2020年4月号Vol.118

【インタビュー】マイナポータルがひらくデジタル行政の世界

内閣官房 番号制度推進室
     情報通信技術(IT)総合戦略室
内閣府 大臣官房番号制度担当室
内閣参事官 笹野 健氏
インタビュアー 本誌編集人 湯澤正夫

2017年11月に本格運用をスタートしたマイナポータル。子育てや介護保険に関する手続きのワンストップサービスなど、次々とサービスを拡大してきた。
そして今、マイナポータルは新たな局面を迎えようとしている。今後の展望について、内閣官房の笹野 健内閣参事官に聞く。

笹野 健(ささの・たけし)

笹野 健(ささの・たけし)
1995(平成7)年、総務省(旧自治省)に入省。国土庁、総務省(自治税務局、公務員部、消防庁)に勤務。宮城県庁、新潟県庁のほか、東日本大震災発災直後から約5年間、宮城県石巻市役所に赴任。総務省給与能率推進室長を経て、2018年より現職。

──マイナポータルの概要について、お聞かせください。

笹野 マイナポータルは、政府が運営する〈国民一人ひとりのポータルサイト〉です。マイナンバー法に「情報提供等記録開示システム」と記されているように、当初は、行政機関などが保有する自分の特定個人情報を、どの機関がどのような行政事務のために照会・提供したのか、その履歴を確認できる仕組みとしてスタートしました。
 最近では、〈厳格な本人認証〉ができるマイナンバーカードでログインする──というマイナポータルの特性を生かして、申請先へ正しい情報を安全・迅速に提供できる“プラットフォーム”へと、その役割は大きく変化しています。
 現在、マイナポータルでは、「サービス検索・電子申請機能(ぴったりサービス)」や「お知らせ」「もっとつながる(外部サイト連携)」などを提供しています。中でも、ぴったりサービスは子育てや介護保険に関する手続きをはじめ、さまざまな申請・届出をオンライン上で行えます。
 利用者数はまだ十分とはいえませんが、ぴったりサービスを有効に活用する自治体は着々と増えています。

利用拡大へ環境整備も着々

──『デジタル・ガバメント実行計画』(19年12月閣議決定)でも、デジタル・ガバメントの基盤としてマイナポータルの活用拡大を打ち出しています。市区町村でも、いよいよ行政手続きのオンライン化への取り組みが本格的に動き出しそうですね。

笹野 活用拡大には、「API提供の拡充」と「職員の負担軽減」の二つのポイントがあると考えています。
 まず、マイナポータルのAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)提供とは、外部のWebサービスからマイナポータルにアクセスしてその機能を活用できるように、必要な仕様などを作成し、一定の要件の下で公開することです。行政や民間事業者が提供するさまざまなWebサービスと連携できるよう、各種APIの開発・提供へ取り組みます。
 4月1日現在、〈サービス検索〉〈勤労証明書取得〉〈自己情報取得〉〈法人設立手続申請〉の四つのAPIを提供しています。このうち自己情報取得APIは、マイナンバーカードによる本人確認と本人同意を前提として、行政機関等が保有する特定個人情報(自己情報)を、本人が閲覧する他のWebサービスが、マイナポータルを介して本人から取得できるようにするものです。行政や民間事業者は、このAPIを活用してマイナポータルと連携することで、自身のサービス利用者の自己情報を、利用者の負担をかけずに取得することが可能となります。
 この場合のマイナポータルは、いわば他のWebサービスを支える“黒子”です。これからは利用者が意識することなく、子育てや健康管理のアプリケーション、企業の会計システムなどの裏側で、マイナポータルの便利な機能が活用されていくのが理想ですね。
 なお、20年度には、〈お知らせ情報取得〉〈民間送達サービス情報取得〉〈電子申請〉〈社会保険・税手続申請〉などのAPIの提供も計画しています。

──20年10月から開始予定の年末調整手続きの簡便化も、マイナポータルが連携すると伺いました。

笹野 現状の年末調整は、書類へ扶養控除の対象や保険料の金額などを記入し、生命保険料等の支払いを証明する控除証明書を添付して、勤務先の給与担当部署へ提出し、給与担当部署ではそれをチェックして申告書を作成する──など、多くの手間がかかっています。加えて事業者では、従業員が提出した膨大な書類を7年間保管しなければなりません。
 これが電子化されると、①保険会社や金融機関は控除証明書や年末残高証明書などの電子データをマイナポータルへ保存する、②利用者はマイナポータル経由で各種証明書をダウンロードし、専用システムへ取り込んで年末調整書類を作成し、提出する──という具合に、一連の作業がデジタルで完結します。これに伴い、国税庁では「年末調整控除申告書作成ソフトウエア」を提供する予定と伺っています。
 これにより、保険会社や金融機関などでは控除証明書の送付にかかる作業が不要となり、事業者・従業員にとっても申告書作成や書類保管にかかる手間の軽減につながります。

──われわれの身近な世界でも〈デジタル化3原則〉が進んできているということですね。

笹野 そうですね。マイナポータルで提供する機能を民間事業者等にもAPIとして提供することで、自己情報や検索機能を活用した新サービスの創出につながることが期待されます。そのため、APIの仕様は広く公開します。また、利用者が安心してサービスを利用できるよう、サービス接続事業者を認証する制度なども検討しています。

本誌編集人 湯澤正夫

本誌編集人 湯澤正夫

「職員の負担軽減」も重点課題に

──第二の「職員の負担軽減」についてはいかがでしょうか。

笹野 行政サービスのデジタル化というと〈住民の利便性〉に目が向きがちですが、それと同じぐらい〈職員の負担軽減〉も重要だと考えています。
 この点については、『デジタル・ガバメント実行計画』でも、〈行政サービスの利用者と行政機関間のフロント部分だけでなく、行政機関内のバックオフィスも含めたプロセスの再設計〉により、職員も含めた利用者中心の行政サービス改革を推進するとしています。ここでいう、バックオフィスの“業務改革”こそが職員の負担軽減の要といえ、取り組みの強化を図ります。
 それには、やはり行政のあらゆるサービスが“最初から最後まで”デジタルで完結される〈行政サービスの100%デジタル化〉の推進が欠かせません。

──おっしゃるとおりですね。

笹野 一例として、内閣府の子ども・子育て本部児童手当管理室と連携した、〈児童手当の現況届〉のオンライン化の推進を挙げます。これは、実行計画の資料5「地方公共団体が優先的にオンライン化を推進すべき手続」にも掲げられた重点テーマの一つです。
 児童手当の現況届は受給者数が多く、市区町村でも受付・審査・認定・支給などの事務に大きな職員負担がかかっています。今年6月から始まる日本年金機構との情報連携により、児童手当受給資格者の年金情報が確認できるようになるため、健康保険証の写し等の確認作業が原則不要となります。
 これに加えて、今後、庁内のデータ連携環境を整備し、住民から届いた電子データを基幹業務システムへそのまま取り込めるようにすることができれば、さらなる業務効率化に向けた好循環も生まれるのではないかと考えています。

──昨今、記録的豪雨が頻発するなど全国各地で自然災害の脅威が高まっています。そうしたことを背景に、ぴったりサービスを被災者支援に利用する自治体も登場してきました。

笹野 昨年の台風19号では実に多くの自治体が被災しましたが、この時、福島県内の団体がオンラインで罹(り)災証明書の発行申請を受け付けました。全体の申請件数に占める割合は10~20%程度だったものの、電子データで受け付けた効果を実感でき、現場の職員からも好評だったという話を伺いました。
 私自身、東日本大震災直後に被災自治体の一つ石巻市役所で勤務し、被災者の生活再建支援に携わる機会を得ました。極限状態の中での住民支援業務の苦労は想像を絶するもので、情報を正確に受け取り、事務処理をスムーズに行うこと自体が極めて困難でした。
 そもそも住民は避難生活を余儀なくされ、容易に窓口へ出向くことができません。また、昼夜を分かたず危機対応に奔走する職員は、気力・体力ともに限界に達します。
 全国から応援に駆けつけた他団体の職員も、住民窓口で懸命に対応してくれますが、他団体の職員は地元の地理などに精通しているわけではなく、プロパーの職員並みに事務処理ができるわけではありません。
 「災害直後にデジタルなんて無用」というご意見は少なからず拝聴します。ただ、私は自らの自治体だけでは対応できないような大規模災害の発生時ほど、「デジタルにより業務を標準化・効率化する」ことが初動対応の巧拙を左右するのではないかと考えます。
 先ほど述べた福島県内の団体のように、手元のスマートフォン等から罹災証明書の発行や仮設住宅の入居などのオンライン申請ができれば、被災者はまず申請自体をスムーズに済ませることができます。そうしたことが、少しでも早い被災者の生活支援につながることでしょう。
 そのためにも「被災者支援ワンストップサービス」が、より多くの自治体で利用されるようになることを切に願っています。

地方公共団体が優先的にオンライン化を推進すべき手続き

2020年を業務効率化元年に

──マイナポータルの利用拡大に向け、市区町村に対して期待することは何でしょうか。

笹野 最も期待することは、行政手続きのオンライン化の推進です。
 ぴったりサービス以外にも、ベンダー各社が提供する汎用電子申請システムを利用することができます。汎用電子申請システムを共同利用する場合には、総務省において特別交付税措置を講じられると伺っています。この機に、ぜひ積極的に進めていただきたいですね。
 また、せっかくのオンライン申請も利用されなければ意味がありません。その点では、ぴったりサービスのQRコードをホームページや広報誌でアピールすることも大切です。
 〝紙〟と〝デジタル〟が混在する状況は、もうしばらく続くと思いますが、デジタルネイティブ世代の職員が多くを占めるようになる前に、自治体も従来の〈対面&紙前提〉から〈デジタル前提〉へと転換する必要があると考えています。
 業務改革は“現在”の職員のためだけに行うのではありません。スマート自治体を担う“未来”の職員に対する私たちの責務ではないでしょうか。その意味でも、2020年が業務効率化“元年”となるよう、努力してまいります。

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