TKC会員による実践事例

実践事例

古川会計事務所 古川茂会員(TKC神奈川会)

「健全経営」を保てる中小企業支援に全力を注ぐ

経営アドバイスは所長の最重要業務

古川茂会員

古川茂 会員(TKC神奈川会)
古川会計事務所

〒220-0005 神奈川県横浜市西区南幸2丁目19番4号折目ビル4F

開業: 昭和60年1月
職員数: 9名(内勤パート2名含む)
関与先数: 84件(巡回監査対象法人)

── 「健全経営」が関与先支援のテーマだとうかがっています。

古川 もともとTKC全国会の旧・経営助言(MAS)委員会に長く在籍していましたので、飯塚毅先生の「TKC会員にとって書面添付と経営助言は車の両輪」という教えが染みついています。
 特に、「決算書(経営分析表)=年1回の健康診断書」という考え方から「決算検討会での財務分析に基づく経営アドバイスが所長の最重要業務」と位置づけ、開業以来約30年、多くの社長の悩みをお聞きし、その解決策を共に模索しながら歩んできました。MASとIT支援を行う(株)健全経営サポートセンターという併設法人があります。

── 決算検討会はどのように行われていますか。

古川 巡回監査担当者による税務や決算予測の説明を踏まえて、私が「予防医学的健康診断医」のような立場で健全経営バランスが崩れているところを社長に伝えています。「このまま放置しておくと、いずれ大病になりますよ」などと、3期比較や同業他社比較をしながら改善点を指摘しています。
 ですから、国の「経営改善計画策定支援事業」も何ら違和感がありませんでした。むしろ自分のやってきたことが漸く日の目を見る時代が来たのかなという感じです。

── 事務所として経営改善計画策定支援事業にどのような方針で臨まれていますか。

古川 実績として現在、モニタリングまで進んでいるのが1社、利用申請が済んでいて計画策定中のところが1社、今後申請予定が2社です。いずれも既存の顧問先ではなく、銀行等からの紹介で関与し、支援を進めるうちに顧問契約を結んでいただいた企業です。
 実はお断りした先も数件あるのですが、経営改善計画策定支援を引き受ける条件を決めています。
 それは、次の3点です。
①後継者がいること
②社長に経営改善への強い意欲があること
③次世代に繋ぐビジネスモデルが描けること
 これらの条件が揃わないと、認定支援機関としてフォローしきれない部分があるからです。

Web対応で下請け構造から脱却

── 支援企業の概要や計画策定前の状況を教えてください。

古川 モニタリング中の1社目は、年商約1億2000万円、借入残高約9500万円(4行)のサービス業です。
 赤字連続で債務超過、リスケが数年続いてしまっていたため、メイン行から経営改善計画の策定要請を受けて、2代目の若社長が当事務所に相談してきました。
 主な窮境要因は、「典型的な下請け構造であったこと」「売上のみを重視した利益管理の欠如」にありました。若社長はこのことに気づいていて、何とかしたいとお願いされました。

── どんな改善策を図られましたか。

古川 対話を通じてシンプルに「効率の悪い下請け現場を断り、Webを使った直接受注に切り替えること」「無駄な固定費の見直し」の2つを主な改善策として講じることになりました。

── 下請け現場をどうやって断るようにしたのですか。

古川 実は見積もり段階で不採算の受注を断るルールがなかったんです(笑)。そこで受注別の粗利管理表を作成し、粗利3割以下の仕事は基本的に受けないルールを設けることにしました。一方で、若社長がITに強かったので、自社ホームページを充実させるなどして売上減少分を依頼主直接受注でカバーする計画を立てました。
 現在、計画2年目に入り、売上は未だ目標割れしているものの、Web受注の利益率が予想よりも良かったため、経常利益はほぼ目標をクリアしています。
 計画策定中の2社目は、年商1億3000万円、借入残高が1億5500万円(3行)の製造業です。こちらは数年前の設備投資(約1億円)の負担が重く、直前2期は若干の黒字が出ているものの、キャッシュフローが足らずリスケしている状況でした。
 現在は自社の持っている設備や製造ノウハウを活かし、「製品企画段階から参画するOEM受注」で収益構造を大幅に改善する計画を策定しています。

銀行への説明を事務所で予行演習

── モニタリングの方式についてお聞かせください。

古川 モニタリング中の1社は、メイン行の要請で期中は四半期に1回、社長および会長と一緒にメイン行に出向いて報告しています。そこでは概ね1時間程度、メイン行担当者に対して予実報告、大きな差異項目の原因と対策を社長から説明してもらっています。

── どのような資料を提出されていますか。

古川 事務所ではFX2から出力した「予算実績比較表」と「勘定科目残高一覧表」「長期借入金」の口座別残高一覧表を提出しています。非会計データについては会社が必要資料を作成・提供しています。
 他行には、メイン行に提出した資料と同じものの写しを社長から郵送しています。その他、私のほうから同資料と所定の「モニタリング報告書」を、経営改善支援センターと信用保証協会に郵送しています。
 また、年1回、決算時には信用保証協会の会議室に全行を集め、「経営サポート会議」の形式で行っています。その際には「3期比較経営分析表」等のTKC出力帳表もお見せするようにしています。

── モニタリング報告をする前に、どんな準備をされていますか。

古川 社長と会長を事務所にお呼びして、予行演習的な独自の「モニタリング会議」を事前に実施しています。月次巡回監査終了後の資料に基づいて、実績の確認や大きな予実差異が出ている項目についての原因検討を行い、その対応策等をお二人に考えていただく場としています。私からたまに意地悪な質問もするのですが(笑)、いろんなことを想定して万全を期しておけば、本番でも社長が自信を持って臨めるようになります。

── 事務所の支援体制について、金融機関や信用保証協会等からはどんな反応がありましたか。

古川 メイン行と信用保証協会からは「経営改善計画の中身が具体的で、大変よくできています」とお褒めいただき、計画策定後も非常に丁寧に対応してもらえています。
 すでに1回の決算をまたいで合計5回のモニタリング報告が済んでおり、経常利益がほぼ計画通りとなっているため、他行からも何か指摘を受けたということはありません。今のところスムーズに進捗しています。

── 経営者の反応はいかがですか。

古川 計画策定時に「策定後は進捗状況について銀行の目が光っていますから」と念を押してあるので、自社の経営改善が外部の第三者に見られているという、よい意味での緊張感が出てきたと感じています。

月次巡回監査体制の構築は必須

── モニタリングを実施するにあたり、留意すべきことは何でしょう。

古川 一番大切なのは、やはり月次巡回監査体制(PDCAサイクル)の構築だと思います。
 それまでの他事務所での「年1決算」に慣れきっている状態から「翌月10日までの月次決算」に移行するのは、正直、当初の事務所の負担がかなり重たいのですが、「いついつまでに銀行に報告しなければならないから」という大義名分があるので、初期指導や月次決算に対する会社の協力姿勢も既存関与先とはおのずと違ってきます(笑)。
 もうひとつ、認定支援機関には「予実の差異分析と対策のアドバイス」も求められているので、そのアドバイスをする場としても「事前のモニタリング会議」は必ず必要だということです。支援センターに提出(補助金申請時)するモニタリング報告書にも「経営改善に向けた指導内容」という認定支援機関記載欄があり、ここが書けるような仕組みにしないといけないと思っています。

── 認定支援機関としての今後の抱負をお聞かせください。

古川 この事業は、経営改善計画の策定だけでなく、モニタリングがセットになっていることが大きなポイントだと思っています。モニタリングまでやるとなると、月次巡回監査をしっかり実施していない税理士や、計画を作るだけのコンサルタントでは限界があるからです。まさにTKC会員のこれまでの実績と経験を生かせる絶好の機会と言えます。

 銀行が「この会社には何とか頑張ってもらいたい」と思っている優良融資先を、「モニタリングまでフォローできる税理士に紹介してくれる」仕組みができるようになるまで、これからも事務所の本業として、コツコツと1件ずつ実績を積み上げていきたいと思っています。

経営改善計画モニタリングのポイント

  • 社長が自分の言葉で説明できるよう、事前の打合せ(予行演習)を必ず行い、認定支援機関は予実差異分析と対策アドバイスに徹する。
  • 事務所から作成・提供する資料は、できるだけFX等からの出力帳表に絞り、非会計データ等の資料は会社が作成・管理する仕組みにする。
  • 経営改善計画のモニタリングは、「月次巡回監査を励行し定期的な経営助言をしてきた」TKC会員の経験が生かせる仕事である。

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