事務所経営

システム移行とMR設計ツールの活用で"関心を抱かれ・歓心を得て・感心される"事務所を目指す

砂野隆英税理士事務所 砂野隆英(北海道会札幌西支部)
砂野隆英会員

砂野隆英会員

会計システムのTKCシステムへの移行を実践し、事務所の改革に取り組む砂野会員。特に力を注いでいるマネジメントレポート(MR)設計ツールを活用した経営助言での工夫、目指す事務所像などについて聞いた。

最初は民間企業に勤務 簿記の資格を活かすため会計事務所へ

 ──税理士になるまでのご経歴をお聞かせください。

 砂野 普通高校に通っていて、とくに簿記に興味があったわけでもないのですが、もともとそろばんをやっていて計算は好きだったので、漠然とそういう方向に進めたらとは思っていました。叔父が会計事務所に勤めていたこともあって、高校卒業後は経理専門学校に入学しました。経理専門学校では簿記1級を取り、卒業後は民間企業に勤めました。
 勤めたのは美容室のチェーンをやっている大きな会社でした。勉強したことを活かせる経理部が希望だったのですが、民間企業ですから必ず希望が通るわけではなく、資材課に配属されました。資材課は各店舗からシャンプーやパーマ液などの注文を受け、それをとりまとめてメーカー・問屋に発注するという仕事です。1年ほど勤めましたが、せっかく簿記の資格を取ったのに全然活かせない環境だったので、それならばと、会計事務所に入所したのです。
 最初の事務所では、9年間お世話になりました。簿記1級は持っていたものの実務は全然できなかったので、上司や先輩に怒られながら実務を覚えていきました。そのうちに「税理士試験でも目指してみたら」と言われて、勤務6年目ぐらいから税理士を目指して勉強を開始して3科目をとり、二つ目の事務所となる公認会計士事務所で2科目合格。結局約8年かけて平成16年に5科目合格できました。合格後1年間は勤務税理士として勤め、そのまま勤務税理士でもよかったのですが、所長が監査法人から後継者を連れてきて事業承継することになったので、それを機に退職して独立開業しました。
 開業当初は勤務していた公認会計士事務所で同僚だった税理士と共同経営にしました。1年間ぐらい共同経営しましたが、トップが二人いると下に入ってきた人間が大変だということもあり、結局それぞれの道を歩むことになりました。
 平成18年に開業し、いま8年目に入ったところで、職員は監査担当2名、総務が1名。関与先は法人75件、個人19件です。まだ自分でも十数件担当を持っています。

勤務時代の先輩の誘いで入会 事務所経営の仕方を教えてもらう

 ──TKCに入会されたきっかけは。

 砂野 勤務税理士時代の事務所から1年か2年先に独立した先輩がいて、その方がTKCの会員だったので、「何も言わずに入会しなさい」という流れになりました(笑)。
 最初に勤めた事務所でTKCのシステムを使っていましたし、SCGが訪問してサポートしてくれることなども知っていたので、それほど入会への不安はありませんでした。
 入会してからは地域会の先達、先輩の会員に大変お世話になっています。失敗談なども聞かせてもらえるし、飲み代もよくおごってもらいました(笑)。報酬規定などの管理文書ももらいましたし、事務所経営の仕方まで教えてくれるところは他にないので、大変助かりました。

 ──事務所の経営理念がユニークですね。

経営理念

 砂野 「関心を抱かれ・歓心を得て・感心される会計事務所」を経営理念としています。これは自分で考えたもので、開業からずっとこれできています。
 最初は物事に興味がある「関心」で、次はお客さまにとっての喜びの「歓心」になって、最後は「感心」される事務所にしたいなという思いで作りました。「砂野会計ってどういうところなのだろう」というところから「砂野会計にしてよかったな」と感じていただき、最後は「砂野会計で本当によかったな」と感服され信頼をいただく、そういう会計事務所を目指したいと思っています。

開業3年で100件を達成 しかし事務所にひずみが生まれた

 ──関与先はどのように拡大されていきましたか。

 砂野 関与先は1件からのスタートで、開業当初は異業種交流会や飲み会にたくさん参加して、自分を売りこんでいました。いつもお酒ばかり飲んでいるという感じでした(笑)。
 ホームページも開業して早いうちに立ち上げました。8年前ぐらいだとホームページを作っている会計事務所も少なかったので、ホームページ経由でもお客さまが結構増えました。あとは行政書士・社労士などの士業や、保険の外交員からの紹介が中心です。
 TKC北海道会では3年で100件を目指すというのが一つの目安だったので、自分もそれに乗り、とにかく拡大拡大で数を追って、記帳代行でも何でも受けて増やしていました。それで何とか3年で100件は達成できたのですが、内部統制はグチャグチャだし、システムもTKCだけじゃなくて市販の安い会計ソフトも使う不良会員でした。職員もたくさん雇っていましたが、辞める人も多く、決していい状況とは言えませんでした。
 量から質へと経営をシフトするため、いまは無理な拡大はせず、お客さまからの紹介を中心に少しずつ増やしています。

システムを一本化して事務所体質を改善 付加価値業務の提供に力を入れる

 ──TKCシステムへの完全移行を決意して取り組んだと伺いました。

 砂野 2年前から会計システム移行に取り組み、市販の会計ソフトを使っていた先も全部TKCのFX2e21まいスター等の自計化システムに移行しています。職員にも言われたのですが、税務はもともと全部TKCシステムを使っていたので、他社の会計システムからの転記作業で間違いが発生しやすく、負担でもありました。それならTKCシステムで「一気通貫」の方がいいだろうということで2年前から完全移行に取り組んだのです。
 新規にレンタル料が発生するお客さまには、顧問料の一部を1年間値引きし、1年使ってもらってから顧問料を元の金額にしてもらう形で対応しました。さすがに1年使ってもらうと元のシステムに戻したいとは言われないですね。
 いまもどんどん移行している最中で、約50件の月次関与しているお客さまのうち、9割以上はTKCシステムになっています。
 TKCシステムは「中小会計要領」に準拠しているので保証料率が下がるという点をアピールしています。消費税の税率も変わるので、それをきっかけに残りのお客さまも全部切り替えようと考えています。

 ──システム一本化の効果を感じることはありますか。

 砂野 TKCシステムへ移行した最初の月は初期指導のため2回3回と訪問するので時間を取られます。一斉に切り替えたのでしわ寄せが出て、しばらくは職員も大変だったと思います。一時的に巡回監査率も下がりました。
 しかし、システムが回り始め、お客さまにもきちんと指導ができると、毎月の監査でチェックにとられる時間が短縮されていき、経営分析、経営助言といった付加価値業務に時間を割くことができるようになりました。職員もそういった付加価値業務の方がやりがいを感じて楽しいと言ってくれています。
 システム移行に取り組みはじめて1年半以上はかかっていると思いますが、ようやく巡回監査率も上がってきて、以前は50%に届かなかったのがいまでは80%を超えました。スタッフも定着して自分も時間を取れるようになりましたので、全体がいい方向に回り始めています。

所長の決断で職員を動かしシステム移行の目標をクリア

 ──関与先の現状はいかがでしょうか。

 砂野 現在の関与先は建設関係が15%ぐらいで一番多く、あとは卸・小売・飲食が10%ぐらいずつ、他にもいろいろな業種のお客さまがいらっしゃいます。一番大きいお客さまの売上高が社福で20億円、一般企業だと10億円規模です。売上高は1億円を超えるお客さまが半分以上ですが、大きいところと小さいところに二極化しています。月次で関与しているお客さまのうち、約半分は黒字です。

 ──システム完全移行という目標をクリアしたと言えると思いますが、目標をクリアできた要因のようなものはありますか。

 砂野 やっぱり号令を出してみんながそれに応えてくれたこと。それと「言い続ける」ことです。顧問料報酬を下げてでも「システム移行」をするという決断をしたことが大きかったのだと思います。やはり所長の決断です。
 だらだらやっているといつまでも変わりませんので、「やる」と決めて集中して取り組むことが必要だと思います。移行に取り組んだ時期は、とにかく移行が先決だと決め、その他のことは目をつぶりました。

 ──なぜその決断ができたのでしょうか。

 砂野 決断のきっかけは北海道会の先輩である甲賀伸彦先生にいただきました。当時は甲賀先生が北海道会ニューメンバーズ・サービス委員会の委員長で、私も委員でした。当時の自分はだらだらやっていたので、「委員なのにそんなていたらくではダメだ」とお叱りをいただいたのです。開業すると自分で好き勝手にできるので、叱ってくれる存在がいないですよね。叱ってくれるということは愛情があるということだと思うので本当にありがたいと思います。
 あとはある程度お客さまが増えたことで、収入面では思い切った手を打ちやすい状況だったということもあります。北海道会は拡大志向が強いところがありますが、それで一度失敗するのもみんな通ってきた道のようです(笑)。食べていけるようになると思い切った決断もしやすいので、そういう意味ではよかったのかなと思います。

オフィスは大通公園に面したビルの9階。周辺は官公庁が多い。

オフィスは大通公園に面したビルの9階。周辺は官公庁が多い。

事務所用FX4クラウドで関与先を1件ずつ部門別管理

 ──事務所でFX4クラウドを活用されているそうですね。

 砂野 FX4クラウドの導入先は社福も入れて2件で、あと2件ぐらいは導入できそうな見込みですが、自分の事務所で使い方を研究して、お客さまにも提案できるようにしています。
 事務所の例で言うと、単純にFMS(税理士報酬管理システム)とFX2を連動させて仕訳を読み込ませても、FX2では売掛の得意先ごとの残高が表示されず、FMSで見なければなりません。お客さまの所でいえば販管ソフトのSXシリーズでも同じですね。FX2でも得意先ごとの表示形式で見たいというニーズはあると思うんです。なぜそれができないのだろうということをきっかけに、FX4クラウドの仕訳連携機能に着目し、FMSのデータを読み込んでFX4クラウドで見られるようにしました。
 あとはお客さまを部門別に管理して、部門ごとにどれだけのコストがかかっているのか、採算が取れているのかを見たかったので役に立っています。現在は関与先1件を1部門として部門別管理をしており、巡回監査にいく際の高速代や駐車場代等のコストが割に合っているのかなどを見ています。また従業員の給料も売上比で配賦しています。
 部門グループも設定していて、担当者ごとはもちろん、月次・年次、地域ごと、関与形態、業種別などで実績を見られるようにしています。関連会社がある関与先はグループ単位でも見られるようにしています。

 ──事務所の業績を部門別で見るようになって変わった点はありますか。

 砂野 分類ごとの件数なども頭に入りましたし、売り上げや利益が思ったほどいっていないところがあったり、最低これぐらいの報酬にしないと割が合わないといったことが分かったり、いろいろ経営上有益な情報が増えました。こうして事務所で体験したことをお客さまへの助言にも活かせると思います。

MR設計ツールを活用し試算表の内容を視覚で伝える

 ──お客さまへの指導・サポートではどういった点を工夫していますか。

 砂野 マネジメントレポート(MR)設計ツールを活用して、お客さまにグラフで伝えるようにしています。きっかけは西東京山梨会の曽根隆寛先生のMR設計ツールのセミナーを受けたことです。そこでこの機能は面白いなと思い、自分で作り込んでいきました。
 前年同月との比較貸借対照表や月次のキャッシュ・フロー計算書を作成し、グラフにしてあげると、お客さまも自社の課題に気付きやすくなります。資金繰りなどは数字だけで説明してもなかなか分かってもらえないことが多かったのですが、見やすく視覚的に説明するようにしたことで伝わりやすくなり、お客さまに喜んでもらっています。
 私も最初は驚いたのですが、試算表を送っても中身を見ていない経営者が多かったのです。ですからMR設計ツールで見たいところを見やすい形で見せてあげるようにしたのです。

 ──MR設計ツールを活用するためにはExcelの操作が必須ですが、何か勉強されたのでしょうか。

 砂野 最初に勤めた会計事務所では、税務や会計の業務であまり貢献できなかったので、せめてパソコンや表計算ぐらいはと思ってExcelを独学で覚えたのがいま役に立っています(笑)。
 いまお客さまに提供しているMR設計ツールのファイルでは、変動損益計算書の推移表や月次のキャッシュ・フロー計算書を出せるようにしています。月次キャッシュ・フロー計算書では、売掛の入金が少ないとか仕入れの支払いが多かったということが見られるので、利益は出ているのになぜお金が残っていないのかを経営者に理解してもらえます。
 貸借対照表も前年同月との二期比較グラフにして、現預金の増減、売掛や買掛の増減がパッと見て分かるようにしています。

まず会計とシステムに強くなる 「全体像をつかめ」と職員に指導

 ──職員さんへの指導はどのようにしているのでしょうか。

 砂野 会計とシステムに強い会計事務所になろうと職員に言っています。道具を知らないとそこからサービスが派生していきません。税務の前に、法人税法の第22条、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」があって、そこから別段の定めで税務独自のものがあるので、まず会計をしっかりやろうということを、力を入れて指導しています。
 また、関与先の経営状態は鳥瞰図で見るように指導しています。「木を見て森を見ず」ということがよくあるのです。目先の伝票チェックや照査などに時間を取られていて、売り上げはどうだったか、利益はどうだったかと職員に投げかけたときになかなかスッと答えが出てこないのですね。一つ一つの仕訳は見ていても、全体としてどういう結果になっているかを十分に見ていない。まさに「木を見て森を見ず」です。ですから巡回監査でお客さまの所に行ったらまずは試算表で全体の概況をしっかり捉えて、自分が監査をした後に利益がどれぐらい変化したのか、売り上げがどう変化したのかを頭に入れておきなさいと言っています。
 しっかり自社の数字を見ているお客さまは巡回監査後に利益が変化したことにすぐ気付いて、「なんで利益が減ったの?」「変わったところは何?」と尋ねてきます。その時に全体像と変化した部分を理解していないとすぐに回答できませんので、全体をまず押さえて聞き取りをしてから個別の問題に入っていくことが大事ですね。

自計化から次のステップへ 質の高い事務所を目指す

 ──今後の抱負をお聞かせください。

 砂野 巡回監査率と自計化がある程度の段階まで来たので、次は継続MASを活用した未来会計へと考えています。経営計画の策定と自計化システムへの予算登録を進めることがこれからの目標です。これまではMR設計ツールに力を入れていたので、あまり進んでいませんでした。先日もSCGに継続MASの所内勉強会をしてもらいましたので、推進する体制は整いつつあります。
 書面添付もまだまだこれからで、現状は10件弱。会計システムが統一できてきたので増やしていきたいです。支部や委員会からももっと数字を増やせとのプレッシャーを受けているので頑張らないといけません(笑)。
 地域性があるので、札幌の中で質の高い事務所を目指して、質の高いサービスをお客さまに提供したい。有資格者の職員が資産税を担当したいと言っていますので、職員にも各分野に専門性を持ってほしいと思っています。
 これからも、経営理念にあるように「砂野会計にして本当に良かった」と、お客さまに「関心」を抱かれ「感心」していただける事務所になれるよう取り組んでいきたいと思います。

(TKC出版 蒔田鉄兵)


砂野隆英(すなの・たかひで)会員
平成17年3月税理士登録。平成18年7月共同経営の事務所を設立。同年8月TKC全国会入会。平成19年7月砂野隆英税理士事務所として事務所移転。北海道会NMS委員会副委員長、43歳。

砂野隆英税理士事務所
 住所:北海道札幌市中央区大通り西9丁目3-33
    キタコーセンタービルディング9階
 電話:011-398-5788

(会報『TKC』平成25年11月号より転載)