事務所経営

お客さまとともに一歩一歩成長し地域社会の発展に貢献したい

税理士法人土田会計事務所 土田士朗会員(TKC西東京山梨会)
土田士朗会員

土田士朗会員

50年以上にわたり東京都東村山市で経営を続けている土田会計事務所は、長年培ってきた総合力を発揮して地元中小企業への経営支援から地主等の資産防衛まで幅広く支援している。2代目所長の土田士朗会員に、自計化推進のポイントや職員育成を重視した経営等についてお聞きした。

地主さんが多い土地柄なので資産税に強い事務所としてアピール

──土田先生は2代目ということですが、事務所の開業当時のことを教えてください。

事務所HP

事務所HPのトップに大きく「資産防衛」と記載し
資産税に強いことをアピール

土田 父は山形県の農家の三男で、はじめは税務職員をしていました。東京国税局を30歳の時に退職したのですが、勤続年数が短いので税理士資格の自動付与はなく、受験をして税理士になったと聞いています。
 開業したのは昭和38年(1963年)で、現在の事務所とは別の場所ですが、同じ東村山市内でした。近隣の立川市に知り合いの税理士がいたため多摩地区周辺で事務所を探しており、たまたま空いていたのが西武新宿線久米川駅近くの物件だったそうです。それ以来54年間、何度か市内で移転しましたが、ずっとこの地域で経営しています。

──小さい頃から「事務所を継いでほしい」と言われてきたのですか。

土田 それはありませんでしたが、自然と税理士を目指すようになっていましたね。小学校4年生の時の作文ですでに「将来は税理士になりたい」と書いていましたし、中学生の頃には父の事務所で確定申告書作成のアルバイトをしていました。
 またこれは偶然ですが、進学した成蹊大学には税法の大家で税務会計研究学会名誉会長の武田昌輔先生や、日本簿記学会会長を務めていた新井益太郎先生がいらっしゃったので、そうした環境も影響していたと思います。
 といっても、高校、大学時代はラグビーばかりしていました(笑)。一応大学時代に簿記2級まで取りましたが、本格的に勉強を始めたのは大学卒業後の専門学校から。2年間通ったあと父の事務所で資産税の仕事をしながら勉強を続け、税理士資格を取れたのは平成7年、30歳の時でした。

──TKCには先代の頃から入会されていたそうですが。

土田 詳しい経緯は聞いていませんが、飯塚毅全国会初代会長に強く影響を受けたようです。私が入会したのは平成8年で、ギリギリ、まだ飯塚初代会長が表に出てきていた頃。入会セミナーでは一番前の席で飯塚初代会長の挨拶を聞いたことをよく覚えています。
 父の時代はTKC以外に他社システムも併用していたのですが、私が入会してからTKCに一本化し、平成13年に事務所を承継しました。

──相続対策に関するご著書を事務所ホームページに掲載するなど、資産税に強い事務所ということをアピールされていますね。

土田 この辺りは都心と違い大きな土地を所有している地主さんが多いので、その土地でアパート経営をしている地主さんの確定申告や相続税申告の需要もたくさんあります。ですからトップページには目立つ文字で「資産防衛」と書いていますし、数年前には『地主のための相続対策』(幻冬舎)という地主さん向けの書籍を出版させていただきました。
 これは関与先経営者へのアピールのためでもあります。というのは、調布市や府中市など少し離れた近隣の市にも法人のお客さまがいるのですが、大抵、その地域で長く相続をやっている税理士さんがいます。以前、そうした近隣の市の社長に「月次顧問はお願いしているけど、相続対策は近くの相続専門の税理士さんにお願いすることにしました」と言われ、ガックリしたことがあったのです。
 それでアピールが足りなかったことを反省し、同じような相続案件の取りこぼしがないように、自分の本を2000冊買い取って「相続対策も任せてください」とお客さまや関係者に配りました。

個人関与先にe21まいスターを導入し計画的に自計化を定着させた

──第1ステージの重点活動テーマ表彰では、FX2純増件数で上位30位以内に入り、表彰対象となりました。

事務所外観

西武新宿線久米川駅から徒歩7分にある事務所

土田 重点活動テーマで表彰を受けるのは、前々回、前回に続いて3回目です。私はProFITで順位をたまに見るくらいでしたが、職員に対しては「結果を出せばきちんと評価されるから頑張ろう」とお尻を叩いていましたから、本当に職員のおかげです。

──件数が増えた要因はどのように分析されていますか。

土田 二つあります。一つ目は新規のお客さまへの自計化システム導入が増えたこと。関与先数自体は微増ですが、新規関与先はほぼすべてTKC自計化システムを使っていただくので、お客さまの増加分がそのままFX2等の件数増加につながっています。

──社長が記帳代行等を希望していたため、顧問契約に至らないといったケースはありませんでしたか。

土田 紹介元は金融機関や既存のお客さまが多いのですが、そうした紹介元から当事務所のサービス内容をある程度聞いているケースが多いので、自計化に納得いただけないということはほとんどないですね。
 もう一つの増加要因は、月次関与の個人事業主を中心に、e21まいスターの導入を進めたことです。財務エントリ21の利用先をe21まいスターに切り替えた上で、しばらくは事務所で入力し、時期を見て手厚く初期指導をしながら自計化を定着させていくということを計画的に推進してきたのです。

──従来のやり方を変える理由について、関与先さんにはどのように説明したのですか。

土田 比較的小規模な会社の場合、やはり社長の奥さまが経理を担当されていることが多いですから、自計化によっていかに業務が楽になるかを強調しました。例えば、まだ手書きで経理をしていたり、何十人分もの給与を手で計算していたりする奥さまに「自計化して給与計算システムを使えば、こんなに仕事が楽になりますよ」と話をすると「そんなにいいものがあったの!」と驚かれることもありました。
 もちろん、中堅企業に基幹ソフトとのデータ連携を提案してFX4クラウドを導入するといったケースがなかったわけではありませんが、新規関与先と個人事業主へのe21まいスター導入が純増の主な要因といえます。

自計化推進の成否は「初期指導」次第 毎年研修を受けて情報を更新している

──システムサポート料(レンタル料)に難色を示す関与先さんはありませんでしたか。

土田 サポート料を気にされるお客さまには、e21まいスターの無料期間を設定し「とりあえず3年間試してください」と勧めました。そして顧問契約書に、「○年○月から毎月○円のサポート料が発生します」と明記しておくのです。
 確かに昔は「会計事務所で入力していた手間がなくなるのだから、顧問料が安くならないの?」と言われたこともありましたが、最近は「業績管理のための会計システム費用は必要コスト」という認識の社長も増えています。
 自計化をすれば自社の業績をリアルタイムで把握できて経営に役立つだけでなく、経営計画の策定や書面添付にもつながります。そうしたメリットをきちんとご理解いただくことができれば、サポート料は大きな問題にならないのではないでしょうか。

──自計化の先にある姿をイメージしていただくことが重要なのですね。

土田 そうした意味では初期指導は本当に大事です。単に関与先で入力してもらうようにするだけでは「入力するためのソフト」という認識なので、割高に感じてしまいます。ですから最初は何度も訪問して必ず会計を経営に活かすというレベルまでもっていかないと、自計化の本当のメリットを実感していただけません。
 そのため、同じ西東京山梨会の会員で、初期指導に関する独自のノウハウを会員に提供している曽根隆寛先生を毎年事務所にお招きし、初期指導の研修を受けています。しばらく時間があくと職員も忘れてしまいますし、フィンテックサービスなど新しい機能も追加されていますから常に情報を更新する必要があります。
 自計化が定着するかどうかは結局初期指導次第なので、自計化の推進の際には移行と初期指導をセットで考えることが重要ではないでしょうか。

──書面添付、継続MASについては。

土田 書面添付は、提出するしないにかかわらず、月次の関与先はすべて作成するようにしています。職員も作ったからには提出したいと思うので、どうやったら提出できるかを考えるようになるからです。例えば、毎月の巡回監査で社長と話をする中で「今日の社長の質問は、添付書面の『相談に応じた事項』になるな」と、聞き流さずに意識できるようになります。
 それに、書面添付の結果調査省略につながれば、職員自身も対応のための時間をとられることがなくなります。職員同士で自分の添付書面を見せ合うなど事務所として実践する意思統一ができているので、現在お客さまの約8割で書面添付を実践しています。
 継続MASの実践割合も約8割です。ただ基本は単年計画で、中長期計画については今のところ意識の高いお客さまだけという状況。中長期を増やすためには職員のレベルアップも大切なので、現在西東京山梨会の会員数名と、職員向けの継続MAS研修をできないか相談しているところです。

業務時間の分析と新たな職員の採用で時間短縮と高付加価値業務の充実を図る

──関与先は微増しているとのことですが、拡大手法について教えてください。

土田 以前はTKCの先輩会員に教わった通り、近隣の金融機関をよく訪問していましたし、昔から地元の駅にある鏡の下の広告スペースや電柱広告など、地域の方に事務所の名前を覚えていただくような地道な広報活動は続けています。
 ただ最近は、昔から種まきをしてきたことが実を結んで紹介につながっているというお客さまが多くなってきました。というのは、私は小学校の時から自宅から少し離れた小中高大一貫の私立に通っていて地元には友人・知人がそれほどいなかったので、税理士試験に合格してからは経営者の集まりに参加したり地域の公職等を積極的に引き受けたりするようにしてきました。
 そうしたつながりの中で知り合った友人・知人が、ちょうど年齢的にも会社を継いで社長になる、あるいは市や公的な団体の幹部になるなど、紹介していただきやすい状況になってきたのです。

──同じ地域で長く経営されている強みですね。現在、関与先は何件ですか。

土田 月次巡回監査対象としては、法人222件、個人が72件の合計294件。その他に地主さんの不動産所得など年一の確定申告約500件と、相続税申告も年間40件ほどあります。
 職員は社員税理士1名、巡回監査担当者14名、パート3名の合計18名なので、現在の体制ではちょっと職員の負担が大きいと感じています。
 拡大に注力しなくて済む今が絶好のチャンスなので、この機会に事務所の体制を整備したいと考えています。具体的には、できるだけルーティン業務の時間を短縮して残業時間を減らし、より付加価値の高い経営助言などの業務に時間を充てるということです。
 そのために、これまでバラバラだった日報の書き方などを統一し、業務の直接時間と移動など間接時間の集計・分析をしています。その上で、分析に基づいた評価制度の見直しなども検討します。
 また、業務時間が長くなっている理由の一つに研修があります。平均すると1人当たり年間60時間程度は研修に充てています。もちろん毎月のルーティン業務をこなしているだけでは成長のスピードが遅くなってしまうので、研修を重視する方針は変えずに、職員を増やすことで全体の負担を減らしていこうと計画しているところです。

監査担当者は巡回監査士取得を義務化 有資格者のパート職員を活用したい

──研修を重視されているとのことですが、どのような研修があるのですか。

職員の皆さんと

土田会員(前列中央)の右隣が社員税理士の宮﨑純子会員

土田 メインはTKC関連の研修です。税制改正や巡回監査士の研修など開催されている研修の一覧表を作って回覧しており、役に立ちそうと思ったものは各自の判断で自由に参加して構わないことにしています。
 その他、月に1度、全員が受ける事務所内研修もあります。例えばSCGや提携・協定企業の方にTKCシステムの使い方や生命保険、損害保険等について話をしてもらうこともありますし、コーチングスキルや話し方など、税務会計とは関係なくても巡回監査等で役立ちそうなテーマも少なくありません。

──平成24年、25年と連続で、職員さんが「巡回監査士試験(旧上級職員実務試験)成績優秀者」となっていますが、これも研修に力を入れている結果ですね。

土田 研修についてはできるだけ口出しをせず各自の自主性に任せるようにしているのですが、巡回監査士の資格については巡回監査担当職員に取得を義務付けています。
 期限は特に決めていませんが、取らなければいつまでも勉強が続くわけですから、早めに取ってしまうほうが本人も楽。合格していないのはあと数人だけになりました。

──新たに職員さんを採用するということですが、方針はありますか。

土田 正規職員とパートタイム職員を戦略的に採用しようと思っています。
 まず正規職員は、即戦力ではなく税理士試験の科目合格者で、会計事務所での業務経験がないという方を想定しています。経験があるとそれがかえって邪魔になることもありますし、3年くらいかけてじっくりと一人前に育てればいいという方針です。
 パートについては、逆に税理士や公認会計士の資格を持っていて、子育て等の事情でパートタイム、週に3日、4日だけ働きたいという方を探しています。同じ西東京山梨会のある先生がまさにそうしたパートタイムの職員さんを上手に活用されていて、フルタイムの正規職員であれば雇えないような優秀な方に活躍してもらっているそうです。
 社員税理士としてしっかり働きたい方は、この辺りからでも都心にある大手税理士法人等に通勤するのは可能なので、転職先として当事務所を選ぶ必然性はありません。しかし、例えば週に3~4日、10時~16時といった働き方を希望する方なら「職住接近」が第一条件になるはずです。
 そうした優秀な人材を採用して戦力化することで、時短と職員のレベルアップにつなげていくというのが、事務所としての最大のテーマです。

売上高アップなど踏み込んだ経営助言で地域の中小企業を元気にしたい

──今後の経営ビジョンをお聞かせください。

職員の皆さんと

昨年の所内日帰り旅行で訪れた小淵沢(山梨県)の「サントリー白州蒸留所」

土田 直近の目標としては、2017年は「所員全員が事務所の求める水準を超える」、2018年は「法人顧問先250件・コンサルタント事務所・税理士3人+α」と設定しています。お話しした通り、今年は事務所の体制整備に力を入れて、来年はそうしてできた時間でお客さまへの経営助言・コンサルティングなど付加価値の高いサービスを実施していくということです。
 実は売上割合としてはまだまだ小さいのですが、巡回監査時の税務会計のアドバイスとは別に、関与先の売り上げアップのためのマーケティングや広告戦略、あるいは効果的な会議のやり方など、一歩踏み込んだコンサルティングをして別途料金をいただいているお客さまがあります。
 そうしたコンサルティングをする場合も、当然自計化と巡回監査に基づく正確な数字を把握していることが強みになりますし、特に売上高を増やすためのアドバイスを求める会社は非常に多いのです。今後はそうしたニーズにも積極的に応えていくことで、地域の中小企業を元気にしていきたいですね。
 中長期的には、事務所の経営理念である「お客さまが『ゆめ』を実現するためのお手伝いを通じてお客さまと共同成長し、地域社会の発展に貢献します」に沿って、付加価値の高いサービスをお客さまに提供し、一歩一歩着実に成長していくこと。そして最終的には、地域の皆さまに「土田会計事務所」の名前をもっと知っていただき、地元金融機関や他士業の方が顧客の紹介先として真っ先に思い浮かべていただけるような事務所を目指していきます。


土田士朗(つちだ・しろう)会員
税理士法人土田会計事務所
 東京都東村山市栄町1-36-84

(TKC出版 村井剛大)

(会報『TKC』平成29年6月号より転載)