事務所経営
幅広い知識を身につけお客さまのお役に立ちたい
TKC巡回監査職員研修制度 巡回監査士試験優秀者に聞く
とき:平成28年1月15日(金) ところ:リーガロイヤルホテル東京
平成27年度巡回監査士試験において税法4科目の合計得点上位となった成績優秀者2名に、日頃の巡回監査で心掛けていることや自計化推進の取り組みなどについて、中央研修所畑義治副所長が聞いた。
出席者(敬称略・順不同)
税理士法人ガイア 青木秀幸氏(城北東京会)
税理士法人田邉会計事務所 桃谷由理氏(中国会)
司会/TKC全国会 中央研修所副所長
畑 義治会員(静岡会)
左から司会/畑 義治会員、青木秀幸氏(税理士法人ガイア)、桃谷由理氏(税理士法人田邉会計事務所)
お客さまとコミュニケーションできる巡回監査は楽しい
──はじめに、自己紹介と巡回監査士資格を目指したきっかけをお話しください。
桃谷 広島県府中市にある税理士法人田邉会計事務所(所長:田邉知士会員)の桃谷由理と申します。以前は専門学校で簿記の講師をしていまして、その後一般企業で3年間経理の仕事を経験したあと、5年前に現在の事務所に入所しました。4年間は内勤をしていましたが、昨年から担当のお客さまを持たせていただいています。
現在、巡回監査には上司と一緒に回っているのですが、その理由は、当事務所の方針として1人で巡回監査をするためには「巡回監査士」資格を持っていることが条件になっているからです。それで巡回監査士試験を受験し、今回税法4科目に合格することができました。
青木 東京都北区の税理士法人ガイア(所長:野口省吾会員)の青木秀幸です。入所前は別の会計事務所に約6年間勤めており、ガイアに来てからは1年半になります。当事務所も巡回監査士を増やしていく方針で、現在事務所には12名の巡回監査士がいます。
私はもともと税理士を目指しており現在4科目に合格しているので、巡回監査士試験合格を弾みにして残りの1科目も合格したいという思いもあり、巡回監査士を受験しました。
──巡回監査の際に心がけていることや工夫していることは。
青木 以前、巡回監査に行ったとき社長に対して一方的に話をしてしまい、少し不快な思いをさせてしまったことがありました。しかし経営者は身近に本音で話せる人がいないことが多いので、基本的に誰かに話を聞いてもらいたいと思っています。それ以来、巡回監査の際は雑談であってもできるだけ聞き手に徹するようになりました。
またそうすることで、会話の中から社長の夢や悩みが分かってくるので、どうすればその夢が実現できるか、あるいは悩みを解決できるのかを一緒に考えることができます。
桃谷 私もできるだけ社長と話すことを心掛けています。まだまだ社長にアドバイスができるほどの知識はありませんが、とにかく話をお聞きして、足りない部分があったら同行している先輩にフォローしてもらっています。
──桃谷さんは、中級実務試験(巡回監査士〈補〉試験)は受けたのですか。
桃谷 はい。当事務所は内勤職員でも全員中級実務試験に合格しなければいけない方針なので、2年前に受験しました。
──内勤だった時と現在では、何か違いを感じますか。
桃谷 元々人と話すことは好きなので、訪問してお客さまとコミュニケーションを取れる巡回監査は楽しいですし、やりがいも感じています。
「自計化企業は黒字率が高い傾向があります」などと説明
──TKCの自計化システムについては、どのような感想をお持ちですか。
青木 以前勤めていた事務所では複数の他社システムを利用していたのですが、TKCは一気通貫で複数のシステムの使い方を覚えずに済むので楽ですね。またTKCシステムは毎月データを締め切ったあとは、絶対に仕訳データの訂正・加除ができません。これは、金融機関や税務署から見ると、一度提出した試算表や決算書が信頼できるということですから、その点でもTKCシステムは強みを持っていると感じています。
その分、毎月の巡回監査では決算と同じくらい精度の高いチェックが求められますので、大きな責任も感じています。
理事会で粟飯原雄一会長から表彰状を受け取る桃谷氏
桃谷 私が前職で一般企業の経理をしていた時は、記帳は全部手書きだったんです。社長に業績を報告するときは、エクセルに打ち直して報告書を作っていました。ですから、TKCシステムで前年対比やキャッシュフロー計算書などの資料が自動でできることに、最初は感動していました(笑)。
──自計化システムの導入に関して、事務所で工夫していることは何ですか。
青木 経営者が年配の方だとそもそもPCが苦手ということもあり、自計化が難しいことが多いです。また記帳業務は外部に丸投げして、その時間を営業に使いたいというお客さまも一定の割合でいらっしゃいます。そうしたお客さまにどうやって自計化していただくかということが、今後の課題です。
桃谷 ちょうど今、担当するお客さまにe21まいスターの導入を推進しています。自計化しているお客さまは黒字率が高い傾向がありますので、そうしたことも社長にお伝えしながら、お勧めしているところです。
また、自計化にあたっては、何人も経理担当者がいるような大きな会社でない限り、実際の経理作業を担当する社長の奥さまにとっていかに負担が少なくなるような工夫を提案できるか、ということが大事です。
税務だけでなく必要な情報を伝えられる巡回監査士になりたい
──青木さんはお客さまに喜ばれたり、感謝されたりした経験がありますか。
青木 税金を滞納しているある飲食業のお客さまがありました。そのお客さまが新しいお店を立ち上げることになったのですが、その際、心機一転して滞納していた税金をきちんと納めるように説得し、5カ年の経営計画を作って一緒に銀行に融資を申し込みに行くなど、二人三脚で進めたことがありました。そしていよいよ新店舗がプレオープンする日に呼んでいただき「青木さんのおかげです。ありがとう」と言っていただいた時はうれしかったですね。
──桃谷さんは、今後どんな巡回監査をしたいですか。
桃谷 お客さまのトータルサポートができる巡回監査士、つまり税金を計算し業績を報告するだけでなく、必要な情報をちょうどいいタイミングでお伝えできるような巡回監査士になりたいです。
先輩方を見ていても、税務や会計の問題だけをアドバイスしているわけではなく、関連する法律や、法人だけでなく社長個人の所得に関することまでサポートしています。そうした点でも巡回監査士試験の勉強が生きると思いますので、今後もしっかり知識を蓄えてお客さまのお役に立ちたいと思っています。
──今後の抱負などを一言お願いします。
青木 私は巡回監査士資格を取ったことが、お客さまに対して一定水準の知識に基づいて情報を提供できているという自信につながりました。もちろん資格を取ることがゴールではないですし、今後も継続して勉強し続ける必要があります。
巡回監査士という資格制度があることで、事務所としても職員が勉強する機会が増えますし、全体のレベルアップにもつながり、もっと言えば会計事務所業界全体を底上げできる制度だと感じています。
やさしい試験ではないかもしれませんが、日々の勉強の成果が必ず出る試験なので、積み重ねが大事です。合格すればきっとお客さまに信頼していただける巡回監査担当者になれると思います。
桃谷 巡回監査士の資格は、単に税法などの問題が解けるようになるためのものではなく、いかにその知識を使って実務に対応するかが重要ではないでしょうか。私もそうでしたが、仕事や家庭のことで忙しく、勉強時間がなかなか確保できなくても、あきらめずにコツコツ続けていればきっと合格できます。
早く残りの科目を合格し、お客さまに求められる巡回監査士として活躍したいです。
(構成/TKC出版 村井剛大)
(会報『TKC』平成28年4月号より転載)