実践事例
藤﨑税務会計事務所 藤﨑謙二会員(TKC東京中央会)
「返済できない=倒産」の思い込みから救い、
信頼関係が深まる!
支援先企業の概要
業 種: | デザイン事務所 |
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年 商: | 約3,000万円 |
従業員数: | 3名 |
借 入: | 信用金庫1庫(保証協会つき)から約1,500万円 |
経営状況: | 毎年大口の案件を受注している主要顧客2社の売上が高い割合を占めていた。その2社のうち、1社の注文が1年だけストップすることとなり、資金繰りが急激に悪化。1年間返済をストップした上で、経営改善計画策定支援事業を利用した。 |
返済猶予のサポートで信頼感が上がる
藤﨑謙二 会員(TKC東京中央会)
藤﨑税務会計事務所
東京都中央区銀座1-16-5 銀座三田ビル2階
職員数: | 3名 |
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関与先件数: | 85件(年一関与含) |
経営方針: | 「顧客第一主義」「パートナーとしての信頼・安心・安全」 |
写真は事務所全員。左から2人目が藤﨑謙二会員。右から2人目が事務長の比嘉孔祥氏
── 「経営改善計画策定支援事業」にはどのような方針で臨んでいますか。
藤﨑 「顧客第一主義」「パートナーとしての信頼・安心・安全」が当事務所の経営理念です。「お客さまの繁栄」のために行動するようにしていますので、「経営改善計画策定支援事業」についても同じ姿勢で取り組みました。
── 事例の企業の支援前の状況について教えてください。
藤﨑 社長を含め従業員3名のデザイン事務所で、創業して11年の会社です。創業時から関与しています。元々売上げは安定しており、大きく増えたり減ったりということがない会社でした。というのは、毎年定期的な大口の案件を受注している大手の取引先が2社あり、その売上げがかなりの比率を占めていたからです。
ところがある年、その内の1社が予算取りの問題で、1年だけ発注できないということになりました。要するにその1年は売上げが大きく減少してしまうので、一気に資金繰りが悪化してしまったということです。ただし、その取引先からも翌年は注文をもらえる話になっていたので、その1年間を乗り切れば、何とかなるという見通しはありました。
── 事務所としてまずはどのような支援をしたのでしょうか。
藤﨑 いまお話ししたような状況で借入の返済ができないということを社長から聞いて、「まずは借入先の金融機関に相談に行きましょう」と言いました。この関与先の借入先は一つの信用金庫だけでした。すぐにアポを取ってもらい、私も同行して相談し、金融円滑化法に基づき返済猶予(元金返済のストップ)を受けられることになりました。
── それに対する経営者の反応はどうでしたか。
藤﨑 社長は「返済できない=倒産」だと完全に思っていましたから、九死に一生を得たような気持ちだったのでしょうね、大変な感謝を受けました。
中小企業の経営者は、金融円滑化法のことをほとんど知りませんし、返済猶予を乱用してほしくないので、うちの事務所も本当に困っている関与先にしか金融円滑化法のことは案内していませんでした。この社長もまさか会計事務所が金融のことまでサポートしてくれるとは思っていなかったと言っていました。特に金融機関に同行したことについて、喜んでくれていました。
信用金庫も協力的な姿勢
── 経営改善計画策定支援事業を利用することになったきっかけは。
藤﨑 返済猶予を受けていたので、いずれにしても経営改善計画を作る必要がありました。今年の4月ごろに返済猶予の期限が来るため、この支援事業を利用してはどうかと信用金庫に打診したところ「当庫も認定支援機関ですから当庫から案内すべきでした。ありがとうございます」と言われ、すんなりOKをいただきました。
ただし、計画が白紙の状態では利用申請書にハンコは押せないとのことでしたので、利用申請の前に計画の骨子をまとめました。二本あった借入の内、一本は元金返済を再開し、もう一本は再リスケという内容を見せた上で同意いただき、利用申請書にハンコをもらいました。
── 経営者はどのようなプロセスで意思決定されたのですか。
藤﨑 完全に当事務所にお任せいただいた状態でした。返済猶予をサポートした段階で恩義を感じてくれていて、完全な信頼をいただけていたのだと思います。この事業のことを説明し、若干の費用負担が発生することも伝えましたが、特にネガティブな反応はありませんでした。
主要取引先への売上げ依存度を下げる
── 経営改善計画の策定はどのように進めましたか。
藤﨑 私が大きな方向性だけ決めて、具体的な作業は事務長(巡回監査担当者)の比嘉が行いました。
比嘉 社長に事務所へお越しいただき、社長からお聞きした考えや具体的な打ち手を継続MASで取りまとめました。
打ち手の主な内容は新規取引先の開拓です。それまでの主要取引先への依存度の高さが問題だということに気付いたので、それを改善するというのが基本的な考えです。デザイン事務所という仕事柄、小さな案件なら新規の取引先からの依頼もそれなりにあるのですが、単発で終わってしまうことが大半です。そうした取引先に継続的に発注いただけるように営業をかけていくという取り組みです。
信用金庫にも計画の内容を確認してもらい、「絶対に達成できる目標にしてほしい」というご指摘をいただきましたので、若干手直ししました。
── 一連の申請手続き等についてはスムーズにいきましたか。
比嘉 この制度を利用するのが初めてでしたので、少し手間取るところがありました。最初に利用申請書を作成して経営改善支援センターへ提出しに行ったときは、いろいろと不備を指摘されました。
一行取引だったこともあり、金融機関とのやりとりは比較的スムーズにできたと思います。信用保証協会とは直接のやりとりはありませんでした。
── 経営改善支援センターからはどのような指摘を受けたのですか。
比嘉 金額を税込にするか税抜きにするかとか、表現の細かい点をご指導いただきました。あちらで決めている書き方があるようで、それに沿うように修正した形です。最初は訪問して、あとはメールで3回ほどやりとりをしました。
経営改善支援センターの方は「提出する前にまず分からない点を聞いてほしい」ということを言っていました。初めて取り組まれる方は、経営改善支援センターに事前相談し、密に連絡を取った方がいいと思います。
経営者の本気度が上がった
── 当事業を利用した感想は。
藤﨑 もともと当事務所では金融支援や経営改善支援は当然業務だと捉えていましたし、関与先とのお付き合いは長く続けるものですから、スポットで高い料金をいただくことは考えていませんでした。当事業を利用することで補助金を含めて事務所にいくらかの収入はありますが、これも特に意識していません。関与先の負担が増える分、決算料を少し安くしたり、負担が増える分、職員にもインセンティブを付けて還元したりすることを考えています。
プラスがあったのは、やはり経営者が自社の経営をしっかり見直すことができたという点ですね。いままでも予算作成は支援していましたが、経営者の本気度が違いました。経営者の本当の気持ちが入った経営計画ができたと思います。
また、職員が経営者と経営についてじっくり話をできたこともよかったと思います。普段は経営の話をなかなか十分にはできていませんでしたから、いい経験になったのではないかと思います。
優良先も含め、経営が継続する支援を
── これから経営改善計画策定支援事業に取り組む事務所に何かアドバイスはありますか。
藤﨑 借入先が少ないケース、特に一行先であれば利用申請はまず通せると思います。あとは、すべてを職員任せにするのではなく、支援対象企業のピックアップと最初の提案・説得は、所長が一緒になって動くことが必要だと思います。
私は東京中央会の副会長をしているので、地域の会員の声も聞きますが、やり方が分からないからまだ取り組めていないという方が多いようです。しかし、できる・できないは別として、まず一歩踏み出さないと先に進むことはできません。何事も行動を起こすことが大事だと思います。
── 今後の経営改善計画策定支援への取り組みに向けて抱負をお願いします。
藤﨑 返済猶予を受けている関与先がもう1社あり、こちらも経営者からは経営改善計画策定支援事業を利用する内諾を得ています。それを含めて、担当者一人当たり2~3件を目標に取り組む方針です。
当事例の信用金庫からは、自庫で把握できていなかった売上げの相手先・金額等を聞き出して、計画に落とし込んであることが助かったとの反応がありました。この活動をすることで税理士の金融機関等からの評価が高まると感じています。地域会でもぜひ広げていきたいですね。
関与先の経営が継続していくことを考えると、業績が悪いところだけでなく、優良先も本来経営改善を続けていくことが必要です。すべての関与先に本気になっていただける経営計画策定支援をしていきたいと思います。
経営改善計画策定支援のポイント
- ●金融機関にすぐに相談に行くなど、まず行動を起こすことが必要。
- ●経営改善支援センターに事前相談し、密に連絡を取る。
- ●経営改善計画の策定においては、まず経営者の話を引き出す。計画を立てる過程で経営者に気付きが生まれる。
- ●借入先が少ない案件はスムーズに進められる。