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第72回税理士試験と令和4年公認会計士試験の傾向
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資格の大原 税理士講座 豊田健一郎
税理士試験の傾向
税務実務を想定した出題が多い傾向 若年層の受験者数が4年連続の前年超え
令和4年度(第72回)税理士試験の官報合格者数は620人、科目別の合格者数の合計は6732人となっています。
全科目の平均合格率は、令和3年度(第71回)は16・5%、令和4年度(第72回)は16・7%と高い水準で推移しています。
前年に続き会計科目である「簿記論」は合格率が23%と特に高いものとなっています。近年の会計科目は比較的点数が取りやすい問題が出題されており、会計科目は合格しやすい試験となっているといえます。
なお、受験申込者数は3万6852人と前年より1078人の増加、実受験者は前年より1554人の増加となりました。その中でも簿記論の受験者数が1722人の増加、財務諸表論の受験者数が920人の増加となっています。また、若年層(大学在学中および25歳以下の方)の受験者数が、4年連続で前年比100%超となっており、若年層の税理士試験へのチャレンジが増えている状況があります。
試験内容としては、会計科目では、決算整理を含めた会社経理を修正する形式が引き続き出題されており、税理士業務においてもクライアントの誤りを訂正することなどが求められることを想定・意図した問題となっています。また、「収益認識に関する会計基準」(収益認識基準)に関係する内容の論点も問われていました。
税法科目では、相続税法において配偶者居住権等についての問題が出題されており、時事的な内容の知識も問われていました。また、消費税法において国税庁のQ&A、質疑応答事例を参考にした問題が出題されるなど、理論では暗記だけでは対応できない税務実務的要素を取り入れた問題となっています。また、計算においても改正項目や税務実務を踏まえた項目が多数出題されています。
このように、税務実務的要素が含まれた出題の傾向は、国税庁公表の「税理士試験出題のポイント」からもうかがうことができ、税務実務に従事している社会人にとって有利な面は少なくないといえます。したがって、税理士試験は科目合格制度も相まって、社会人にとっても比較的チャレンジしやすく、十分に合格を狙える試験であるといえるでしょう。
公認会計士試験の傾向
受験者数は増加、合格率は徐々に低下 採用は活発な状況が続く「売り手市場」
試験内容としては、短答式試験と論文式試験の2段階での選抜となっています。短答式試験では、公認会計士になろうとする者に必要な基本的知識を体系的に理解しているかを判定するため、基本的な論点が幅広く出題されています。論文式試験では公認会計士になろうとする者に必要な思考力、判断力、応用力、論述力が備わっているかを判定するため、知識だけでなく実践的な思考力や判断力が必要となる応用的な論点が出題されています。
平成22年から短答式試験が年2回の実施となり、受験機会の拡大が図られましたが、試験に合格しても監査法人等に就職できないといういわゆる待機合格者の問題が生じたため、願書提出者は平成22年をピークに減少が続いていました。ただし試験合格者の就職状況は平成24年から好転し、現在も「売り手市場」の状況が続いています。これを受けて公認会計士試験の願書提出者も平成28年より増加基調に転じています。
令和2年以降についても、感染症による影響がある中で増加し、令和5年度第1回短答式試験では前回比114・4%と伸びています。
論文式試験の最終合格率は、ここ数年10%程度で推移していましたが、令和3年に9.6%、令和4年は7.7%と徐々に低くなってきています。
令和4年「合格者調」で詳細を見てみると、職業別区分の合格者の構成比は、「学生」(58・2%)、「無職」(18・6%)、「専修学校・各種学校受講生」(7.9%)の順に高い割合となっており、依然としてある程度まとまった時間を受験勉強に費やせる環境が必要であることがうかがえます。しかし、「会社員」や「公務員」「会計事務所員」など業務と並行して受験を目指す方の合格者数および合格者全体に占める構成割合が、徐々に増加してきていることは注目したい点です。特に「会社員」で見てみると、平成23年に55名(構成割合3.6%)だったところが、令和4年は94名(構成割合6.5%)に増加しています。
近年、試験問題が若干ですが難化傾向にありますが、基本的な対策を取ることで(一部科目を除く)合格が十分に狙える状況に変化はありません。そのため時間的な制約のある社会人でも基本項目を確実に習得、解答できるようにすることで、合格の可能性が高まると捉えることができます。
今後の取り組み
若年層へ簿記・税理士の魅力を伝え 税理士業界の発展に貢献したい
大原学園グループでは、税理士試験において直近10年間をみても各年度における官報合格者の半数以上の合格者を輩出しており、また、公認会計士試験においても多くの合格者を輩出しています。
当学園では、会計を学ぶ多くの方々との出会いがあります。例えば、簿記を学ぶ大学生の方々へは税理士の業務や魅力をお伝えする活動を行ってまいりました。前述のとおり、若年層の受験者数が4年連続で増加していることは、当学園にとっても大きな喜びです。税理士試験の受験資格要件緩和という追い風を受けて、税理士を目指す若い方々をさらに増やすチャンスと捉えています。
引き続き学生の方々に税理士の魅力をお伝えし、多くの方々に税理士を目指していただけるよう、TKC会員の皆さまとともに啓発活動を行えることを大変楽しみにしています。また、社会人の方々にも早期に合格いただけるよう、時代のニーズに沿った商品開発などを実施します。今後も受験業界のリーディングスクールとして税理士を目指される方々を応援し、皆さまとともに税理士業界の発展に貢献してまいります。
(会報『TKC』令和5年4月号より転載)