事務所経営

金融機関への〝信頼できる情報〟提供で関与先のスムーズな融資を実現

【TKCモニタリング情報サービス推進編】
 税理士法人リアライズ 代表 馬場 輝会員(TKC中国会)
馬場 輝会員

馬場 輝会員

岡山県岡山市と倉敷市に事務所がある税理士法人リアライズ。TKCモニタリング情報サービスを通じた決算書、試算表の積極的な提供に力を入れ、関与先へのスムーズな融資の実現に貢献している。代表の馬場輝会員はじめ幹部社員、推進担当者など5名に、同サービスの推進方法や導入後の効果等について語っていただいた。

関与先と金融機関から喜んでもらえてしかも原価が1円もかからない

 ──はじめに税理士法人リアライズさんの概要を教えてください。

 馬場 当税理士法人は、2017年6月に、TKC中国会岡山県支部の先輩である馬越晃一先生の事務所(現、倉敷事務所)の承継をきっかけに、当時私が所長を務めていた事務所(現、岡山事務所)と合併して設立しました。
 現在は、私が代表(岡山事務所所長兼任)、合併前まで私の部下として現岡山事務所に勤務していた山本が副代表(倉敷事務所所長兼任)、馬越先生が非常勤で会長を務めています。
 法人全体として、税理士が4名、巡回監査担当者が20名、総務担当が4名います。社員はそれぞれの支店に半数ずつくらいいます。法人設立によって、長年の夢であった「事務所スタッフが定年まで安心して働ける環境作り」と「関与先への継続的支援」の体制が整ったと感じています。

 ──事務所の特長は何でしょうか。

 馬場 企業の黒字化支援とその実現に向けた経営改善支援に特に力を入れています。7000プロジェクト(経営改善計画策定支援事業)にもこれまで60件以上取り組んできました。企業の経営(改善)支援には事務所全体のレベルアップが不可欠なのでスタッフの育成に力を注ぎ、ほとんどのスタッフが巡回監査士、巡回監査士補の資格を取得しています。

 ──TKCモニタリング情報サービスを推進されたきっかけと、推進状況を教えていただけますか。

 馬場 このサービスについてTKCからアナウンスがあったときに、馬越会長から「全関与先に導入しよう」と提案がありました。会長は何でも一番になることが好きな性格ですので(笑)。私たちも新しいことが好きで、すぐに取り組んでみようという事務所の風土があります。
 TKCモニタリング情報サービスは、関与先・金融機関・会計事務所すべてにメリットがあります。月次巡回監査をベースにした信頼性の高い情報の提供によって原価を1円もかけることなく関与先の資金調達の役に立ち、金融機関から喜んでいただける。同時に事務所の業務内容もアピールできる。推進しない理由はないですよね。現在、161社に323件利用していただいています。1社あたり平均2金融機関へ出していることになります。

「決算書を電子で送ると金融機関との関係が希薄になる」は誤解

 ──具体的な推進方法について皆さんからお話しいただけますか。

 山本 ProFITなどから情報を入手し、所内の月例会議で共有しました。その後、監査担当者が巡回監査時に金融機関から借り入れのある関与先へご案内していきました。

 ──関与先さんにはどのようにご説明されたのですか?

 三木 「決算書を電子データで金融機関へ送付できるようになり、もう紙で出さなくてもよくなりました」とお伝えしました。10人中9人は「それはいいですね、やりましょう」と。お客さまにしてみると、いままで決算書をコピーして金融機関へ渡していたわけですから、その作業が省けて便利ですねという感覚です。
 その上で、「決算書だけでなく試算表もデータで送ることができます。四半期でも、毎月でも送れますよ」などとお話しし、詳細を詰めていきました。設定についても特に複雑なことはなく、関与先の現場で5分もあればできます。

 ──社長さんの中には、決算書を金融機関へ持参せずに電子データで送ることによって、金融機関との関係が希薄になってしまうとお考えの方もいると聞きますが、その点はいかがでしたか。

 三木 それは誤解ではないでしょうか。TKCモニタリング情報サービスを一度試してもらえると分かりますが、逆に金融機関とのコミュニケーションは良好になり、関係性が強くなると思います。

 難波 実際に、TKCモニタリング情報サービスを導入されたある関与先の社長さんには、金融機関から「決算書はそろそろ送られてきますか?」とか、「この前届きましたよ」などと連絡があり、コミュニケーションがよくとられているとうかがいました。

 桑野 金融機関がこのサービスを喜ばれ、それをお客さまに伝えられたこともあります。関与先の社長さんから「先日、金融機関から感謝の言葉がありました。このサービスを入れてもらって良かったです」という声をお聞きし、こちらも嬉しく思いました。

集合写真

左から亀井美紀氏(総務担当)、桑野光監査主任、三木健志執行役員、馬場代表、山本直也副代表、難波正文監査主任

巡回監査時にサービスについて提案しその場で設定するとスムーズ

 ──TKCモニタリング情報サービスの推進に熱心に取り組まれ、実績も顕著です。進捗管理などはどうされましたか。

 馬場 巡回監査担当者ごとに推進状況を一覧にしたリストを作り、毎月の所内会議で進捗を確認しました。
 推進状況を「利用申し込み済」や「対象金融機関なし」、「関与先都合により申し込み不可」などと具体的に分けて、未提案の関与先がないか把握しました。

 ──関与先さんへの提案を決算期ごとに行われる会計事務所もあるようですが、提案のタイミングなどで工夫された点はありますか。

 山本 うちの事務所の場合は、巡回監査で関与先に伺ったときにご説明しました。開始2か月くらいで、ほぼ全ての関与先に提案し終えたと思います。

 三木 TKCモニタリング情報サービスの内容の説明や設定が難しければ決算期ごとに行い、業務を分散させる必要もあるでしょうが、特に大変な作業ではありません。それこそ5分で済む話です。事務所の規模、体制にもよると思いますが、決算期を待たずに通常の巡回監査時に行うほうがスムーズだと思います。

 ──TKCモニタリング情報サービスを利用して、決算書だけでなく試算表も数多く出されているとお聞きしています。

 馬場 それは、7000プロジェクトの活動が土台になっています。経営改善支援を行う企業は試算表を金融機関へ出さなければなりませんから、TKCモニタリング情報サービスが非常に便利なのです。
 また、金融機関により喜ばれるのは試算表のタイムリーな提供です。特に月次での送付です。当初は四半期、半期で送ることが多かったのですが、金融機関は試算表をタイムリーに入手し、事前に確認しておくことで、企業と対話する時間をより多く確保することができます。そのように役立てていただこうと思いました。お客さまにとっても金融機関に事前に業績を理解しておいてもらうことで、資金繰りなどでよい提案を受ける可能性が高まります。

試算表の提供に伴い月次決算の精度向上に取り組む

TKCモニタリング情報サービス推進に伴う事務所の取り組み
(平成30年5月~12月・月例会議資料から)

5月会議
・巡回監査業務の業務内容手順の平準化
書面添付、月次試算表(平成31年5月まで)
TKCモニタリング情報サービスの普及を踏まえて今後は①書面添付の充実②月次試算表の精度向上に取り組む
6月会議
・TKCモニタリング情報サービス提供資料の高品質化
 (平成30年6月~平成31年5月)
【KFS】
K:現状の品質を維持
F:月次発生主義、月次減価償却、月次棚卸
S:税務署、金融機関、関与先に記載内容の充実した「書面添付」を提供
【決算書等提供サービス(提出選択オプション帳表)の高品質化】
キャッシュ・フロー計算書(長期借入金、有形固定資産部分要補正)
中小会計要領チェックリスト
記帳適時性証明書
税理士法第33条の2第1項に規定する添付書面
ローカルベンチマーク(財務情報)
減価償却内訳明細書
【月次試算表提供サービス(基本帳表)の高品質化】
月次決算報告シート
月次試算表:オプション帳表(予算実績対比、資金繰り実績)の提出の有無
7月会議
【月次決算と予算制度の確立】
経理担当者向け支援:自計化、発生主義への移行、月次実地棚卸、翌月10日までの月次決算
経営者向け支援:業績検討会の開催、全社予算管理、資金計画管理
【書面添付による決算書の信頼性確保(適正申告の実現)】
税務当局からの信頼:計算し整理した事項の租税法準拠を意識する
金融機関からの信頼:金融機関への業績報告を意識する
関与先からの信頼:相談に対する経営者への報告(経営助言)を意識する
8月会議
【月次決算と予算制度の確立】
フィンテックの導入支援について
【書面添付による決算書の信頼性確保(適正申告の実現)】
法人の書面添付実践関与先の選定基準について
・記帳適時性証明書にて、K+F+翌月巡回監査+中小会計要領準拠を確認
・関与初年度は基本的にしない(法人成り除く)
個人の書面添付実践関与先の選定基準について
・K+F+翌月巡回監査
12月会議
・巡回監査(税務、会計、保証、経営助言)業務のレベルアップ
名称:「TKCモニタリング情報サービス提供資料の高品質化」から変更
期間:「平成30年6月~平成31年5月」 → 無期限
書面添付:平成31年4月決算から金融機関にも順次提供
【巡回監査】
監査・決算のすすめ方、担当者のレベルアップ
【システム】
TKC研修、システム導入
【レベルアップ協議会の設置】
11月2日に1回目を開催。今後は個人面談の月に実施

 ──TKCモニタリング情報サービス導入後、どのような変化がありましたか。

 馬場 関与先の円滑な資金調達に貢献できるだけでなく、事務所経営においても効果がありました。大きく二つあり、一つ目は業務効率のアップです。関与先が融資を受ける際、金融機関送付用の決算書のコピーを依頼されることがありますが、けっこう手間がかかっていました。こうした作業がなくなりました。
 もう一つは、事務所の業務水準の向上につながったことです。決算書だけでなく試算表の送付を目ざしたときに、これまで以上にしっかりした試算表を金融機関へ提供しようと、月次決算の精度を高める取り組みを行いました。

 ──具体的にお聞かせいただけますか。

 馬場 毎月の所内の定例会議において、TKCモニタリング情報サービスと、それに伴う業務品質向上に向けた方策を打ちました(左表)。中小会計要領に基づく月次決算の実施が主で、売掛金や買掛金を発生主義で行う、減価償却が多いところは月割りで行う、棚卸しに大きな変動があるところは概算でもよいから棚卸しを実施する、月末が土日のときの社会保険料の未払いをきちっと処理するなど。「より早く、正確な月次決算」という目標を掲げて、TKCの銀行信販データ受信機能も積極的にお客さまに推進していきました。
 さらに、今年6月以降、月次巡回監査を実施している全関与先の書面添付についてTKCモニタリング情報サービスを通じて金融機関に提供しようと決め、現在取り組んでいます。そのために事務所のレベルアップを図り、添付書面の記載内容を充実させているところですが、心がけているのは金融機関が見て分かりやすい記載内容とすることです。

 山本 添付書面の中の「顕著な増減事項」をきちっと書くことがポイントですが、作成のために半日使うようなことはしていません。日頃の月次巡回監査のときにきちっとネタを仕入れて、決算のときにそれを清書するようなかたちにしようと。

 三木 書面添付を含む事務所の業務品質の向上に向けて、巡回監査担当者を中心に参加する「レベルアップ協議会」という名称の勉強会を定期的に開いています。目的はいわゆる「お勉強」ではなく、1回につき2時間、しっかり各担当者のノウハウを共有し、実績に結びつけようという観点から設けられた勉強会です。

 馬場 TKCモニタリング情報サービスが、事務所経営の観点からこれまでの業務を見直して、さらなる品質向上に向けて取り組むよい機会となりました。

スタッフの育成に力を入れて関与先の黒字化支援体制をより充実させたい

 ──銀行信販データ受信機能も積極的に使われていますね。

TKCモニタリング情報サービス推進のポイント

  • 関与先ごとの推進状況を「対象金融機関なし」「関与先都合により申込不可」などと具体的に分けて把握する。
  • 導入の提案は決算期ごとではなく巡回監査時に行う。
  • 決算書とともに試算表を提供することが関与先の円滑な資金調達につながる。

 馬場 以前、TKC三枚複写伝票の頃は、会計事務所の付加価値は、集計の仕方をお客さまにきちんと教えることでした。それがFX2が主流になり、集計はシステムがしっかりしてくれるようになると、正しい入力の仕方を教えることが付加価値となりました。
 そしていま、銀行信販データ受信機能の時代になり、インターネットバンキングやクレジットカードなどのデータが自動的に読み込めるようになりました。お客さまの会計事務所へのニーズが、「集計の指導」→「入力の指導」→「読み込みの指導」へと変わってきている。それに気づかずに、新しい時代の動きに対応できないでいると、金融機関からの紹介や新規関与先の減少につながってしまうことに危機感を持ちました。

 ──銀行信販データ受信機能を導入して関与先さんに何か変化はありましたか。

 山本 導入して3か月くらい経つと、経理担当の方から入力作業が非常にラクになったとお聞きします。「仕訳ルールの学習機能」の効果を実感されています。
 残高を合わせることが大きなストレスになっていた経理担当者もいましたが、それが銀行信販データ受信機能を取り入れたことによって残高がほぼ合うので、とても喜んでくれています。

 桑野 通帳だけで200仕訳くらいあるお客さまは、銀行信販データ受信機能導入前はその処理に3日間くらいかかっていたそうですが、いまは半日で終わるようになったと驚いていました。

 難波 経理担当の方には、「入力、確認の時間が大幅に短縮される分、他の仕事に時間を使ってください」とお話ししています。同時に、残高が合っていることで、私たち会計事務所側の巡回監査の短縮にもつながりました。継続MAS を使った経営の話などにじっくり時間をかけることができるようになっています。

 ──最後に、今後の事務所経営の展望をお聞かせください。

 馬場 関与先の黒字化に貢献できるスタッフを増やしていきたいと考えています。役員・管理職には、「スタッフがもし自分の子供、兄弟姉妹だったらどのように接するかを考えて、スタッフを育成してほしい」とお願いしています。新入社員をみんなで育て、スタッフ同士は切磋琢磨し、役員・管理職は「家族経営」の初心を忘れず、人材育成を根幹とした中小企業支援の輪を拡げていきたいと思います。


馬場 輝(ばば・あきら)会員
税理士法人リアライズ
 [倉敷事務所]岡山県倉敷市児島下の町1-11-45
 [岡山事務所]岡山県岡山市東区金岡西町801-1

(インタビュアー/TKC営業本部 東城 要 構成/TKC出版 清水公一朗)

(会報『TKC』平成31年4月号より転載)