”へ急がれる市区町村の体制整備
基本法では、先述の基本理念に基づき各種施策も定めています(図)。
その筆頭に挙げられたのが「行政手続のオンライン利用の原則化」です。従来から行政手続オンライン化法により電子化が進められてきましたが、これをさらに一歩進め、「行政機関にかかる申請・届出・通知等」と「民間事業者が行う契約申し込み」などについて、オンライン手続を原則とする法令改正等の措置が講じられることとなります。また、データを容易に利用するための「オープンデータ」等の推進や、コンテンツに関する法律の見直しなども予定されています。
その他にも、「マイナンバーカードの普及・活用に関する計画の策定」「利用機会の格差是正」「情報システムに関する規格の整備および互換性の確保」「研究開発推進・人材育成・教育および学習振興・普及啓発」「国と地方公共団体の施策の整合性確保」──などが、基本的施策として定められました。
これら施策の中で、市区町村にとってとりわけ重要なのが個人に関するデータの適正な活用です。
活用推進の対象となるデータには、公開可能なオープンデータだけでなく個人情報も含まれ、これについて基本法では“当該本人の関与の下で適正に利用”できるようにする措置を求めています。また、本人の許諾なしで個人情報を使用する場合は、匿名加工を行う必要があります。
これまで個人情報の取り扱いについては、マイナンバー制度の導入と並行して個人情報保護委員会が設けられ「より一層の厳格な管理」が求められるなど、“データ保護”を中心とした施策がとられてきました。しかし、個人向けサービスの利便性を高めるには本人の個人情報が欠かせません。今回の法律で、官民を通じデータを保護するばかりでなく利活用も推進できる環境が整備されたことになります。
なお、国の研究会では本人の関与の下に個人情報を流通させる仕組みとして、パーソナル・データ・ストアや情報銀行、データ取引市場が検討されています。
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マイナンバーカードの活用は基本法でも定められています。今夏から運用を開始する予定のマイナポータルは、公的機関が保有する個人情報(中間サーバー内の特定個人情報)を、本人の許諾──すなわち個人のコントロールによって外部サイトに引き渡すことが可能となります。
また、基本法はAIやIoT、クラウドについての定義を盛り込むなど、最新技術の活用も意識したものとなっています。市区町村においても業務効率や住民サービスの向上のために、これら最新技術の活用や民間サービスとの連携など、データを基にしたサービスの構築が欠かせません。コンビニ交付サービスや子育てワンストップサービス導入の先を見据えて、市区町村の将来像を描くためにも官民データの活用を積極的に推進していくことが求められます。 また、基本法はAIやIoT、クラウドについての定義を盛り込むなど、最新技術の活用も意識したものとなっています。市区町村においても業務効率や住民サービスの向上のために、これら最新技術の活用や民間サービスとの連携など、データを基にしたサービスの構築が欠かせません。コンビニ交付サービスや子育てワンストップサービス導入の先を見据えて、市区町村の将来像を描くためにも官民データの活用を積極的に推進していくことが求められます。
掲載:『新風』2017年4月号