実践事例
久保武徳税理士事務所 久保武徳会員(TKC九州会)
金融機関との交渉の矢面に立ち、
早期の対策で資金ショートを防ぐ
株式会社末永産業 代表取締役 末永利文氏
経理担当 永吉瑞貴氏
資金のショートは言うまでもなく企業にとって致命傷。それ以前のカゼ気味程度のうちに経営改善計画策定支援事業を利用することで、それを予防することができる。実際に当事業を利用して資金ショートを免れた末永産業の末永利文社長とそのご長女で経理を担当されている永吉瑞貴さん、顧問税理士の久保武徳会員に話を伺った。
前期業績悪化が資金繰り悪化に直結
経営改善計画策定の提案を受ける
── 最初に末永産業様の事業内容などを末永社長からご紹介いただけますか。
末永利文社長
末永 末永産業は土木一式、舗装・工事・解体を行っている会社です。今は公共事業がメインですが、公共事業は削減される傾向ですから、今後は、民間事業を受注できるように積極的に取り組んでいこうと思っています。
年商は約3億5千万円、従業員数は30人です。
── 経営改善計画策定支援事業を利用されたのは、どういう経緯があったのでしょう。
永吉 社長は営業に軸を置いており、娘である私が経理を担当しているのですが、この事業を利用することになったのは、私が久保先生にご相談したことがきっかけです。
── ご相談された内容は。
永吉 まず前期の業績が非常に悪かったのです。そうすると私どものような零細な中小企業では、資金繰りの悪化に直結してしまいます。そこで久保先生にご相談したところ、この事業をご紹介いただいて、短期的な資金繰り対策と長期のスパンにわたっての経営改善を同時並行でやっていこうとご提案いただきました。
── この事業を利用するという話を聞いて、社長はどういう印象を持たれましたか。
末永 こういうのは全く初めてだったものですから、銀行さんの印象が悪くなるのではないかという点が気になりました。だから経理から久保先生にもう一度確認させて、その点は大丈夫だという返事を聞いて、ようやく安心しました。
折り返し融資を繰り返すだけでは中小企業の存続は難しい
── 久保先生は相談を受けて経営改善計画策定支援事業の利用を提案されたということですが、7000プロジェクトにはどのような方針で臨まれたのですか。
久保武徳 会員(TKC九州会)
久保武徳税理士事務所
久保 これはどの会社も一緒でしょうが、利益が年間の返済金額を上回らないといけないのに、そうでないところが多いのですね。そうすると、受注や粗利の低下によって、すぐに資金がショートしてしまいます。金融機関も根本的な解決はせずに折り返し融資で対応している。でもその借り換えの時期に、お金を借りられなかった会社が潰れていっているのですね。やっぱり根本的な見直しをしていかない限りは、長く存続していくのは難しいと思います。そういう状況を打開するためにすごく良い制度だと思っていて、事務所全体で積極的に勧めるようにしてきました。
年間で2千万円、3千万円の返済をしている会社ってたくさんあるんですよ。でもこのご時世に2千万円の利益を出せるかというと、なかなか出せません。だから返済額を利益の出せる範囲に合わせてもらえれば、中小企業は存続できるのですね。それで本事業を積極的に使おうと取り組み始めました。
── 他の関与先でも実践されているのでしょうか。
久保 恥ずかしながら7000プロジェクトというものがあるのを知ったのがちょっと遅くて、平成26年の9月でした。その時に、こんな良い制度があるのだったら取り組もうと、半年間で10数件の利用申請を出しました。
基本的に、資金繰りの相談は今回に始まったことではなく、末永産業様だけに限らず多くありました。特に建設業にとって、4月、5月は工事が減って資金的に切れてくる時期になるので、それに合わせて支援していこうと考えていました。
経理と現場の情報をすり合わせる会議で
原価管理を徹底し、粗利率の改善を図る
── 末永産業様は業績悪化が資金繰りに影響したということでしたが、その業績悪化の主な要因はどういったことですか。
永吉瑞貴氏
永吉 これはうちが本当に改善しなければいけない点だったのですが、原価管理に緩かったのです。社員に原価管理が徹底されていない部分があって、目標粗利が確保できていませんでした。完工高は目標に達したのだけれども、粗利率が低かったために固定費を回していけない。その経営体質の問題点が業績に表れてしまったということだと思います。
── いまは打ち手として原価管理の改善に取り組んでいるということですか。
永吉 はい。久保先生からのアドバイスを受けて、DAIC2で経理側の資金管理・原価管理を徹底し、実際に施工している現場側できちんとした実行管理をするようにしています。
そこで、例えば経理で把握している外注費と現場から上がってきた外注費の金額が違うことがあります。そのときはなぜ差異が出ているのかを必ず究明するようにしています。何が食い違っているのか。経理と現場が相対することによって、これが抜けているとか、こういう費用も実際には発生しているといったことを確認しています。そういう中で実際の粗利を把握できるように取り組んでいます。
以前は簡単に言えば「ざっくり何%」という程度の意識でした。「まあ10%あればいいよね」みたいな。そうではなくて、実際はこれだけの固定費があるのだから、細かく、12.5%の粗利は確保してほしいとか、そういった話ができる体制をいま作っている過程です。
── 効果は出ていますか。
永吉 今は1カ月に1回の工程会議で、実行予算との差異が、何が原因でどれだけ生まれたのか、なぜこれだけ利益が出たのか、ということをみんなで話し合っています。利益が出たのはこういう原因でしたというプラスの要素をみんなで共有し、マイナスの要素はみんなで改善に取り組んでいきます。
以前はそういう会議すらもありませんでした。それをすることによって、1年間を見通した大きなスパンの数字と、月次の私たちの数字が合致してくる。月次巡回監査に来られる事務所の担当の方とお話しして、私がそれを飲み込める。というのが少しずつ具現化してきたなということを最近感じています。
この制度を知らずに苦しんでいる経営者を助けてほしい
── 末永社長と永吉様から当事業を利用した感想をお聞かせいただけますか。
永吉 先生からお話を聞くまではこういった事業があるということを全く知りませんでしたが、本当に助かりました。資金がショートしたとしても返済は止まりませんし、手形の不渡りも出せない。人件費も先延ばしにすることはできない。先生に相談したときは右にも左にも行けない状態だったのですね。これに取り組みましょうと先生が言ってくださって、金融機関との交渉の矢面に立って支援していただけなかったら、弊社がいま存続できていたかどうか分かりません。
私は本当に助かったから言わせていただきたいのですが、この制度を使えることすら知らずに四苦八苦している経営者や経理の方がたくさんいると思うんです。どうか税理士の皆さまにはそういう方々を助けていただきたいと思います。
末永 やっぱり手を差し伸べてくれる税理士さんを選ぶべきだと思いますね。私どもの会社も先生からこういう提案をいただいたので、心機一転してちょっと若返りを図って、スピードをもって対応していきたいと思います。
── 久保先生から今後の7000プロジェクトの取り組みについて抱負をお聞かせください。
久保 飯塚毅全国会初代会長が「職域防衛」ということを言われていました。まさしくわれわれ税理士が職域を広げていく、あるいは防衛する一番の場所なのかなと思っています。中小企業には資金の問題が必ずつきまといますので、認定支援機関としてそこを支援する業務にシフトしていきたいと思っています。
取り組んだ当初、「この制度は末期ガンではなくカゼ気味程度の会社が肺炎にならないように使うものだ」という理解が金融機関に浸透しておらず、かなりぶつかって大変でした。しばらくはトラブルもあって、金融機関さんに嫌われるかもしれませんが、それでも取り組んでいかなければならない業務だと思っています。これからも積極的に手掛けていきたいと思います。