2020年4月号Vol.118

【デジタル・ガバメント ここがポイント!!】四半期世紀前に構想された未来の自治体窓口像

株式会社TKC 地方公共団体事業部 システム企画本部 部長 松下邦彦

 1994年といえばWindows95の発売前年で、インターネットプロバイダーサービスがやっと始まった年です。携帯電話は普及しておらず、スマートフォンは影も形もありません。そんな時期にICTによって自治体窓口がどのように変わるのかを予想した論文(*)があります。ここで描かれた未来像がどこまで実現できているのかを確かめてみましょう。

 執筆者の一人である後藤省二氏は、三鷹市の福祉部門や情報部門に勤務された後、地域情報化研究所を設立するとともに、現在、地方公共団体情報システム機構の非常勤理事を務められています。氏は、執筆の背景について「当時、職員有志で市役所の未来像を検討し、さまざまな場で発表していたので、未来像はしっかりとでき上がっていた」と振り返ります。
 論文では、市役所を訪れた住民が未来にタイムスリップし、未来の窓口で手続きする様を描いています。未来の窓口ではフラットディスプレイ、フル動画映像、広帯域のデジタル通信網、市民カード、エキスパートシステムといったICTが活用されています。
 広帯域のデジタル通信網はB-ISDNではなくインターネットとして実現され、市民カードは全国共通のマイナンバーカードになり、エキスパートシステムが主流だった人工知能(AI)は機械学習で花開きました。こうした多少の違いに加え、「スマートフォンというICTデバイスを多くの人が常に携帯するようになったのは、想定外」(後藤氏)だったものの、大筋では予想が現実のものになっています。

発展途上の窓口システム

 では、未来の自治体窓口はどのようになると予想されていたのでしょうか。
 まず、すべての手続きが本庁・支所を問わずどこでも受付可能となり、必要に応じて専門知識を備えた職員がテレビ電話で応対しています。この方式は一部の自治体で試行されているものの、未だ広く普及するには至っていません。後藤氏は「手続きを始めるときにコールするのではなく、担当職員の姿を常に映しておくなど、運用の工夫が必要でしょう」と語ります。
 次に、来庁した住民への応対では、職員が端末装置を操作して一人一人のニーズに応じて必要なサービスを案内する様が描かれています。これは、十数年前から〈総合窓口システム〉として実現されており、最近ではタッチパネルを操作する〈手続き案内システム〉が登場しています。とはいえ、必要となる手続きを判定するために住民に質問して回答を求める問診方式が主流であり、基幹系システムとの連携は十分ではありません。基幹系システムに格納されている世帯、所得、資格といった情報を活用すれば、大半の問診は不要となり案内の精度も高まります。「申請から認定、サービス開始までの時間短縮も重要な視点」(後藤氏)です。
 また、申請書の作成では、住民が手で記入しなくても必要な事項が記入された申請書が印刷されています。現時点で、複数手続きの申請書をまとめて印刷するシステムは登場していますが、ここでも基幹系システムとの連携は不十分であり、氏名・住所等を端末に入力するか、もしくはマイナンバーカードから読み取って申請書に印刷するレベルにとどまっています。
 さらに、申請書の提出では添付書類が不要で、自宅からの申請も可能となっています。添付書類の省略はマイナンバー制度によってすでに実現されました。オンライン申請は、施設予約や図書館予約は普及しているものの、子育てや介護といった主要な手続きについてはまさに導入が始まろうとしています。
 94年に予想された自治体窓口の未来の姿は、20年現在で「実現されつつあるものの、まだまだ発展途上」(後藤氏)という状況です。

未来の窓口像の先にあるもの

 論文に描かれた未来像は、明確な理念に基づいて構想されています。それは〈本庁・支所ではなく分散・並立的なネットワーク型組織〉とすることや、〈市民生活のコーディネーターとしての自治体という新しい位置付けの下でのみ、こうした新しい窓口は機能する〉といったものです。
 この理念を追求すると、論文に描かれた窓口像も完成図ではなく、その先にあるものは〈窓口そのものの消滅〉とされています。ハードとしての窓口が消滅して住民は必要とすることを自宅で解決できるようになるとともに、ソフトとしての窓口が住民との応対という意味で残ること。これが窓口行政の未来像の、さらにその先にあるものなのです。論文は「窓口──〈将来における窓口行政のあり方〉をとおして問われているのは、地方自治と市町村役場、そして職員のあり方である」という文章で締めくくられています。
 四半世紀を経ても後藤氏の考えは変わっていません。今回のインタビューでも次のように述べていました。
 「窓口業務で重要なのは、分かりやすく便利であることはもちろん、市民と向き合って市民が抱える問題解決を図ること。時代が変わればいろいろなことが変わります。住民をサポートする仕組みを考え続ける必要があります」
 「窓口業務改革は、職員の作業を減らすことにもなります。これにより職員が市民に向き合う時間を増やせます」
 「自治体にはまだまだやれることがたくさんあります。国→都道府県→市町村というトップダウンだけでなく、実務を知る市町村からも提案・提言することができます」
 「市民が感じる痛みを自分の痛みとして共感できることがとても大切です。私はICT部門や窓口部門と同様に長い期間を福祉部門で勤務し、また自分自身も車いす生活を送ってきました。福祉は英語でwelfare(=good living)といいますが、目指すべきものは市民のwell being──すなわち幸福なのです」

◇   ◇   ◇

 実は、論文で設定された未来は2010年でした。すでに10年が経過して、まだ自治体窓口の未来像は発展途上にあります。自治体がこの未来像を実現し、さらにその先に向かうこと、これに貢献するサービスを提供することがTKCの務めである──と、論文と後藤氏の話から再認識しました。

*「将来における窓口行政のあり方 二〇一〇年、未来への旅──その時、M市役所は」(1994年 日本加除出版『住民行政の窓増刊号21世紀の市町村行政』所収)
●論文執筆者(敬称略/役職は掲載時)
後藤省二(三鷹市企画部情報化対策室主査)、小林真理子(同健康福祉部高齢化対策室主事)、髙橋信幸(同健康福祉部高齢化対策室主査)、鈴木範子(同企画部企画調整室主事)

※掲載の内容、および当社製品の機能、サービス内容などは、取材当時のものです。

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