実践事例
湯川会計事務所 湯川直樹会員(TKC南近畿会)
メイン行・信用保証協会等との協働で
金融支援をまとめる
支援先企業の概要
業 種: | 各種工具卸業 |
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年 商: | 約3億円 |
従業員数: | 11名 |
借 入: | 地銀(保証協会つき)と政府系金融機関から約1億8,000万円 |
経営状況: | 毎年利益は計上していたが、個人事業者でB/Sをずっと作成していなかったため、いつの間にか借入金が膨らみ資金繰りが苦しくなっていた。事業承継を視野に入れ、借入金を減らすことを目標に、当事業を利用して経営改善計画を策定した。 |
事務所で5件の目標を達成、上積み狙う
── 事務所では「経営改善計画策定支援事業」にどのように取り組まれていますか。
湯川 7000プロジェクトの活動がスタートする前は私が2件取り組んでいました。プロジェクトの開始後は巡回監査を担当する3名が1人1件として事務所で合計5件の実践を目標にしていましたが、既に利用申請書は5件提出して受理を受けており、もう数件上積みを検討しているところです。
── 初めて支援した案件は、どのような経緯で取り組んだのでしょうか。
湯川 ちょうど経営改善計画策定支援事業がスタートするころで、「業況の悪い企業に役立ちそうな事業だな」ということが頭の中に入っていました。地域会の活動として参加した、提携金融機関主催による融資先企業との個別相談会で担当した企業に当事業を利用しました。
2件目に取り組むことを検討していたころに7000プロジェクトの話も出てきて、地域会の中小企業支援委員長として、率先して実践しようと考えました。そこで先ほどの“事務所で5件”という目標を立てたのです。
── 支援対象先はどのように選定したのでしょうか。
湯川 私が選定した際は、まだProFITに候補先がリストアップされる機能がありませんでした。うちの事務所では、以前から簡易キャッシュフローと借入金のバランスをチェックするフォーマットを用意して、決算時に担当者から報告させるようにしていましたので、その報告資料を活用しました。そこから簡易キャッシュフローが借入金年間返済額を下回る関与先をピックアップし、借入金残高や取引金融機関などをチェックして、優先順位を決めました。
事業承継対策をきっかけに支援
── 具体的な支援内容を紹介していただけますか。
湯川 水回りの配管やポンプ、それに付随して現場で使う工具関係などさまざまなものを卸している個人事業者を支援しました。関与したのは平成25年からで、年商が3億円強、借入は1億8,000万円ほどありました。それまでは別の税理士に確定申告だけ頼んでいたそうですが、事業主が70歳を超えて、事業承継も考えて法人成りをしたいということで当事務所にご依頼いただきました。
関与に当たっては、月次で関与することにしましたが、個人事業者なので関与前の申告書にはB/Sが付いていませんでした。そこでいろいろと資料を見てヒアリングしながらB/Sの残高を確定していく中で、業況を改善しないと法人成りや事業承継の話どころではない、ということが見えてきました。
P/L上は所得が出ていましたが、資金繰りは厳しく、運転資金の借入を繰り返している状態でした。借入金の残高はずっと減っていなかったと思われます。
そういうことが分かったので、「とにかく経営改善して借入金を減らしていく計画を立てましょう」と社長に話して、取り組んだという経緯です。「計画を作って借入金を減らさないと息子さんも大変ですから、息子さんのためにもそうしましょう」ということも伝えました。
── 社長は自社の状況をきちんと把握できていなかったということでしょうか。
湯川 もちろん社長は資金繰りが苦しいという実感をお持ちで、借入金が多いことも把握されていました。現場一筋の方ですから「どうにかしないといけない」という意識はあっても、具体的な対策が浮かばなかったので、ずっと先延ばしになってきたのではないかと思います。
── B/Sを確定させて実態をお伝えしたことで、社長も本気になったということですね。
湯川 そうだと思います。また、社長が当事業の利用に踏み込んだ最終的なきっかけとしては、「次に融資をするとしても経営計画で先行きを示してもらわないといけません」と金融機関さんと信用保証協会さんから言われたことがありました。私からも「ここで経営計画をきちんと作っておかないと、金融機関さんとしても今後支援しづらいですよ」と社長にお伝えしました。そして「こういう制度があるから、私もお手伝いするので取り組みましょう」という話になったのです。
金融機関調整は保証協会等に相談
── 具体的な改善の打ち手はどのような内容でしたか。
湯川 経費は削減されていて、無駄遣いもしていませんでした。そのため、いかに売り上げを確保するかということと利益率を上げるかという2点を中心に社長と打合せをしました。
非常に古い事業所で、社長もたたき上げでずっとこの商売専門。社長と話をしていく中で、とにかく扱っている商品やその活用等のノウハウが豊富であると分かりました。特に「お客さんからこういうニーズがあったときにこういうアドバイスができる」といった知識は、どこにも負けないという自負を感じました。
それにプラスして、長年同じ商売をしていることで人脈が非常に広い。例えば部品を加工してから卸した方がいい場合には、すぐに対応してくれる加工業者がいるわけです。短納期が要求されるものにもいち早く対応でき、かつニーズに応じた加工をして納品できる。そういったノウハウについては同業他社に比べても相当な自信を持っているという印象でしたので、「この強みを伸ばす方法をしっかり考えましょう」と話しました。
単に物を卸すよりもちょっと手を加えて卸した方が当然利益率も高くなります。そういった売り上げを伸ばすことによって、利益率を上げていくという内容を改善計画の基本線にしました。
── そういった支援をするために何か特別に学んだことはありますか。
湯川 特別新しく学んだということはなく、今までにTKCの研修で学んできたことを活用しています。特にアクションプランを考える部分は、SWOT分析やバランス・スコアカードなどの考え方が特に役に立ちました。
この事業で新たに必要となるスキルは、金融機関調整ぐらいではないかと思います。私の場合、この部分は素人だと割り切って、メイン行や信用保証協会さんに相談して一緒に考えていただくようにしています。また、サブ行の担当者にも方向性を随時伝えるようにしていました。自分でもある程度のことは当然分かりますが、金融支援については金融機関間の公平性が問われるので、メイン行や保証協会の方とうまく協働するスタンスがベストだと思います。
── 当事業に取り組む上で独自に工夫している点はありますか。
湯川 複数の案件を並行して進めていくと、それぞれがどこまで進捗していたか分からなくなってくるので、利用申請書の提出から計画策定費用の補助金受領までを一連の流れとして、進捗を管理する表を作成して管理しています。また、モニタリングの状況も管理できるようにしています。
事務所のスキルアップとアピールのチャンス
── 今後の目標について一言お願いします。
湯川 まじめな事業者をしっかり支援したいと考えています。いままでも継続MASによる経営計画の策定はしてきましたが、当事業の枠組みで金融機関や信用保証協会などの第三者の眼に耐えうる経営計画にするためには、本当に関与先の経営に踏み込んだものにしなければなりません。それがいい経験になると思いますし、その経験を積み重ねることで事務所のスキルアップにつながっていくと思います。また、金融機関に対して当事務所のサポート力をアピールするチャンスと捉えて取り組んでいきたいと思います。
経営改善計画策定支援のポイント
- ●借入先が複数ある場合には、金融支援の公平性の観点が重視される。
- ●金融支援については、金融機関や信用保証協会に相談して助言を受ける。
- ●TKCの研修でいままでに学んだことを有効活用する。