事務所経営

お客さまの身近な話し相手となり待ち望まれる巡回監査士になりたい

TKC巡回監査職員研修制度 巡回監査士試験優秀者に聞く

とき:平成30年1月19日(金) ところ:リーガロイヤルホテル東京

平成29年度巡回監査士試験の優秀合格者4名の方々に、巡回監査をする際の工夫や今後の目標などについて中央研修所の中村哲郎副所長が聞いた。

出席者(敬称略・順不同)
 竹内三千代氏(熊野雄平税理士事務所・東北会)
 渡邉友香里氏(田中税務会計事務所・関東信越会)
 八木 創氏 (池田佳通税理士事務所・静岡会)
 田中昭洋氏 (山本未央税理士事務所・静岡会)

司会/中村哲郎会員(TKC全国会中央研修所副所長/職員研修・実務部会長)

職員座談会風景

所長の姿勢に共感して税理士事務所への転職を決意

 ──まず、皆さんが働いていらっしゃる事務所の雰囲気等も含めて自己紹介をお願いします。

渡邉友香里氏

渡邉友香里氏

 渡邉 新潟県長岡市の田中税務会計事務所(田中重会員)の渡邉と申します。私は今の事務所に入所して、5年目になります。職員13名のうち監査担当者が8人。スタッフの年齢は、上は60代から、下は10代まで幅広い年代の方がいて、皆で楽しく仕事をしています。「自利利他」の精神を皆で大切にしながら、「お客様の永続と発展」を目標に掲げて、毎月会議を行ったりKFSの実践をしている事務所です。

 八木 静岡県藤枝市の池田佳通税理士事務所の八木です。勤続年数はもうじき2年になります。前職の時から税理士試験に挑戦していて、簿記論と財務諸表論に合格することができたので、実務経験を積みたいと思っていろいろな事務所のHPを見ていました。その時に、情熱を持ってお客様をサポートする所長の姿勢に共感して「ここしかない」と応募しました。
 所長は、税理士を育成したいという目標を持っているので職員全員を税理士にしたいという方針を掲げています。

 竹内 青森県三沢市の熊野雄平税理士事務所から来ました竹内です。勤務年数は今年の4月で丸3年です。
 人数は所長を含めて11人で、ベテランの方が多くいます。アットホームで和気あいあいとした雰囲気の事務所です。
 入所のきっかけは、簿記2級を取得していたのでそれを活かせる職業を探していた時に、税理士事務所に興味を持ち応募しました。

 田中 静岡県掛川市にある山本未央税理士事務所の田中と申します。勤務年数は、私も今年の4月で3年になります。事務所の人数は8人です。
 私も簿記の資格を持っていたことと、あとは自宅から近いということもあり入所しました。今はまだ内勤で関与先に行っていないのですが、巡回監査士資格の取得を機にこれから巡回監査を行っていきたいと思っています。

社長とのコミュニケーションにつなげるため資格に挑戦

 ──田中さんはまだ現場には出られていないとのことですが、他の皆さんは巡回監査の際に気を付けていることや、経営者の意識が変わった事例などはありますか。

竹内三千代氏

竹内三千代氏

 竹内 自計化を進めている関与先が多いので、経理の方がすぐデータを入力できるように分かりやすく仕訳辞書をつくることと、巡回監査では課税区分が間違っていないかをポイントに見ています。経理担当者から「こっちの仕訳の方が分かりやすい」「資金諸口を使った方が便利」などの意見を聞きながら、企業の業種や規模に応じた適切な処理ができるよう提案しています。
 自計化でリアルタイムで売上や前年対比で分かるようになり、経営者からは「今月はどうですか」と、よく聞かれるようになりました。売上が下がった場合でも、翌月の受注状況などをお聞きして「来月は売上が上がるので大丈夫です」とお伝えすれば社長に安心していただけます。

 八木 私は、数字合わせの場になってしまっていた時があったので、最近は内容を把握するということを大事にしています。
 また、具体的に問題点をお伝えすることも意識していて、例えば、単に「経費を削減した方がよさそうですね」とお伝えしても、経営者も「いくら削ればいいの?」となることが多い。しかし、「この経費はこの金額の範囲内でお願いします」などとお伝えできるようになってからは、数字に興味を示してくださる経営者が増えた気がします。
 質問にきちんと答えられるようになるにつれて、私のことを頼りにしてくださる経営者が増えてきて、もっと社長とコミュニケーションを取りたいという思いが、今回の巡回監査士試験の受験につながりました。

 ──数字の確認以外にも現場にある雰囲気や社長の思いなどを感じ取ってくるのが巡回監査を行う理由ですよね。渡邉さんはいかがですか。

 渡邉 私は、プラスアルファで前年同月の売上や粗利などとも比較して、全体としての数字の変化がないかなども確認しています。
 最終的には、経営者と数字を用いて将来のことなどをお話ししていきたいので、少しでも変化している数字があれば、きちんと経営者とコミュニケーションを取って確認するようにしています。

 八木 所長から「黙って決算書を置いて帰るような職員になっては駄目だよ」と言われていることもあり、経営者との会話は大事にしています。
 経営者の中には、「八木さんに毎月話を聞いてもらうのを楽しみにしているよ」と言ってくださる方もいます。経営者は話をするのが好きな方が多いので、身近な話し相手になることを心掛けています。

 ──経営者の方から、「この人が来るとわくわくする」「いつ来るのかな」と思っていただけるような関係がつくれたらいいですよね。

 渡邉 私も、巡回監査に行った日に経営者とお会いできない場合には、別のお客さまのところに寄った帰りなどに改めて訪問して10分でも20分でもいいので、なるべく対面で会話するようにしています。経営者の考えや思いをきちんと実現できるよう、私も同じ思いを共有して同じ方向を向いてご支援していきたいと思っています。

まずは給与計算システムで操作に慣れていただく

 ──巡回監査の前提となるのは自計化です。皆さんの事務所で関与先の自計化に向けて取り組まれていることはありますか。

八木 創氏

八木 創氏

 八木 顧問契約のお話をいただいた時点で自計化を前提にしているので、できない場合はお断りさせていただいています。

 渡邉 自計化会議というのを毎月1回行っています。担当SCGの方に来ていただいて他の事務所での導入事例を聞いたり、自計化システムを導入していただけそうな関与先について皆で話し合ったりしています。
 例えば、まずはPX2などの給与計算システムを使っていただいてシステムに慣れていただいたり、経理担当者が代わるタイミングに提案したりと、真正面から「自計化しましょう」ではなく、お客さまに合った方法を提案して推進しています。

 竹内 八木さんと同じで、私の事務所でも顧問契約の際には自計化システムの導入が条件です。すでに関与しているお客さまに自計化していただく場合には、渡邉さんと同じで、「あんしん給与」から入っていただくことがあります。

きちんとした記帳をしてもらい書面添付の実施につなげる

 ──自計化以外にも力を入れている取り組みはありますか。

 渡邉 継続MASを使って単年度予算を登録しておくことを事務所の標準業務としています。業種によっては業績に波があり、単に前年同月と比べただけでは意味がない場合もあります。
 なので、作成した計画と照らし合わせて、「今月は少し経費を使い過ぎていますね」「売上は順調ですね」といったお話ができるようにしています。
 関与先の決算が終わった直後に、経営者に来期の見通しについてお聞きして、その情報をもとにおおよその計画を作って、経営者とお話をしながら内容を詰めていき、最終的に12カ月で割った予算を登録しています。

田中昭洋氏

田中昭洋氏

 八木 私も継続MASには力を入れていて、経営者と来年度予算の話をする際には、あらかじめ大体の計画を作って持って行くようにしています。「去年の情報をもとに作成しましたが、大きな変更点があれば教えてください」と、一緒に作っていく方が経営者も関心を示してくれるんですよね。

 田中 私の事務所では、「より信頼性の高い申告書にすることができます」と書面添付のメリットをお客さまにお伝えして、全関与先に書面添付を実施していけるよう皆で頑張っています。
 書面添付を実践するために、「よりきちんとした記帳をしていきましょう」というお話もしていますね。帳簿を作っているのはあくまでもお客さま自身ですから。
 また、早期経営改善計画にも取り組み始めたので、継続MASも積極的に活用していきたいと思っています。

芸術や音楽などにも触れて人間性を高めていきたい

司会/中村哲郎中央研修所副所長

司会/中村哲郎中央研修所副所長

 ──皆さん前向きな姿勢で取り組んでいらっしゃいますね。では最後に、皆さんの今後の目標や夢を教えてください。

 竹内 巡回監査士の資格を持っていることで、「私にはこれができる」と言えるような仕事をしていきたいと思っています。
 事務所の先輩方が本当に尊敬できる方ばかりなので、今後は少しでも近づけるように日々頑張っていきたいですね。また、せっかくここまで続けて勉強してきたので、税理士試験に挑戦してみようと思います。

 田中 試験勉強に使ったテキストがすごく分かりやすいと感じましたし、先輩も実務の時によくテキストを見ているので、実務で困ったことがあればテキストを見て復習しようと思っています。
 今後の目標ですが、とにかくまずは一つ一つの仕事をしっかりやっていくことです。今後は巡回監査担当者として関与先に伺いたいと思っているので、事務所の先輩から教わった、お客さまに対して「教える」という目線ではなく、理解していただくために「伝える」という視点でお話ししたり、専門用語を使わないで分かりやすく伝えることなどを心掛けていこうと思います。
 先輩からコミュニケーションの大切さを聞いていましたし、今回の座談会に参加してより強く感じたので、私もお客さまとなるべく多くの会話をすることやどんなことでも話していただきやすい雰囲気づくりに努めます。

 八木 巡回監査では、経営助言もできて、さらに経営者にとって身近な話し相手になることが理想です。
 それから以前、所長から「もう少し全体的に見て、正しいのかどうか判断した方がいいよ」とアドバイスをいただいたので、広い視野を持つことを心掛けていきたいですね。
 私は税理士も目指しているので、早く合格するのが目標です。「職員が税理士登録したら法人化したい」と所長が言ってくれていますので、税理士登録をして事務所を今よりもっと大きくするお手伝いをしたいです。

 渡邉 この仕事を通じてお客さまに待ち望んでいただけるような巡回監査担当者になりたいと思っています。
 例えば、私が税法をよく理解できていたとしても、説得力を持ってお客さまに納得していただけるようにお伝えできるかどうかは、お客さまとの信頼関係と自分自身の人間性にかかっていると思います。
 お客さまときちんとお話しができるように、税務の勉強だけではなく読書をしたり芸術や音楽に触れるなどして、常にいろいろな角度から人間性を高めていきたいと思っています。

(構成/TKC出版 菅 真衣子)

(会報『TKC』平成30年4月号より転載)