事務所経営
巡回監査士資格取得は成長へのワンステップ 身につけた知識を実務に活かしていきたい
TKC巡回監査職員研修制度 巡回監査士試験優秀者に聞く
とき:平成31年1月18日(金) ところ:リーガロイヤルホテル東京
平成30年度の巡回監査士試験に優秀な成績で合格した5名の職員は、巡回監査士資格はゴールではなく、さらなる成長へのワンステップであると語る。身につけた知識を実務でどのように活かしているのかなど、中央研修所の中村哲郎副所長にインタビューしていただいた。
出席者(敬称略・順不同)
藤沼恭平氏(税理士法人つくし会計・東北会)
峯 和也氏(日本パートナー税理士法人・東京中央会)
岩元貴史氏(牛田策啓会計事務所・静岡会)
竹廣厚子氏(田川会計事務所・近畿兵庫会)
牛見卓也氏(金重税務会計事務所・中国会)
司会/中村哲郎会員(TKC全国会中央研修所副所長/企画戦略部会長)
事務所全体が「試験モード」勉強しやすい環境が助けになった
──まず自己紹介と、今回巡回監査士試験を受験したきっかけをお聞かせください。
牛見卓也氏
牛見 山口県宇部市から来ました牛見卓也と申します。金重税務会計事務所に入所し、現在3年目です。当事務所は原則として全職員が巡回監査士資格を取得することになっており、昨年は巡回監査士補試験に合格したので、今回巡回監査士試験を受けました。
竹廣 兵庫県尼崎市の田川会計事務所の竹廣厚子です。今年で入所8年目ですが、毎月巡回監査をする中で、税法などの知識が足りないと常々感じており、何かいい研修がないか調べていたんです。そして上司にTKCの巡回監査士(補)講座のことを教わり、これなら税法などを網羅的に学べると思ったことがきっかけです。
藤沼 税理士法人つくし会計の藤沼恭平と申します。事務所は岩手県の盛岡市にあり、所長も含め6人のアットホームな事務所です。
私は昨年4月に新卒として入社したばかりなので、所長から「ある程度知識を身につけてほしい」と指示を受け、最初は巡回監査士補の勉強を始めました。受験申し込みの時期になり、所長から「巡回監査士でも合格できるのではないか」と助言をいただいて、今回巡回監査士を受験しました。
岩元 静岡県浜松市から来ました牛田策啓会計事務所の岩元貴史と申します。私は製造業というまったく別の業界から転職し、もうすぐ丸2年になります。
前職で原価計算などをしていたため簿記の知識は少しあったのですが、税法は勉強したことがなかったので、巡回監査士試験なら知識を網羅的に身につけられると思い勉強を始めました。
峯 日本パートナー税理士法人の峯和也です。私も一昨年に入所したばかりで、巡回監査に行くようになってからまだ1年ほどです。当事務所も巡回監査士資格は「取って当たり前」という風土で、事務所として私の他に8名が合格しました。
もちろん、先輩に比べると知識も経験もまだまだ足りないので「巡回監査をする以上、巡回監査士資格の取得は必須だ」という意気込みで臨みました。
──仕事と勉強の両立が大変だったのではないかと思いますが、事務所のバックアップ体制はいかがでしたか。
岩元 私は当初独学で勉強していたので、それを知った牛田所長が、巡回監査士講座のオンデマンド研修を受けるように勧めてくださいました。
先輩にも巡回監査士試験対策セミナーがあることを教えてもらい、平日にもかかわらず参加させていただきました。
峯 当事務所には「生涯勤労学徒」という理念があり、仕事をしながら勉強するのは当たり前という組織風土です。ですから税理士試験や巡回監査士試験前は事務所全体が試験モードになり、多くの職員がなるべく残業をせずに帰るようになるので、勉強しやすい雰囲気がありました。
藤沼恭平氏
藤沼 今年試験を受けることが決まったあと、平日の夜や週末に勉強をしていましたが、先輩職員から「仕事が一段落したら試験勉強をしていいよ」と業務時間内の勉強を許可してもらうなど、先輩には本当にお世話になりました。
「何としても合格しないといけない」というプレッシャーがあったので、結果を出すことができてホッとしています。
牛見 当事務所では、新人は6月頃から毎週1日、先輩から巡回監査士の勉強を教わることになっています。何より、先輩がみんな巡回監査士資格を取得しているというプレッシャーがあったので、そのおかげで自然に勉強するクセがつきました。
竹廣 私はTKC近畿兵庫会の巡回監査士研修に何度も行かせていただき、月によっては4日から5日ほど不在にしました。私がいない時は、他の職員が代わりに私の仕事をしてくれていたわけですし、事務所の行事なども私の勉強の都合に合わせて決めてもらっていました。
試験問題についても、私は税法が苦手だったのですが、例題集の分からない問題を上司が教えてくれました。
こうしたサポートがあったからこそ合格できたので、事務所の皆さんには感謝してもしきれません。
勉強が進むにつれて社長と先輩職員の話が理解できるように
──巡回監査の際に特に留意していることはありますか。
牛見 経営者に数字の大切さを理解していただくことは常に意識しています。
例えば、当事務所が関与するまで発生主義ではなかったお客さまがいたのですが、それでは正確な業績を把握できないこと、翌月できるだけ早い時期に巡回監査を済ませて正確な業績を把握することがいかに会社のためになるかを社長さんにご説明した結果、発生主義に変えていただいたことがありました。
また、経理の方の知識レベルがさまざまなので、経理の方の目線に合わせて説明することを意識しています。
竹廣厚子氏
竹廣 巡回監査報告書に「科目が間違っていたので訂正しました」「金額が間違っていたので訂正しました」と書いていましたら、田川所長から「間違いを正すのは当たり前。現場に行った担当者だからこそ気付いたことや感じたことを書くことが重要だよ」と指導いただいたことがあり「その通りだな」と新たな気付きを得ました。
それ以降、経理担当者だけでなく、できるだけ社長さんとも話をする時間を確保して、一つでもよいので新鮮な情報をお聞きして田川所長に伝えるように心がけています。
峯 私も先輩から「巡回監査を早めに終わらせて、できるだけ経営者と話をした方がいいよ」と教わり、それはずっと意識しています。
実際、経営者と会話する時間が長くなったことで、KFSを推進しやすくなりました。例えば、社長さんの経営方針をじっくり聞くことで継続MASを使った経営計画の策定支援が楽になりますし、書面添付の内容も、社長さんの経営姿勢を詳しく書けるようになるなど充実します。
岩元 経営者や経理の方に何かお願いをする際は、きちんと目的や理由を説明することを心がけています。例えば、提出期限が定められている書類などは必ず準備していただかないと、最終的に困るのはお客さまです。ただお願いするだけだと「面倒だな」と思われるかもしれないため、お客さまのためであることをお伝えしています。
また巡回監査についても、ただ「書類を見せてください」「この書類が必要です」とだけいうと、「忙しい時にうるさいな」などと思われてしまうため、書面添付による調査省略の話などを交えながら、原始証憑を確認することの重要性を説明しています。
藤沼 私はまだ先輩の巡回監査に付いて行っているだけですが、試験勉強を始めてから、最初はよく意味が分からなかった社長さんと先輩の会話の内容が徐々に理解できるようになってきました。
知識が身につけばきちんと実務にも役立つということを実感しています。
PX2等を切り口に自計化システムの導入を推進
──事務所におけるTKCビジネスモデルへの取り組みについてお聞かせください。
峯 和也氏
峯 特に力を入れているのが継続MASです。数字の話をする前に、経営者に経営理念をお聞きすると「うーん、何だろう」と考え込む方が少なくありません。でもその質問を何度も繰り返すうちに、経営者が創業時の想いや自社の強みについて「なぜこの仕事をしているのか、改めて気付かされたよ」と感謝されたことがありました。
竹廣 当事務所は、原則として全関与先へのKFS実践を目標としており、最近は特に書面添付に力を入れています。
新規の関与先については、顧問契約の際に書面添付の実践を前提に説明をしていますし、これまでなかなか書面添付を実践できなかった既存のお客さまについても、できない理由を洗い出し、それを解決する策はないか、あるいはどんな資料を提出いただければ書面添付ができるのかを検討するようにしています。
──TKC方式の自計化への取り組みについてお聞かせください。
竹廣 自計化は必ずお勧めしているのですが、特に小規模なお客さまだとどうしても「自計化は難しい」と断られることもあります。
その場合は、はじめに給与計算システムをお勧めすると比較的受け入れていただきやすいので、PX2やe21まいスターの「あんしん給与」を切り口にして、それから時期を見て会計システムをお勧めしています。
──岩元さんはいかがですか。
岩元 継続MASについては、決算報告の時期に必ず経営者に来所していただき、5カ年計画と来期の単年度計画を作成しています。そして毎月の巡回監査の際にはFX2で最新の業績を確認して、策定した計画や前期実績と比較し、予算と差異がある場合には打ち手を考えていただくように促しています。事務所の全関与先の約8割が黒字なので、こうした予実管理と経営助言の重要性を実感しています。
書面添付については、原則、全関与先に実践することが事務所の方針です。巡回監査で確認したことは、必ず巡回監査支援システムに入力していますので、申告書作成の際に、そのデータを基に添付書面をまとめています。
意見聴取の結果調査省略となり社長に喜んでいただいた
──経営者や経理の方に感謝されたことや喜ばれた経験はありますか。
岩元貴史氏
岩元 当事務所が関与する前は「3年に1度税務調査が来るのが当たり前」という会社がありました。当事務所が関与するようになってから書面添付を実践し、すぐに意見聴取があったのですが、無事税務調査が省略されたのです。
その社長さんは意見聴取があっても必ず税務調査がある思っていたので、ものすごく喜んでいましたね。
竹廣 特別に何かをして感謝されるというよりは、毎月の巡回監査における情報提供や田川所長のフォローなど、日常的なことで「田川会計に顧問をお願いしてよかった」と感謝の言葉をいただくことはあります。
牛見 ある関与先では、社長さんがいる場所と経理社員の職場が異なるため、普段巡回監査で接するのは経理の方だけで、社長さんとはほとんど話をする機会がありませんでした。ですから、時々試算表の内容を説明するために社長さんを訪問しても、最初は話を聞いていただけなかったのです。
そのお客さまは自計化ができていなかったのですが、自計化の重要性を繰り返し説明して、TKC方式の自計化を導入していただいた結果、経理の合理化とタイムリーな業績把握につながりました。
その過程で、社長さんにもだんだん耳を傾けていただけるようになり、最近では何かあると真っ先に電話でご相談いただけるようになったことは大変うれしく思っています。
「税務・会計の支援」と「社長の心の支援」は車の両輪
司会/中村哲郎中央研修所副所長
──今後どんな巡回監査士になりたいか、目標をお聞かせください。
牛見 当事務所の先輩はみんな巡回監査士資格を持っていて、活躍しています。職業会計人のあるべき姿として必ず必要だと思っていましたので、今回合格して最低限の知識は身につけられたと思います。
もちろんこれがゴールではなく、本当にお客さまに喜ばれ、その成長につながる支援をするために、「自利利他」の精神を身につけていきたいです。
竹廣 先日、田川所長に「巡回監査士という『士』が付く資格を取得したということは、お客さまからの竹廣への期待値がものすごく高くなるということ。それにきちんと応えていかないといけない」と言われました。そのためには、税務・会計の知識を身につけただけでは不十分で、経営者に寄り添って心を支えていくことも大事です。もちろん心だけでもダメで、田川所長の理念の通り、税務・会計の支援と社長さんの心の支援は車の両輪であり、両方揃わないと本当の意味で経営者の役には立てません。
巡回監査士試験に合格したことで知識面では自信がつきましたので、顧問先のためにも心の面も研鑽していきたいです。
藤沼 新卒で何の知識もなく入所したのですが、巡回監査士資格を取り自分にも肩書きがついたことで、税法等の知識については少し自信を持つことができました。
もちろん実務経験はまだまだなので、これから経験を積み、少しでも早くお客さまの役に立てる巡回監査士を目指したいです。
峯 私は税理士資格の取得を目指しており、大学卒業からこれまで毎年1科目、簿記論、財務諸表論、消費税法に合格できました。この調子で今年と来年も合格し、税理士資格を取ることが一番の目標です。
その一方で、実務面の実績は先輩に比べるとまだまだです。巡回監査士資格を取得し基礎的な知識は身につけられたので、今後はこの知識を実務面でいかに応用するかを考えながら、自分にしかできない実績を挙げていきたいですね。
岩元 巡回監査士試験に合格したことで税法の知識は身についていると見られるわけですから、これまで以上に責任を持って業務に取り組んでいかなければならないと痛感しています。
牛田所長からいつも「経営者に信頼され、待ち望まれる巡回監査担当者になりなさい」と言われています。
「岩元さんが担当で良かった」と心から感じていただけるように、経営者との信頼関係を築いていきたいです。
──皆さん試験合格を、ゴールではなくさらに成長するためのワンステップだと考えており、非常に頼もしく思います。ぜひこれからも活躍して、TKC会員事務所全体の業務品質向上に貢献してください。
(構成/TKC出版 村井剛大)
(会報『TKC』平成31年4月号より転載)