事務所経営
税務・会計・財務の視点からお客様の困りごとを少しでも改善したい
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地域会リーダーから声掛けされて中大研に入会して、ほどなくユーザのASP1000Rの導入コンサルを担当。当該業務を受託直後に参加した情報交換会で紹介されていた関与先拡大の成功ポイントを実践したところ、自身もコンサル企業とその関連会社と直接契約に繋がった八木会計事務所の八木航一会員(静岡会)にお話を伺いました。
情報交換会で発表されたコンサル事例に刺激され入会
──八木先生は、父親である八木隆雄先生(静岡会)から、平成25年に事務所承継されていますが、税理士を目指した経緯やほかの税理士事務所での勤務経験についてお聞かせください。
福嶋恭則会員
八木 税理士を目指した経緯は、正直に言えば高校受験の勉強に熱心ではなくて、担任の先生に入学推薦書を書いてもらって商業高校に入ったことがスタートなのです。商業高校では、なぜか簿記会計が肌に合って、そのまま大学でも、本当に親身になって教えてくれる先輩などの力添えもあって猛勉強。公認会計士事務所、税理士法人2か所の勤務経験を経て、平成16年に無事、税理士登録しました。
勤務時代から「税務・会計・財務の視点から、お客様の不安を解消し“安心”を提供する」ことをモットーに仕事をしてきましたので、平成25年に父の事務所を承継した今も変わらず、経営理念としています。
──TKC入会後に感じたことなど教えてください。
八木 二代目の会員って、所長や他のスタッフにTKCのことを聞ける環境にあるからか、SCGサービスセンターからの個別支援はそれほどないですよね(笑)。でも静岡会では、先輩会員の先生方が支部例会や地元で定期的にやっている勉強会に熱心に誘ってくれたのです。勉強会が終わったあとには「ご飯に行こうか」って声をかけてくれて、よくご馳走になりました。そういったイベントに素直に参加しているうち、わからないことを気軽に相談できる仲間がどんどん増えた。そのうち委員会活動にも参画できるようになって、さらに交流の密度が濃くなりましたね。いつも素晴らしい先生方とのご縁に本当に感謝しています。先輩方から教えてもらったように、自分も若手会員のみなさまの力になるべく、経営支援セミナーなど一緒に開催しながら、応援しています。
ハイブリッドの運営でセミナーを開催するときなど、単独事務所でやるのは大変ですが、若手会員と分担しながらやるのはお互い、メリットもあります。
──まさにTKC全国会のネットワークの強みですね。中大研入会もリーダーの木村治司先生からのお声がけだったとお聞きしています。
八木 令和5年2月に開催された静岡会の中大研第1回情報交換会に、木村先生から声掛けされて参加したのが最初です。ちょうど同じ日に同じ会場(静岡センター)で、静岡会の会議があり、私も書面添付推進委員長として参加していましたので、まだ中大研に入会していなかったのですが、いつの間にか参加している状況でした。情報交換会で中堅・大企業支援への取り組みと、関与先拡大事例で発表されていた税理士法人トップの岩瀨貴之先生の情熱あふれる講演内容に刺激されて、早速、4月から中大研に入会しました。
業務フローのマニュアル化と迅速なフィードバックを心がける
──TKCからA社のASP
1000Rの導入コンサル業務をほどなく委託させていただいたわけですが、最初の印象を教えてください。
八木 単純に、「やったことないからやってみたい!」でした。新しい取り組みってワクワクするじゃないですか。TKCから依頼をいただいたのが7月末だったのですが、これまたタイミング良く翌月に第2回情報交換会があって、今度は税理士法人亥角会計事務所の芹澤功先生(本誌2022年8月号参照)の直接契約事例を聴講できました。そこでせっかく導入コンサルで成功するポイントを紹介いただいたので、まずは全部、自分でも実践してみようと思いました。具体的には、業務プロセスに基づいて、システムの画面ハードコピーを貼って、必要箇所に留意ポイントを追記しながら処理フローをマニュアル化しました。
また、とにかく迅速なフィードバックを心がけ、質問を受けたら24時間以内にワンアクションをとるように努めました。芹澤先生も「簡単に回答できる内容はすぐ返信して、時間がかかる論点だけ時間をもらうなど、相手が求めている回答期限を鑑み、できるだけスピーディに対応します」とおっしゃっていましたが、私も同じです。先方からとにかくレスポンスが早いと思っていただいているようで、一度、先方のシステム・トラブルで私からの返信メールが届かなかったことがあり、「八木先生はいつも1営業日以内にレスをいただけるのに、来ないので心配していました」と言われました(笑)。
──A社の導入コンサルで、困ったことはありましたか。
八木 通常、導入コンサルは前年度の申告書を再現して、本番で問題なく使えるかを検証するのですが、A社はそれまで申告書をExcelで作成していたのです。数式の誤りなどのヒューマンエラーがあり、ASP1000Rでは完全には再現できませんでした。別表の加算・減算が違うとかなら、間違っている状態を再現して説明できるけれど、計算式自体が違うわけですからね。
そこで本来「あるべき申告書」を作成して、その申告書をベースに説明しました。先方の経理部長もやはりシステムで処理する安心感は次元が違うようで、感動されていました。ワーキングシート入力方式も最小限の入力項目で済むので、違和感もなかったようです。
──ASP1000Rについては、どのように感じましたか。
八木 普段、TPS1000を使っているので、特に違和感はありませんでした。システムマニュアルはしっかりしていますし、A社の経理部長はこちらとの役割分担を意識していただていて、まず、自分で調べた上で、不明点だけを聞いてくるのです。
システム上、更新用のデータ枠を四半期、確定などで作るところは、把握しきれていないところもありますが、申告書作成の操作では先方からもあまり問合せがありませんでした。あえて困ったことを挙げるとすれば、A社はセキュリティが厳しく、独自に導入しているセキュリティ・システムとASP1000Rが競合して、うまくインストールできなかったことがありました。
──A社へのサービス提供について、中小企業との違いを感じますか。
八木 中小企業の場合、社長が納得すればOKということが多く、社長との距離が近いですよね。でも中堅・大企業の場合は、相対している担当者が最終決裁者ではないので、そこを意識した対応が必要になります。
A社は非上場ですが、親会社P社は東京にあって、P社は上場企業の傘下にあります。だから上申のステップを意識した対応を求められます。「経営陣や親会社にどう報告したらよいか」という点を常に意識されているので、こちらも会社の稟議や報告を考慮して相談対応することが大切です。経理部長が置かれている立場をふまえた解決策を助言して、最終的な企業判断をいただくスタンスです。
新分野へのチャレンジが既存業務への気づきを生む
──それでは、A社との直接契約に至った経緯を教えていただけますか。
八木 一番のポイントは、A社には顧問税理士が不在だったということに尽きますね。上場企業の傘下にある親会社への対応など、身近に相談相手を求めていたのだと思います。東京にある親会社には顧問税理士の先生がいらっしゃるのですが、地元の税理士にお願いしたいとのご意向でした。導入コンサルの前年度再現作業のレビューで判明した課題項目に、更正の請求をするか確認していたところ、A社の関連会社であるB社にちょうど税務調査が入ったのです。関与前の期なので、税務調査の対応は直接行っていませんが、更正の請求の手続きや修正申告など一連の業務をスポットでご支援しました。
そのときの対応を評価いただけたのだと思いますが、具体的に税務顧問契約に関する見積依頼がありました。先方はこれまで顧問税理士がいなかったから、税理士が何をどこまでやってくれるのかわからない。そして、こちらも日頃、接しているお客様と企業規模も違うので、相場感がわからず、ここでも岩瀬先生など諸先輩に事例を共有いただきました。最終的には、A社、B社ともに税務相談、法人税等・地方税・消費税確定申告書の簡易チェック、電子申告による代理送信業務をサービス範囲として、3月に税務顧問契約を締結しました。企業規模的に、全部監査は行わないですが、地元の税理士が良いと言ってくださったお気持ちを鑑み、定期的に対面で訪問して、サポートしていきたいと思っています。
──全部監査を行わないサービス提供の難しさもありますね。
八木 色々、質問を受ける際も前提がわからないことだらけなのです。だから質問の前提は、根掘り葉掘り、しっかりヒアリングします。そして根拠条文なども示しながら回答するわけですが、「前提や状況が変わったら、改めて確認してくださいね」と付け加えます。結局は、どれだけ相手の立場にたって、困りごとに対して真摯に向き合って、少しでも改善するアドバイスができるか──これからも「安心」してシステムを使っていただき、税務・会計・財務の専門家として助言しながら、A社、B社のご支援をしたいと思っています。
──八木先生は、中大研の情報交換会をきっかけに中大研に入会、コンサル受託、直接契約締結となったわけですが、今後、情報交換会で取り上げてほしいテーマなどございますか。
八木 私は木村先生の声掛けで、幸いにも第1回からずっと皆勤賞で参加していますが、岩瀬先生、芹澤先生といった地元会員の成功事例や、畑中孝介先生(東京中央会)の中堅企業の事業承継など、本当に勉強させていただけるありがたい機会です。システム研修でもなく、事務所経営に特化しているわけでもないけど、「中堅・大企業支援」という一つのテーマに絞って、意見交換する。プロジェクト活動をやっている感覚で面白いです。グループディスカッションでも色々な目線での意見が飛び交うから、参加していると本当に勉強になります。
時には、講師の先生から自分にとってはあまり馴染みのない事例を解説されつつ「先生方もご承知の通り」と言われて、「承知できてないけど…」とドキドキすることもありますが、仲間とああでもない、こうでもないと切磋琢磨するのが楽しくて。きっとコンサルタントの数だけ事例もあるはずだから、これからも色々な事例をご紹介いただけると嬉しいです。
──貴重なお話をありがとうございました。最後にこれから中堅・大企業への支援業務に取り組みたいと思っている先生方へのメッセージをお願いします。
八木 中堅・大企業へのシステム・コンサルティング業務は、普段、会計事務所で対応する中小企業へのサービスとは、業務内容・相談内容だけでなく対応も含めて難易度も違います。でもコンサルを経験したあとで振り返ると、そういった新しいサービスに取り組んだことで、普段の業務を見る目が変わったのです。既存の関与先企業に当然のように提供していたサービスが、実は中堅・大企業でもこんなに喜んでもらえるサービスだったのかとか、反対に実は無償で行うべきではなく、正々堂々と請求して良い業務だとか。新しい分野の仕事を経験したからこそ、比較できて、見えてくる世界なのです。正直、コンサル業務が、関与先拡大につながるかはタイミングもありますが、直接契約を期待するだけではなく、新しい業務へのチャレンジをすることで、既存業務の気付きになることを、ぜひほかの若手会員のみなさまにも知っていただきたいです。
まずはやってみようと覚悟を決めたら、私がそうだったようにTKC全国会の先達会員やTKC社員が必ずバックアップしてくれると信じています。
(インタビュー・構成:中堅・大企業支援研究会事務局 今村こすみ)
事務所名 | 八木会計事務所 |
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所在地 | 静岡県沼津市御幸町17-12 3F |
設立 | 昭和47年11月(昭和47年に創業した八木隆雄会員の事務所を平成25年に承継。TKC入会は平成21年3月) |
代表者 | 八木航一(平成16年7月税理士登録) |
職員数 | 5名 |
(会報『TKC』令和6年11月号より転載)