実践事例
秋山伸税理士事務所 秋山伸会員(TKC中国会)
ベテラン職員が先陣を切り、
情報共有して事務所全体で取り組む
職員と事務所の成長が狙い
── 7000プロジェクトについては、すでに10件の利用申請が受理されておられますが、最初の1件はどのように取り組まれましたか。
秋山 できれば簡単な案件から始めたかったのですが、経営上、待ったなしの状態になっている関与先で、借入先の金融機関が6行ある案件を1件目としました。経営改善支援センターの方にも「最初から重たい案件に取り組んでいますね」と言われました。
その案件は職員の西岡が担当して、頑張って経営改善計画の策定まで進めてくれて、事務所の中が「なんとかやれそうだ」という雰囲気になりました。ほかの職員もそれに続いてくれて、ここまで来ています。私よりも職員の皆が頑張ってくれています。
── 事務所経営上、7000プロジェクトをどのように位置づけていますか。
秋山 職員にとっていい経験になるし、事務所の成長にもつながると思い取り組みました。職員には1人2件が目標だと伝えていました。
また、この事業に取り組むことは、地元の各金融機関に、当事務所が経営改善や経営支援に取り組む事務所であると認識していただくチャンスだと捉え、職員にもそのように伝えています。
1件目の経験で金融機関の見方を学ぶ
── 西岡さんは、事務所で最初にこの事業に取り組むことになった際、どういう意識で臨んだのでしょうか。
西岡 認定支援機関向け研修に出ていたので、漠然と「こういうことをするんだな」というのは分かっていましたが、実際に取り組むとなると、机上の勉強を少ししただけで実務はほとんど分からなかったので、うまくいくのか不安な気持ちもありました。
最初の案件は従前からの関与先で、経営改善が必要な経営状況でしたから、そういう意味ではいいタイミングかなと思いました。複数行のリスケ済みだったのですが、抜け駆けして臨時に返済を受ける金融機関がでるなど、金融機関の足並みがそろっていなかったので、この事業を使うにはもってこいでした。
── 実際の支援において何か困った点はありましたか。
西岡 金融機関の合意を得るために、どういった資料を作ればいいのか今ひとつ分からなかったので、最初は所長に相談して、どういう資料を付けてどういう説明をするのかということを決めていきました。また、金融機関から要望を受けて自分だけでは対応に困るようなときは所長にサポートしてもらいました。
バンクミーティングのときには、想定していなかったことを金融機関から結構指摘されました。最初は金融機関がどういう点を気にしているのかということがあまり分かっていなかったのです。逆に言えば、1回経験したことで、金融機関がどういうところを見ているのか、どういう見方をしているのかということが理解できました。ですから2回目以降はそれに対して準備ができるようになりました。
── 西岡さんが最初に取り組んだ経験を事務所としてどのように活かしましたか。
秋山 毎週金曜日の朝8時から8時50分まで、私が講師をして所内早朝研修を行っていて、7000プロジェクトについては、そこで各自の取り組み状況などの情報をみんなで共有するようにしました。書類の書き方、どういう資料が必要か、金融機関への対応の仕方、あるいは信用保証協会はこういうことを考えている──などといったことです。ベテランが先に取り組んで、若手が頑張ってそれについていくという形です。
経営者と事務所の関係が変わる
── 支援対象先はどのように選定しましたか。
秋山 まずはリスケしている関与先とProFITで表示される債務償還年数10年以上の先をリストアップしました。そこに、キャッシュ・フローが借入金の返済額に満たない先や2期・3期連続赤字の先、担当者が必要だと判断した先を加えました。
同時にたくさんは取り組めないので、担当者1人に3件以上重ならないようにしました。リストアップした中からまず各担当者4件ぐらいまで絞り込み、可能性を探りながらさらに2件まで絞ったという形です。ですから利用申請受理の通知を受けているのは10件ですが、その倍ぐらいは社長や金融機関にアプローチしています。
一つ失敗例を挙げると、社長からこの事業を利用する内諾を得ていた先で、社長が金融機関と話して先に新規融資を決め、実行されてしまったことがありました。金融支援が先に実行されてしまうと、この事業の利用申請は受け付けてもらえないのですね。別の例では、メイン行と金融支援の内容を詰めている間に、他の金融機関から融資の話が来て、社長がそちらを進めてしまったということもありました。
── 利用申請が受理済みの10社の支援の進捗状況はいかがですか。
秋山 経営改善計画の策定まで終わっているのが3件で、あとは計画を策定中の段階です。
モニタリングを実施したのはまだ最初の1件だけで、その案件はメイン行のみに参加いただいてモニタリング会議を行い、他行には書類で報告する形をとっています。売り上げは計画通りといったところですが、利益は上振れしており、モニタリングの際も金融機関からは特に指摘もありません。社長に気を抜いてもらいたくないので、むしろ厳しい指摘をしてほしいと思っていたのですが(笑)。
── 経営改善計画に取り組んだ社長の反応はいかがですか。
秋山 税理士事務所が認定支援機関として今までとは違ったサポートをしていることを認識していただいて、経営全般について真摯に取り組んでくれています。社長が多くの金融機関の前で話すという経験も、経営者の責任を再認識することにつながったと思います。
計画策定済みの3件のうち、2件は上振れしているということで、良い傾向になっています。計画策定時に自社の事業を見直したことで、社長に気づきがあったのだと思います。
西岡 社長の変化という点では、やはり業績を気にするようになってきましたので、巡回監査時に業績の話をする時間が長くなりました。
それから、以前は何か新しい取り組みなどがあっても事後に教えていただくことが多かったのですが、最近は「今度こんなことをしようと思っている」というような話を事前にしてくれるようになりました。この事業に取り組んで良かった点の一つです。
── 当事業の利用について、金融機関の反応はいかがでしたか。
秋山 金融機関あるいは支店長によって反応が違い、中には「なんでそんなことしないといけないの」とか「そんなことして大丈夫?」と言われるケースもありました。でも「本店に聞いてみてください」と伝え、実際に聞いてもらうと、その後の反応がガラッと変わることが多いです。
TKC中国会の金融機関交流会で面識のあったある地銀の本店にいた方が事務所の近くの支店長になられたのですが、「このお客さんはやらないんですか?」と、むしろあちらからプレッシャーをかけてきます(笑)。
全体として、経営改善計画については、8割ぐらいの金融機関が歓迎してくれているという印象です。当事務所がこの事業に取り組んでいることを知った金融機関から、経営改善計画を策定することを前提に企業をご紹介いただいて支援している先もあります。
他の専門家の手法を学ぶまたとない機会
── 実際に取り組んでみて、事務所にとってよかった点を教えてください。
秋山 当事業の報酬ももちろんありがたいですが、職員にとっていい勉強になるということが一番です。中期経営計画の策定、金融機関とのやりとり、外部の専門家との話など、通常業務ではなかなかできないことを各自が実践して、経験を積んでもらえるということが大きいと思います。
私自身も勉強になりましたし、外部専門家とのつながりも増えました。中小企業診断士や商工会議所の専門家派遣で来てもらう専門家の見方、事業デューデリの手法、アドバイス内容などを間近で見たり聞いたりすることは非常に参考になります。
── 今後の目標をお聞かせください。
秋山 これまでも継続MASには取り組んでいましたが、どうしても税務と会計の視点が中心で、本当の意味での「経営支援」にはつながっていなかったことに気づきました。この事業でまず10件の支援を経験して、本当の意味でお客さまを支援できる認定支援機関になりたいですね。
税理士業界全体のイメージを上げていくためにも、1件でも多く、地域の中小企業の経営支援をしていきたいと思います。
7000プロジェクト実践のポイント
- ●支援対象の候補を多めにリストアップして、そこから可能性を探りながら絞り込んでいく。
- ●実践した経験から学んだことなどを所内で共有する。
- ●金融機関の支店で当事業の利用への反応がよくないときは本店に確認してもらうようにする。