事務所経営

会計事務所に必要な税法への理解が深まり「考える習慣」が身に付く

目次
出席者写真
◎出席者(右から)
青木宏之会員(東北会) 北村卓哉会員(中部会) 島村仁会員(関東信越会)
司会/谷口裕之TKC税務研究所所長

■とき:令和6年4月25日(木)■ところ:TKC東京本社

 会計事務所の税務判断を支援する「TKC税研データベース(税研DB)」の第3回座談会は、「税法だけでなく民法や商法・会社法に絡む内容も網羅されている」「回答に至るプロセスが丁寧に解説されており、自分で考えるクセがつく」「『注目キーワード(検索上位60)機能』で経験の浅い職員でも検索しやすい」等の特色が語られた(司会:谷口裕之TKC税務研究所所長/オブザーバー:古郡孝昭TKCシステム開発研究所次長)。

税研DBは税務業務の「決定打」、根拠を基に自信を持てる

──第1回・第2回に続き、税研データベース(税研DB)の利用件数が全国で上位の3名の会員先生にお越しいただきました。税研DBを定期的に利用している会員事務所は、現在約3千件で全体の約3割にとどまっています。より多くの事務所の業務品質向上に貢献できるよう、今回も税研DBの活用方法や活用事例をお伺いしていきたいと思います。

青木宏之会員

青木宏之会員

青木 宮城県仙台市の税理士法人青木&パートナーズの青木です。父の青木正が昭和51年に開業、53年にTKC入会、平成17年に税理士法人化しました。私は2代目で、当初は東京の会計事務所に勤めていましたが、平成22年に税理士試験に合格したのち、東日本大震災のあった平成23年に仙台に戻りました。
 事務所の職員数は40名、税務官公署OBの税理士が顧問として2名、関与先数は約370社です。経営理念は「お客様の経営ロマン実現」。TKC全国会の戦略をまさに事務所の戦略と位置付け「TKC方式100%」を目指した事務所経営を行っていることが特徴です。月次巡回監査の徹底実践、書面添付の全件実施を軸に、関与先の黒字化支援に取り組んでいます。そのため、他のTKCシステムと同様に税研DBについても、社内での活用は当然という雰囲気です。 TKC全国会では、システム委員会のFXクラウド(会計・巡回監査)小委員長と、宮城県支部のニューメンバーズ・サービス委員長を務めています。

島村 税理士法人むさしセントラルの島村です。平成14年にさいたま市で開業して、平成25年に税理士法人化しました。現在、さいたま市と池袋の2拠点体制で、関与先数は法人が約125件、税理士3名とスタッフ17名が在籍しています。
 私の事務所では、特に相続・資産税を得意分野としていることが特徴で、相続税の申告件数は年間100件を超えています。現在、TKC全国会では資産対策研究会幹事や中央研修所・租税法研修小委員会委員等を務めています。
 税研DBは、開業前に勤めていた会計事務所で使っていたので、開業後にも調べ物には必ず使うという習慣が身に付いていました。スタッフにも事あるごとに税研DBを使うよう指示してきたので、社内での活用が定着しています。 税研DBを活用する場面は大きく分けて①日常的な所内業務②関与先指導③税務調査──の三つで、それぞれにおいて、「税研DBに根拠があるので、自信を持ってこの業務を行うことができる」という「決定打」になると考えています。

北村 三重県伊勢から来ました税理士法人あおぞらの北村です。当社は、平成19年に四つの個人事務所が合併して創設されました。4名の税理士は皆TKC会員で、昭和51年から60年の間に入会しています。TKC会員として志を同じくしており、事務所はオールTKC、巡回監査や書面添付の実践は基本で、TKCシステムの活用──もちろん税研DBの活用も当然という社風です。
 私は、平成17年に職員として入社し、平成20年に税理士登録、平成21年にはⅢ型会員としてTKCに入会し、平成30年に代表社員となりました。
 事務所の拠点は三重県伊勢市に二つ、志摩市と四日市市、東京都北区の計五つ。関与先数は法人383件、個人135件で、税理士8名、職員31名という体制です。特徴は青木先生の事務所と同様に、とにかくTKC全国会の方針に沿って取り組むこと。巡回監査は基本的に100%実践しており、書面添付や継続MASも標準業務としています。
 また、現在はTKC中部会書面添付推進委員長を務めています。

回答に至るプロセスを学べるのでスタッフの成長にもつながる

──皆さまの事務所では、税研DBの社内での活用が定着しているのですね。具体的な活用方法を教えていただけますか。

北村 決算書や申告書等の作成時に疑問点を調べるときや、関与先からの質問に回答するときの検索ツールとして活用しています。
 社内で活用が定着している理由の一つとして、確定申告後に社内独自の「所得税Q&A集」の作成を行っていたこともあげられるかもしれません。職員教育と社内の情報共有をかねて、税理士は1人三つ、職員は1人一つ、自分なりのQ&Aをまとめました。それらを蓄積して事務所の財産にしようというねらいです。その際に何も見ずに作成するのは難しく、皆が税務Q&Aを参考にしたことから、慣れ親しんだツールになったと思います。
 また、決算書・申告書の作成の過程で気になる点がある場合は、税務Q&A等を根拠資料として添付して提出するよう職員に伝えています。添付があるとチェックする際に時間の節約になるので助かっています。職員が上司に相談するときにも、単に「ここが分からない」ではなく、根拠資料を基に「自分はこう考えたが、正しいか」というかたちで質問してもらうようにしています。回答する際に、今度は上司が、法令やさらに類似する事例、裁決事例等を検索して添付し、それを基に解説することもありますね。

島村仁会員

島村仁会員

島村 私の事務所も同様で、決算書・申告書等の作成で税務上の疑問があるときは、税務Q&Aや判例等を調べた上で所内チェックに回してもらうこととしています。それにより、部下は自分で考えて上司は調べる時間を省ける──という良い循環が生まれます。私たち会計事務所には経営のリソース配分が限られているため、職員教育に十分な時間を割くことが正直なかなか難しいです。その点、税研DBは経験の浅いスタッフでも簡単に使いこなせるため、職員教育という観点からもありがたいです。
 主な検索ツールとして、かつては質疑応答事例等の書籍が多くありましたが、最近は減ったように感じます。そこで国税庁ホームページの質疑応答事例やタックスアンサーを調べてみても表層的な記載のみで、知りたい情報が得られないことも多い。その点、税務Q&Aには我々のバックグラウンドに沿った実務的に参考になる回答が掲載されています。しかも根拠法令の記載があり、税務判断の根拠として非常に信頼性の高い内容です。
 経験の浅い職員が、複数税目が関連するような事案を、書籍等を用いて検索しようと試みても難しいと思います。そこで事務所では、一つのキーワードからでも検索できる税務Q&Aを、まずは調べ物の「入り口」として用いるように指導しています。

青木 私の事務所でも、税務に関する疑問があったときや関与先からの質問に回答するときなど、日常的に利用しています。OMSやProFITのトップ画面からすぐにアクセスできて便利です。
 検索ツールには関連書籍等も用いますが、ある職員からは「書籍は課税要件を調べるために、税務Q&Aは類似事例と比較するために用いるなど、使い分けている」という意見もありました。
 また、税務Q&Aは、書籍に掲載されていないような旬の情報をいち早く得られるというメリットもあります。例えば最近では、類似業種比準価額を算定するに当たってコロナ持続化給付金が非経常的利益には該当しない──という内容がいち早く掲載されており、とても参考になりました(文献番号46005920)。
 何と言っても、税務Q&Aには回答だけでなく回答に至ったプロセスが丁寧に解説されており、理解を深めやすい点が素晴らしいですね。職員の成長にもつながると思います。

島村 個人の資産税・相続税では民法が絡んでくることも多く、一気に難易度が高くなるケースがあります。その点、税務Q&Aは税法だけでなく民法もしっかりと解説してくれる。法人でも同様に、商法や会社法等の法務や知識も含めて幅広く網羅されており、税理士業務に必須のツールです。

調査官に類似事例を提示したら納得してもらえた

──関与先指導には、どのように使われているのでしょうか。

北村卓哉会員

北村卓哉会員

北村 税務Q&Aで類似事例を検索し、プリントアウトして回答することが多いですね。口頭だけよりも、書面を見せながら説明した方が理解してもらいやすく、説得力も高まると思います。

青木 私の事務所も同様です。特に規模の大きな関与先への対応に税研DBは欠かせません。税務判断を求められたときには、税務Q&Aで検索した類似事例とその根拠条文等を根拠資料として説明します。根拠資料があると安心してもらえますし、こちらも説明しやすくなります。税務判断による影響が大きい場合にはその分リスクも大きくなりますので、根拠が信頼に足るものでなければ、怖くて回答できません。

北村 インターネット上の根拠のない情報を提示するわけにはいかないですからね。うちでは、大きな影響が見込まれる回答を税理士法人として示すときには、社内の税務法規委員会で検討します。委員会では、税理士5名それぞれが、税研DB等で検索した根拠とともに見解を持ち寄ります。もし意見が分かれたら根拠を基に話し合って、最終的には統一するようにしています。

──島村先生は、資産税関連の事例で、お客様への対応に税研DBが役立ったというケースはありますか。

島村 過去に、相続の国外転出時課税に関して、相続人が「被相続人の所得税の準確定申告における法定相続分での負担に納得できない」と主張されたケースがありました。
 このときは、税務Q&Aの類似事例とその根拠条文等を書面で示して説明することで理解いただくことができました。

──「書面で見てもらう」ことに効果がありそうですね。税務調査ではどのように活用されていますか。

島村 税務調査の最中に、調査官が指摘しそうな項目が分かったら、税研DBで検索して法令等を確認します。すべての税法が細部まで頭に入っているわけではないので、その場であらためて目を通しておくことで、慌てずしっかりと対応できますね。税務Q&Aに類似事例が載っていて、そのまま参考にできるようなケースも多いです。

青木 税務調査で役員報酬の変更(定期同額給与)について、損金算入の可否における見解が税務当局と事務所とで分かれたことがあります。
 その際、税務Q&Aの類似事例や根拠条文等を調査官へ提示して説明したところ、納得してもらうことができました。調査官へのエビデンスとしても十分に説得力のあるものだと、あらためて確信しました。

北村 そういう意味では書面添付制度にも深く関係しています。税理士法第33条の2第1項の添付書面には「相談に応じた事項」等を記載します。巡回監査で関与先から質問を受けて、税研DBで調べた内容を経営者にどのように説明してどのように税務判断したか──とは、まさに「相談に応じた事項」であるため、添付書面の記載内容の充実にもつながるのではないでしょうか。

青木 関連する内容として、巡回監査支援システム・巡回監査機能の「巡回監査調書」作成機能があります。これは、巡回監査で関与先からヒアリングした内容等を記録して、後からまとめてデータを切り出し、決算書・申告書の作成や書面添付に活用できる機能です。
 ここに、税務判断を行った根拠とその際に税研DBを活用した旨等を毎月しっかりと記載するとよいですね。

注目キーワード(上位60)機能で経験が浅い職員でも検索が可能

司会/谷口裕之TKC税務研究所所長

司会/谷口裕之
TKC税務研究所所長

──税研DBでお気に入りの機能があればご紹介いただけますか。職員さんの声もぜひ教えてください。

北村 昨年12月に検索機能が強化され、職員から「検索画面が変わって使いやすくなった。キーワードが完全に一致していなくても、探している情報を見つけやすくなった」という声がありました。

青木 うちの職員からは「注目キーワード(検索キーワード上位60)機能」が特に好評です(詳細は40頁)。経験が浅いとキーワードが浮かびにくいので、60の選択肢があると便利なようですね。
 私は、「注目キーワード」が「直近1カ月」に絞ってある点が気に入っています。確定申告前などは他事務所でも同じような項目で検索するケースが増えるためか、利便性がグッと上がる印象です。「追加キーワード(一緒に検索されることが多いキーワード上位40)機能」もあり、さらに絞り込みやすいです。
 また、「サジェスト機能」も非常に優秀です。普段から使い慣れているGoogle等の検索エンジンのように文字を入力すると関連語が表示され、検索のヒントになるという声がありました。
 それから、毎月更新される「税研からのご回答」を見ている職員が多いことが分かりました。もちろん私も毎月確認しています。面白い事例が多くて、さっと目を通すだけでも勉強になりますね。汎用性が高いものは社内で回覧しています。

島村 私も「税研からのご回答」の件名は必ず確認するようにしています。社内で役立ちそうな内容には、「付箋機能」(OMSクラウド限定)で付箋をつけています。付箋のある文書は「付箋ボード」に一覧表示されて後からすぐに確認できるので便利です。
 最近は、インボイス関連情報等、税務情報が毎週のように更新されていますが、税研DBには国税庁等が出典の情報が掲載されており、情報収集にも役立ちます。質疑応答事例、税務判決要旨、法令・通達の改正、税制の動向、税務執行の状況、さらには東京外国為替相場──等、幅広いコンテンツが掲載されています。

北村 税務Q&Aの「関連情報」からは、該当条文だけでなく、参考Q&A、判例等要旨にも直接アクセスできるので使いやすいです。各画面でコピー&ペーストできるので、回答文書の作成にも役立っています。

島村 個人的に「条文一括確認機能」を、ものすごく気に入っています。税務Q&Aの「関連情報」《法令等》から「TKC会計・税務法令データベース」の該当条文を直接表示することができて、該当する条文が複数ある場合にはまとめて確認・印刷もできるため、調べ物にはなくてはならない機能です。

──皆さまには、存分にご活用いただいており、うれしい限りです。税研DBには多くの機能や検索方法がありますので、これからもいろいろ試してもらいたいと思います。

「関連情報」から該当条文への直接リンク、「条文一括確認機能」については「TKCローライブラリー」への利用申し込みが必要です。

1万2千件超の税務に関するQ&Aと回答に至るプロセスは会員の「宝の山」

──最後に、これから税研DBを使う方へのメッセージをお願いします。

青木 税研DBは、関与先指導や税務調査の際など、信頼性の高い根拠を示す必要のあるときに、非常に役立つツールです。ProFITのIDさえ持っていれば追加料金なしで使用できるため、まだ使っていないとしたら本当にもったいないと思います。
 今回、職員に使用方法をヒアリングした際に最も印象的だったのは「税研DBの活用を通じて、自分で調べる習慣や考えるクセが身に付いた」という意見です。
 税務Q&Aには回答とその解説が理路整然と記載されています。そのため、使っているだけで税法への理解が深まるだけでなく、税務判断に必要な思考のプロセスを学ぶことができる。このことは、事務所全体のレベルアップにもつながると考えています。

北村 税務業務において「調べること」は常に重要です。税研DBは、多くの情報を効率よく調べられる機能が搭載された使い勝手の良いツールです。まだ使っていない方は、今すぐ試してみることをおすすめします。
 これまで私自身は、直接調べたいキーワードを打ち込んで検索するという使い方がメインでしたが、今日座談会に参加してみて、さまざまな検索方法があることを知り、とても勉強になりました。さらに活用の幅を広げられると感じたので、これまで以上に活用して業務品質向上に役立てていきたいと思います。

島村 税務Q&Aには、約40年にわたって会員の税務に関する質問と回答が蓄積されており、今や約1万2千件超の質疑応答事例が収録されています。私は20年以上前にTKCに入会してからずっと使い続けていますが、時を経て情報がさらに蓄積し、新機能やコンテンツも拡充して、一層使いやすくなっていると感じます。
 最新の税務情報を理解しておくことは、税理士業務の要です。「全国の会員先生方が『今』悩んでいること、過去に悩んできたこと」そして、それに対する「回答と、そのプロセス」を学べる税研DBとは、TKC会員だからこそ得られる宝の山と言えるのではないでしょうか。

(構成/TKC出版 小早川万梨絵)

(会報『TKC』令和6年7月号より転載)