事務所経営
KFS推進による付加価値の高い支援できらりと光る事務所を目指す
重点活動テーマ・ニューメンバーズ部門表彰者【座談会】
とき:平成26年3月26日(水) ところ:TKC東京本社
平成24年~25年「TKC全国会重点活動テーマ・ニューメンバーズ部門表彰」の主要部門で顕著な実績を挙げて表彰された3名の会員が、事務所経営や関与先支援におけるKFS推進の意義などを語り合った。
出席者(敬称略・順不同)
【翌月巡回監査率90%超達成第1位】
藤谷英明会員(平成22年12月入会/千葉会南総支部)
【書面添付純増件数第2位】
鴇沢(ときざわ) 裕会員(平成23年9月入会/東京中央会千代田支部)
【FX2純増件数第1位】【継続MAS純増件数第2位】
髙橋雅人会員(平成23年6月入会/東・東京会足立支部)
司会/TKC全国会ニューメンバーズ・サービス委員会
ニューメンバーズフォロー部会小委員長
大井敏生会員(東京都心会四谷支部)
開業後2年間は関与先数を増やすことに集中した
──本日は、「TKC全国会重点活動テーマ・ニューメンバーズ部門表彰」を受賞された3名にお話を伺います。まずは事務所の経営理念と開業の経緯などをお話しいただけますか。
藤谷英明会員
藤谷 平成22年12月に開業してから3年超になります。現在は、私のほかに巡回監査担当者一人・内勤一人で、法人38件・個人18件を支援しています。
経営理念は4つあり、①私はビジネスドクターとして関与先経営者の親身の相談相手となります②「自利利他」の精神で三方よしを目指します③「人は力なり」の精神で、社員が自己実現できる所内体制を構築します④所長は関与先と従業員の幸福の最大化を目指し、職員は関与先の発展を永遠のテーマとし、積極的な提案を行います──を掲げています。
平成9年11月から開業前まで、千葉県木更津市にある岩井叙男税理士事務所でお世話になりました。職員時代からTKC理念が浸透している事務所に勤務していたので、TKC以外考えていませんでした。
鴇沢 事務所のキャッチフレーズは「Share the future(未来を共有する)」。「関与先企業の未来を共に同じ目線で考えられる存在であること」が経営理念です。関与先企業に満足いただくためには、職員自らも成長し続けなければなりません。各職員が成長でき充実した人生を送れるよう、職場環境を整備することが私の仕事だと思っています。
開業してこれまでの2年間は、関与先数をとにかく増やすことだけに集中し85件まで増やしました。しかし、顧問先一軒一軒に対するサービス向上を追求しながら件数を増加させることには限界があり、昨年、私以外の税理士の採用を決意しました。関与先数の増加だけでなく、もっと事務所に付加価値を付け、1件当たりの顧問料の増加とともに事務所職員の年収増加を目標にしています。
髙橋 開業は、平成23年6月です。事務所のパンフレットには「お客さまの一番身近な経営パートナーです」と書いています。私以外に職員は4人で、そのうち巡回監査担当者は3人、パート一人で、関与先件数は、法人46件・個人35件で合計81件です。アットホームな雰囲気を目指しています。
関与先2件からのスタートで、開業とほぼ同時に職員2人を採用したため、あとは関与先を増やすしかないというスタートでした。
関与先社長と経営幹部を集め丸1日かけて経営計画策定
──髙橋さんは、前年の受賞に続き、今回は「FX2純増件数」「継続MAS純増件数」の2部門で受賞されました。FXシリーズの推進について教えてください。
髙橋 開業当初は、早く関与先を増やしたいという気持ちから市販のパソコン会計で記帳代行もありという考えでいました。当時は、試算表を早く提出して、なおかつ中身もきちんとしていれば記帳代行でも充分やれるだろうと安易に考えていましたが、実際にやってみて、これは失敗したと気付き、すぐにTKC方式の自計化体制に方向転換しました。最近は、法人はもちろんですが、新規開業の個人事業主にもe21まいスターの導入を前提に自計化支援をしています。
e21まいスターができてからは断られたことがないくらい、個人の自計化がスムーズになりました。画面展開が分かりやすいこと、給与計算までできることを説明して納得してもらっています。それが良かったのか、個人のうち10件ほどは、年内に法人成りする予定です。
──記帳代行から自計化への切り替えを決断したきっかけはなんですか。
髙橋 記帳代行のままでは業務が回らないからです。開業当初に比較的規模の大きな関与先の記帳代行を喜んで引き受けたのですが、月末締めで翌月10日の役員会に試算表を提出することになっており、月末から月初は職員とともにその作業にかかりきりでした。しまいに期日までに必要な資料がそろわず、やむを得ず概算の試算表を提出するなど非常にレベルの低いサービス内容となってしまいました。このままでは、事務所の品質低下に繋がるし関与先を増やすこともできないと思い知りました。
もともと若い頃にある先輩から「記帳は、関与先が自ら行うもの」と言われたことが頭にあったので、TKC方式の自計化へのシフトにあたっては何の抵抗もありませんでした。
──継続MASの活用についてはどうですか。
髙橋 いまは、TKCシステムを使って自計化している以上、継続MAS・書面添付と一緒に推進する重要性を実感しています。関与先支援の付加価値を高めるためには、自計化だけではもったいないということです。
とはいえ、まだ継続MASを活用できていない関与先も多いので、その仕組みづくりが課題だと思っています。職員がエクセルで簡単な表を作成し、予実管理の必要性などを説明しているので、それを当たり前の業務として全関与先に実施できれば、継続MASの活用につながるのではないかと思います。
鴇沢 裕会員
鴇沢 継続MAS活用の前提となる目標設定の重要性については全関与先に説明しています。
巡回監査のときに関与先と一緒に未来を見て「5年後どうなりたいか」という話をするためには継続MASが必要です。その前提として自計化が進んでいれば、より詳細な現状分析が可能となります。例えば、巡回監査だけでは時間が足りずに「5年先の目標がよく見えない」とおっしゃる経営者には、経営計画策定のための企業研修を行うこともあります。企業研修とはいっても、都内のホテルの会議室を借り切って、丸1日カンヅメになって一緒に事業計画書を作成するイメージです。経営幹部にも一緒に参加してもらうので、その場で認識の違いが分かり軌道修正することができるばかりか、会社の未来の姿が見えるので、会社の方向性に対する迷いや不安がなくなります。
──鴇沢さんは「書面添付純増件数」部門で表彰されていますね。
鴇沢 書面添付をするためには、当然巡回監査が基本となります。単に書面添付件数を増やそうとしてきたのではなく、関与先の未来を共有するために1社1社に巡回監査を行った結果として、件数が増えたと認識しています。
巡回監査・自計化の重要性を書面添付の効果と併せて説明
──次は、翌月巡回監査の徹底についてお伺いします。「翌月巡回監査率90%超」部門で表彰された藤谷さんから、どのように巡回監査体制に乗せたのかお話しいただけますか。
藤谷 最初から翌月巡回監査を前提に顧問契約しています。私自身は当然巡回監査をするべきだと考えているので、特別なことをしているわけではありません。しかし、関与先が増えれば、当然一人では対応しきれなくなるので、いまは職員に担当を移行しています。職員にも「お客さまからの相談を大事にする」ということを徹底させています。
記帳代行の要請があってもそのまま受けるのではなく、書面添付ができなくなることを説明し、TKCシステムによる自計化を進める説得材料としています。
具体的なメリットとして、書面添付をすることで、意見聴取の結果、調査省略となった事例や「中小会計要領」を適用する企業への保証料割引などについて説明することもあります。
鴇沢 私も同じように、関与先が増えて一人では対応しきれなくなってきたので、今年から、少しずつ職員に巡回監査担当を移行し始めています。
1年目の巡回監査率こそ30%から40%程度でしたが、いまでは80%以上で推移しています。
髙橋雅人会員
髙橋 最初から巡回監査を前提として関与していますが、以前は、翌月巡回監査にはそれほどこだわっていませんでした。ただ、入会セミナーで巡回監査の重要性に気付いてから2~3カ月に1回になっていた関与先に対しても毎月巡回監査するスタンスに切り替えました。それからは巡回監査率が80%を超えるようになり、関与先からの評判もよく信頼関係を築くことができています。
先ほどお話ししたとおり、職員が予実管理の話なども説明してくれていますし、私が担当していない関与先にもしっかり対応してくれるので助かっています。
「巡回監査率分析表」を毎月確認 黒字決算割合が9割超に
──KFSを実践する関与先は、黒字決算割合が高いと言われていますが、現状はどうですか。
髙橋 現在は、継続MASが12件、FX2が68件、書面添付が個人を含めて42件です。直近の黒字決算割合は62.5%です。赤字の企業の中には新規で設立した企業も多く、設備投資の直後などの理由が見られます。
特に注意しているのはKFSの実践です。継続MASシステムの活用が課題ですが、基本的には年度計画を作成して1年間の計画を経営者に認識してもらうようにしています。関与先に計画を作ってもらうと翌月から社長の顔つきが変わり、経営に対する意識に変化が見られます。
藤谷 黒字決算割合は91%です。KFS実践件数は、継続MASが21件、FX2が32件、書面添付が21件です。
私は、「巡回監査率分析表」を見て毎月黒字決算割合をチェックしています。きちんと説明すると、当初赤字でも現状の数字に気付いてもらうことができますし、そこから次の打ち手を考えることができます。経費削減などの対応策を話し合えるようになったことで、結果的に赤字の企業が減りました。
鴇沢 黒字決算割合は76%。FX2は約30件で、書面添付は約50件です。継続MASも同じくらい導入しています。
開業から1年経って事務所の「売り」を分析した結果、関与先の黒字決算割合が高いことに気付き、事務所のホームページにもそれを謳っています。お客さまからその理由を聞かれたときには、TKCの支援体制を説明すると納得してもらえます。
「相談を大事にする事務所」をアピール 2営業日以内に必ず回答
司会/大井敏生会員
──関与先拡大で工夫していることはありますか。
鴇沢 いまは関与先からの紹介が一番多いですね。信頼関係を大事にしているからこそ紹介が生まれているのだと思いますが、この先さらに事務所を拡大していくためには、紹介に落とし込む仕組みづくりが必要です。
藤谷 私は、岩井事務所から10件ほど関与先を引き継いだので、ありがたいことに開業当初は、ゼロからのスタートではないという意味での安心感はありました。
しかし、銀行回りなど積極的に営業をしてもなかなか効果が上がらなかったので、その点では悩みました。それで「紹介してください」とお願いすることを止めたんです。
「相談を大事にする税理士事務所です!」とアピールし、相談に対しては2営業日以内の回答を徹底しています。
中小企業家同友会で知り合った経営者やハウスメーカーの社員、銀行の行員など、「相談があれば夜中でもいいので電話をください」とお伝えしています。
──よき相談相手になることを徹底されていますね。TKCの提携・協定企業などからの相談は多いですか。
藤谷 ハウスメーカーの引き渡し説明会で講師を頼まれることや年2回千葉会南総支部の会員とハウスメーカー社員との旅行などで懇親を深めています。相続税額のシミュレーションなどのご相談にも応じています。
また、二代目の経営者の中には私と同世代の方も多いという理由で、その相談を通じて紹介につながった案件もありました。
髙橋 大手美容機器メーカーの開業支援を行う部署から、開業予定のお客さまを紹介してもらっています。個人事業からのスタートがほとんどですが、中には最初から多店舗展開まで視野に入れている経営者もいます。他には関与先からと他士業からの紹介が多いです。私の場合、職員の働き振りが評価されて紹介につながるケースがよくあります。
新入職員に「不撓不屈」の映画を見せる
──そのほかのアピールポイントを教えてください。
鴇沢 関与先がどんどん増え成長段階にあるので、所内に活気があることです。また、お客さまに対するサービスも日々研究しており、日を重ねるごとに充実してきています。良いものは積極的に取り入れ、スタッフと共に事務所全体が成長を感じています。
藤谷 自作のホームページ上から顧問料が計算できるように工夫していることです。
それから、事務所に来てくださったお客さまとの話題づくりのために、所内の机の上に車の模型を置いています。いまはトヨタ2000GT1台ですが、ランボルギーニカウンタックを作っていて、今後も増やしていきたいです(笑)。「気軽に相談しやすい」と思われたいですね。
髙橋 職員がよく働いてくれるので助かっています。新規の問い合わせでそのまま顧問契約になった関与先の社長から「職員の対応が素晴らしくて決めました」と言われたこともあります。
また、昨年事務所をリフォームしたての部屋に移転したので、所内がきれいだとよく言われます(笑)。
──関与先拡大を進めるためには、職員教育が重要です。皆さんが研修や動機づけを行う上で注意していることはありますか。
髙橋 月1回の所内会議で職員と話をしたり、所内の方針や新システムを導入したときに個別に説明する程度で特別なことはしていません。職員が気持ちよく働ける環境づくりを心がけています。
職員が自発的に「本当に関与先のためになることは何か」と考えてくれるようになり、最近採用した職員に対しては、先輩職員が自ら動いて指導係となってくれています。
鴇沢 関与先企業により的確な支援をしていくために職員同士の情報共有や経営理念の徹底が大切だと考えています。
経営理念の徹底にはTKCの研修がとても有効です。新入職員にTKCの歴史を伝えるために「不撓不屈」の映画を見せたりもしています。
藤谷 私の事務所も「不撓不屈」を見せています。それから課題は、所内で経営理念を浸透させることです。巡回監査担当者を育てるために、研修カレンダーを見て、TKCの研修に積極的に参加させています。私から特に注意していることは、「お客さまの相談を大事にする」ということです。
自己研さんとしては、千葉会ニューメンバーズ会員による会合に毎月参加しています。毎回、12名ほど集まり、順番に今月は何件拡大したかなどの成果や1カ月の行動結果を発表し、それをもとにお互いの感想などをディスカッションしています。終了後は、懇親会もあるので、それが楽しみで参加しているようなところもあります(笑)。
「記帳代行しない」と決断すると未来像が変わる
──今後の課題などを含めて開業10年目のイメージや目標、そしてニューメンバーズ会員へのメッセージがあればお聞かせください。
藤谷 今年の夏にもう一人巡回監査担当者を採用します。職員を育てるには時間がかかるので、早めに採用して関与先拡大に備えたいですね。
10年後は、「この事務所に頼めば安心」と思われるように関与先と従業員を増やし、地元できらりと光る事務所として認知されたいと考えています。
私自身、開業するときに先輩会員から「自宅以外に事務所を設けて、職員は2人以上採用し、机は4つ以上設置すること」と教わりました。その助言を素直に実行したおかげでいまがあります。悩んだときは周りの先輩に相談してみてください。そのアドバイスを素直に実行すれば、新たな活路が開けてくるのではないでしょうか。
鴇沢 開業10年目のイメージは、所内に10人の精鋭がいること。そのためには、質の高い支援を行える職員を育てたいですね。
課題は組織の問題です。最近、ようやくそれを考えられるようになってきたので、職員採用や組織作りについては、試しながら模索していきます。
三菱東京UFJ銀行の「極め」にみられるように、書面添付や「記帳適時性証明書」が付いた決算書に担保価値が認められるようになってきています。「書面添付していない決算書はその内容が疑われるようになる」われわれTKC会計人の手でそういう未来を創っていきたいです。
髙橋 今後は、いま以上に翌月巡回監査率にこだわりたいと思います。継続MASと自計化の比率をイコールにするという課題があります。それから年内にもう一人採用予定なので、所内規定を整備して、特にうちは女性職員が多いので、職員が安心して長く働ける環境を作りたいです。
私自身の経験から言えることは、このご時世ニューメンバーズ会員こそ、安易に記帳代行に走ると危ないということ。記帳代行の価格競争だけでは、到底生き残ることは難しいと思います。もちろん最初のうちはそうも言ってはいられない状況もありますが、記帳代行をしないと決断できるかどうかで未来像が変わるのではないでしょうか。
──皆さんのお話を伺って、私もニューメンバーズの頃に座談会でお話ししたときのことを思い出しました。事務所経営は踏ん張るしかありません。目先の課題を乗り越えて一緒に頑張りましょう。
「ニューメンバーズフォーラム2013in京都」で、
粟飯原一雄全国会会長から表彰パネルが授与された
(構成/TKC出版 益子美咲)
(会報『TKC』平成26年5月号より転載)