事務所経営

中堅・大企業市場での関与先・業務拡大事例 税理士法人bestax

山中朋文会員 大原庸一会員

左から山中朋文会員、大原庸一会員

チャレンジ精神を持ち続け、中堅・大企業支援を強みとしたい

 FX5(統合型会計情報システム)、FAManager (固定資産管理システム)、インボイス・マネジャーを導入・運用支援したことから信頼関係を構築して、税務顧問契約を締結した税理士法人bestax(ベスタックス)の山中朋文会員・大原庸一会員(東京都心会)にお話を伺いました。

充実した研修体制が入会の動機 スタッフファーストの事務所経営を

──税理士法人bestax(ベスタックス)様は、山中先生が平成25年4月に創業した個人事務所からの法人化ということですが、まずは山中先生が税理士を目指された背景を教えてください。

山中 私の母方の実家が洋傘の販売店をやっている自営業だったのですが、父はそこのお店を顧問していた会計事務所の監査担当者でした。まだ独身だった母と付き合いだしたときから商店街の皆さんに温かく交際を見守られて結婚までたどりついたそうです(笑)。

山中朋文会員

山中朋文会員

 父は勤務税理士だったので開業はしていませんでしたが、そんな環境で育ったので私にとって税理士とか中小企業の経理という職業は身近でした。私が高校生のときに父に改めて「税理士ってどんな仕事?」と聞いたのを今でも覚えていますが、そのときに父から「お客さんが“ありがとう”と感謝してお金を払ってくれる仕事」と言われたのがずっと心に残っていました。人の役に立てる仕事なのだと父が誇らしかったですね。その後、平成14年に税理士合格したのですが、父の勤務事務所も私が約10年勤務した事務所もTKCではなかったのです。通っていた簿記学校の合格祝賀会やTKC会員事務所の見学会などで刺激を受けながらも、勤務していた事務所にも同年代の資格保有者が5、6人いて相談できる環境でしたし、自分も一通りのスキルや経験もあって自信があったのですよね。

──それでもTKCに入会しようとされたのはなぜですか。

山中 契機になったのが、TKCのニューメンバーズ向けセミナーに参加したこと。その会場でさかんに話題になっていたのが、それまで聞いたこともなかった「認定経営革新等支援機関」だったのです。正直、愕然としましたね。このような情報をいち早く収集できる環境もなく独立開業したら危ないと実感して、TKCに自ら連絡して入会しました。それに将来的なスタッフ育成を考えて、充実した研修体制も入会動機になりましたね。TKC全国会の運動方針をそのまま実践していけば、事務所の発展につながると信じています。

──大原先生とはどのように出会われたのですか。

山中 実は勤務事務所が一緒だったのですよ。だから大原とはかれこれ約15年の付き合いになります。

大原 私は大学の専攻が文学部芸術学科で、卒業後はテレビ局やゲーム会社でCG制作などの業務に携わっていましたが、専門外からチャレンジするには業界的に周りの人がすごすぎて限界を感じていました(笑)。転職を考えていたときに、会社で経理をやっていた姉から税理士を勧められたのです。コツコツと一科目ずつチャレンジしながら、勤務した事務所で山中と出会いました。その後、私は大学院に進学するために退職したのですが、単位取得に目途がついたタイミングで会計事務所でのアルバイトを探していた時に、山中に偶然、再会したのです。翌日、早速、声をかけてもらってアルバイトとして入所しました。その後、アルバイトリーダーになり、大学院卒業後は正社員になって、今はナンバー2として頑張っています。

山中 私は人を採用する基準として、第一に人柄を挙げます。創業時から「スタッフファースト」の事務所経営を心掛けていますが、スタッフを成長させることがベースにあってこそ、顧客満足度の高いサービスを提供できると自負しています。ホスピタリティの原点は、相手の立場を考えた行動がとれるかですから、採用も業界経験者よりもキャラクター重視。即戦力よりも将来3年後、5年後に事務所の中心メンバーとなってくれるような人材育成の方が楽しいと思っています。だからスタッフの個性を活かして、各自がやりたいことを実現できる組織であることを大切にしています。

 私は開業後、自分にとって得意な資産税や相続対策などを強みとして事業展開してきましたが、所長ひとりの強みでは、できることに限界があります。そこで法人化を機に、大原ともよく話し合い、彼が注力したいと言った中堅企業への税務やDX化に向けた支援を事務所経営のひとつの柱として掲げることにしました。そして法人向けサービスを展開しやすいように自由が丘のほかに神楽坂オフィスも増やして2拠点にしました。

クライアントとの接点を増やし信頼に基づく税務顧問契約を実現

──今回、ご紹介いただくA社のFX5やFAManager、インボイス・マネジャーの導入コンサルティングは、大原先生が担当されたのですね。

大原 私がメインで実施しました。実はA社は、もともとB社グループの傘下からA社グループの傘下に一部の事業を移した新設会社なのです。だから導入中は、両グループへの対応が必要だったので、経理担当の方の負担は非常に大変でした。時には、ここまでやっておいてくださいと依頼した宿題ができていない時もありましたが、根気よくヒアリングしながら、わかり易く説明することを心がけて先方のシステムの習熟度を高めていきました。ただA社グループとB社グループの連携も企業文化が違うだけに思ったようにはいきませんし、以前の会計システムは自社開発だったのです。仕様がわからないので「これまでできていた」と言われても対応が難しい。勘定科目体系についても複数回の修正がありましたし、固定資産の合併受け入れについて先方の対応方針の決定までに時間がかかりました。そのような対応の遅れから導入スケジュールのリスケも行いましたが、結果的には本年1月からの本稼働に間に合いました。

 振り返ると、導入作業自体は企業情報の社員におんぶに抱っこの状態で恐縮でしたが、この企業規模の立ち上げ支援は、基幹システムとの連携もありますからね。自分は消費税の指導など職業会計人としてのアドバイスを実施することに注力しました。

──直接契約の相談につながったサービスは何だったと思いますか。

大原 A社の経理は3名体制でしたが、その中でメインにシステム移行を担当していた方は、色々な業務を兼務されていて多忙でした。本来、当社は記帳代行的な入力作業は受託しない方針ですが、先方が明らかに業務のオーバーフローで困っている状況は理解できたのでExcelからの仕訳読み込み機能を活用して、スポット契約で対応しました。これが3月上旬なら確定申告の繁忙期と重複してとても受けられなかったと思いますが、依頼されたのが2月上旬だったので対応できるタイミングでした。今から思うと、このスポット業務を受けたことが、評価されるきっかけになったのかもしれません。複数システムの稼働である上、スポット業務もありましたから、どうしても打合せ回数は多くなりました。そこをWebや訪問をうまく組み合わせて、先方の困りごとの解消に努めました。

 私はクライアントとは接点が多ければ多いほど、信頼関係を構築できると思います。結局、こういった支援を積み重ねたことと、先方には顧問税理士がいなかったこともあり、本稼働後には自然な流れで月次税務顧問契約を締結させていただきました。見積もり時には先方から値引き要請も特にありませんでしたね。システムへの評価としては、仕訳連携機能、銀行信販データ受信機能、MR設計ツールなど、以前の自社開発システムでは叶わなかった業務の効率化に喜ばれています。

──中堅・大企業への支援経験が、ほかの関与先を支援する上で役立ったなど副次効果はありますか。

大原 固定資産の合併受け入れなど自分自身も勉強になったので、同じようなケースで今後、事例として紹介できますよね。事務所にとってもメリットだと思っているのが、中堅・大企業支援に取り組むことが色々な可能性を拡げてくれることだと思います。税理士を目指しているスタッフにとって、法人税を受験勉強する上で確実にモチベーションアップにつながるのです。勉強した知識を存分に活かせるのが、中堅・大企業の市場だと思いますから。実務で必要な知識だと実感すれば、勉強することが励みになります。

山中 そうやって自ら成長しようと思って頑張っているスタッフなら、「best」と「tax」を組み合わせた社名通り、お客様に最善の提案を心がけてくれると思います。最近は、スタッフ同士で教え合って問題解決してくれることが増えてきましたが、私は所長がいなければ何も動かないトップダウンの組織にはしたくないので、みんなの成長が嬉しいです。

中堅・大企業での業務拡大成功要因

ニューメンバーズ会員に寄り添い税理士の社会的地位向上を共に目指す

──最後にこれから中堅・大企業への支援業務に取り組みたいと思っている会員先生方に向けてメッセージをお願いいたします。

税理士法人bestax

山中 私から伝えたいことは、3点あります。一つ目はTKCから紹介される中堅・大企業向け支援業務はシステム・コンサルタントとしての役割なので、いきなり上場企業の税務顧問というわけではないということです。一会計事務所がふだん関わることのない企業規模の会社に接することができるビジネスチャンス──ということでまずはチャレンジしてみようという姿勢が大事だと思います。そしてその経験は絶対に事務所の強みになります。

 次に、中堅・大企業を支援しているということ自体が、事務所のスタッフ採用において大いにPRできるということ。いざ、税理士業界で働きたいという人に選ばれる組織であるために、ほかの事務所と違う差別化要素は絶対に必要なのです。

 最後は、特に公認会計士で税理士登録して開業した先生方へのメッセージなのですが、これまで監査法人などで培った最大の強みである会計の知識や経験を活かして、本気で税理士業界を盛り上げていただきたいです。TKC全国会の運動方針に則ってTKCバッジ会員を目指しながら、「会計で会社を強くする」ことを実践できるスキルを無駄にしてほしくないです。

 私は東京都心会のニューメンバーズ・サービス委員長として、副委員長の山浦佑太先生と一緒に毎月、「事務所経営塾(山中塾)」を開催していますが、早いものでもう30回を超えました。ニューメンバーズ会員のお悩みに寄り添いながら、私自身も良い意味で刺激をもらっています。どうしたら最善のサービスを提供できるのか、TKC会員の先生方と切磋琢磨しながら税理士の社会的地位の向上を共に目指していきたいと思っています。

(インタビュー・構成/中堅・大企業支援研究会事務局 今村こすみ)

事務所概要
事務所名 税理士法人bestax(ベスタックス)
所在地 ・自由が丘オフィス 世田谷区奥澤5-24-7 グリーンヒルズ自由が丘403
・神楽坂オフィス  東京都新宿区揚場町1-1揚場ビル7F
設立 令和4年6月(山中朋文税理士事務所より法人化。平成25年3月にTKC入会)
代表者 山中朋文(平成17年6月税理士登録)
職員数 10名

(会報『TKC』令和5年8月号より転載)