TKC会員による実践事例

実践事例

税理士・公認会計士松﨑堅太朗事務所 松﨑堅太朗会員(TKC関東信越会)

モニタリングからが会計事務所の勝負所

支援先企業の概要

業  種: 電子部品製造業
年  商: 約4億円
従業員数: 約60名
借  入: 地銀(保証協会つき)と政府系金融機関から約3億円
経営状況: 海外との競合等による業績不振で資金流出が続いていた。資金繰りも苦しくなっており、金融機関主導で経営改善に取り組んだ。

金融機関からの紹介で支援し、関与先に

松﨑堅太朗会員

松﨑堅太朗 会員(TKC関東信越会)
税理士・公認会計士松﨑堅太朗事務所

〒399-4115 長野県駒ヶ根市上穂栄町21番20号

職員数: 7名
関与先数: 90件(年一関与除く)

写真左は巡回監査士の永井康浩氏

── 7000プロジェクトに対する事務所の方針を教えてください。

松﨑 事務所では職員1人1件を目標に取り組んできて、12月までに5件の利用申請を行いました。3月までにもう2~3件上積みをしたいと考えています。
 また、「経営改善計画策定支援事業」に限ったことではありませんが、当事務所が関与することにより、倒産する先を出させない、悲惨な結末を迎えさせないということを事務所の方針としています。

── 現在モニタリングまで進んでいる案件は、どのような経緯で支援したのでしょうか。

松﨑 この案件は7000プロジェクトの活動がスタートする前に支援した事例です。TKC長野支部と覚書を締結している地元の金融機関から、長野支部に10件程度の企業の経営改善支援の依頼があり、そのうちの1件を当事務所で担当させていただき、関与先ではない企業に対する支援からスタートしました。そして具体的な支援策を検討していく中で、経営改善計画策定支援事業を利用して支援する話にまとまっていきました。

── 支援企業の概要を教えてください。

松﨑 電子部品製造業の会社で、ピーク時には年商が11億円でしたが、最初話があった段階では約5億円まで減少していました。業種的に中国等の海外との競合が厳しく、単価が下がり、作るほど赤字になるといった仕事も多い状態でした。
 年間のキャッシュアウトが1億円程度あって当然資金繰りが厳しく、経理もかなり問題がある体制。「これはもう無理です」と言いたくなるような状況で支援がスタートしました。

── 経営改善計画はどのような内容にしたのでしょうか。

松﨑 まず金融支援としては借入金の元金返済をリスケしてもらいました。事業の面では採算性の悪いものを全部やめるという内容です。さらに仕入先の1社にスポンサーになってもらい、資金面の手当てをしました。

── そこからモニタリング開始までにどのような過程を経ましたか。

松﨑 月次決算や部門別業績管理などが全くできていなかったため、このままではらちが明かないという状態でした。その後、期中でしたが当事務所が関与を引き継ぐことになりました。
 利用申請をしたのが平成25年の7月で、関与は同年の9月からです。そこからFX2を導入し、継続MASで策定した予算を登録。月次巡回監査を行う通常のTKCスタイルで支援しています。
 初めて当事業を利用する案件、しかも内容的にもかなり重たいものだったため、経営改善計画の策定が完了するまでには半年ほどを要し、内容が最終的に固まったのは25年の12月でした。4月決算の企業で、計画1期目は進行期でしたので、早速26年の2月に、1回目のモニタリング会議を行いました。

3カ月に1回、モニタリング会議を開催

── モニタリングはどのような方式で行っているのでしょうか。

松﨑 3カ月に1回バンクミーティング形式(会議形式)で行っています。借入先の銀行2行と信用保証協会、社長と常務、事務所からは私と担当の永井が出席しています。会場は毎回メイン行さんの会議室をお借りしています。

── バンクミーティング形式になったのはなぜですか。

松﨑 こちらからそうしましょうと提案しました。金融機関からも特に異論はありませんでした。1行ずつ訪問してモニタリング結果を説明するのは時間がかかり、社長にも事務所にも負担が大きいですし、借入先の1つは担当部署が遠方だったため、地理的にも厳しいものがありました。

── 具体的にはどのような話をしているのでしょうか。

松﨑 基本的に売上げとか主要な数字も含めて大部分は社長もしくは常務に説明してもらい、アクションプランの進捗等についても会社側の考えを先に出せるだけ出してもらう形にしています。その上で、金融機関から質問を出してもらいます。
 月次の細かい数字などについては、担当の永井が補足説明しています。

── 会議の開催前に特別に社長と準備するようなことは何かありますか。

永井 この企業の場合、社長さんがそれまで数字をあまり見てこなかった部分もあって、実際に3カ月に1回のモニタリング会議で、ご自身の言葉で話してもらうための材料という意味では、月次巡回監査で伺ったときに話をしていることが、役に立っているのではないかと思います。月次の実績と経営改善計画の進捗については毎月お話ししています。会議資料としてFX2の月次推移表などを用意しますが、社長さんも初めて見るものではないので、しっかり対応いただいています。

当事例のモニタリング会議の内容

  • 社長挨拶
     ↓
  • 直近の四半期決算報告と今後の資金繰り見通しの報告(常務より)
     ↓
  • 経営改善計画書と実績値の確認および今後の留意点(社長より)
     ↓
  • 今後の日程の確認
     ↓
  • その他

出席者
 企業:社長、常務
 メイン行:本部担当者、支店長
 サブ行:本部担当者
 信用保証協会:本部担当者

主役は社長、会計事務所は進行役

── モニタリング会議では、会計事務所はどのような役割を果たしていますか。

松﨑 私が司会を務めますが、あくまで主役は社長です。会議の場を設定すれば社長と金融機関の間で何かしら話が始まっていくので、もめそうになったらうまくなだめるとか、話がかみ合っていなければ、「いま金融機関さんはこういうことをお聞きになりたいのだと思いますが、社長いかがですか」というように、整理してあげることが役割だと思います。
 最初のうちは社長との事前のすり合わせにも時間がかかりましたが、回数を重ねると社長も慣れてきますので、事務所の負担は減りますね。

── モニタリングに取り組む上で工夫していることはありますか。

松﨑 年間の大まかな開催時期を決めておき、開催時の議事次第の最後に「次回日程について」という項目を入れておき、次回分の具体的な日程を決めています。
 会議の日程を決めて、そこに向かっていく方が動きやすくなります。3カ月に1回でも6カ月に1回でも、「この日」と設定するとその日に会議を開くために、事務所は月次決算を間に合わせるように動きますし、社長には「そこでは必ず説明できるようにしてください」と期限を切れるので、社長の意識もそこに向けて集中できるのです。
 こういった日程の決め方や議事次第の作成など、具体的な会議の設営・運営ノウハウが必要だと感じています。TKC会計人ならば、今まで行ってきた「四半期業績検討会」の経験が活かせると思います。私の場合は以前に再生支援協議会案件のモニタリングを行ったことがあり、その時のイメージも参考にしています。

TKC会計人の強みを発揮できる

── 当事業に取り組んでの感想と、今後の目標について一言お願いします。

永井 この事業に取り組むことで社長さんと話す機会が増えるので、自然とコミュニケーションを取れるようになると思いました。通常の新規関与だとここまではできないかと思います。
 経営改善あるいは経営再生といった支援においては、きれい事だけでは済まない部分もありますが、支援した企業が生き残り、回復することに携わることはやりがいがあります。何もせずに企業が倒産してしまうことのないように、今後もお客さまの経営改善支援に積極的に関わっていきたいと思います。

松﨑 この事業は、経営改善計画策定の方に補助金が多く配分されていますが、実はモニタリングに入ってからが勝負だと思います。計画を作っても実行段階でうまくいくとは限りません。ゴールまでの長い期間に伴走者がいて、随時励まし、時には軌道修正してあげることが成否を分けるのです。その点、月次巡回監査というビジネスモデルを持つTKC会計人にとっては非常に強みを発揮できる機会ではないかと思います。
 実際にこの事業に取り組んでいることで、金融機関からの事務所の評価が上がっていると感じています。経営改善以外のご相談もいただけるようになりました。会計事務所にとって新しい業務への取り組みで「生みの苦しみ」はあるかもしれませんが、それを乗り越え、一日も早く金融機関や保証協会に中小企業支援の専門家として認めていただける日が来ればと思っています。

経営改善計画モニタリングのポイント

  • バンクミーティング形式の方が社長と事務所の負担は少ない場合もある。
  • 会議の最後には次回会議の日程を決める。
  • 月次巡回監査で社長と業績等の話をしておくことがモニタリング会議の準備にもなる。

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