建設機械用油圧機器や航空機エンジン、防衛・宇宙関連機器の部品など、産業用装置部品の加工を手がけるナサダでは、最新鋭の機械設備を毎期2~3台導入している。中塚永敏社長は、「積極的な設備投資の背景には、加工体制の充実と従業員の技術力強化があるのです」と語る。
- プロフィール
- なかつか・ながとし●兵庫県生まれ。2016年にナサダの代表取締役社長に就任。工学博士。趣味は旅行・ゴルフ。座右の銘は「凡事徹底」。
中塚永敏社長
山陽新幹線が姫路駅付近を走行しているとき、車窓の外を流れる景色を眺めていると、「ナサダ」と書かれた看板が目に飛び込んでくる。産業用装置部品の加工を手がけるナサダの本社兼工場だ。7,178平方メートルにのぼる敷地に工場を3棟構えており、うち1棟には事務所と食堂を併設。工場にはさまざまな機械装置が整然と並んでおり、作業服姿の従業員が慣れた手つきで操作している。
「当社は建設機械用油圧機器部品と航空機のエンジン部品、防衛・宇宙関連の装置部品、産業用ガスタービンの部品加工を手がけています。売り上げの半分を建機用油圧機器部品が占めており、残りの30%が航空機・防衛・宇宙関連部品、15%が産業用ガスタービン部品という構成です。直近3年間の売上高は12~13億円、自己資本比率は30%台を推移しています」
中塚永敏社長は自社のプロダクトミックスと業績をこう説明する。
精緻な加工技術で信頼を得る
1947年の設立以来、鍛造と機械加工を手がけてきた同社。かつては農機具用エンジン部品の加工を主力事業としていたが、現在は大手重工業メーカーを主要顧客に、前述した部品加工で堅実な成長を遂げている。
「弧を描くように素材をきれいに削ったり、ミクロン単位の精緻な穴をあけたりと、私たちが手がけている製品には高度な加工技術が求められますが、当社は設立以来半世紀以上にわたって蓄積してきた知恵とノウハウを武器に、取引先の要求に応えてきました。現在は加工業務全般を任せていただいており、加工物を固定する治具の設計、素材の加工、品質検査など、製品を納入するまでの工程を一貫して行っています」
と、中塚社長が言うように同社が扱う製品は、ほんの小さな加工ミスでも大事故に発展してしまうようなデリケートなものばかり。取引先からも、寸分の狂いもない加工精度が求められているが、同社はこれに真摯に対応し、形にすることで信頼を勝ち取ってきた。
その上、同社では航空宇宙・防衛産業に特化した品質マネジメントシステムに関する国際規格「JISQ9100」、航空宇宙・防衛部品製造に関する国際認証制度「Nadcap」をそれぞれ取得。こうした認証機関のお墨つきを得ていることからも、同社の技術力、加工品質の高さがうかがえる。
最新鋭の機械を毎期導入
ナサダの強みである高品質なものづくりを下支えしているのが、最新鋭の工作機械だ。実際に工場を見てまわると、複合加工機やマシニングセンター、研削盤、三次元測定機など、多岐にわたる機械がずらりと並んでいる。その数は90を優に超え、前期はNC立旋盤3台を導入。さらに、今期は5軸複合機を新たに2台導入する予定だという。
なぜこれほどまでに設備投資に積極的なのか。その理由を中塚社長はこう話す。
「一つは老朽化した機械を入れ替えるため、もう一つは効率的かつ高品質なものづくりを行うため、そしてもう一つは機械を操作する従業員の技術力を高めるためです。機械の性能は日々進化しており、自社技術により磨きをかけ、今以上に品質の高い加工を効率的に行うためには、最新の機能を搭載した機械が不可欠です。また、最新鋭の機械を導入すれば、操作する従業員の知識やスキルが磨かれていきます。当社が最新鋭の機械を導入し続ける背景には、加工体制のさらなる充実と従業員教育という目的があるのです」
例えば、同社が今年の7月に導入したNC立旋盤は、チップと呼ばれるパーツを半自動で交換する機能が搭載されている。チップは素材を切削するうえで欠かせないパーツで、素材を削るたびに摩耗していくため、定期的に交換する必要があった。「ペースの速いときで10分に1回程度チップ交換が必要」(中塚社長)になることから、これまでは従業員が交換のために機械のそばで待機していたという。
新設備の導入によりチップ交換が半自動化。その結果、従業員の手待ち時間が削減されるなど、切削工程の効率化を実現した。
「当社では3期先までの設備投資計画を毎期策定しており、これに基づいて新しい機械を導入しています。建機用の加工設備は1台あたり2,000~4,000万円程度、航空機部品や防衛・宇宙関連部品の加工設備は7,000万~1億5,000万円程度ととても高額ですから、機械の選定や費用対効果の検証、必要資金の準備、機械メーカーとの価格交渉などを計画に沿って進めています」(中塚社長)
「営業利益以上の投資はしない」
積極的な設備投資の礎となっているのが、TKCの自計化システムを軸とした緻密な業績管理である。同社では山本清尊顧問税理士(税理士法人クリアパートナーズ)の勧めで、TKCの会計システムを導入。以来、中塚社長は毎日のようにシステムを起動しては、売上高や営業・経常利益、手元資金の動きなどを確認し、経営意思決定に役立てているという。
さらに、同社では管理職社員に対して売上高から経常利益まで、すべての数字を開示している。ガラス張り経営だ。これは目標利益を確保するために中塚社長が掲げた方針で、最新業績を管理職社員全員と共有することで、目標達成に向けた意見交換や打ち手の検討を迅速かつ円滑に行っている。
「営業利益以上の設備投資はしない。これが当社のポリシーです。身の丈にあった設備投資を毎期継続するためにも、現場を束ねる管理職社員に対して業績を包み隠さず開示し、目標営業利益を確保するための戦略を立ててもらっています」(中塚社長)
「数字は会社を映す鏡」
長年磨いてきた自社技術と最新鋭の機械とのコンビネーションで、品質の高いものづくりを実践してきた同社。コロナ禍や建機需要の減退など社会情勢の影響を受けつつも、この数年は黒字を維持している。冒頭で述べたように、直近3年間は自己資本比率30%超を達成するなど、財務体質も健全だ。
しかし、中塚社長がナサダに入社した2014年当時、同社の経営はきわめて危険な状態にあった。売上高は乱高下を繰り返し、赤字決算が連続。資金繰りも苦しく、自己資本比率も毎期3~5%程度と低水準だった。不採算事業を多く抱えていたこと、支払い能力以上に設備投資を行っていたことが経営を苦しめた。
中塚社長が事業を承継したのは、危機的状況の渦中にあった16年のこと。中塚社長はいかにして危機に瀕する会社を立て直したのか。
「まず取り組んだのは不採算事業の撤退、そして収益性の高い事業への資源の集中です。これにともない、稼働率の低い機械を処分し、稼働率の高い機械の増強に取り組みました。さらに、姫路青年会議所で一緒だった山本先生に当社の顧問に就いてもらい、経理体制の刷新に着手。最新業績を迅速に把握できる体制を構築しました。営業日は現場に出て従業員と一緒に汗を流し、休日は工場や事務所の清掃や整理整頓を実施するなど、会社を変えるための打ち手を矢継ぎ早に打っていきました」
これらの取り組みが奏功し、徐々に業績が上向き始める。16年の社長就任以後、営業利益が右肩上がりのペースで増加。自己資本比率も就任直後から著しく伸び始め、18年には12%と2桁台にまで伸ばした。
「会社を変えるための打ち手を素早く講じるべく、業績管理体制の確立を急ぎました。数字は会社を映す鏡。私たちが鏡越しに身だしなみを整えるように、経営上の問題点も数字という鏡越しでなければ、解決に導くことはできません」
捲土重来(けんどちょうらい)を果たした中塚社長の言葉には、迫力と説得力がともなっている。
(取材協力・税理士法人クリアパートナーズ/本誌・中井修平)
名称 | 株式会社ナサダ |
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業種 | 建機用油圧部品、航空機エンジン部品等の加工 |
設立 | 1947年11月 |
所在地 | 兵庫県姫路市阿保甲1-1 |
売上高 | 13億円 |
従業員数 | 70名 |
会計システム | FX4クラウド |
URL | http://www.nasada.co.jp/index.html |
コンサルタントの眼
税理士法人クリアパートナーズ 兵庫県姫路市延末1-73-1
https://yamamoto.tkcnf.com
2014年10月に当税理士法人が顧問に就きました。当時はやみくもな設備投資が原因で有利子負債が蓄積しており、資金繰りに苦しむだけでなく、利益も出ていない状態でした。そこで取り組んだのが業績管理体制の構築です。『FX2』を導入し、翌月巡回監査により正確な会計情報を提供できる体制を作り上げました(現在は『FX4クラウド』を利用)。毎月の正確な利益を把握するために、棚卸額は毎月確認し、原材料や半製品といった棚卸資産は毎月洗替計上しています。
また機械等の増減も毎月TKCの固定資産管理システムに入力し、毎月の減価償却額を適正に計上しています。これにより、足元の利益状態が正確に分かり、経営改善の相談が確実にできるようになりました。「TKCモニタリング情報サービス」(MIS)も活用されており、四つの金融機関に決算書を送付されています。
このほか認定支援機関として、「経営力向上計画」等を策定し、資金繰り改善や優遇税制活用にも取り組みました。業績改善は着実に進み、現在は健全経営の域まで到達しています。