事務所経営

「事務所経営塾」開催レポート

目次

 全国各地で「事務所経営塾」が活発に開催されている。TKC全国会の各地域会・支部が開催方法や内容にそれぞれの工夫を凝らし、地域会・支部活動の活性化に努めている。今回は5月に行われたTKC神奈川会湘南支部とTKC南近畿会いずみ支部の開催内容をレポートする。

「5年後の未来像。未来に向かって挑戦!」 基調講演・グループディスカッション

神奈川会湘南支部
とき:令和5年5月10日(水) ところ:ミナカ小田原

 TKC神奈川会(桐澤寛興会長)はTKC全国会運動方針に基づき、「社会の期待に応えられる事務所づくりをしよう」をテーマに、「4大業務の完全遂行による優良企業の育成」「仲間づくりを通じた事務所づくり」を目的としたプロジェクト「神奈川みらい設計会議」を立ち上げて積極的に活動している。プロジェクトの最重点活動として、「みらい事務所経営塾」を神奈川会として3回、各支部で4回開催することを決定した。
 神奈川会湘南支部(櫻井康平支部長)では、5月10日、ミナカ小田原にて、支部例会の第2部として「5年後の未来像。未来に向かって挑戦!」をテーマに第1回となる「みらい事務所経営塾」を開催し、24名が参加した。

1.基調講演
桐澤会長

桐澤会長

 基調講演では桐澤会長が講師を務め、「みらい事務所経営塾」の開催主旨を説明した上で、事務所経営に対する考え方や、これから会員が取り組むべきことについて次の通り語った。

◉開催主旨

 会員に「みらい事務所経営塾」への参加を通じて、今一度事務所経営についてじっくり考える機会を持ってほしいという思いで開催した。
 コロナ禍ではWeb会議が中心であり、久しぶりに顔を合わせて本音で語り合うことで、気付きを得ることができると思う。さらに、1度きりではなく、繰り返し参加することで腹落ちにもつながるので、積極的に何度も参加して理解を深めてもらいたい。
 また、システム活用等のテクニック的な情報共有はもちろん、事務所経営の考え方やTKC理念を共有できる場としたい。

◉事務所経営に対する考え方

 インボイス制度の開始により、記帳代行業務は困難になる。事務所経営は時代の変化を捉えて、常にアップデートしていかなくてはならないため、今後どのように対応していくかが非常に重要となる。経営課題は事務所によって内容もさまざまであり、一つクリアしたから終わりではなく、多くの課題をクリアし続けることで事務所がスパイラル的に発展していく。
 私の事務所は開業して20年になるが、現在人員不足という「人の問題」が最大の課題となっており、再度事務所づくりをするようなつもりで取り組んでいるところ。採用環境はとても厳しく、記帳代行で職員が疲弊するような昔ながらの会計事務所に人は来ない。そのため良い人材を採用するには、巡回監査を断行し「職員が輝ける」環境を整えることが重要である。
 我々が現在やるべきことは、TKC全国会運動方針に沿って「税理士の4大業務」を具体的に実践していくことである。特に継続MAS等を活用し、付加価値を高めるアドバイスを行うことが重要。その先の「目指すべき未来」とは「我々がBAST優良企業の育成を担う」ことであり、会員としてどのように事務所経営を行うべきか、この機会にあらためて熟考してほしい。

2.グループディスカッション
「事務所経営塾」神奈川会湘南支部

 基調講演終了後、3グループに分かれてグループディスカッションが行われ、各事務所の課題や取り組み事例が共有された。ディスカッション後には、各グループの代表者から次のような発表があった。
 「TKCシステムを使いこなすことによって職員が働きやすい環境をつくっていきたい。また、極端に低い報酬での依頼や脱税相談を受けることがあり、まだまだ税理士の地位が低いと感じることがある。税理士として社会貢献に努めながら地位向上を目指していきたい」
 「事務所を大きくするには人材確保が重要ということが共通認識であり、課題でもあった。人材確保のためには、幅広い雇用形態や研修制度の充実などの職員満足度を高める工夫と、事務所のイメージづくりが必要」
 「採用に関する課題を中心に情報共有を行った。また、事務所承継の課題もあり、支部例会等に積極的に参加するなどして先輩会員と若手会員の交流を深めることも重要となるという意見もあった」
 事務所経営塾終了後には懇親会が開催され、事務所経営について熱の入った議論が交わされた。

「書面添付を実践しよう!」 基調講演・パネルディスカッション

南近畿会いずみ支部
とき:令和5年5月17日(水) ところ:TKC南近畿会研修室

 TKC南近畿会いずみ支部(横幕幸彦支部長、当時)は、「TKC全国会の取り組みを各事務所が具体的に実践するためには、会員同士が顔を合わせて語り合うことが必要である」との考えに基づいて、支部の重点施策として、事務所経営塾を毎月開催している。
 5月17日には「書面添付を実践しよう!」をテーマにハイブリッド形式の事務所経営塾を開催し、会員・職員合わせて42名が参加した。
 冒頭、塾長である露口和夫会員(南近畿会巡回監査・事務所経営委員長)から「TKCシステム活用の集大成として本年度最後のテーマに『書面添付』を選んだ。本日の事務所経営塾を通じて、書面添付実践に役立ててほしい」との挨拶があった。

1.基調講演
桐澤会長

壷見会員

 「ウィズコロナ・DX時代の書面添付制度(税務署側から見た書面添付に期待すること、現状およびその効果)」をテーマに、壷見晴彦会員が講師を務め、基調講演が行われた。

◉期待が高まる書面添付制度

 近年は「税務調査はノン・コンプライアンスで悪質な企業に集中」「企業の自発的なコンプライアンスには『税理士の使命』が要となる」という二つの傾向がある。
 税務職員の採用抑制傾向、若手税務職員の増加、DX化、デジタルインボイスの導入──といった背景を踏まえると、書面添付制度の推進、優良な電子帳簿の普及拡大が今後一層求められている。そのような中、月次巡回監査を実践し書面添付制度を活用した、TKC全国会の「適正申告」に向けた最先端の取り組みがますます注目を集める。
 また、書面添付制度に対する調査官の認識が高まっている。特に若い世代の調査官ほど、充実した質の高い内容の添付書面や意見聴取制度を活用した経験を通じて制度への理解が進んでいる。TKC会員は書面添付制度の一層の普及に向けて、取り組んでほしい。

2.パネルディスカッション
「事務所経営塾」TKC南近畿会いずみ支部

 奥野誠会員(南近畿会書面添付推進委員長)がコーディネーターを務め、3名のパネリスト(山本幸司会員、壷見晴彦会員、香川正昭会員)による書面添付の実践をテーマにしたパネルディスカッションが行われた。

◉金融機関へのアピール

奥野会員:金融庁の「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」等が一部改正され、4月1日から適用が開始された。監督指針改正を受けて、各地で覚書締結金融機関との実務者協議を実施し、金融機関に対して書面添付制度の活用をアピールしている。金融機関の理解が深まっている反面、書面添付の実践件数が少ないという声もある。
 また、TKCモニタリング情報サービス(MIS)で書面添付が提供されていないこともあると聞くので、オプション帳表を確認してほしい。銀行が取引先の経営状況を把握できる書面添付やMISの重要性が高まっている。なお、書面添付実践にあたっては「添付書面文例データベース」をぜひ活用してほしい。

◉実践件数増加のコツ

「事務所経営塾」TKC南近畿会いずみ支部

香川会員:事務所の先輩や仲間のTKC会員の真似から始めてほしい。「まずはやってみる」ことが大事であり、最初はうまく書けなくても、翌年以降に記載内容を徐々に充実していけばよい。所内では、会議で関与先の書面添付の実践可否を確認し、実践件数に対してインセンティブを与えることで推進する仕組みとしている。経営者に対しては、顧問契約時に必ず書面添付制度について説明している。

◉標準業務化に向けた取り組み

山本会員:基本的には全件実践を事務所方針として、標準業務化を目指している。書面添付の実践から逆算して業務を考えると、月次巡回監査の断行が前提となる。最も大事なのは初期指導で、最初に関与先をきちんと指導できるかが分かれ道となる。
 一方で、書面添付の実践そのものは目的ではなく、あくまでも関与先の黒字化と適正申告を支援していくことが目的。さらに職員の仕事に対する充実感ややりがいにもつなげていきたい。
 最近、関与先となった企業から「書面添付はできますか?」と質問を受けた。理由を聞くと、「YouTubeで書面添付制度がよいという話を聞いたから」。制度の普及が進み、時代が変わってきたことを感じている。

壷見会員:「国税庁レポート2022」には「書面添付制度の効果」として、「添付書面の記載事項に関する意見陳述の機会を与えなければならない」と記載されており、書面添付に自信を持って取り組んでほしい。

 パネルディスカッション後には質疑応答が行われ、参加者から多くの質問が寄せられた。
 いずみ支部は、今後も事務所経営塾を継続開催し、各事務所の経営基盤強化につなげる取り組みを行っていく。

(会報『TKC』令和5年8月号より転載)