事務所経営
継続MASを事務所経営の中心に据えて関与先・職員の幸せを実現したい
【継続MAS・TKC方式の自計化活用編】三好建弘税理士事務所 三好建弘会員(TKC中国会)
三好建弘会員
広島県福山市に事務所を構える三好建弘会員は、継続MASを使った社長との対話に力を入れている。継続MASを事務所経営の中心に据えることで、「自計化(部門別業績管理)、書面添付、企業防衛制度の推進など全てがうまくつながってきた」と語る。
言葉で計画の大切さを説くよりも継続MASの画面を実際に見てもらう
──事務所の概要を教えていただけますか。
三好 私は祖父の会計事務所に平成18年に入所し、23年に引き継ぎました。TKC会員ではない事務所だったので、新規のお客さまにはTKCシステムを導入していますが、以前からのお客さまにはいまも移行を進めている最中です。
巡回監査は私を含め7名で実施し、関与先企業約150件のうち40件を私が、残りを職員が担当しています。
──KFSを事務所経営の中心に据えた「TKCビジネスモデル」を実践されていますが、そのきっかけをお聞かせいただけますか。
三好 私はTKC継続MASシステムを使ってみたくて平成20年8月にTKCに入会しました。企業経営のあるべき姿は予算を作ってその達成を目指し実行していくことにあり、会計事務所の役割はそのサポートを行うことにあると考えていたからです。継続MASなら「会社をこんなふうにしたい」という社長さんの思いをお聞きして、その実現に向けて一緒に考えていけると思いました。
だから、いまも最も重視しているのは継続MASを軸にした社長さんとの対話です。F(FXシリーズ)とS(書面添付)の推進も、「いかに継続MASを動かすか」という視点で取り組んでいます。
──継続MASのどのような点に魅力を感じられたのですか。
三好 例えば、売上高の数字を見直したら、数年後の累積の数字がどう変わるのかがすぐに分かります。そうした「今後の経営のイメージが迅速に分かる」ところが社長さんにとって特に役立つと思いました。あとは、私自身がもともと数字をいじるのが好きだったということもあります(笑)。
──関与先企業さんは継続MASにどのような反応をされましたか。
三好 提案した二人目の社長さんはすでにご自身で経営計画を作っている方だったことから、目標達成に向けて打ち手を考えていく継続MASにとても関心をもたれました。最初の段階で前向きな社長にお会いし、「よし、この方向でやっていこう」と確信を持てたことは運が良かったと思います。その後、「予算を作ってもなかなかその通りにいかないよ」という反応の社長さんもいましたから。
──経営計画に関心を示されなかった社長さんにはどのようにご提案されたのですか。
三好 経営計画を作ることの大切さやメリットを言葉で伝えて、説得を試みるようなことはほとんどしなかったです。
私がしたのは、巡回監査を終えたらその流れでパソコンの継続MASの画面を開き、社長さんと一緒に見るようにしたことです。半ば強引だったかもしれませんが(笑)。けれども継続MASの画面を実際に見ることで、「経営計画を作りましょうよ」などと改まってご提案しなくても、多くの社長さんは興味を示されました。
社長がイメージしやすい具体的な数字に置き換える話法で説明
──継続MASを使ってどのような対話をされるのですか。
三好 例えば、前月よりも限界利益率が2%上がっていれば「これはどうして上がったのですか?」と尋ねます。「これが5年間続くと、こういう数字になりますよ」などとお話し、限界利益率が変わらない場合と、2%上がった場合を見比べていただく。現預金の残高が一番分かりやすいと思いますが、「2%アップすればそれだけで1000万円も変わってくるのですよ」などとお話しします。
同じように、「限界利益率を2%上げたければ1万円の仕事をしたときに、いままでよりも200円多く稼いでください」といったお話の仕方もします。社長さんも、漠然と2%上げましょうと言ってもピンとこないけれども、あと200円を稼ごうと思ったら何ができるかを考えます。これまで取引先へ出していた見積書の項目に最初から省いていた項目を入れ直したり、これまで合計金額の端数をおまけしていた意味のない慣習をやめたりと、行動に展開できそうな案がいろいろ浮かんでくるものです。
──数字をもとにして社長さんが行動しやすい話の仕方をされているのですね。
三好 はい。ずっと心がけているのは、「社長にその数字を具体的にイメージしていただけるような伝え方」です。
それと、私はあまり過去の話はしません。巡回監査では前月の確認をしますが、それが終わったら継続MASで「来期はどれくらい売りますか?」「新しい人を入れるのはいつですか?」など、数カ月先や数年先の将来の話をしています。
──業績が順調ではない会社にはどのようなお話を?
三好 私は、継続MASは業績の悪い会社でこそ使うべきだと思っています。収支トントンの状態にしていくなら、例えば売上をあと1000万円増やすのか、もしくは利益率を5%上げるのか。どちらがイメージしやすいかを社長に考えていただきます。年間1000万円の売上増であれば、ひと月にすると80万円アップ。それであれば営業部門の社員がさらに1件多くの会社を回る必要がありますよなどという話につながる。このように社長が具体的な行動をイメージできる数字を提示することに力を注いでいます。
ロカベンなどで対話をしていくと会社の実態が本当によく分かる
──社長が具体的に数字をイメージできるような話し方を心がけているとうかがいましたが、そのために重視されていることはありますか。
2018年に入会10年目を迎え、中国会秋期大学で坂本会長から感謝状を授与
される。胸には「チャレンジ継続MASゴーゴー!!」の襷が(H30.9.21)
三好 例えば関与先の会社の誰が何を受注し、どのように請求書を起こしているかとか、何を仕入れてきて誰がそれをカウントして経費に上げているかとかいった点まで把握するようにしています。
そうした取引に伴う実態を、例えば「A社から100万円で仕入れたものをB社に200万円で売っている会社」といったおおざっぱな理解だと、社長さんとの具体的な話にはつながりません。なぜA社から購入しているか、なぜB社に販売しているかなど取引全般を把握しておくことで継続MASが生きてきます。
取引全般については、ローカルベンチマークを使って社長さんと一緒に話していく中で社長さんの頭の中が整理されますし、私自身も会社の実態が本当によく分かり、問題点などもはっきりしました。
特に、ビジネスモデル俯瞰図を把握し、社長さんにヒアリングする中で自然と添付書面に書ける内容がつかめたりします。会社のことをよく知らずに継続MASを使えば、社長さんの意思の反映されていない数字だけの話になってしまいます。社長さんと「これをすればこうなるし、しなければこうなる」と対話していく中で、具体的に何をすればよいかが分かっていただけます。
──そうしたやりとりで関与先企業さんにはどのような変化がありますか。
三好 どれくらい利益を出さないと会社が維持できないか、利益を出すためには売上がいくら必要なのかを社長さんが理解できます。継続MASを使う以前の「とりあえず頑張って売っていこう」という思考から、先を見据えて何をすべきかが分かるようになっていただけます。
そうなると、社長さんの資金調達力も高まります。「この時期にお金が足りなくなりそうだから、いまのうちに借りておきたい」と社長さん自ら気づき、金融機関に説明されるようになってきます。
ある社長さんは月に一度、継続MASを使って私と話すことで、頭の中が整理できると言ってくださいました。
「君は自分だけ楽しい仕事をして職員には記帳代行させている」の言葉にショック
──他社システムの事務所を承継されたわけですが、システム移行のきっかけは何ですか?
継続MAS・自計化活用のポイント
- 数字と具体的な行動を結びつけて社長と話す。
- ローカルベンチマークを使って会社を深く知る。
- たとえ組織上の部門がなくても部門別管理を行う。
三好 あるTKC会員の言葉です。継続MASを使った仕事に楽しさを感じていた頃、「君は自分だけが楽しい仕事をして、職員には記帳代行をやらせている。それでもTKC会員といえるのか」と指摘されたのです。頭をがつんと殴られたようで、いまでもはっきり覚えています。
継続MASをきちんと動かそうと思えば、TKC方式の自計化が必要ですし、「中小会計要領」への準拠や書面添付の実践もしなければなりません。毎月きちんとかためていく数字が前提となるから業績管理に使えるわけです。そのことに気づかされて、事務所全体としてシステム移行に取り組もうと決意しました。
──TKC方式の自計化推進にあたり、どう関与先企業さんへ提案されましたか。
三好 特別な言い方ではなく、「伝票が起こせるのであればパソコンで打ってみませんか?」とストレートに話しました。
自計化のメリットについては、会社の数字がタイムリーに分かる点をお伝えしています。そこに魅力を感じる方もいますし、今まで通り(記帳代行)でいいという方もいます。
TKC方式の自計化の最大のメリットは数字が社長さんのものになることです。システム移行をきっかけに発生主義になりましたし、月次でしっかり数字がかたまるからこそ、それに基づく予実対比などに意味が出てきます。
──記帳代行に慣れている関与先企業さんから抵抗はなかったのですか。
三好 入力が面倒とか機械が苦手とかいろいろおっしゃいますが、本質的には「いまと変わるのが嫌」なのだと思います。そういうお客さまには自計化のメリットを力説してもなかなか響きませんから、一気呵成にではなく、毎月の巡回監査の中で地道に理解を促しています。
また、高齢などで昔ながらのやり方をどうしても望まれる方には、世代交代のタイミングで移行を図るなど、お客さまの実態に合わせて対応しています。
──システムの遡及的加除訂正が禁止されていることも説明されていますか。
三好 「過去の数字はいじらないものです。そのために私たちも巡回監査をして月次で締めているわけです。そういうものですよ」と言うと、ほとんどの社長さんが納得されます。
「会計=数字を経営に役立てるもの」に社長の意識が変わった
──システム移行に対して事務所内の反応はいかがでしたか。
三好 職員にしてみれば、これまで記帳代行の習慣があったわけですから、抵抗はありました。そうした意識を変えて、TKCシステムの活用の仕方をしっかり学んでもらおうと、私が講師となって所内研修を実施しています。私自身が継続MASを使うことで社長さんと話ができるようになったので、それを職員にも味わってほしいです。
──システム移行して事務所や関与先企業さんに変化はありましたか。
三好 お客さまのところで継続MASが使えるようになったことは大きな変化です。記帳代行や他社システム使用時はそのための準備をかなりしておく必要がありましたが、移行後はFX2のデータをその場で切り出してすぐに社長さんと話せます。
またある関与先企業の社長さんは、FX2を導入して4年目くらいに「会計の意味が分かってきた」と言われました。そのあたりから業績が非常に良くなり、銀行からリスケを受けていましたがそれも解消され、「正常先」に戻ったのです。
社長さん自身がFX2に数字を入力していましたが、自分がどう動き会社が何をしたら、どう数字に反映されるのかが分かってきたと嬉しそうにおっしゃっていました。社長さんにとって、「会計=経理の数字を合わせるもの」から、「会計=数字を経営に役立てるもの」という意識に変わった瞬間でした。数字を把握することで自分がするべきことがはっきりしたのだと思います。私もそういう社長さんの変化、姿を見て、全ての関与先の社長さんにこういう体験をしてほしい、数字を経営に役立ててほしいという気持ちがより強くなりました。
部門別管理の指導は会計事務所の生命線 全関与先にFX4クラウドを使ってほしい
──FX2は具体的にどのように使っていますか。
三好 私は、部門別業績管理は自計化している関与先企業へのサービスとして非常に重視していて、必ず使ってもらっています。そうでなければ継続MASを使った具体的な話ができないからです。
ですから、たとえ二つでも部門を設定するようにしています。社員別や支店別、一番多いのは業種、業態など仕事の種類別です。そうすると、自然とFX4クラウドの提案にもつながります。
──部門別のほかにどのように機能を活用されていますか。
三好 FX2の勘定科目残高一覧表と科目残高推移表、最新業績などをよく見ます。
勘定科目残高一覧表は、経費を項目ごとに細かく見られるし、その動きを月次で追いかけられるので便利です。継続MASで社長さんと話していて、よく分からない数字が出てきたら一覧表に戻って確認するような使い方もしています。
科目残高推移表は、社長さんと一緒に見るというよりも、異常値がないかどうかの最終チェックに使っています。
変動損益計算書の画面は、限界利益率の改善を目指している会社であれば、最初にチェックします。前年比、前月比で確認し、「限界利益率が良く(悪く)なっていますね」とこちらから投げかけ、「では、何をして限界利益率を上げましょうか」という話をしています。
──関心を示されない社長には?
三好 よくやるのが、社長の目の前で変動費と固定費の図をさっと手書きしてご説明することです。一般的な変動費と固定費の考え方に加えて、それらを社長に身近に感じていただける例えを用いてお話ししています。変動損益計算書の理解は社長が数字を自分ものにする第一歩なので、損益分岐点の考え方や財務諸表を分かってもらうことは本当に大切だと感じます。
──FX4クラウドの提案も積極的にされているようですが。
三好 今後、自計化システムはFX4クラウド100%にしたいですね。そういう話を提案する切り口もまた継続MASです。5カ年計画の中で、このタイミングで人を増やそうとか、人を増やすなら拠点も増えるとかの話になりますので、自然と「より部門別業績管理機能が充実している会計システム(FX4クラウド)を導入しましょう」という話になります。
継続MASを事務所経営の真ん中に据えれば自計化も書面添付も進む
──TKCモニタリング情報サービスも積極的に利用しておられますね。
三好 金融機関へのアピールとして使っています。うちの事務所は関与先企業の財務データを電子で素早く開示できますよと。
──関与先企業さんにはどのようにメリットをお伝えしているのですか?
三好 シンプルに、「電子データで提出できるようになったのでそうしましょう」と。絶対にいやだという社長さんでなければ、TKCモニタリング情報サービスでの提出を前提としています。
私の事務所では、モニタリング情報サービスに限らず、提案というよりもご案内するというスタンスです。サービス内容などにもよりますが、いちいち「この新しいサービスを使いますか?」とお伺いを立てるような姿勢ではお客さまも迷ったり不安になったりします。良いサービスですから「うちの事務所はこうします」という感じでお話ししています。
──PXシリーズ(戦略給与情報システム)も多く導入されていますが。
三好 FXシリーズとPX、SXはセットでご案内しています。PXには豊富な機能が搭載されていて、特に賃金BASTで地域の業種ごとの給与水準や社員別の支給総額、残業時間、労働分配率の推移などが分かります。そうした数字がもとになり、より具体的な人件費計画などの経営の話が社長さんとできます。
特に社会保険と労働保険の各種機能は、関与先企業に本当に喜んでいただいています。計算の間違いがなくなり、給与計算が楽になったことや、紙ではなく電子媒体で給与明細を閲覧できる点などにもメリットを感じていただいています。
事務所としても、年末調整業務は圧倒的に楽になりました。以前の他社システムで記帳代行をしていた頃は、年に一回、関与先企業から賃金台帳を預かって全て入力していましたから。業務期間も2週間くらい短縮されたと感じます。
TKCシステムの良いところは全てがつながっているところですよね。継続MASを中心に据えれば、FX4クラウドによる自計化や部門別業績管理、また企業防衛制度も進みますし、会社のことをよく知りたいから書面添付も進みます。
──最後に今後の抱負をお聞かせください。
三好 一番はお客さまの幸せです。幸せの中身は人によって違いますが、企業経営者であれば黒字企業であることがその大前提だと思います。
事務所の職員にも幸せになってほしいと願っています。飯塚毅初代会長の著書の読み合わせを行う「原点の会」に参加したことで、職員の幸せを私が真剣に考えているかどうか考えさせられました。会計事務所で働くことの幸せは、「あなたが来てくれたからうちの会社は良くなった」とお客さまに感謝してもらうことです。
だからこそ継続MASをベースとしたサービスをしっかり提供して、職員みんなが社長さんと会社の将来の話ができる事務所にしていきたい。それが所長としての私の具体的な打ち手になると思います。
三好建弘税理士事務所
(インタビュアー:全国会事務局 西田宏也/構成:TKC出版 清水公一朗)
(会報『TKC』平成31年1月号より転載)