2024年7月号Vol.135
【特集 DX推進担当者座談会】どう進める? 「書かない窓口」──新たな価値提供へ、セルフ方式や事前申請も
栃木県宇都宮市 総合政策部デジタル政策課 課長補佐 福富隆史 氏
東京都清瀬市 経営政策部DX推進課DX推進係 係長 豊田永輔 氏
新潟県長岡市 DX推進部行政DX推進課 主任 武田竜大 氏
本誌編集委員/株式会社TKC自治体DX推進本部副本部長 篠崎 智
司会 株式会社TKC 大森明日香
窓口DXへの第一歩といえる、書かない窓口。
目指すのは“行政も住民ももっと便利に”なることだが、どう進めるか悩む市区町村も多い。
そこで、「TASKクラウド かんたん窓口システム」を活用して窓口改革へ挑む3市に、書かない窓口の効果や課題、今後の展望を語っていただく。
──本日は、書かない窓口を開始したばかりの3市にお集まりいただきました。取り組み状況を教えてください。
福富隆史 氏
栃木県宇都宮市
総合政策部デジタル政策課 課長補佐
福富 宇都宮市では、 行政のDX実現に向けた重点取組事項の一つに「スマート窓口の実現」を掲げています。これは、全ての市民がいつでも・どこでも・簡単に手続きが完結することを目指すもので、2022年1月に「宇都宮市電子申請共通システム」を導入し、全庁的な行政手続きのオンライン化を進めてきました。
また、窓口に来られる市民の手続きにかかる負担軽減のため、昨年12月からは「書かない窓口システム」を導入しました。現在、市民課など本庁6課の窓口で、職員が聞き取りを行いながら申請書を作成する〈対面型〉の利用に加えて、市民課と税制課では市民自身が操作するセルフ方式の〈記載台型〉を設置し、47手続きを対象にサービスを提供しています。さらに、今年4月からは17の地域行政機関でも記載台型の運用をスタートしました。
豊田 清瀬市でも、これまで行政手続きのオンライン化を進めてきました。しかし、現状では窓口に来なければならない手続きがあります。そうした方の利便性向上を図るため、昨年11月に住民異動に関する7課20手続きで書かない窓口を開始しました。市民課を軸に各課が連携しているため、市民は各課窓口に設置した端末に手続き案内票のQRコードをかざすことで、氏名や住所など同じ内容を繰り返し記入することなく申請書を作成できます。
また、書かない窓口と基幹系システムを連携することで、職員の業務効率の向上にも取り組んでいます。
武田 長岡市では、誰もが簡単・スムーズ・便利に手続きができるよう、今年2月から書かない窓口を開始しました。現在、本庁では転出・転入・転居届をはじめ、国民健康保険や福祉など36手続きを対象にサービスを提供しています。
市では12年から「窓口ワンストップサービス」に取り組んでおり、これまでも〈市民をたらい回しにしない市役所〉をコンセプトに、市民への説明・聞き取りを行い、手続きの洗い出しやワンストップ窓口を実施していました。それを書かない窓口としてデジタル化したイメージです。
推進ストーリーは〝三者三様〟
──サービス開始までの経緯や、利用効果などはいかがですか。
豊田永輔 氏
東京都清瀬市
経営政策部DX推進課DX推進係 係長
豊田 東京都市長会では、多摩地域における行政のデジタル化プロジェクトの活動を展開しており、23年度実証事業で窓口DXに取り組むことになりました。市では前年からワンスオンリー窓口のシステム導入検討部会で検討を進めていたこともあり、東京都市長会事業に参加する形でサービスの実施に踏み切りました。導入にあたっては、まず窓口業務のBPRを行い、これを踏まえて各課の申請書を見直しました。
実証事業の成果として、利用者アンケートの結果では、市民満足度は98%と高評価となりました。やはり、手書きの負担軽減を歓迎する声が多いようです。一方、職員の視点では全体としては業務削減効果があったものの、一部に課題が残る結果となりました。
具体的には、介護保険課では入力作業を自動化することで従来よりも19分の時間減となる一方で、市民課では後続の手続きにつなぐための市民への聞き取りを行ったことで、受付時間が増加しました。サービス開始前に、関係課が集まって市民課での入力項目の整理なども行いましたが、まだ期待した成果につながっていません。これについては、運用面も含めて改善を続ける考えです。
武田 長岡市では、市政のあらゆる分野でデジタル技術の導入による変革に取り組み、誰にでもやさしいデジタル技術が浸透した社会の実現を目指そうと、22年度に「DX推進部会」を設置しました。そこで最初に着目したのが書かない窓口です。市民に身近な窓口サービスをデジタル化することで、より多くの方に恩恵を感じてもらえると考えました。22年7月に「窓口デジタル化ワーキング」を発足し、関係課を集めて対象となる手続きや進め方などを議論しました。
タイトなスケジュールの中、従来のワンストップ方式をシステムへ落とし込むのに苦労しましたが、何とか36手続きから書かない窓口をスタートできました。昨年度はサービス開始から1カ月半で約400件の利用があり、今年4月には月400件弱と、利用件数はまだ多くありません。並行して業務フローの見直しを続けているため、今回の繁忙期には紙の申請書を中心としたことが一因といえます。
アンケートでは96%の市民が「満足」と回答しています。やはり、申請書に記入する必要がない点が評価されているようです。職員の視点では、窓口デジタル化が少しずつ浸透しているようで、先日実施した定例会では「慣れれば職員の負担軽減につながる」という意見が聞かれました。まだ「手書きの方が早い」という声はありますが、新しい環境に慣れる中で風向きも変わってくるだろうと期待しています。
福富 宇都宮市では、21年度に「スマート窓口推進チーム」を設置し、書かない窓口の検討を開始しました。まずは市民課を中心に検討を始め、1年ほどかけて徐々に福祉や税などの窓口各課をメンバーに加えながら、庁内横断の検討体制を構築していきました。
最初に取り組んだのが、各課の職員に窓口業務の現状や課題、困りごとを聞くことでした。ここで、「書かない窓口を導入したい」との意見が上がり、推進チームで運用形態や対象手続きなどを話し合いました。各窓口でどのように活用できるのか検討する中で、対面型と記載台型の二つの方式を導入することを決めました。
セルフ方式の記載台型を採用したのは、申請・受付にかかる職員の負担を軽減することと、少しでも窓口の混雑緩和につながればと考えたからです。
設置当初はなかなか利用されませんでしたが、3~4月の繁忙期に「書かない窓口操作支援員」を2名配置することで、存在を知ってもらうことから始めました。今年3月のデータを見ると、市民課では書かない窓口の利用が1,200件ほどあり、うち800件が記載台型で、1日平均20人ほどに利用されました。支援員には案内や操作支援のほか、記載台型を利用する市民の声も聞いてもらいました。この聞き取りで、運用面や機能面の改善策につながる意見も聞くことができたのは思わぬ効果でした。
市民ヒアリングの結果では90%近くが「便利」と回答しています。特に、高齢者と外国籍の市民からの評価が高く、「支援員が教えてくれるのであれば自分で記入するよりも楽だ」「これまでは外国語での記入が大変だった」といった声をいただいています。
理解と共感が、推進のカギ
武田竜大 氏
新潟県長岡市
DX推進部行政DX推進課 主任
篠崎 書かない窓口の導入では職員の意識改革も欠かせませんが、皆さんはどう取り組まれていますか。
武田 新しいシステムやサービスを導入する際には、負担をかける職員に「何のために取り組むのか」をきちんと理解してもらうことが大切ですね。
そこで、窓口デジタル化ワーキングで『窓口デジタル化ビジョン』を策定しました。これは、3年後の窓口サービスの将来像についてワーキングメンバーで意見を出し合い、①行かない市役所、②書かない窓口、③知りたいことがすぐに分かる情報発信、④効率的で働きやすい窓口業務の実現──の四つの視点でまとめたものです。これを活用して、組織全体でビジョンの共有・浸透を図り、職員の共感を得られるように努めました。
豊田 その点では、現場の視点が大切だと考えています。そのため、例えば何か設問項目を変更する際には、まず関係課同士で話し合い、システムの機能面や設定変更をDX推進課がサポートするようにしています。現場が〝自分ごと〟として捉えることでスムーズな運用につながるのではないでしょうか。導入初日こそ慣れない中で混乱もありましたが、書かない窓口については意外と早く浸透した印象があり、実際に使う中で自然な形で受け入れられつつあると見ています。
福冨 窓口の職員が理解し、納得しながら、ゆっくりでも確実に進めることが肝要ですね。標準化対応を控え慎重な意見もありましたが、1年ほどかけて「いまできることは何か」について議論を重ねました。
コロナ禍の影響もあって、庁内のデジタル化が一気に進んだことで、職員の意識はここ数年で大きく変わったと感じています。書かない窓口の導入前は、職員からネガティブな意見も聞かれましたが、導入から一定期間が経過し、最近では「書かない項目を増やしたい」「対象手続きが増やせるのでは」といった前向きな意見が出るなど、取り組みを進める中で新たな気付きも生まれていると感じています。
書かない窓口に限らず、DXは大きな潮流として避けられないテーマとなっています。組織的な意識統一や連携強化が欠かせませんが、そのためには幹部職員が危機感や必要性を認識し、改革に拍車をかけていくことも大切だと考えます。
効果の最大化へ〝次の一手〟
篠崎 かんたん窓口システムは、セルフ方式での利用も想定した商品です。対面型が主流の中、宇都宮市がセルフ方式を採用したのは興味深いですね。
豊田 私たちも職員の負担軽減策の一つとしてセルフ方式に注目しています。現在、清瀬市でもテスト導入を検討していますが、運用面で課題があり、まだ実現はしていません。
福冨 記載台型は、市民ができるだけ簡単に操作できるように〈マイナンバーカードなどから基本情報を読み取り、申請書に印字する〉という最小限の利用としています。そのため、申請書によっては記載する部分が残っていますが、今後は、市民の利用状況を見ながらセルフで入力する項目を増やしていきたいと考えています。
設置当初、市民の反応は「これは何だろう?」という感じが正直ありました。そこで市民が見てひと目で分かるよう、図書館にある蔵書検索機のような筐体に組み込むことも考えましたが、制作には費用や時間を要するため、まずは支援員を配置することにしました。
記載台型はセキュリティー面での配慮も必要です。端末の盗難防止に加えて、マイナンバーカードなどの置き忘れを防ぐ注意事項を貼り出すなど、かなり〝手作り〟でやっています。
武田 高齢者に好評なのは意外ですね。
福冨 書かない窓口は、高齢者など特に申請書の記入に苦労する方にとって便利なサービスといえます。ただ、支援員を配置していない地域行政機関では依然として窓口の利用が中心で、これについては今後の検討課題です。
記載台型は、住民票の写しや印鑑登録、戸籍の証明書発行申請などにも利用できますが、3月は住民異動届が最も多かったですね。また、証明書発行申請は本庁舎に設置するキオスク端末の利用を促していて、両者の使い分けを適切に案内する必要があります。
書かない窓口をはじめとして、窓口DXはシステムを導入するだけでは完結しません。市民の皆さんに安心して利用してもらうためには、まだまだ〝人による支援〟もセットで進めていくことが重要と考えています。その意味では、市民のニーズに合わせて対面型や記載台型、キオスク端末に振り分ける、あるいは転出届であればスマートフォンからマイナポータルでの申請を案内する──など、〝点〟ではなく〝線〟や〝面〟で考える必要があります。これにより、市民も職員もさらにデジタル化の恩恵を享受できるようになるのではないでしょうか。
豊田 繁忙期には「手書きの方が便利」という職員の意見がありますが、長岡市では何か対策をお考えですか。
武田 繁忙期にも市民ができるだけ〝待たない〟よう、書かない窓口の利用機会を増やすことを検討しています。一例が「スマート申請システム」を活用した事前申請です。
イメージしているのは来庁前の事前申請だけでなく、待ち時間を使って予め必要項目に入力・申請してもらうというものです。オンラインによる事前申請にはアカウント登録が必要で、これがボトルネックになるとも想定されますが、こうした仕組みをうまく活用することで、デジタルを利用できる市民にはより便利になるとともに、業務の効率化にもつながると考えています。
業務の効率化ではフロントとバックオフィスの連携がポイントになると考えていますが、清瀬市では基幹系システムとどう連携させているのですか。
豊田 転入届などでは異動情報を住基システムに自動連携していますが、関連手続きではRPAツールを活用してシステムへの入力作業を自動化しています。理想は全て自動連携されることですが、システム標準化を控え、本格的な連携は今後の課題ですね。
篠崎 フロントからバックオフィスまでの一体的なデジタル化は、『フロントヤード改革』でも言及されています。住民との接点から、職員の業務にいたる業務プロセス全体をデジタル技術で変革していく──これをTKCがどう支援できるのか、重要なテーマと考えています。
福冨 行政サービスは全ての市民を対象とするため、幅広いユーザーを想定した取り組みが欠かせません。その点、現状はまだ〝デジタルでもできる〟という選択肢を増やす段階で、デジタル完結という理想の状態にいかに近づけていけるかですね。
例えば、書かない窓口は庁舎の建て替えなどレイアウトを大きく変える時に導入するケースが多いですが、宇都宮市のように建て替えの予定がない自治体では現況のレイアウトの中で取り組まなければなりません。その場合、電源不足や配線など物理的な課題もあります。また、標準化対応を控え、窓口もそれに合わせたサービスのあり方に変えていく必要があります。これを起点として窓口のDXも本格化するでしょうし、前向きに取り組んでいきたいですね。
豊田 清瀬市は21年に新庁舎に移転しましたが、市民の価値観や環境の変化に合わせて今後もレイアウトなどを見直すことになるでしょう。その意味で標準化を控えた今は過渡期といえます。
武田 同感です。標準準拠システムが核となって、いろいろなシステムや業務が連携されると業務の効率化も格段に進むと期待しています。フロントとバックオフィスの連携は今後の重要課題であり、標準化後すぐに対応できるよう議論を深めていきたいと考えています。
最終ゴールは「行かない窓口」
──今後の計画を教えてください。
本誌編集委員 篠崎 智
豊田 書かない窓口の適用範囲の拡大を検討していきます。そのために、行政手続きのオンライン化も含めて〈成功体験の共有〉を図る考えです。特に、介護保険のように申請手続きが非常に煩雑な分野では、職員の負担軽減の面でも書かない窓口の活用効果が期待でき、今年度から他課での利用について検討を始めました。職員が効果を実感できる手続きを増やし、窓口デジタル化の拡充につなげていきたいですね。
武田 今後も『窓口デジタル化ビジョン』で掲げた四つの視点の実現に取り組みます。このうち書かない窓口では、手続きの種類を増やすとともに、事前申請などのサービスを拡充します。
また、効率的で働きやすい窓口業務の観点では、職員が使いたくなるような働きかけも大切で、成功体験の共有などを検討したいですね。
さらに、今後は標準システムとの連携を想定した業務フローの見直しが必須となります。とはいえ、われわれは窓口業務に詳しくないため、アイデアを求められても答えを持っていません。これについては、現場と一緒に新たな価値や体験をデザインしていければと考えています。
福富 スマート窓口の実現に向けて、27年度までに〈行政手続きのオンライン化数500手続き〉の目標達成を目指しています。書かない窓口では、今後、各課の横連携や手続き案内などを検討していく予定です。また、目前に控えたシステム標準化は、窓口サービスにとっても大きな転換点となるでしょう。まだ標準化の姿が見えない部分はありますが、行かない窓口と書かない窓口を両輪として、できることから一つずつ取り組みを進めます。
篠崎 デジタル化の動向として、今後は〈書かない窓口〉に替わり〈行かない窓口〉が主軸となるでしょう。その過程に、事前申請やセルフ窓口、リモート窓口があるのだと考えています。窓口DXは、小さな取り組みを一つずつ積み重ねていくしかありません。
自治体職員の皆さんは標準化や相次ぐ法制度改正など、やるべきことが山積みですが、それらの苦労は5年後、10年後に必ず実を結びます。それを支援するシステムの開発・提供、運用支援を通じて、TKCも皆さんと一緒に挑戦を続けていきます。本日はありがとうございました。
*小誌10月号では、3市の取り組み事例をさらに詳しくご紹介します。
撮影:中島淳一郎
掲載:『新風』2024年7月号