事務所経営
関与先に待ち望まれる巡回監査士になりたい
TKC巡回監査職員研修制度
巡回監査士試験優秀者座談会
とき:平成26年1月17日(金) ところ:リーガロイヤルホテル東京
TKC中央研修所では職員のレベルに応じた研修制度を体系化し、継続研修を実施することにより、TKC会員事務所の総合力強化に向けた職員の業務品質向上を支援している。「巡回監査士試験」で優秀な成績を修めた合格者3人に、司会の畑義治中央研修所副所長が、巡回監査の心構えや研修制度の活用法などを聞いた。
出席者(敬称略・順不同)
鎌田孝生税理士事務所 佐々木敏公氏(東北会)
税理士法人土田会計事務所 宮嶋 力氏(西東京山梨会)
税理士法人総務部 雛形浩之氏(北陸会)
司会/中央研修所副所長
畑 義治会員(静岡会)
左から畑副所長、佐々木氏、宮嶋氏、雛形氏
朝礼のスピーチで合格を宣言 試験に受かってほっとした
──本日は、TKC全国会理事会での表彰式終了後、平成25年度巡回監査士試験に優秀な成績で合格した職員の皆さんにお集まりいただきました。皆さんおめでとうございます。まずは、感想から教えてください。
佐々木 鎌田孝生税理士事務所の佐々木と申します。所長の方針で他の職員と一緒に初めて巡回監査士試験を受験しました。合格できてうれしかったです。
宮嶋 税理士法人土田会計事務所(所長:土田士朗会員)の宮嶋です。成績優秀者と聞いてびっくりしたというのが最初の印象です。及第点ぎりぎりかなという科目もあったので、受かって良かったです。
──土田会計事務所は、昨年も優秀者を輩出していますね。
宮嶋 ありがとうございます。後に続けて非常にうれしいです。
雛形 税理士法人総務部(所長:太田興作会員)からまいりました雛形と申します。税理士試験に合格して去年の6月に税理士登録しましたが、私自身、復習すべきところはまだたくさんあると考えていた矢先、所長から指示書が回ってきてこの試験を受けました。
率直な感想は、合格してほっとしたということです。受験が決まった後、思い切って朝礼のスピーチで「今年中に4科目合格します」と宣言した手前、落ちるとまずかったので(笑)、安心しました。
──皆さん、どれくらい勉強したんですか。
佐々木 平日は、就寝前の1~2時間を勉強の時間と決めて、受験直前には例題集を繰り返し2~3回ほど解きました。
実は、事務所は秋田県の北部にあるのですが、昨年8月の豪雨で床下浸水したんです。それで8月中は勉強どころではなくなり、一時は受験を止めようかとも考えましたが、それまでに勉強を進めていた部分もあったので、9月から本格的に勉強を再開しました。
宮嶋 税理士試験の勉強にも言えることですが、私が注意したことは、生活の一部に勉強の時間を組み込むことです。勉強しない期間が長く続くとテキストを開くのが面倒になってしまうので(笑)、そうならないよう継続して勉強することを心がけました。
今年初めて巡回監査士試験を受けましたが、試験範囲が広くてその分勉強するのに時間がかかりました。本格的に勉強を始めたのは9月くらいからです。週末にまとめて3~4時間勉強することが多かったですね。例題集の問題を一通り解いた後、解けなかった問題を中心に3~4回復習しました。
雛形 私は朝方なので、平日は毎朝4時に起きて勉強の時間にあてました。朝は何時に起きても眠いのは一緒です(笑)。ただし、平日の夜は10時には就寝して、週末はしっかり休みを取るなど、メリハリをつけて勉強しました。
特に重点を置いたのは、税制改正に関する問題です。税理士試験を受験していた経緯はあっても、税制改正に関する項目については、改正の都度、新たな知識の習得が求められます。逆に従来から特に変更点のないような項目については、苦手分野や知識として抜け落ちてしまっていたところを中心に範囲を絞って、効率的な学習が行えるように工夫しました。
第118回TKC全国会理事会で、平成25年度巡回監査士試験の優秀者が発表された。当日、粟飯原一雄全国会会長から優秀者に対し表彰状が贈呈された。平成25年度巡回監査士試験は、受験者2342人(748事務所)のうち166人が合格し、合格率は7.1%の結果となった。
大学卒業後の就職先はTKC会員事務所と決めていた
──皆さんがいまの事務所に勤めたきっかけや勤続年数などをお話しいただけますか。
雛形 いまの事務所に勤めて1年半ほどになります。昨年、税理士登録しました。以前もTKC会員事務所に勤めていたので、税理士業界はトータルで5年目です。母に勧められて、大学在学中からTKC会員事務所に就職したいと考えていました。
──お母さまは、なんでTKCのことを知っていたのですか。
雛形 私の母は以前、富山県内の中小企業で経理業務を担当していた時期がありました。その際に、TKCの会員事務所に指導をしてもらいながら、なんとか日々の業務をこなしていたようなのですが、その時のことがとても印象に残っていたようです。それで、以前からTKCの事務所がいいという話を聞いていました。
宮嶋 私は一般企業の経理、小売業のコンサルティングなどを経て税理士業界に転職しました。中小企業診断士の資格を持っていますが、もともと興味があって税理士試験の勉強をしていました。この業界は、今年で3年目になります。
転職を決めたきっかけは、「お客様の夢を実現するためのお手伝いを通じて、お客様と共同成長し、地域社会の発展に貢献します」という経営理念を土田会計事務所のホームページで見たことです。
佐々木敏公氏
(鎌田孝生税理士事務所)
佐々木 私は勤続8年です。大学卒業後の就職活動では、就職氷河期の影響で地元企業の就職先がほとんどなくて苦労しましたが、簿記の資格を持っていたことから、運よくいまの事務所に入りました。実際に働いてみて、関与先支援ができて社会貢献にもつながる仕事だと分かりました。
──事務所の方針や雰囲気などはどうですか。
佐々木 比較的担当者に任せてもらえることが多い事務所です。職員はそれぞれ担当する関与先があって、私の巡回監査担当は18件です。職員は12人で、そのうち巡回監査担当者が10人、総務2人の事務所です。
宮嶋 所内には助けあいの風土があり、お互いに高め合いながら仕事をしています。事務所の経営理念の実現に向けて、よりよいサービスを関与先に提供するためのスキルアップを目指しています。東京の東村山に事務所があるので、周辺の地域貢献にも積極的に取り組みたいと考えています。
事務所は監査担当者14人と、総務が3人です。今回の試験で私以外に合格者がもう一人いました。職員は、TKC巡回監査職員研修制度の試験を毎年受験していて、職員の半数は巡回監査士です。
雛形 所長がよく言うのは、「親切が先、商いは後」ということで、それが所内にも浸透しています。巡回監査担当が25人、パートが20人ほどなので、全体で50人弱の事務所です。そのうち10人ほどが巡回監査士です。事務所の方針で職員は毎年受験しているので、今後も巡回監査士は増えると思います。
──中央研修所・地域研修所主催の研修は、受講していますか。
宮嶋 研修の参加時間は、事務所一人あたり年間平均60時間くらいです。それでも一昨年の平均100時間に比べると減っていますが、所長自ら率先してさまざまな研修に参加しており、研修を重視する体制に変わりありません。各自が1年間の目標に沿ってスケジュールを立てて研修に参加しています。
佐々木 研修は、基本的に自己選択で、税制改正など特に重要な内容は全員で参加します。年間の受講時間は、多い人で70時間ほど、私自身は40時間くらいです。集合研修を受講するには片道2時間ほどかかるので、オンデマンド研修が始まってからはとても便利になり、よく利用しています。
──試験勉強で学んだことが実務に活かされたことはありましたか。
雛形 巡回監査士試験の勉強中に、担当している関与先から相続税対策に関する業務を依頼されたことがありました。その方は大変な資産家で、会社も複数経営されているような状況でした。そのような方の場合は、やはり全体を俯瞰して総合的な税負担に関する提案をすべきと考えられますので、当初ご依頼頂いた相続税に関する対応のみでは不十分であるように感じました。
ちょうど、巡回監査士試験の勉強中で、各税目を体系的に勉強できていたことが非常に良かったと思います。
自計化のメリットを伝えるために粘り強く巡回監査を行う
──関与先支援を実施する際のポイントはありますか? うれしかったことや悩みなどもあれば教えてください。
雛形 関与先に何度もアピールしているのは、巡回監査を行うメリットです。ある経営者は、最初は巡回監査に行っても不在なことが多かったのですが、粘り強く接することでだんだんと受け入れてくれるようになりました。いまは次の訪問日を伝えると待っていてくださることがうれしいですね。
私が、特に心がけているのは諦めずに社長を追いかけて、「最近どうですか?」などと問いかけて、少しでもコミュニケーションを図ることです。最初から受け入れてもらえなくても諦めずに、巡回監査のよさを分かってもらうようにしました。
──巡回監査をする上で「待っていてもらえる」ことは重要ですね。
宮嶋 力氏
(税理士法人土田会計事務所)
宮嶋 雛形さんと同じで、私も時間の経過とともに経営者が好意的になってくれた経験があります。巡回監査ではコミュニケーションを重視しているので、さまざまな相談を受けることもあって経営者から頼られていることが、特にうれしいです。
佐々木 担当する関与先から他のお客さまを紹介されたことがあって、その時は仕事が認められたのかなと思えてうれしかったです。反対に悩みは、ここ数年帳簿の状態があまりよくない関与先があることです。巡回監査に行くたびに指導していますが、なかなか改善されないことが課題です。
──巡回監査で特に注意していることはありますか。
佐々木 個人の場合でも、経営者が会社に土地や建物を貸しているケースが多いので、巡回監査では、特に会社と個人間のやり取りに注意して見ています。
宮嶋 経営者に数字を徹底的に説明することを心掛けています。経営者とのやり取りの中で、税務・会計はもちろんのこと、さまざまな質問を受けることがありますが、自分たちで解決できない場合には、他の専門家への橋渡しを行うようにしています。われわれが経営サポートの窓口となり、困ったときに頼られる関係を築きたいと考えています。
雛形 現場の変化には気を配っています。また、意図的ではないにせよ、関与先がうっかり「作業屑」などの収入を計上していないことなどがあるので、関与先にどのような取引先が出入りしているか、なども観察して適正な税務申告に繋がるように努力しています。
──まさに巡回監査の醍醐味は、現場に行って、各部門がどのように会社の収益に関わっているかを確認することですよね。
自計化の壁をなくすためにシステム操作の手順書を作成
──皆さんの事務所では、KFS推進について、どんな取り組みをされていますか。
宮嶋 巡回監査担当とは別に「自計化ペーパーレス委員会」などの委員会を職員1~2人が担当しています。各委員会の責任者は、毎月の会議で進捗状況を発表し、関連する研修に参加して得た知識や情報を所内で共有しています。
雛形浩之氏
(税理士法人総務部)
雛形 同じく所内に委員会があって、特にKFS推進実績はこまめにチェックしています。昨年は、「TKC全国会重点活動テーマ表彰」を目標に毎月全員で順位を確認しました。各委員会の担当者を中心に競争意識を持ちながら推進しています。
佐々木 私の事務所も各担当の推進責任者が毎月進捗状況を取りまとめて、その結果を全員で確認しています。
──TKC方式による自計化を進めるうえで、特に皆さんが工夫している点があれば、具体的なアプローチ方法などを交えて教えていただけますか。
雛形 私は自計化推進が大好きなので(笑)、経営助言の時間を増やすために一生懸命取り組んでいます。
特に事業を立ち上げたばかりの経営者は本業だけに目がいきがちで、経営状況の確認が後回しになっているケースが多く「自社の実績を確認するのは自計化が一番です」とお話しています。
それから、最初は何度お願いしても一切資料を準備していなかった経営者の意識が変化したこともありました。私が担当した1年後には事務員を雇ってくれて、TKCシステムによる自計化導入の準備をしてくれたんです。それからは、巡回監査を待っていてくれるようになって、月次巡回監査体制ができました。
他にも、「事業を拡大したい」とおっしゃっていた向上心のある経営者に、「その前に経営状況を把握しなければつぶれてしまいますよ」と伝えて危機感を持っていただくよう促したこともあります。経営者から「そうならないためにどうすればいいかな」という質問がきたところで、経営者の望む方向性にあわせて、自計化の具体的なプロセスを説明するなどの工夫もしています。
宮嶋 私は、システムに触ったことがなくて操作方法が分からないという経理担当者のために手順書を作成しました。「分からないから面倒だな」と敬遠されないようにビジュアルで分かりやすく説明した手順書を用意して、自計化の壁をなくすようにしています。
関与先の半分以上はTKCシステムで自計化していますが、昔から他社システムで自計化している関与先や高齢でパソコンを使いたくないという関与先の自計化を進めることが今後の課題です。
佐々木 関与先の自計化率は半分ほどで、進んでいる関与先がある反面、パソコンが苦手で手書きから離れられない関与先があります。
最近、ある関与先に税務調査が入ったときに、内部資料で見たことがない資料が出てきました。Excelでの資料作成に時間がかかっていましたが、DAIC2を使って仕訳さえ入力すれば簡単に作成できる資料でした。調査が終わった段階で「TKCシステムを使えばもっと簡単に正確な資料が作成できますよ」と説明して、システム移行につながりました。
「巡回監査士」の資格をアピールし関与先に安心感を与えたい
──皆さんは、巡回監査士に対してはどんなイメージをお持ちですか。
宮嶋 研修を受けたときにある講師の先生から「税理士資格を取ったから巡回監査ができるわけではない」と言われたことが印象に残っています。試験に合格することは、巡回監査の入り口に立つことではないでしょうか。
佐々木 私も研修の講師に「巡回監査で関与先の社長から今後の話を引き出すことができれば、社長と対等に話ができるようになる」という話を聞きました。私のイメージでは、そのような巡回監査ができる職員のことですね。
雛形 実務の中では、たとえ巡回監査担当者に高い能力があっても、経営者から「税理士に担当してほしい」「所長の確認がほしい」と言われてしまう場合もあります。そのようなときに、巡回監査士の資格をアピールすることで、関与先から監査能力を身に付けている職員だという安心感を与えられるようになれたらいいのではないかと思います。
司会/畑 義治中央研修所副所長
──皆さんの今後の夢や目標と、巡回監査士を目指す職員へのアドバイスをいただけますか。
佐々木 10年後までに税理士試験に合格したいと考えています。今回、巡回監査士試験を受験して知識の習得と確認ができたので、受験してよかったです。実務にも役に立つので、ぜひ試験や研修を受けて、ご自身のスキルアップにつなげてください。
宮嶋 私自身の直近の目標は、税理士試験合格です。去年ようやく4科目に合格したので、できれば今年中にあと1科目に合格したいです。資格を取ってからがスタートなので、まずは税理士としてのスタートラインに立てるように頑張ります。
巡回監査士試験は、例題集をきちんと勉強すれば合格できる試験です。受験しなければ絶対に受からないので、まずは試験に申し込んでください(笑)。
雛形 業務上の目標は、関与先の自計化を進めていきたいということです。私は、関与先から資料を持ち帰るだけの仕事はしたくないので、関与先の自計化を進めてアドバイスの時間をできるだけ増やして、関与先との信頼関係を築いていきたいです。経営者をはじめ、多くの人の価値観に触れることがこの仕事の面白さだと思います。今後も知識を身に付けて業務の効率化を目指します。
試験を受けることで、勉強した知識を現場で活かすことができるようにもなりますので、積極的に取り組まれることをお勧めします。
(構成/TKC出版 益子美咲)
(会報『TKC』平成26年4月号より転載)