独立開業
大海原に放り出されたようだったがTKC入会で方向性が明確になった
新規開業会員が語る
各地で活躍するニューメンバーズ会員の中には、独立して新規開業をしたばかりの会員も多い。TKC会員事務所での勤務を経て新規開業した3人が、TKCシステムの導入や関与先拡大の工夫など事務所経営について語りあった。
出席者(敬称略・順不同)
石川大輔(東北会青森県支部)
谷口勇一(北陸会石川県支部)
清末和弘(九州会大分支部)
司会/ニューメンバーズ・サービス委員会副委員長
田口 操(東・東京会)
1回しかない人生なので
自分の能力の限界に挑戦してみたい
──本日は、新規開業されたニューメンバーズ会員の皆さまにお集まりいただきました。まずは、自己紹介をお願いします。
谷口 石川県の加賀市から参りました谷口と申します。平成18年の10月に税理士登録と同時に入会して、3年7カ月経ちました。職員は3名で、関与先約50件は個人と法人が半数ずつです。お客さまからご依頼をいただいたときは、月次決算と自計化を前提に事務所の方針をご説明して、ご了承いただけない場合は関与をお断りすることもあります。例外なく、月次決算と自計化を積極的に推進していこうと思っています。
清末 九州は大分県別府市より参りました清末と申します。職員数は3名で関与先は法人30件、個人13件の計43件です。平成21年1月に独立開業後、同年3月に事務所を建設しました。地元にしっかり根をおろしてやっていこうと決心したことが、事務所経営の原動力になっています。開業から1年3カ月が経過し、毎月、関与先が平均1.7件から2件増加しています。ホームページにも掲載している、経営理念6箇条と、事務所のクレド(信条)として「数字に強い社長を輩出すること」など7項目を掲げていて、CS(顧客満足)とES(従業員満足)の両立が重点課題です。
石川 青森県下北半島の恐山のふもとに事務所があります。昨年1月末日付けで、税理士登録し独立したばかりで、職員数は1名、関与先はゼロからスタートし、先日やっと20件になりました。事務所の特徴は、司法書士などの他士業と同じビルの中に事務所を構えていることです。現在、特に力を入れていることは、関与先の満足度をアップさせて、そこから新しい企業をご紹介いただけるようなサービスを提供することです。
──皆さんが独立して新規開業を目指され、その後TKCに入会を決めたのはなぜですか。
谷口 大学卒業後、地元の新聞社で5年ほど、販売店に新聞を卸す営業の仕事をしていました。あるとき上司から新聞販売店を始める際の初期費用の見積書を作成する仕事を任され、簿記を勉強したことが税理士を志すきっかけとなりました。そして、手に職をつけ、いずれは独立して仕事がしたいと考え新聞社を退職。その後、税理士法人トータル・ブレーン(所長:吉田功会員)に入所し、税理士業務イコールTKCの環境で働くことになりました。
独立する際は、なんの躊躇もなくTKCへの入会を決めていましたので、他社システムとの比較はしませんでした。入会後は、TKC北陸会で開催された、ニューメンバーズの合宿研修に4回参加し、とてもいい刺激を受けることができましたし、会員相互の話し合いの場がある点がとてもいいと思います。
清末 独立して新規開業に至った理由は、自分がどこまでできるのか、1回しかない人生なのでチャレンジしたいと思ったことです。今は、厳しい時期なので「独立しない方がいいのでは」と言われることもあったのですが、最終的には自分の能力の限界に挑戦してみたいという気持ちで決心しました。
入会のきっかけは、TKCシステムを全面的に活用している税理士法人大分綜合会計事務所(所長:蔵前達郎会員)に勤務したことです。そのときの経験が今の自分を支えてくれているので、とても感謝しております。独立後は、OMS2000(税理士事務所オフィス・マネジメント・システム)の導入を8カ月ほど躊躇してしまったのですが、実際に導入して活用してみると本当に便利で、もっと早く導入すればよかったと、後になって後悔しました。TKC会員以外の事務所での勤務経験もありますが、巡回監査をしっかり行うTKC会員事務所に勤務したことで、関与先との関係をより深く築くことがとても大事だと気付きました。また、大分SCGサービスセンターの芳賀センター長をはじめ、担当SCGの諸永さんがいつもバックアップしてくれています。
石川 私の場合は、亡くなった父の影響で税理士を志しました。父は司法書士で弟もそうですので、一族として「士業に就く」という使命感があり、それ以外は頭にありませんでした。そして、TKC会員の事務所に勤務し、約10年修行させていただいた後に独立に至りました。
TKCに入会する前は少し迷いがありましたが、青森SCGサービスセンターの担当SCGのお話がとても分かりやすく、おまけに開業を迷っているときには、支部長をはじめ何人もの方が事務所に来てくださって、「不安なのは分かるけど、こういう方法もあるし、こういうところをバックアップしますよ」という強力な後押しをいただいたことで、昨年3月にTKCに入会することを決めました。実際に入って先輩方と接していると、年齢に関係なくざっくばらんに話してくださいますし、面白いし温かい人が多いという印象があります。積極的にTKCのシステムを導入したところ随分便利で、スムーズに仕事を進められるというのが正直な感想です。
巡回監査を任せられる職員を増やすことが課題
──巡回監査、KFSや電子申告を推進されるうえで工夫した点や苦労した点について教えてください。
谷口 最初に関与したのは、実家の呉服店を含め計3件でしたが、一度上げた生活の質を落とすことができないのと一緒で、自分の業務水準をダウンさせることには抵抗があったため、職員時代と同じシステム環境を整えました。お金はかかりましたが、OMSの導入は必須だと考えたからです。最初に苦労した点は、FX2による初期指導のときに、関与先に入力の方法をどう伝えるかということ。電話で説明してもなかなか伝わらないからといって、すぐに出向くようにしてしまうと、月に何回も同じ関与先を訪問することになりかねないのでその対応にとても苦労しました。
勤務時代から巡回監査支援システムを活用していたので、入力が整ったところから随時導入しましたが、ものすごく使い勝手がよいので助かっています。一番よいと思ったのは、それまで修正すべき点を手書きの報告書で「直してください」と伝えていたものが、巡回監査支援システムを使うと、修正入力できれいに、そのまま活字になって出力できるところです。開業したときから関与先全件に導入するつもりで、関与先にプリンターがなくて出力できない場合でも、巡回監査支援システムと手書きのものを併用して使っています。職員も入所時から使用していますので、「巡回監査支援システムがないと監査しにくい」と言うほどです。導入しはじめの関与先は、特に修正箇所が多くなるので時間がかかることもありますが、例外を作らず、最初から統一しようと職員に話をしています。
書面添付については、職員に全件実施するように呼びかけましたが、逆に「基準を設けて実践していこう」という提案があって、事務所で設定した一定の基準をクリアした関与先から実施することに決めました。そうでないところには、基準に達するよう、関与先社内の管理体制についてアドバイスさせていただき、できた時点で書面添付を実施しようと考えています。
石川 私は、関与が決まった時点で、まずFX2の導入を考えます。新規設立や法人成りをしたばかりのところにはスムーズに導入が進みますが、社長がパソコンを触ったこともないような関与先などには、説得に苦労する場合もあります。また、他社システムで自計化しているところには、システム更新のタイミングを掴んで「導入しましょう」と話を切り出し、システムの移行をすすめるようにしています。
継続MASについては、FX2の関与先だけではなく、財務エントリの関与先にも積極的に導入をすすめています。最初の経営計画はこちらで策定し、月次のオリジナルのマネジメントレポートに表紙をつけて、同じ形式の報告書を渡すようにしています。そして、「年度計画を作りましたので、気に入らなかったら言ってください」と提示しサポートします。
清末 巡回監査とKFSの推進は、TKCの理念とシステムに沿って行い、特に、巡回監査は全ての業務の基本として実践し、自計化にも重点を置いています。自分自身が、関与先に直接TKCシステムを導入していますが、関与先には、随分システムを使いこなしてもらっています。これからの課題は、そういった業務を任せられる職員を育てていくことです。
──職員教育は時間とお金がかかる部分だと思います。ニューメンバーズの方は特に悩まれるところですが、皆さんはどうですか。
谷口 関与先に毎回私が行くことはできないので、職員に任せる部分が必要です。それでも最低1、2カ月に1回顔を出して、あとは、電話やメールでこまめに連絡するようにしています。その他には、関与先で決算対策会を開くので、そのときには必ず行くようにしています。職員を育てるためには、べったりしすぎるのではなく、同じところに巡回監査に行く場合でも、途中まで監査の様子を見た後は職員に任せて先に帰るなど、徐々に独り立ちさせるようにしています。
清末 会計事務所の経験者ではない職員を採用したので、一から教育しているところです。巡回監査支援システムを活用し、業務品質のレベルを上げるように取り組んでいます。事務所のホームページに関しては、職員を事務所内の「システム委員長」に任命し、SEO(検索エンジン最適化)対策などを任せています。
石川 私はまだ関与先が20件なので、今は全て自分で巡回監査に行きますが、清末先生と同じように、職員教育に関しては今後の課題です。
事務所の存在をアピールするため
看板に似顔絵を大きく掲載
──これまでは、事務所の所内体制についてお話を伺いました。それぞれの事務所経営をしていくなかで、お客さんからの評価につながった事例や、関与先の拡大につながった方法など具体的に教えてください。
谷口 私の事務所では営業活動としてではなく、どう広報活動をするかと考えます。その一環として、開業当時から無料ミニセミナーを2、3カ月に1回行っているのですが、講師は私が担当することもあれば、知人にお願いするときもあります。これまで「クレーム対応」「営業力を高めよう」などのセミナーを9回開催し、よい反響がありました。セミナーの内容もさることながら、開催のご案内を名刺交換させてもらった人に送ることなどの広報活動に意義を感じています。通勤時にジョギングしながらポスティングをして配布することもあります(笑)。
他には、地域の会合などにも積極的に参加し、地元のライオンズクラブや商工会議所青年部にも入会しました。いろんなところに顔をだして、まずは知ってもらうことが大事だと思います。今まで挑戦したことのないことにもどんどんチャレンジして、めげずに新しいことに取り組むつもりです。
清末 私の事務所では、営業らしい営業はしていません。関与先を大事にすることが一番だと思っています。ただし、会計事務所も、今後はマーケティングを行うことが重要だと思いますので、事務所に「マーケティング推進委員会」を設置するなどし、関与先を惹きつける魅力を、職員と一緒に作りあげていきたいと思っています。
事務所で意識して行っていることは、来客者が帰る際に、事務所スタッフが下まで降りて、社員全員並んでお見送りすることです。また、お客さまがいらっしゃったときは、ドリンクのメニュー表をお出しして飲みたいものを伺っているため、お客さまからは「インパクトがあっておもしろいですね」という反響をいただきます。ちょっとしたことですが、異業種のサービスなどをヒントに、なんでも積極的に取り入れていこうという思いです。悪ければ改善していけばいいので、そういう点でも今後勝負していきたいと考えています。
また先日、地銀の支店の行員さん5、6名を招いて、金融機関向けにセミナーを事務所で開催しました。行員の方と意見交換をする中で、事務所の経営方針についてもスクリーンを使ってご説明したところ、早速「1件紹介したい」とご連絡をいただくことができました。初めての金融機関向けのセミナーでしたが、こういうアプローチをすればいいのかと手ごたえを感じました。
石川 私が今実践していることは3つあります。それは、(1)地元の商工会議所となるべく親密になること、(2)事務所の看板を目立つよう奇抜にしたこと、(3)既存のお客さんに何でも話してもらえる関係になるように笑顔のコミュニケーションを心がけることです。商工会議所は、個人の納税者なので、そこから法人成りするときにご紹介が期待できます。中には、「経営計画を策定しなければいけないけれど、顧問税理士に聞いてもよく分からない」などの理由からきてくださった方もいます。
事務所の看板を奇抜にしたのは、事務所の立地が大通りの一つ裏通りに面していることから、大通りを通る人にアピールするためです。幸い事務所の裏が空き地になっていて、背面が繁華街から見えるので、大きめの看板に私の似顔絵を拡大して載せて、目をひくようにしたことで、知人からも「看板見たよ」と言われる機会が増えました。認知度を上げるために作った看板ですが、とても目立つので悪いことは絶対にできません(笑)。
「応援します! これからの経営」を
スローガンに関与先をサポートしたい
──今後の目標について、端的な一言をお願いします。
谷口 これからは会計事務所でも、関与先はもちろんのこと、地域の方に向けて「こういう情報がありますよ」と広く情報発信をしていくことが大事だと思います。そのためにも、インターネットの活用やホームページを使った情報提供などにも力を入れていきたいです。そして目標は、地域1番の事務所にすること。税理士事務所といえばすぐに思い浮かべてもらえる事務所を目指し、加賀市民に地元で就職したい、親の立場からも子供を就職させたいと思われる事務所にしていきたいです。それが、ひいては地域貢献にもつながるのではないかと考えています。
開業時を思いだすと、初めのうちは大海原に放り出されて手こぎボートでこぎ出したような状況でしたが、TKCに入会したことで進む方向性が明確になり、とにかく信じてやってきました。これが、最大の秘訣だと思います。それに加えて、自分のスタイルを貫き通すことで、お客さんも徐々に増えるのではないかと思います。
清末 事務所経営の目標は、TKC会員の方と税理士法人を作ることです。血縁関係がなくても、考え方が合う人と一緒に税理士法人化できれば、私に万が一のことがあったときにも、お客さんが安心してクライアントでいられる環境を整えることができると思います。そして、関与先拡大と職員教育の歯車がうまくあうようにすることが今後の課題です。そのうえでサービス業に特化し、究極的には「ホスピタリティ」を重視した経営を行いたいと思いますので、CSの満足を第一優先に、お客さまの満足度を高めていきたいです。
ニューメンバーズとして丸1年が経過して、多くの会員先生方とお会いし、いろんな刺激を受けることができたことが、今の自分を支えてくれていることに感謝の気持ちでいっぱいです。開業前は私自身もすごく不安があり、四国八十八カ所を1年間で全て回ってしまったほどでしたが、今はTKCが方向性を示してくれますので心強いです。
石川 ご縁があった関与先の満足度を少しでもあげるために、サポートしていきたいと思います。名刺にも「応援します! これからの経営」という言葉をスローガンに掲げているので、今後もそれを第一に考えていきたいと思います。税理士の数が少ない地域ではありますが、ぜひ税理士法人にしたいという目標があります。せっかく、司法書士や他の士業の方と同じビルに事務所がありますので、地域の方に「あの建物に行けば、なんでも事足りる」と思われるような、ワンストップサービスを維持していくことが目標です。
私もまだ経験が浅いので、同じ立場として言えることは、分からなくて当たり前だと思ってプラス思考で進めていこうということです。私自身それを一つのブレない軸として持って進んでいこうと思っています。
──「応援します! これからの経営」というのは、とても分かりやすくてよい言葉ですね。本日は、皆さんありがとうございました。
(構成/TKC出版 益子美咲)
(会報『TKC』平成22年7月号より転載)