事務所経営
金融機関と〝相思相愛〟のサービスで関与先の資金調達力向上に貢献したい
【TKCモニタリング情報サービス活用編】
税理士法人桜頼パートナーズ会計 藤谷事務所 藤谷英明会員(TKC千葉会)
藤谷英明会員
千葉県木更津市に事務所を構える藤谷英明会員は、TKCモニタリング情報サービスを「中小企業支援のための会計事務所と金融機関の“相思相愛”のサービス」と捉えて積極的に推進している。試算表を同サービスで毎月金融機関に提供することで、関与先の資金調達力が向上し円滑な融資が実現していると効果を語る。
所長自身が社長と定期的に会い相談されやすい身近な事務所に
──本日は、TKCモニタリング情報サービスの活用を中心にお話をうかがってまいります。まず、事務所の概要についてお聞かせいただけますか。
藤谷 平成22年に開業し、丸8年経ちます。開業前はTKC会員事務所に勤務していて、開業時に10社くらい暖簾分けしていただきました。いま職員は6名で、そのうち巡回監査担当者が4名います。
──新しく、きれいな事務所ですね。
藤谷 2年前に事務所を移転したときに建てました。これまでもここ木更津の地で開業していて、移転する前の事務所もここから歩いて2、3分の距離です。
──地域の景気はいかがですか。
藤谷 木更津の景気は良いです。川崎市と木更津市をつなぐ東京湾アクアラインの通行料金が値下げされたり、ここから東京駅や新宿駅、横浜駅など主要な駅へバス一本で行き来できるなど交通網の充実により人の往来が盛んです。人口も増えています。それから、うちの事務所も対応していますが、木更津市は電子地域通貨「アクアコイン」を発行するなど、新しい取り組みも積極的にしています。
──事務所経営ではどういった点を大切にされていますか。
藤谷 お客さまから何でも気軽に相談してもらえる事務所であることです。開業前に中小企業経営者の税理士に対する一般的な印象を調べてみると、「相談しづらい」という意見が多くあったからです。
社長から経営の悩みや困っていることを話してもらうためには、税理士が身近な存在でなくてはなりません。ですから毎月の巡回監査は職員中心に実施していますが、それに加えて私自身が数カ月に1度社長と直接お会いして、事業の発展を一緒に考えるようにしています。
推進の意義・目的を伝えて職員の意識改革を行う
──藤谷先生の事務所ではTKCモニタリング情報サービスを積極的に推進されていますが、きっかけは何ですか。
藤谷 まず実務的な面でいうと、以前、関与先が金融機関から融資を受ける際、金融機関への提出用として決算書のコピーを依頼されることがよくありました。けっこう手間がかかり負担に感じていました。料金は関与先から頂いたりしていましたが、それ以上に労力に見合わないなと。TKCモニタリング情報サービスであればそんな負担は不要で事務所内の作業効率が図られ、経費削減にもつながる。これは渡りに船のサービスだと思いました。
──職員の方々にはどのような説明をされましたか。
藤谷 定例会議や朝礼において、「なぜTKCモニタリング情報サービスをやらなければならないか」という意義・目的を全職員にしっかり伝えました。また、所内の勉強会を行い、このサービスに対する理解を深めて、「お客さまに必要なものである」という認識をもってもらいました。
せっかくきちんと月次決算を行っているのだからタイムリーにそのデータを金融機関へ提供することで関与先の信用力向上につながるし、決算書は決算後に紙で金融機関に提出しているのだから迅速にデータで提供したほうがいいではないかと。
また時代の流れとして、金融機関においても作業効率を高めていく取り組みは不可欠です。今後取引先企業を回って決算書を回収するような作業はなくす方向に進んでいくはずですから、金融機関にとってもこのサービスは渡りに船のサービスであるということです。
TKCモニタリング情報サービスに限らず、何かを推進するときに私が心がけているのは、職員への説明をおろそかにしないことです。単に「TKCの方針だからうちの事務所もやろう!」などと伝えても職員は動かないですから(笑)。
彼らが腑に落ちていない、よく分かっていないサービスや機能をお客さまへ勧めても説得力はありません。私自身職員だった頃、所長からしっかり説明を受けて納得できるとお客さまに話しやすかった一方で、腑に落ちていないと自信を持った提案ができないせいか、お客さまの反応もいまいちでした。
なぜ推進しなければならないかをとことん伝えて職員の意識改革を行い、前向きに仕事に取り組んでもらうことは実績にもつながってきます。所長が職員に遠慮していたら、職員もお客さまに遠慮してしまいます。ここは手を抜いてはならないと考えています。
決算書に加えて月次試算表の提供により金融機関から融資提案が来るように
──TKCモニタリング情報サービスの具体的な推進方法を教えてください。
藤谷 基本的に金融機関から融資を受けている全関与先を対象とする方針を掲げました。その後、巡回監査担当者に同行し、関与先への私の提案方法を見て学んでもらってから、巡回監査担当者一人で担当関与先ごとに推進してもらいました。
関与先には、ProFIT「モニタリング情報サービス特設コーナー」に掲載中のリーフレットやひな形の文書を使ってサービスの内容をご案内し、同意をとりました。ひと月くらいで対象関与先の7~8割が同意されました。
進捗管理についてはOMS(税理士事務所オフィス・マネジメント・システム)の目標管理KPI機能を有効に使いました。推進できていない関与先があれば担当の職員にその理由を聞き、担当者で進まないと判断したら私が直接関与先のところへ行くようにしました。
──TKCモニタリング情報サービス導入後、何か変化はありましたか。
藤谷 以前のように融資を申し込んだ後の決算書や試算表の提出、審査までに要していた時間が省かれるので、金融機関の融資の審査が早くなりました。
また、金融機関からの融資提案が早くなりました。それは多くのお客さまにおいて、TKCモニタリング情報サービスを通じて、決算書だけではなく試算表を毎月送付する設定としたためです。当初は半期や四半期と設定していましたが、それだと融資申込みの際に直近の試算表が提供できていないことがありました。
どの金融機関の営業担当者も、基本的に成長・発展が見込める企業には融資したいと考えています。つまり、毎月試算表を送っておけば、金融機関の担当者は、融資審査時に直近3か月の中で一番内容の良いものを選んで稟議にかけることもできるわけです。
──試算表を毎月金融機関へ送ることに関与先側の抵抗はありませんでしたか。
藤谷 特になかったです。抵抗をもつ理由として考えられるのは、赤字の試算表は見せたくないということ。そういう場合「たとえ赤字でも事業計画書を付ければ問題ない。2期連続の赤字が問題であって、月次試算表が赤字だから融資をしないことはありませんよ」とお伝えすれば問題ありません。
むしろお客さまからは、毎月の試算表を見ている金融機関から、「そろそろ融資どうですか」と、私たちが考えているタイミングと同時期に提案が来るので、喜ばれています。お客さまの資金調達力が向上して、融資が受けやすくなる。まさに金融機関と会計事務所の“相思相愛”のサービスだと感じています。
事務所の業務品質が認識され金融機関からの関与先紹介が増えた
──TKCモニタリング情報サービスへの金融機関の反応はいかがですか。
藤谷 決算後に取引先に決算書を取りに行くのではなく、TKCモニタリング情報サービスで取引データを先に見た上で融資提案や資金繰りの話をしに行ける点を評価されています。事前に数値を把握して取引先と接することができるので融資の提案などにじっくり取り組めるということです。
ほかにも、ペーパーレスというメリットはもちろんのこと、記帳代行型の会計事務所があるなかで、TKCモニタリング情報サービスを通じて試算表を毎月送っていると、金融機関から「この会計事務所は毎月取引先に巡回監査に行き、月次決算をしている」と認識されます。データは会計事務所が巡回監査を経て送るきちんとしたものだし、書面添付や中小会計要領への取り組みの状況なども分かる。この点は大きい。つまり、「この会計事務所に頼めば、取引先に毎月行ってしっかり支援してくれる」という評価を得られ、会計事務所のアピールになるのです。
そうした結果、金融機関から関与先をご紹介いただくことがとても増えました。TKCモニタリング情報サービスが、会計事務所の広告宣伝という面においても強力なツールになっているのです。
特に、私の事務所は書面添付に力を入れていて、法人・個人を問わず、月次巡回監査先には原則実施しています。金融機関が感じる「あの企業に融資したいけど本当に大丈夫だろうか」というジレンマを、私が顧問税理士となることで月次決算体制が構築でき、書面添付もできるようになる。会社の中身がよく分かるので金融機関も安心なのだと思います。事務所の業務品質がTKCモニタリング情報サービスで自然と金融機関へお伝えできるのは大きなメリットです。
「記帳代行で報酬を得られる時代は終わった」と悟る
──藤谷先生の事務所は、TKCモニタリング情報サービスとともに、「銀行信販データ受信機能」も積極的に関与先さんに導入されていますね。
TKCモニタリング情報サービス推進のポイント
- 職員が腑に落ちるまで推進する理由を話す。
- OMSのKPI機能で進捗管理する。
- 職員の説明で利用に同意しない関与先は所長自ら説明する。
- 関与先の決算月に関係なく、短期間で全関与先の「利用申込」と「直前期の決算書提供」を完了する。
藤谷 関与先にご案内する前に、事務所で使ってみたら経理業務の省力化が格段に図られました。特に預金やクレジットカードの取引は一つずつ入力しなければならなかったので時間を要していましたが、取引データをもとにした「仕訳ルールの学習機能」により入力の手間が省けました。お客さまの役に立つと実感したのでどんどん進めていったのです。
同時にこの機能の登場で、もはや単純な会計業務、つまり記帳代行、入力代行業務で会計事務所がお金を頂ける時代は終わったと感じました。まさに会計業務に革命を起こすもの。この動きは急速に世の中に浸透すると想定されたので、先んじて対応しなければ出遅れるという危機感もありました。
──どのように推進されたのですか。
藤谷 TKCモニタリング情報サービスと同様、なぜこのサービスがお客さまに必要かを話し、職員全員に理解してもらうことから始めました。日本政府が2025年までにキャッシュレス決済比率を40%に高める目標を掲げているという時代の動きや、これからは単純な会計業務はAIが担える部分が多くなり、坂本孝司全国会会長が税理士の4大業務として唱えている保証や経営助言業務などが重要になるのだと。
また所内研修において、インターネットバンキングとクレジットカードのWEB明細の設定についてOJTを実施しました。推進の対象先は「FXシリーズが導入されている全関与先」としました。設定は難しくないので、1、2回やればすぐに慣れます。最初の「仕訳ルールの学習機能」の設定も関与先の現場で行いました。
──推進で工夫された点はありますか。
藤谷 インターネットバンキングを導入していないお客さまには、クレジットカードのWEb明細登録をお願いして、まずフィンテックの良さを認識してもらいます。入力が楽になることが分かるため、導入に積極的になっていただけます。
お客さまから反対されることもほとんどありません。新規のお客さまに顧問契約の段階でこの機能について説明すると、便利だから使いたいという方ばかりです。
時代を先取りすべき
──銀行信販データ受信機能を利用された関与先さんにはどのような変化が?
藤谷 経理担当者の入力作業が楽になり、精神的に解放されたというお話を聞きました。入力しない限り仕訳や会計帳簿、事業計画策定のための数字が生まれませんが、かといって入力自体に付加価値があるわけではありません。これまでの仕訳辞書中心から、銀行信販データ受信機能が主で仕訳辞書がそれをサポートしていくかたちに変わっています。
また、中小・零細企業で経理担当者が経理業務のみをしていることはほとんどなく、給与の処理や総務関連その他いろいろな仕事を抱えているものです。入力業務の省力化により他の仕事ができるようになったことは会社全体で見ても大きなメリットと言えます。
そのほか、決算も早まり、クレジットカード利用分の仕訳計上も、きちんとした発生主義でクレジット未払金勘定を利用して行えるようになりました。
関与先だけでなく、巡回監査担当者からも確認が楽になったと聞きます。仕訳の二重計上や手数料計上漏れなどによる「帳簿上の預金残高」と「実際の預金残高」の不一致もほとんどなくなり、取引内容や課税区分の確認に集中できるようになりました。
──TKCモニタリング情報サービスと銀行信販データ受信機能の推進に取り組む会員先生方へ、メッセージをお聞かせください。
藤谷 キャッシュレス社会、デジタル化、AIなど時代の流れには抗えません。どうせ避けて通れない道ならば、せっかくTKC会員でTKCモニタリング情報サービスが利用できるのだからいち早く取り組んだほうがいいです。
また、お客さまの情報網を軽視してはいけません。社長の友人の多くは社長です。さまざまな異業種交流会で顧問税理士の仕事内容についても話をしますし、自社の計数管理が得意で勉強熱心な2代目経営者や後継者の方もたくさんいて、我々の仕事ぶりをシビアに見ています。
私の事務所も、TKCモニタリング情報サービスと銀行信販データ受信機能をもっと推進して時代を先取りしていくつもりです。それができなければ関与先が離れていくという危機感を持って取り組んでいきます。特にTKCモニタリング情報サービスについてはTKC会員皆でさらに多くの件数を出して、金融機関からの認知度を高めていければよいと思います。
税理士法人桜頼パートナーズ会計 藤谷事務所
(インタビュアー/TKC営業本部 高橋栄一・中山優来 構成/TKC出版 清水公一朗)
(会報『TKC』平成31年3月号より転載)