2020年4月号Vol.118

【ユーザー事例2】公共施設マネジメントへ公会計情報をフル活用

公会計システム > 福島県田村市

総務部財政課財政係長 鹿又 淳 氏 / 財政課財政管財係 主査 大山義友 氏

住所
福島県田村市船引町船引字畑添76番地2
電話
0247-81-2111
面積
458.33平方キロメートル
人口
35,753人(2020年2月1日現在)
福島県田村市

──日々仕訳方式を導入して3年目を迎えました。

鹿又 統一的な会計基準への対応では、〈仕訳時における職員の負担軽減〉と〈財務書類の作成業務の効率化〉が課題と考えていました。特に田村市では市町村合併に伴い、旧5町村が整備してきた471の公共施設を保有しています。その半数以上が建設後30年以上経過したもので、その維持更新費用が今後の財政運営や行政サービスに大きく影響するのも確実です。これを回避するには、中長期の視点による計画的・戦略的な公共施設の再編成・管理へ取り組む必要があったのです。
 そこで、財務書類の作成で職員負担が少ない日々仕訳方式に対応し、かつ資産更新にかかる財務情報の集計やセグメント分析(施設別・事業別B/S、P/L)が可能な、TKCシステムを採用しました。
 予算科目の設定段階では、特に施設ごとに経費を細分化するよう留意しました。これにより、以前は〈光熱費〉という大枠で把握していたものを、細々節のレベルで電気料や水道料などと細かく抽出できるようになりました。

施設量や管理費用の適正化に期待

鹿又 淳 係長

鹿又 淳 係長

──施設の適正管理への財務情報の活用は、他団体でも関心が高い分野です。

鹿又 田村市では、2017年3月に『田村市公共施設等総合管理計画』を策定し、①施設量の適正化②既存施設の有効活用③効率的な管理・運営と市民ニーズに対応したサービスの提供、の三つの視点を重視した取り組みを進めています。こうした公共施設等のマネジメントを推進する上では、規模の縮小や統廃合、外部化などの検討が伴うため、受益者である市民の理解が必要です。その意思決定では財務データが非常に重要な判断材料となります。

大山 それには公会計情報を活用して、資産・負債といったストック情報(ある一時点の財政状態)の見える化や、事業別・施設別のフルコストで見た財務分析が有用と考えています。
 特に施設の適量化という点では現状、市民1人当たりの公共施設の延べ床面積は7・83平方メートルと全国平均(3・42平方メートル)を大幅に上回っています。そのため施設ごとの行政コスト分析を実施し、主要施設については「施設白書」を作成する計画です。これに向けて、施設ごとの「固定資産台帳」「財務データ(人件費・維持保全費・使用料など)」「非財務データ(劣化度・地理など)」を整理しました。今後はこれらの情報に基づき、施設の統廃合・更新計画の策定や受益者負担金の適正化などの検討を進めます。
 また、予防保全や長寿命化を図るには、ライフサイクルコストの視点も欠かせません。昨今、施設の付帯設備の老朽化に伴う予定外の修繕が増えていますが、大規模修繕になるほど費用も膨大となるため計画的な修繕・改良により財政支出の縮減、平準化を図ることが肝要です。つまり〈事後保全〉から〈予防保全〉への転換ですね。そのため、付帯設備も含めたライフサイクルコストの試算により、より精緻な情報を把握したいと考えています。

職員の意識改革の相乗効果も

大山義友 主査

大山義友 主査

──今後の計画はいかがでしょうか。

鹿又 実は、これまで一部施設については予算との連動をしていませんでした。システム上で、集会所のような小規模施設まで予算を細分化すると、逆に全体像を把握しづらくなると考えたためです。そこで複数の小規模施設を管理する事業については、経費を伝票単位で各施設に配分できるよう機能強化を要望していたところ、このほどシステム対応が決まりました。これにより事業は細分化せずに施設の共通経費を正しく集計でき、20年度からは「個別施設計画」の策定も予定しています。

大山 固定資産台帳の精緻化も進めています。その前提として、固定資産台帳の作成漏れや支出伝票と資産台帳の金額不一致を未然に防ぐため、伝票を入力するタイミングで台帳(公有財産台帳・備品台帳含む)も同時に作成するよう業務フローを変更しました。
 とはいえ、資産登録にかかる伝票の確認、あるいは仮勘定から本勘定への振り替え時期・作業など実務面での課題はまだ残っています。さらなる業務効率化も必要でしょう。また、固定資産台帳にはさまざまな情報を登録でき、例えば、将来の修繕に備えて付帯設備の事業者情報などを記録しておけば便利なのですが、まだ完全とはいえません。これらの整備も今後の課題です。
 加えて、先述の〈予防保全〉では、職員が“自分事”として施設等の品質保持や機能改善へ取り組むことが大切だと思います。財務情報の見える化により、そうした職員の意識改革にもつなげていきたいですね。

鹿又 施設別・事業別のセグメント分析も進める予定で、それに向けた予算科目の見直しも検討しています。ただ、セグメント分析はあまり細かい単位で作成しても意味がありません。「施設別財務書類」や「事務事業別財務書類」を作成し、実施計画や事務事業評価に応じた単位での実施を考えます。
 行財政運営上の課題は山積みです。昨年、田村市は台風19号により甚大な被害を受けましたが、そうした自然災害のリスクに備え、市民の生命・財産を守る防災・減災への取り組みも喫緊の課題です。しかも従来のように5年、10年という中期計画ではなく、さらに長期的な視点で考えなければなりません。将来にわたり〈持続可能なまちづくり〉を実現するために、これからも公会計を有効に活用していきたいと考えています。

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