独立開業
ニーズに応じたTKCシステムの活用で「頼りがいのある事務所」を目指す
重点活動テーマ・ニューメンバーズ部門受賞者が語る
とき:平成23年4月18日(月) ところ:TKC東京本社
TKC全国会では、会員事務所による重点活動テーマの推進を後押しするため、翌月巡回監査率やKFSの推進実績等に基づく表彰制度を設けている。今回、ニューメンバーズ部門(平成21年~平成22年の実績を対象)で受賞した3名の会員が集まり、TKCシステム活用など事務所経営全般における取り組みについて語り合った。
出席者(敬称略・順不同)
【翌月巡回監査率90%超達成】
第1位 柳田幸紀(城北東京会豊島支部)
【書面添付純増件数】
第1位 江見匡史(中国会岡山県支部)
【継続MAS純増件数・FX2純増件数】
第3位 河村達一郎(中部会名古屋中央支部)
司会/ニューメンバーズ・サービス委員会
委員長 畑 義治(静岡会)
TKCに入会して一番良かったところは会員同士の繋がりが強いこと
──本日は、昨年のニューメンバーズフォーラムにおいて、重点活動テーマ・ニューメンバーズ部門(書面添付純増件数、翌月巡回監査率90%超達成、継続MAS純増件数、FX2純増件数)等で高い実績を挙げ、受賞された3名の皆さまにお集まりいただきました。
まずは自己紹介を兼ねて、事務所の特長などをお話しください。
柳田幸紀会員
柳田 事務所の職員は25名で、税務官公署出身の税理士が1人います。関与先は法人が250件、個人が確定申告ベースで550件です。平成20年3月にクレア池袋会計を開業。22年1月に、私が以前勤めていた埼玉の事務所を承継し、税理士法人YFPクレアを設立しました。
現在、法人の月次決算に伴う利益計画と資金計画に力を入れていて、月次巡回監査を中心に、継続MAS等を活用した事務所経営を行っています。関与先は不動産オーナーの案件が多く、法人・個人合わせて約半分は資産税の案件です。質の高い資産税コンサルティングを目指しています。
河村 事務所はまだ職員はいません。平成21年9月の開業から1年半ほど経ちました。関与先は24件です。信用づくりをベースに、独立したときから「お客様目線で頼りがいのある事務所づくり」を心掛けています。
最初に関与した十数件は、以前働いていた事務所から、引き継ぎました。オールTKCの事務所から独立し、TKCオンリーの事務所経営ができたことが、本当に良かったです。
江見 私は税理士登録が平成12年で、11年経ちます。現在職員が3人。関与先は個人、法人合わせて約70件です。
今年の事務所の方針として、相続税の改正を見越して「資産税に重点を置いた活動をしよう」と職員と話し合いました。関与先にとって一番の理解者であり、相談役でありたいという方針です。
──皆さんがTKCに入会したきっかけと、入会後の感想をお聞かせください。
江見 TKC入会は平成20年の秋です。きっかけは、岡山県青年税理士クラブのゴルフコンペで仕組まれていたことです(笑)。そのときのグループのメンバーが、私以外全員TKC会員でした。昼飯のときに「明日、岡山SCGサービスセンター長を事務所に行かせるから」と言われて、安直な話ですが、次の日にそのまま入会しました(笑)。
税理士登録前に勤めていたときから他社システムを使っていて、TKCシステムは入会後に初めて使いました。以前は、税理士会の限られた人間関係の中で、事務所経営に関する相談なども特定の人にしかできませんでした。それがTKCに入会してみると、血縁的集団で会員同士の繋がりがとても強かった。入会して一番良かったのはそこですね。
TKC岡山県支部は、毎月「OPMC」というニューメンバーズを含めた勉強会が開催されています。ニューメンバーズのフォローセミナーも、月1回くらいのペースで開催され、とても役に立っています。
河村 職員時代にペーパーレスの決算をどのように組めば効率化できるのかを考えていたのですが、TKCシステムならSCGサービスセンターの社員との信頼関係もあるので、安心して事務所をつくっていけると思っていました。単に初期投資を安くすることよりも、それ以降にかかるランニングコストや時間の手間を考え、他のシステムの話はいっさい聞きませんでした。
TKCの入会日の関係で、TKCの請求書が退職金が出る前にきて、独立当初資金難に陥りました(笑)。資金繰りが大変なときもありましたが、迷いはまったくありませんでした。
柳田 私は、合併した事務所に3年と、東・東京会会長の須貝好明先生の事務所で4年間修行した後に独立しました。オールTKCの事務所からの独立で「登録、開業するときはTKC」と決めていました。開業と同時にOMSも入れて時間管理、直間比率の検討を行いました。とても管理しやすく、特に「所長ボタン」の機能を活用してみてそのことを実感しました。
ニューメンバーズのフォローセミナーなどの研修を通じて、他の会員の方々との出会いもあります。それがなければまったく事務所経営ができないと言ってもいいくらい、いろいろなことを教わっています。
巡回監査に行ったときに必ず翌月の日程を決めるのがポイント
──柳田先生は翌月巡回監査率90%超達成ですが、特に留意点はありますか。
柳田 一番大事なことは「月次決算をどこまで早く正確に行うか」ということ。まずは巡回監査を実施する関与先には月次決算をして、月の利益を確定することを説明します。それを出すことで資金繰りなどの話もできて、未来会計の話にも繋げていくことができます。そうなると、翌月に巡回監査を行うことは必然という結論です。月次決算で翌月に巡回監査をしないのであれば、年1回の決算で良いと思うので、そういうところ以外は必ず毎月を推奨しています。
──巡回監査体制にのせるまでの苦労はありませんでしたか。
柳田 初期に私が担当した関与先は、FX2で自計化してから3か月くらいの初期経理指導で巡回監査体制にのせていったので、翌月巡回監査の実施という点では、私1人の頃の方がむしろ楽でしたね。今は職員から「先方の都合で行けません」と言われると「先方の都合なんかないよね」と思いながらもそうは言えずに苦労しています(笑)。
事務所の翌月巡回監査率は95%前後で、一時期は100%のときもありました。とにかく巡回監査をすることを全員に意識付けしてしまえば、自分を含めてやるしかなくなります。関与先によっては日程がずれ込むときもありますが、「なぜ、巡回監査が必要なのか」を何度も説明し、それを見越したスケジュールを組むように指導しています。
河村 私はまだ1人なので、予定変更の場合に自分も予定が入っていて、月内の調整がきかないことがあります。今後職員が入ればそういうところを上手く組み替えていけるのかなと思っています。
江見 うちの事務所は全員がTKCシステムに不慣れなところからのスタートで、勉強しながら関与先に教えていました。そのため当初はどうしても翌月からはずれてしまうケースもありました。
今は巡回監査に行ったときに、必ず翌月の日程を約束してくる形をとっています。そうすると、経営者も「この時までにせんといけん」と、分からないことや相談事を整理しておいてくれます。日程を決めることは、職員自身が入力マシンにならず、提案や指導をする立場であることを再確認する動機付けにもなります。
書面添付は所長の決断 難しいことだとは思いません
──江見先生は書面添付純増件数で表彰されましたが、巡回監査をきちんとできるようになれば、書面添付にも繋がりますよね。
江見匡史会員
江見 実は前の他社システムを使っているときは、書面添付はまったくしていませんでした。制度自体ほとんど知らなかったと言ってもいいですね。
入会1年目は、私を含めて職員がまずTKCシステムを知らないといけません。ですから、書面添付や電子申告はさておき、事務所としてシステム導入に力を入れました。それが一段落した次の年から電子申告。そして去年から書面添付を始めました。段階的に始めていったので、結果的に書面添付が純増したのだと思います。すべて、スケジュール通りに進めていこうと決めていました。
書面添付は、基本的に普段巡回監査をしている内容を書くだけのこと。所長の決断しだいで「今年から書くぞ」と言えばいいので難しいことだとは思いません。例えば「新しい保険契約の時、保険証券を見て確認しただろう。それを書きなさい」というように、普段していることをそのまま書くように指導しています。
──そういう気持ちでやってみると、書面添付の件数は増えますよね。
江見 ただし「前年比売上が何%アップした」など、決算書を見れば分かる内容については、どうしてアップしたか、何の科目が増えたかというところを具体的に補足して書くように指導しています。そういう決算書に表れないところは、税務署も見ているのではないでしょうか。
柳田 うちの事務所は今年の3月で3年目を迎え、4月の会議で職員に書面添付を推進するように伝えたところです。
河村 私は、開業時に引き継いだ関与先で、もともと書面添付をしていたところには継続して付けています。昨年、特別国税調査官の意見聴取があり、税務署に行って2時間くらい話をしたことがありました。「この科目の数字が増えているけど何で?」と聞かれて説明した後は、その部分の調査はありませんでした。
金融機関からも「書面添付の内容を見ました」と言われることがあります。決算・申告書自体の精度がどれくらいなのか、きちんと書けていることが分かるところが書面添付のいいところです。書面添付をするメリットは大きいと思います。
継続MASの5か年計画では資金計画のニーズの高まりを実感
──河村先生は関与先にFX2を導入する際に工夫した点はありますか。
河村達一郎会員
河村 FX2は18件に導入しています。導入の際、毎日入力していただく仕訳数をもとに「FX2では、資金繰り計画表が作れます」というと、経営者から興味を示してもらえます。さらに「それをもとにキャッシュを残すためのお話をしていきましょう」と説明をしたところ、社長から「頼りがいがあるね」と言ってもらえました。これは、FX2を導入したからこそだと思います。
FX2で自計化している分、私のアドバイスの時間を増やせることで、巡回監査の効果をより発揮できることも併せてご説明するようにしています。
柳田 FX2の導入に限りませんが、他の税理士から移ってきた関与先に対してTKCシステムを導入する際、まずはどこに不満を感じていたのか見極めることが、最初の交渉になります。今まで通りがパーフェクトだと思って移ってくる方はいません。例えば、月次決算していても部門管理をしていなければ「部門別の予算を組みましょう」と提案をするなど、お話し合いの中でニーズを聞きだすようにしています。それに合うシステムを導入することで「やっぱりFX2がいい」と思ってもらうことがポイントだと思います。
江見 私の事務所では、他社システムで自計化していたところをTKCシステムへ移行することが今の課題です。関与先から「これまでのシステムでいいじゃないか」と言われて、なかなか進んでいないところもあります。
柳田 うちは、他社の車検システムと連動した会計システムを使っている関与先がありましたが、社長の代替わりのタイミングで新社長にFX2で見積もりをだしているところです。
江見 代替わりのタイミングだとスムーズに移行できますよね。私も、DAIC3(建設業用会計情報データベース)を入れようとしている関与先がちょうどそのタイミングです。昔のオフコンからの移行で、結構苦労しています。
──システム移行についてはご苦労もあるかと思いますが、FX2にすれば変動損益計算書を活用できるなどのメリットも多いですよね。継続MASについてはどのように活用していますか。
河村 新工場を建てると決めていた関与先で、数億円程度の融資を受けるために必要でした。その計画書を基に金融機関2行と交渉し、本社ビルの建設費にかけられる予算が決まり融資が下りました。その結果、規模を見直しましたが、建設費の交渉も行い、社長の思い描く立派な工場ができました。
──継続MASを使った5か年中期経営計画は何社くらい作りましたか。
河村 3社です。関与先の中でも社長さんと奥さんだけのような会社は四半期業績検討会のニーズがそれほどなく、毎月の巡回監査で事足りてしまいます。そういう関与先には、月次でまずは予算を入れておくようにします。そして、思い描いた通りに業績が達成できているか毎月確認していただきます。
また、昨年継続MASの「5か年中期経営計画書の印刷」で、決算書形式で出力できるようになったので、金融機関にもそのまま見てもらえるようになりました。
江見 継続MASを使って、社長のイメージを具体的な数字に落とし込んだ予算を見せることで、すごく喜んでもらえます。例えば卸売業だと粗利1%でも大きな違いです。社長は、粗利が去年と比べて何%になるのか把握しておきたいし、その数字は当然従業員に対する目標数値にもなります。
また、それがあると金融機関の反応も違ってきます。利益計画まできちっと立てて前年対比を出すことで、融資が満額おりたときにはとても喜んでいただきました。我々にとって「頼んで良かった」と言われることは一番嬉しい一言ですね。
柳田 うちは継続MASを使い決算前業績検討会を全社にしていて、私も職員と一緒に同席しています。
去年、新規で3、4社の5か年中期経営計画を立てましたが、利益計画より特に資金計画のニーズが高まっていました。投資した分が見合うか、借入金の返済でしっかりキャッシュが回るのかを経営者は特に気にされているようですね。
支部例会などには極力参加それが自分自身への意識付けに
司会/畑 義治NMS委員長
──事務所経営の目標と課題、ニューメンバーズ会員に向けてアドバイスをお願いします。
柳田 最近は、特に古い関与先の廃業による減少が多く、減る分は必ずその倍に増やしたいと思っています。職員の給料を上げていくためにも、しっかりとした仕事をして関与先数を純増させていくことが数字面での目標です。
それに対する課題は、周りのニーズの変化を見極めること。相続についても「資産を極力保有したい」という意識から、息子や孫の世代のために「資産をどう活用していくか」ということに変わってきています。昔のままではなく、今に合わせたサービスの提供ができるように、自己研鑽を積み、お客様に喜んでいただくことを徹底的に追求していきたいと思います。
事務所経営には当然数字がつきものです。数字をやみくもに追う必要はないと思いますが、表れた結果としてそれを謙虚に分析して頑張っていけば、必ず良い事務所になると信じています。
河村 独立してからは、特に創業間もない方のマーケティング支援に力を入れてきました。私は性格的に足場を固めてから進んでいく方なので、3年目までにじっくり事務所の強みをはっきりとさせていきます。それを把握し、マーケティング&キャッシュフローで「攻めも守りもできる税理士」になることが目標です。いずれは税理士法人を設立したいと思いますが、職員の新規採用を含め、事務所の形づくりが今後の課題です。
これまで、支部例会など声をかけていただいたものは極力参加するようにしてきました。それが自分自身への意識付けにもなります。ニューメンバーズの皆さんにもまずは支部例会、研修会には原則参加して、TKC会員の温かさを確認してほしいと思います。
江見 私の事務所は自計化率がまだ3割ちょっとなので、それを5割以上に上げることが今の目標です。入力にかける時間を管理会計の助言時間に充てることで、事務所業務の合理化を進めたいと思います。そのためには、TKCシステムでまだ活用できていない部分をレベルアップすることが必要だと痛感しています。
私の経験から言えることは何事も参加することです。それがスタートだと思います。あとは、TKC理念に基づいて活動すること。TKCの言う通りにやってみたら、実際にその結果関与先が増えました。ニューメンバーズの皆さんも、まずは実践してみるのが一番です。
──ニューメンバーズ会員は、せっかくTKCに入会したのですから、3年間TKCの諸活動(研修・支部例会)、特にニューメンバーズ・サービス委員会が主催するフォローセミナー等の活動に積極的に参加することが、事務所発展のポイントです。ニューメンバーズのメリットを最大限活かして徹底的に取り組みましょう。
(構成/TKC出版 益子美咲)
(会報『TKC』平成23年6月号より転載)