書面添付実践
「素直さ」を武器に職員とともに書面添付に取り組み、実践割合8割を実現!
森本倫光税理士事務所 森本倫光会員(TKC四国会)
森本倫光会員
「地元が大好き」と高知県高知市で平成22年に開業した森本倫光会員は、TKCビジネスモデルを一つひとつ実践し、職員と一体となった事務所づくりに邁進。その結果、書面添付実践件数・実践割合を着実に伸ばし、現在月次関与先の約8割に実践しているという。森本会員と監査主任の山本美幸さんに、書面添付を事務所全体で推進するポイントなどを聞いた。
大学時代サッカー部の主務としてお金の相談等をしていた経験が活きる
──森本先生の直近3年間の書面添付実践件数は、平成28年が13件、平成29年が26件、平成30年が40件と着実に件数を伸ばしておられますが、そのお話をうかがう前に森本先生のルーツをお聞きします。どのような学生時代を過ごされましたか。
森本 私は子どもの頃からサッカーが好きで、高校もサッカーが強い高知商業高校を選びました。高校時代の3年間はまさにサッカー漬け。毎年お正月に開催される全国高校サッカー選手権大会にも出場したことがあります。ただ高校1年生のときから漠然と「大学には行きたいな」と思っていたんですね。でもサッカーばかりしていますから、何しろ勉強する時間がありません。どうすれば大学に行けるかなと思っていたら、簿記2級を取れば大学推薦してもらえることを知り(笑)、高校3年生の6月に簿記検定を受け、合格。その後無事に推薦してもらい、大阪の阪南大学に進学しました。
阪南大学はサッカーの強い大学で、部員200名超、5軍まであるような強豪校です。私も一生懸命頑張っていましたが、大学3年生のときに監督から呼ばれて「主務をやれ」と。主務は、監督補佐兼マネージャー統括のような存在で、合宿の手配から広報・総務まで、部内のありとあらゆることを引き受けて監督と選手、部全体をサポートする役割です。選手としてプレーしたいという思いも強かったですから、監督から主務を打診されたときは「都落ち」したような気分になりました。でも、「裏方として部をサポートして盛り上げていこう」と決意して、お引き受けしました。ただこれが非常に勉強になりましたし、主務の仕事自体も自分に合っていてすごく面白かったです。
例えば、サッカーに限らずスポーツって結構お金がかかるんですよね。経済的に余裕のない部員もいましたから、部費を部の積立金の中から立て替えて、その後の返済計画をどうするかその子の親と相談したり、大学生協のお金を滞納した部員がいれば大学側と交渉したりと、本当にさまざまなことを経験させていただきました。それまでサッカーしかしてこなかったので、社会人になる準備をさせていただいたように思います。
──資金繰り相談もされていたと。
森本 そうです。税理士になった今としていることがあまり変わらないですよね(笑)。まさに主務の経験が今に活きています。
──税理士を志したきっかけは何ですか。
森本 大学卒業後は大阪で就職する道もありましたが、高知が大好きなので卒業後は高知に戻ろうと決めていたんです。そのとき強烈に思っていたのは、「お金を稼ぎたい」ということ。家庭の事情で進学をあきらめざるを得なかった高校の友だちが結構いましたから、お金の大事さを感じていたんですよね。自分の子どもには、すっと進学資金を出せるようになりたいという思いが強くありました。
でも、高知でお金を稼ごうと思ったら、営業で良い成績を出し続けるか、起業するかの二択しかない。もともと起業にも興味があったので、何か自分で資格を取って独立したいなと思って調べていたら、税理士なら何年かかってもチャレンジできるというのを知りました。「自分も頑張ればできるかもしれない」と思い、税理士を目指すことにしたんです。簿記2級を持っていたので、税理士という仕事をイメージしやすかったのもありますね。
そして大学卒業後に高知に戻り、3年制の専門学校に入学しました。1年目に簿記1級に受かり勉強のペースがつかめたので、「あとの2年は働きながら勉強したほうがいいな」と思い、専門学校を辞めて叔母が勤めていた記帳代行会社に入社し、働きながら受験勉強を続けていました。そして受験9回でようやく5科目に合格し、平成22年3月に独立開業しました。
キラキラしていた先輩方の姿を見て「仕事が楽しくなりそう」とTKCに入会
──TKCとの出会いは?
森本 実は記帳代行会社に勤めていたときから、商工会議所の「創業塾」などでTKC四国会高知支部の刈谷敏久先生や中嶋司先生と面識はありました。でも、そのときは自計化の話を聞いても、「税理士に都合の良い自計化なんて、うまくいくわけない」と思っていたんですよね(笑)。それが開業後、あらためてTKCの「ニューメンバーズの集い」に参加してみたら、刈谷先生や髙須賀敦先生(愛媛支部)が講師をされていて、皆すごくキラキラしていたんです。
記帳代行会社にいたとき、「仕事、面白くないな」とずっと思っていたんです。記帳代行は単なる作業でしかないですし、決算が終わって「売上が下がった・上がった」「税金が出る・出ない」の話しかできなくて、「これがお客さまのためになっているの?」と悶々としていたんです。「こんな仕事で俺の人生、終わっていくんや」と半ばあきらめていた部分もあったのですが、TKCの先輩方はすごくイキイキとされていた。「TKCに入れば税理士としての仕事も楽しくなりそう」と心の底から思え、すぐに入会しました。実はその時期は開業から3カ月後で他社システムのリースを組んだ直後だったのですが(笑)、私にとっては入会しない理由がなかったんですよね。
「会計を重視する会社はつぶれない」と職員全員で自計化を推進
──事務所経営で大事にしていることを教えてください。
森本 平成22年6月の入会以来、「TKCビジネスモデルを着実に実践する」を基本方針にしています。優先順位をつけながら、TKCの先輩方の教えの通りに一つひとつ階段を上ってきた感じです。
──何からスタートされましたか。
森本 まずは自計化ですね。入会当初は話を聞いてくれそうな社長から「自分のお財布は自分で管理しないとあかんよ」と話して自計化してもらっていきました。新規は自計化を基本にしています。事務所のパンフレット(下)をお見せしながら三つの「制約事項」を説明して、納得してくださった方としか契約しないことに決めています。
ただ自計化に関しては、私より職員のほうが厳しいですよ。記帳代行から切り替えるときも私は「お客さん、嫌がるかな」「ここは自計化無理かな」とつい思いがちでしたが、職員がいつも「自計化しないとダメですよ」としっかり言ってくれました(笑)。
──監査主任の山本美幸さんは、自計化に関してどのようにお考えですか。
山本 実は、以前私が勤めていた会社が突然倒産してしまって、結構大変な思いをしたことがありまして……。
その後、職業訓練校に通っていた時に刈谷先生のセミナーに参加する機会があり、「うちの会社はずさんな経理をしていたから倒産したんだ」というのが分かり、会計の重要性がすっと腑に落ちて、「“会計で会社を強くする”お手伝いをしたい。税理士事務所で働きたい」と思ったんですね。それでセミナーの企画者だった所長に相談したところ、「だったら、うちに来る?」と声掛けしてもらって、入所したという経緯があります。
だから巡回監査の度に「ちゃんと経理して会計を活用すれば会社はつぶれないんですよ」「つぶれる会社には理由があるんですよ」と、会計の大事さを身をもって伝えられるのが私の強みですね。その分、初期指導も結構厳しく実施していますよ(笑)。仕訳辞書をフル活用して、3カ月以内できっちり巡回監査体制に乗せられるようにしています。
森本 基本的に、初期指導が終わったところから巡回監査支援システムを活用しています。今は7割程度なので、もっと利用率を上げていきたいですね。
所長と職員全員で研修に参加 自分の目・耳で見聞きし考える機会に
──では「自計化+巡回監査」の次のステップが書面添付だったと。
森本 はい。実は平成29年頃から「書面添付に力を入れていこう」という話を事務所内でもしていたのですが、7000プロジェクトや早期経営改善計画策定支援などもあり、少し後回しになっていたんです。でもようやく昨年から本格的に取り組み始め、現在、事務所全体では書面添付実践率が8割までになりました。
──実践率8割にまで至った背景は何でしょうか?
山本美幸さん
山本 昨年初めに、「今年は書面添付に力を入れよう!」という所長方針が出され、「皆で頑張ろう!」という意識が高まったからだと思います。私も法人・個人に限らず、月次関与先はすべて書面添付をしようという意識でいます。書面添付をしない選択肢はもうないですね。
──事務所全体で所長方針や方向性を共有するポイントはどこにありますか。
山本 秋期大学や「書面添付フォーラム」(※今年は「書面添付シンポジウム」)、企業防衛の「マル得研修」など、所長が参加する研修に職員も行かせてもらっているのが大きいかもしれません。事務所見学会もなるべく参加させてもらい、良いところはどんどん真似しています。
森本 TKCの研修や見学会にはできるだけ職員全員で参加するようにしています。私だけ研修に行ってあとで伝えるよりも、自分の目と耳で研修を受けて自分の頭で考えてもらったほうがいいので。
──添付書面の作成はどのように?
山本 添付書面の原案は、ProFITの「添付書面文例データベース」を参考にしながら、前期との数字の違いがあれば、その理由や背景を書くようにしています。その後、決算の確認と合わせて副所長・所長が添付書面の内容を確認し、ブラッシュアップしていく流れです。
森本 添付書面は、「税務署の職員さんがどう思うか?」を念頭に置いてチェックしています。結局、税務署の方々が知りたいのは異常値や前期との差異。「なぜこの数字になっているのか?」という理由や背景が知りたいわけなので、それがきちんと説明できているか、納得できる表現になっているかを重視し、必要に応じて担当者にヒアリングするなどやりとりしながら添付書面を仕上げていきます。普段巡回監査に行かない副所長や私がイメージできる記載内容でなければ、税務署の職員さんにも伝わらないはずですから。
実は以前、関与後に書面添付を実践したものの、翌年はあまり数字に変化がなかったので「今年はいいかな」と思って書面添付をしなかった関与先がありました。そうしたら税務調査となったんですね。調査官に理由を聞くと「書面添付がないから、何かあったかと思って」と……。書面添付は毎年、継続して実践しないといけないなと思った出来事です。
それに書面添付を継続して実践すればするほど、「書面添付は事務所防衛のために絶対に必要なもの」という意識が事務所全体で高まってきたように思います。結局、会計事務所には質問検査(税務調査)の権限がありません。お客さまからヒアリングした内容と提示してもらった資料から決算書・申告書を作るしかないので、何を根拠に判断したかの証拠を残し、「見ていないもの」を明確に区別することはすごく重要なことだと感じていますね。
金融機関から「添付書面ください」との声 経営助言を充実して添付書面に反映したい
──そのほか、書面添付を推進することで変化を感じられたことはありますか。
山本 最近、高知銀行の支店担当者の方から電話をいただき、「添付書面をください」と言われました。TKCモニタリング情報サービスで決算書や試算表は送信していたのですが、添付書面は送信していなかったのですね。銀行の方も見たい資料なんだと分かり、決算書等と一緒に送信していかなければと思いました。
今後は金融機関の方がご覧になることを前提に、添付書面の内容も工夫していきたいですね。例えば、巡回監査で社長から「そろそろ設備投資を考えている」というお話をお聞きしたら、「4 相談に応じた事項」や「5 その他」欄に書き加えていきたい。最近、お客さまが完璧すぎて巡回監査が1時間で終わってしまい、次の付加価値をどうするかが課題の一つだったのですが、巡回監査での経営助言を充実させて、添付書面にその内容を反映していきたいなと思っています。
TKCビジネスモデルを着実に実践しご縁のある関与先と職員を幸せにしたい
──今年開業10周年を迎えられます。課題を含め、今後の夢を教えてください。
森本 書面添付に関して言えば、所内の標準ルールや作成例などが定まっていないので、今後少しずつ決めていきたいと考えています。課題は、山本も言っていたように経営助言の充実です。添付書面の記載内容充実のためにも、経営助言に力を入れ、また巡回監査支援システムももっと活用していきたいと思います。
これまで自計化からスタートして、一つひとつTKC会員の先輩方の教えを素直に実践し続けてきました。素直さが私の武器なので(笑)、先輩方から教えていただきながら、よいお客さまとのご縁をつなぎ続けて、お客さまと一緒に成長していきたいですね。昨年2月から税理士2人体制になりましたし、将来的には職員とお客さまを増やして税理士法人にしたい。今のうちから、20年後を見据えた「地盤固め」をしていきたいと思います。
平成29年に事務所の経営理念を作ったとき、一番大事なのは職員だとあらためて気づかされました。「お金を稼ぎたい」と思って独立開業しましたが、今は、せっかく縁あって働いてくれている職員には幸せになってほしいし、幸せにしたい。これからも着実にTKCビジネスモデルを実践し続けて、関与先と職員皆の幸せを追求していきたいと思っています。
(TKC出版 篠原いづみ)
(会報『TKC』令和元年6月号より転載)