2020年7月号Vol.119

【デジタル・ガバメント ここがポイント!!】行政手続きのデジタル化で求められること

株式会社TKC 地方公共団体事業部 システム企画本部 部長 松下邦彦

 新型コロナウイルス感染症緊急経済対策の一環として特別定額給付金事業(以下、給付金)が実施され、自治体窓口へ出向かずに手続きができるように、郵送申請方式とオンライン申請方式が採用されました。本稿では、この給付金のオンライン申請の事例から、行政手続きのデジタル化で求められることを検討します。

給付金オンライン申請の概要

 給付金オンライン申請は、マイナポータル(ぴったりサービス)の仕組みを使って実現されました。ぴったりサービスは、子育てワンストップサービス等で利用されています。
 ぴったりサービスのオンライン申請は、申請に関わる機能だけを持っています。紙の申請書では、住民は申請書に必要な事項を記入して自治体がそれを受け取ります。それと同じように、ぴったりサービスでは住民が電子的な申請フォームに入力して申請し、申請データを自治体が受け取ります。給付金オンライン申請では、マイナンバーカードによるデジタル署名を申請データに付加します。申請データを受け取った後の自治体業務はぴったりサービスの対象範囲外であり、自治体では申請データを印刷して紙の申請書と同じように事務を実施することが一般的です。
 給付金オンライン申請では、自治体が個別に整備する給付金の管理システム(以下、給付金システム)に申請データを取り込んで活用できるように、申請者を識別する情報(利用者証明用電子証明書の発行番号、通称「シリアル番号」)が申請データに付加されました。この情報を利用すると、申請者を給付金システム内の世帯主と自動的に突合することが可能となります。

給付金オンライン申請で起きたこと

◯ 申請者側

 紙の申請書には、世帯主(申請・受給者)の氏名・住所や、世帯構成員の氏名を印刷して住民に送付しました。ぴったりサービスではこうした情報を取得できず、申請フォームに表示できません。そのため、申請者が入力する項目が紙の申請書より多くなります。
 世帯主の氏名・住所は手作業で入力するか、マイナンバーカードに暗証番号を入力して取得します。さらに、給付対象者の氏名を入力します。紙の申請書では印刷された給付対象者のうち除外する人にチェックを付けるだけですが、オンライン申請では対象者の氏名を全員分入力します。
 文字情報を手で入力するのは手間が多いだけでなく、誤入力する可能性もあります。金融機関名や支店名等も当初は文字情報を入力していましたが、金融機関名を検索して候補の中から選択する機能が運用開始後に追加されました。自治体が保持する情報が使えれば、世帯主が水道や児童手当等の口座情報を自治体に登録していることを申請フォームで提示できました。
 手続きにおいて自治体が保持する情報の入力を不要にするのは、デジタル手続法が定めるデジタル化3原則の一つ〈ワンスオンリー原則〉に従うことでもあります。

◯ 自治体側

 紙の申請書ではまず封書で届いた申請書を開封します。これに相当する作業が、ぴったりサービスからの申請データ・ダウンロードや圧縮ファイルの解凍です。紙ベースで業務を行うためには印刷も必要です。
 オンライン申請は紙の申請書よりも確認作業が多くなります。
 まず、申請者の氏名がデジタル署名の電子証明書に含まれている氏名と一致していることを確認しなければなりません。これについては、給付金オンライン申請側に確認機能が追加されました。次に、申請者が住民基本台帳上の世帯主であること、また、給付対象者が世帯構成員であるかを確認しなければなりません。申請者が申請内容を手作業で入力しているため、誤りが多いことが問題となっています。
 オンライン申請のデータは手作業で確認するのではなく、給付金システムに取り込んで自動的にチェックすることが望まれます。申請データには申請者を識別するシリアル番号が付加されているので、住民基本台帳の情報によって世帯主の確認は自動化できます。ところが、給付対象者の確認は完全には自動化できません。なぜなら、給付対象者は氏名の文字情報であり、漢字を含めて誤入力が多いためです。システムで自動的に確認するには、自由記述の文字情報ではなく、宛名番号のようなコード情報でなければなりません。
 以上のように、申請者の入力の手間を減らすためにも、また自治体側の処理を自動化するためにも、オンライン申請と給付金システムとの連携が不可欠であることは明らかです。この連携は、オンライン申請から給付金システムへ申請データを転送するだけでなく、給付金システムからオンライン申請へ世帯構成員情報等を転送する双方向の連携とする必要があります。

オンライン申請から
行政手続きのデジタル化へ

 オンライン申請は、それだけでは、紙の申請書をオンラインに置き換えるだけです。住民の利便性向上と自治体の事務効率向上を同時に実現するには、手続き全体をデジタル化することが必要です。そのためにはオンライン申請と業務システムで双方向のデータ連携が可能となるように、両者を一体的に整備することが求められます。これは現時点ではなかなか困難です。
 まず、国が整備するには、自治体が保持する情報を取得する仕組みが必要です。マイナポータルでは自治体の中間サーバーにある特定個人情報を取得できますが、特定個人情報や情報提供ネットワークシステムの制約から、今回の給付金オンライン申請で必要とする世帯構成員の情報は取得できません。
 逆に自治体が整備するには、業務システムの情報をインターネット側のオンライン申請システムに提供する必要があります。自治体では情報セキュリティ対策としてネットワーク3層分離の原則が求められており、番号利用事務系ネットワークにある基幹システムの情報をインターネット系のシステムに提供することはできません。
 今回の給付金の事務については社会的に大きな話題となり、給付口座の登録を可能とする法改正が議論されています。一方でまたオンライン申請も注目されました。まずは、オンライン申請が基幹システムと連携できなくても、利用者が迷わず・間違わず申請できるように申請フォームのUX(ユーザ・エクスペリエンス)を向上する必要があります。そして長期的には、国や自治体の仕組みが整えられ、行政手続きのデジタル化が確実に進んでいくことを切に期待します。

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