事務所経営
「機動力」と「総合力」を強みに黒字化支援に努めたい
むさし税理士法人 代表社員 石井隆行(関東信越会埼玉西支部)
石井隆行会員
先代の事務所を承継し、平成21年にむさし税理士法人を設立した石井隆行会員(55歳)。チーム制と職員錬成をベースに巡回監査、KFS推進を標準業務にし、関与先の黒字化支援に全力を尽くしている。職員一人ひとりの力が結集した「総合力」が強みと語る石井会員は、事務所へのFX4クラウド導入で得た「機動力」も武器に、関与先拡大など新たな展開を視野に入れている。
頑張っている企業を助けたくて税理士に
転機は法人設立と第1次KFS作戦
──先代の事務所を承継されたとうかがっております。
石井 亡くなった父(石井健三会員)は、もともと税務署に勤めていました。「飯塚事件」のあった頃だと思いますが、税務署を退官して1年後にTKCに入会しました。
──入会の経緯はご存じですか。
石井 はっきりとは分かりませんが、税務署時代にきちんとしていない帳簿を見ることが多かったという話は聞いたことがあります。記帳をしっかりさせたいという思いが飯塚毅初代会長のお考えと一致したのだろうと思います。
私が税理士になったのも、父の存在が大きいですね。はじめから税理士を目指していたわけではないし思春期には反発もしましたが、小さくても頑張っている会社を助けられる税理士という仕事がしたいと思うようになったからです。
執務室に飾られている先代・石井健三会員と、
飯塚毅初代会長の写真
その気持ちはいまも変わりません。だから私は節税を考えるのはあまり得意ではないのですよ、儲かっている会社はそれに越したことはないじゃないかと(笑)。それよりもやはり困っている会社を助けたり、いかに赤字の会社を黒字に変えていくサポートができるかに税理士としてこだわりたいと思っています。
平成14年12月に先代が亡くなり事務所を継いだわけですが、実際にはその3、4年前から、事務所の経理業務や申告業務、経営面まである程度私がやっていました。父には昔から「人の動かし方、ものの教え方を覚えておきなさい」とよく言われ、私は学生時代に中学校のスポーツ指導員や、母が経営していた会社の経理の手伝いなどをしました。申告書の作り方などもそこで学んでいたので、父の事務所に入ったときもすぐに仕事ができたことを覚えています。
──事務所の発展につながった転機のような出来事はありますか。
石井 2つあります。1つは平成11年から始まった第1次「成功の鍵(KFS)作戦21」です。この全国的な活動に乗ることで、事務所体制が整い、KFSも飛躍的に伸びました。中でもFX2は、ある年には確定申告期にもかかわらず一気に14件導入し、活動期間3年間で60件増えました。
いま関与先の黒字割合は42~3%ですが、KFS推進活動をその頃からしていたからこそ、黒字企業の割合が30%を切るような中で、とりあえず40%を超えられていると思っています。もっと努力をして、1社でも多くの関与先を黒字企業にしていければと思います。
もう1つの転機は、平成21年に同じTKC埼玉西支部の西村篤会員と一緒に「むさし税理士法人」を設立したことです。
税理士法人設立を意識したのは当時事務所の中で税理士は私だけで、万一のことがあれば職員はバラバラになってしまう。経営基盤を強化し、それだけは避けたいというのが動機でした。また税理士1人でさまざまな企業ニーズに対応していける時代ではないとも感じていました。
実は西村先生とは、それまで支部の会合などでお会いしても、それほど話をするような仲ではなかったのですよ。ですが当時「原点回帰プロジェクト」の活動に一所懸命に取り組んでいる姿が印象的で、こういう先生と一緒になりたいと思って私のほうからアプローチしました。
──法人化して3年が経ちますが、いかがですか。
石井 最もよいのは物事を決めていくのに迷わなくなったことです。2人で相談するので決断が早くなり、すぐに実行に移せる雰囲気になりました。また事務所の拠点が2つになったので営業地域の広がりなど新しい展開が見えてきました。これは大きな転機となりました。
資金繰り支援のために事務所で1日融資相談会を継続実施
──関与先企業の特徴について教えてください。
2階建てのむさし税理士法人東松山事務所。
約200件の関与先を支援している。
石井 うちの税理士法人は埼玉県の東松山と坂戸に事務所があり、私のいる東松山事務所の関与先は約200件です。そのうち9割は法人で、個人は廃業のためかなり少なくなりました。
このような状況なので、関与先企業からは経営相談や資金繰りなど会社にまつわること全般へのアドバイスが求められています。ですから黒字化支援、経営改善支援に事務所全体で取り組んでいます。
──事務所のホームページを拝見すると、そのためのセミナー開催も積極的に行われているようですね。
石井 関与先の社長を対象に「会計を経営に活用する経営者勉強会」と題するセミナーをここ数年事務所で実施しています。1か月に1度、半年間の開催です。
このセミナーの目的は社長に金融機関等に自社の現状を自らの言葉で語れるようになっていただくことです。ややもすると私たち税理士が代わりに話してしまいがちですが、それでは思い込みで話してしまう部分もあるでしょうから。やはり会社のすべてを知っているのは社長。数字の面から会社のことをうまくアピールするお手伝いをしたいと思います。
すごく反応のいい社長もいます。基本的に私ではなく職員が講師をしているのですが、たいてい終了時間を過ぎても終わらない。研修室のある2階に様子を見に行くと真剣な質問が続いているのです。そういう社長が1人でも多く出て、強い会社、黒字企業につながればと思います。
また資金繰り支援として事務所で、埼玉りそな銀行や日本政策金融公庫による1日融資相談会を年に1、2回実施しています。必ず数社融資になります。
さらに企業再建も課題です。企業再建コンサルタントの川野雅之さんの研修には複数の職員を参加させましたが、このテーマに力を入れるのは経営に行きづまっても社長に最悪の選択をしてほしくないからです。そうならないように再建の手法は今後も学び、事務所の強みとしていくつもりです。それで金融機関から紹介をいただくケースも増えてきています。
コストの安さと複数拠点への対応で導入
事務所経営に「機動性」が出てきた
──さて現在、FX4クラウドを事務所と関与先さんそれぞれで利用されていると伺っております。まず事務所に導入されたそうですが、そのきっかけは何ですか。
関与先向けセミナーや金融機関による
「1日融資相談会」で使う研修室
石井 以前から事務所の財務処理においてFX4(従来版)を利用し、早くから部門別予算管理を実施していました。税理士法人を設立して事務所の拠点が東松山と坂戸と2か所になり、2つの事務所の会計の部分を見られるのはFX4しかないと判断したからです。
それが今回、サーバ保守満了に合わせてFX4クラウドへ移行し、東松山事務所、坂戸事務所で運用を開始しています。またなんといってもFX4クラウドは初期費用が安く、入れ頃だと思いました。
──実際に利用された感想は?
石井 部門別管理はやはりいいですね。またFX4(従来版)と比べてサーバがないのは決定的な違いで、インターネット環境があればタイムリーにどこからでも見られる。そういう意味で以前と比べて事務所経営にも機動性が出てきたと思います。
──FX4クラウドは今後の事務所経営においてどう役立つとお感じですか。
石井 優良関与先の離脱防止だけでなく、むしろ優良関与先を集めてくる手段になると思います。中堅企業で他社システムを使っている会社があるとしたら、TKCシステムなら税務と会計がバラバラではなく連動し、いろんなことができる点はアピールポイントになります。
また実際に事務所で利用して感じるのは、会計事務所にとってもFX4クラウドはかなりいい。時代のトレンドであり、主流となりつつあるクラウドを勉強するためにも使ってみてはどうかと思います。MR(マネジメントレポート)設計ツールを使えばもっといろんなことができる。きっとお客様にも自信をもってすすめていけると思います。
「会社を大きくし店舗を複数出したい」という社長には迷わず提案したい
──関与先企業さんにFX4クラウドを導入されたばかりだそうですが。
石井 TKCの中堅企業担当者からシステム提供開始の案内を受け、所内研修を2回開催してもらいました。そして関与先の中で平成24年4月以降の消費税法改正の影響を受ける20社ほどを選定し、その後消費税の対応の説明と併せてFX4クラウドを提案したのです。その結果、人材派遣業の1社がこの4月から導入されました。
──導入の決め手は何でしたか。
石井 大きく3つあります。1つ目は、埼玉県外に新たに営業所を設けたので、その営業所とも会計を含めたやり取りと経営状況をスムーズに分かるようにしたいということ。複数の営業拠点があり、将来は拠点ごとに経理をさせ、営業責任者にも業績管理を通じて経営感覚を持たせたいということです。
2つ目は、人材派遣という業種の特性上、給与体系が特殊で、PXは入らなかったのです。そこで社内で発生するさまざまな支払い業務をFX4クラウドで合理化したいということです。
3つ目は、売り上げや給与など、現在手入力している仕訳をファイル連動により合理化したいということでした。
ちょうど値段も安くなり、提案しやすい金額になっていたのは本当によかったです。
──提案の仕方などのポイントは?
石井 社長の要望をきちんとヒアリングし、その内容が会計、経理の視点から間違いないかなどをアドバイスするようにしました。かなり興味を持って聞かれていて、期待感をすごく感じました。
──FX4クラウドは、どのような企業が向いていると言えますか。
石井 実際に提案・導入して感じたのは、FX4クラウドは会社の大きさや業種だけでは判断できないということです。今回導入した会社も、大きさだけで見ればFX2で間に合う規模です。
ポイントは経営者が会社の将来をどう考えているかどうかです。つまり、これからさらに伸ばしていきたいのか、それとも自分が引退するまでやっていければいいのか。前者の会社を大きくして複数の営業店を出していきたいというような社長には、規模にかかわらずFX4クラウドがよいと思います。
FX4クラウドは上手に利用してもらえれば、非常に効率的な経営を可能にするでしょうし、FX2以上にいろんな使い方ができると思います。たとえばFX2は巡回監査中に複数人で使えませんが、FX4クラウドなら複数人で見られる。今後もその企業にとって最適なシステムは何かを考えて提案していくつもりです。
FX4クラウド導入のポイント
導入先の決め方
消費税法改正で影響を受ける20社を選定し、その説明と合わせてFX4クラウドを提案。提案においては社長の要望もヒアリングし、会計、経理の視点からアドバイスを行う。
メリット
①初期費用が安く導入しやすい
②サーバがなく、いつでもどこでも閲覧可能
③税務と会計が一気通貫で優良関与先を集められる
チーム制と全職員参加の研修、業務標準化による「総合力」で戦う
──事務所の翌月巡回監査率は90%を超え、また関与先さんの大半にKFSを推進されていると伺っております。所内体制について教えてください。
石井 継続MAS、FX2自計化、書面添付の推進委員会を作るなど体制作りには力を入れてきました。これは先代からの伝統で、私も踏襲しています。
いまはチーム制を敷き、3チームで動いています。チームの長の下に3、4人いて、60件くらいの関与先を担当しています。各チーム長が推進目標を決め、実績や進捗率を確認しています。
ポイントは担当者1人ひとりではなくチーム全体として関与先を見ていることでしょうか。もちろん巡回監査など通常業務は1対1ですし、複雑な事案のケースは別ですが、関与先からの問い合わせに担当者不在で答えられないということをなくしたり、チームのメンバーが休まなくてはならなくなった場合も代わりにサポートできるようにしています。
──そのためには業務の標準化も大切になりそうですね。
石井 OMS(税理士事務所オフィス・マネジメント・システム)にすべてのシステムを乗せればスムーズに標準化できます。スケジュール管理や情報共有だけでなく、各種データの切り出しやエキスパートチェック機能も便利です。
また巡回監査は巡回監査支援システムによって標準化を進めるとともに、3年前から質向上とスピードアップに取り組んでいます。具体的には書面添付はもちろん、もう少しふくらみを持たせて継続MAS、FX2自計化など経営支援に関するすべてを巡回監査の時間に割り当てて、それをできる限り正確に早く行っていこうということです。その細かいマニュアルをつくっているところです。
さらに、業務の標準化には各人のスキルアップも欠かせません。そのために基本的に月に1回、生涯研修や外部研修に参加してもらっています。
特にTKC実務試験には合格するまで挑戦することとなっています。いま16人の職員のうち5人が上級試験合格者で、中級試験には新人の職員を除く全員が合格しています。今後は「巡回監査士」も目指していきます。
ちなみに私の事務所では、総務の人間にも中級試験の受験や生涯研修への参加をさせています。企業防衛制度など保険指導についても総務の人を含めて全員がライセンスを取得している。直接的には関係ないでしょうが、事務所レベルの底上げにつながると思うからです。
ほかにも、入所2、3年経った職員にはTKC出版の「自分再発見研修」に必ず参加させています。この研修には全員最低1回、多い職員は2回行っています。
──職員錬成を重視されているのですね。
石井 ええ。うちの事務所の強みは一言で言うと職員でしょう。総じて新しい業務にも前向きに取り組んでくれます。
中には引っ込み思案の人もいますがそれぞれに個性を持って、強みを持っています。だから西村先生とよく言うんです、「うちの法人は税理士はだめだけどさ(笑)、『総合力』でいくとそう簡単には負けないよね」って。やはり会計事務所は税理士の力だけではなく、職員1人1人の力が結集した「総合力」があって、初めて業務として成り立ち、いろんなことが生きてくるのだと実感しています。
所内には「創業・経営革新アドバイザー認定証」や「翌月巡回監査率90%超達成証」
のパネル。職員錬成を継続し今後は「巡回監査士」取得にも力を入れていくという
税理士法人はFX4クラウドが最適!
──今後の事務所経営のビジョンをお聞かせください。
石井 これからも1社でも多くの関与先が黒字企業になるように努めていくつもりです。そのために経営課題をきちんと見つけ、会社がよい方向にいくサポートをしていきたいと思います。また後継者不在で事業をやめる関与先があるとしても、よいリタイアの仕方を提案していく。そういうこともきちっとできるようにしていきます。
それと同時に、中小企業の経営者には、会社を伸ばすために会計にもう少しお金をかけてほしいという思いがあります。会計というのは会計ソフトだったり、場合によっては人材であるかもしれません。
そういうところにお金をかけてこなかったから記帳代行という流れがあったわけですよね。これまではそれで済んできましたが、これからはきちんと数字を管理して努力しないとやっていけない時代だと本当に感じます。
ですから私たち会計事務所側もそれを促して、早く社長に自立してもらうようにしていかなくてはならない。自計化システムとして新たにe21まいスターなども提供されたので、全力でサポートしていくつもりです。
また事務所にFX4クラウドを導入したのは、税理士法人として拠点を広げていくことが視野にあったからです。企業のニーズにこちらの受け皿を広げて対応するには、税理士法人の会計システムとしてFX4クラウドを使う以外にはないと考えています。事務所の「総合力」と、FX4クラウドによる「機動力」を強みにして、関与先拡大にもつなげていきたいと思います。
関与先の黒字化支援に全力を傾けるむさし税理士法人東松山事務所の皆さん
(TKC出版 清水公一朗)
立教大学法学部卒業後、昭和57年先代の石井健三税理士事務所入所。平成15年TKC入会、石井健三税理士事務所所長に就任。21年むさし税理士法人代表社員に就任。TKC関東信越会企業防衛制度推進委員長、埼玉西支部副支部長を務める。55歳。
むさし税理士法人 東松山事務所
所員数17名。関与先数約200件
住所:埼玉県東松山市西本宿1968-1
電話:0493(34)4231
(会報『TKC』平成24年6月号より転載)