2026年4月号Vol.142
【インタビュー】進化し続ける地方税制大変革時代を乗り越える税務行政を考える
総務省 自治税務局長 寺﨑秀俊氏
インタビュアー 本誌編集人 飛鷹 聡
撮影 中島淳一郎
時代とともに常に進化し続けてきた地方税制度。経済社会の構造変化やデジタル技術の進展など“大変革時代”のいま、日本の持続的発展に向けて地方税はどう変容していくのか──総務省自治税務局長の寺﨑秀俊氏に聞く。
──昨今、地方税を取り巻く環境が大きく変わっています。
寺﨑秀俊(てらさき・ひでとし)
1991年、自治省(現総務省)入省。鹿児島県財政課長、税務企画官、熊本市副市長、官邸参事官、都道府県税課長、神戸市副市長、自治税務局企画課長、地方分権改革推進室長、復興庁審議官などを経て、24年7月より現職
寺﨑 特に大きな変化といえるのは、税に関する議論が1年を通じて行われるようになったことでしょう。
以前は、毎年11月後半から改正に関する議論が始まり、年内に税制改正大綱が閣議決定され、年明けの通常国会で法案が審議・採択されるというのが一つの流れでした。しかし、昨今は物価高対策として税制に関する政党間の議論が通年で行われている状況です。
物価高の影響を受ける生活者・事業者への支援は重要ですが、税制の見直しは地方税収に直接的な影響を及ぼします。地方自治体が住民生活に欠かせないさまざまな行政サービスを提供するためにも、安定的な税財源をどう確保していくか、という視点は欠かせません。
税制改正のポイント
──『令和8年度税制改正の大綱』(2025年12月26日閣議決定)について、改めて自治体の業務に影響する改正点などを教えてください。
寺﨑 現段階において、いくつかの改正ポイントが挙げられます。
まずは、いわゆる「年収の壁」の引き上げです。住民税については、給与所得控除の最低保障額の引き上げなど一部の見直しにとどまりました。これは、住民税が〝地域社会の会費〟であることを考慮していただいた結果であると受け止めています。一方で、所得税との間で課税・非課税のラインの差が広がることとなり、〈住民税のみ課税世帯〉が増えることにもなります。その点では、自治体の意見も踏まえつつ、今後、個人住民税の非課税限度額や基礎控除のあり方など検討していかなければならないでしょう。
また、住民税独自の改正としては、「道府県民税利子割に係る清算制度の導入」と「ふるさと納税制度の見直し」が挙げられます。
道府県民税利子割は、これまで納税義務者の預貯金口座のある自治体で課税していましたが、今回、新たに〝清算〟という方法が導入されることになります。この背景にはインターネット銀行等の利用拡大が挙げられます。
制度創設時には、ほとんどの納税者が住所地近くの金融機関で口座を開設していましたが、近年ではインターネット銀行の普及で実際の住所地と口座所在地が不一致となるケースが数多く発生しています。そこで、現行の課税の仕組みは維持しつつ、清算制度を導入して都道府県間で税収帰属を適正化することとなりました。
ふるさと納税は、いまや全国の寄附受入額が年間1.2兆円を超え国民に最も広く浸透した税制となりました。その一方で、ふるさとやお世話になった自治体へ感謝や応援の気持ちを伝えるという、制度本来の趣旨との乖離が問題視されるようにもなりました。
今回、初めて調査したのですが、実際に自治体の財源となっているのは寄附額全体の53.6%であるのに対し、ポータルサイト事業者への手数料等が13%と高い割合を占めていました。
──それは驚きの数字ですね。
寺﨑 ふるさと納税はインターネットショッピングではなく、公的な税制上の仕組みとして創設されたものです。寄せられた寄附金の原資はある意味で税金であり、住民サービスの充実や地域の振興・発展のために活用されるのが本来の趣旨でしょう。このため、地域外の事業者に支払う手数料等はできる限り縮減していく必要があります。
また、所得に応じて上限なく特例控除額が増えるため、高所得者優遇になっているのではないか、という声もありました。そこで今回の税制改正では、①特例控除額に給与収入1億円相当の定額上限を新設、②自治体が活用できる寄附金割合を60%以上とし、寄附額が何にどう使われているのか使途を公表──という制度改正を行うこととなりました。これにより、ふるさと納税制度の健全な運用を確保したいと考えています。
根底にある経済社会の構造変化
──今回の税制改正では、東京都などの大都市圏に集中する税収の偏在是正も大きな焦点となっています。
寺﨑 これも今回、大きなテーマとなりました。
昨今、地方税収が増加する中で、東京都の財源超過額が24年度・25年度と2年連続で過去最高となりました。行政サービスの地域間格差も拡大し、最近では〝多摩川格差〟という言葉が定着するほどとなっており、特に東京都と隣接する自治体等から「地域間格差が看過し得ない水準にまで拡大している」との声も上がっています。
こうした行政サービスの地域間格差の背景には、主に地方税源の偏在による財政力格差があると考えています。
地方法人課税では、大法人の本店が集まる東京都に税源が一極集中する状況が続いています。また、固定資産税についても、人口・企業等の集積や都市開発の進展などによる大幅な地価上昇により、全国に占める東京都の税収シェアが突出して高くなっています。
──インターネット銀行の利用増加もそうですが、問題の根底には経済社会の構造変化があるといえます。そうした変化は今後も続くと考えられ、地域間格差の拡大が、それに拍車をかけることにもなりかねません。
寺﨑 おっしゃるとおりですね。東京が発展することはいいことですが、経済活動に必要な要素の全てを東京都だけで賄えるわけではありません。その最たるものが人材の供給です。
私自身もそうですが、地方で育った若年層の東京都への転出超過は年間で約10万人に達し、これらの人々が都市の活力を支えています。一人の子どもが高校を卒業するまでに約1600万円の公費がかかるといわれますが、その子供たちが進学・就職を機に地方から都市へ転出し、働いて得た収入は都市の税収となっているのが実情です。また、都市の維持・発展には地方が担う食料生産やエネルギー供給等の機能が不可欠です。将来にわたって日本全体が持続的に発展するためには、都市と地方が互いに支え合うことが肝要でしょう。
そこで税収の偏在是正を図るため、①新たに法人事業税の資本割を特別法人事業税・譲与税の対象とする、②所得割・収入割にかかる特別法人事業税・譲与税の割合を高める──などの措置を検討するとの方向性が示されました。また、特別区の土地にかかる固定資産税についても、東京都特有の制度への影響等を踏まえつつ検討することとされました。
税務手続きのデジタル完結へ
本誌編集人 飛鷹 聡
──「公平かつ円滑な納税のための環境整備」の一つに、〈税務手続きのデジタル化の推進〉が挙げられました。寺﨑局長には、08年に地方税の電子申告についてインタビューさせていただきましたが、この間に税務手続きのデジタル化は大きく進展しましたね。
寺﨑 思い起こせば、18年前は地方税務手続きの電子化の仕事は、税務企画官の業務の一部に過ぎませんでした。それが、いまでは自治税務局内に税務手続きのデジタル化を推進する専門組織(電子化推進室)が設置され、地方税共同機構という地方税法に基づく地方共同法人も設立されました。その分、責任も重くなったと痛感しています。
18年前の最大の悩みは、「全国全ての自治体にどうやって参加してもらうか」ということでしたね(笑)。
地方税は全国の都道府県・市区町村のそれぞれが課税団体であり、全国各地に事業所を持つ事業者は、当時、申告手続きのために膨大な手間とコストをかけていました。その解決には、電子申告を迅速に全国へ普及することが急務でした。全団体がeLTAXに接続し、電子申告ができる環境が整ったのは10年4月でしたが、これにより最大の難関が突破されました。
その後、11年1月から「国税連携」がスタートしました。それまでは自治体職員が税務署に出向き、紙の確定申告書をコピーして課税情報を入手していましたが、国税連携で事務の効率化やコスト削減が一気に進みました。
そして、19年10月には「地方税共通納税システム」の運用が始まり、全団体への電子納付が可能となりました。
いまやeLTAXを通じた電子納付額は、全体の約3割・16兆円(24年度実績)に達しています。急増の要因には「地方税統一QRコード」の普及があり、これはスマートフォン一つで利用できるようになった技術進化がもたらした変革といえますね。
その次が、「地方税関係通知の電子化」です。
24年1月から、個人住民税の特別徴収税額通知(納税義務者用)が電子データで受け取れるようになりました。これにより、事業者は紙の通知書の仕分け・配布作業が不要となり、データ保管や給与システムとの連携なども容易に実現できるようになりました。
今後、納税通知書や納税証明書も電子化される計画で、納税者の利便性向上と自治体の業務効率化が一段と進むものと期待しています。
──いまや税務手続きでは、デジタルが当たり前のものとなりつつあります。
寺﨑 最近、「デジタル完結/デジタルシームレス」という言葉をよく耳にしますが、税務手続きはその方向に向けて着実に進んできたと感じています。
その昔、国税庁の方と「いつか、源泉徴収票と給与支払報告書も一元化できる日が来るといいですね」と話していたことを思い出します。当時は将来の夢みたいな話でしたが、来年1月からは、給与支払報告書をeLTAXで市区町村に提出した場合、一定の条件を満たせば税務署への源泉徴収票提出が〝みなし提出〟として免除されるようになり、国税・地方税双方に提出する手間から解放されます。いよいよそんな時代が来たんだなぁと感無量です。
──電子申告のインタビューでは、意義の一つに「納税者へのコンプライアンスの確保」を挙げておられました。これについてはいかがですか。
寺﨑 納税者へのコンプライアンスの確保は、公平な徴収と税務行政への信頼を維持する上で不変のテーマです。
地方税収は、24年度実績で47.6兆円と4年連続で過去最高を更新し、来年度には50兆円の大台に乗る見込みです。しかし、それを預かる自治体側では近年、専門知識を持つ人材の不足が指摘されています。
ご承知の通り、地方税務は固定資産税を筆頭に多岐にわたる専門知識が問われる業務です。自治体の深刻な人材不足の背景には、少子高齢化による労働力減少、採用難や若手職員の減少、複雑化する税法など複合的な要因が重なっており、一朝一夕で解決できる問題ではありません。
対策としては、例えば単独での人材確保が難しい小規模団体の場合、都道府県が広域連携・共同処理を支援することが考えられるでしょう。加えて、DXの効果にも期待しています。
システムの標準化により、団体ごとに異なっていた業務フローがある程度統一され、職員の負担軽減や業務の効率化が図られ、属人化も解消されます。これと並行して税務手続きのデジタル完結の推進も欠かせません。
これらに取り組むことで、限られた人数でも、経験やスキルに関わらずミスのない課税・徴収事務が可能となります。このことから、DXの推進は、納税者へのコンプライアンスの確保にもつながるのではないでしょうか。
説明責任がますます重要に
──今後の展望を教えてください。
寺﨑 やはり地方税の税務手続きのさらなる簡素化への要望は大きいですね。納税者の負担軽減のためにも、デジタル化の推進や手続きの統一など税の簡素化・一元化は引き続き検討すべき課題であると認識しています。ただ、税制を簡素化するばかりでは税収がなくなってしまうため、税源は確保しつつ、納税者に分かりやすい税としていくことがあるべき姿だと考えています。
また、eLTAXが社会インフラとして定着したことで、一段と高い安全性や信頼性の確保が求められます。その点ではセキュリティー意識の向上が重要でしょう。今後は地方税以外の公金収納への対応も予定され、扱う事務量が増えるほどシステム負荷が増大し、安定運用には適切な更新作業が必要で、その分コストもかかります。これらは地方税共同機構の役割ですが、国としても積極的に支援していく考えです。
加えて、申告・申請等、納付、通知など税務手続きのデジタル完結を一層推進するとともに、納税者や自治体が使いやすいようシステムの機能改善も図ります。この取り組みにゴールはありませんね。
──そうした中で、今後、自治体に期待することは何でしょうか。
寺﨑 地方税を賦課徴収することの意義を改めて意識していただきたいと思います。デジタル化により申告や納税における対面機会が減ると、納税者との関係が希薄化し、お互いの顔が見えにくくなる恐れもあります。
地方税は地方自治や地域社会を支える財政的基盤であり、地方自治の原点です。このことは常に心に留めておくべきでしょう。
地方税は地域社会の会費として住民から資金をお預かりし、身近な地域のために活用されているという点で、納税者にとって国税よりも見えやすい関係といえます。税の透明性を確保し、信頼関係を維持するためには、これまで以上に「なぜ、その税額になっているか」「自分たちが納めた税はどう使われているか」などについて丁寧に説明し、納得を得ることが大切です。
人口減少・少子高齢化などを背景に、自治体には対応すべき課題が山積しています。これらを解決していくためにも安定的な税源の確保が重要です。信頼される地方税制の確立に向けて、これからも皆さんと一緒に取り組んでいきたいと考えています。
掲載:『新風』2026年4月号