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2010~24年の間に生を受けた「α(アルファ)世代」に対するマーケティングが注目を集めている。α世代の特長と他の世代とは異なる購買行動のパターンとは何か。若者研究が専門で昨年『新消費をつくるα世代』を著した産業能率大学の小々馬敦教授に話を聞いた。

プロフィール
こごま・あつし●1960年、東京都生まれ。2000年インターブランドジャパンエグゼクティブコンサルタント、05年プロフェット・ストラテジー日本代表、06年フューチャーブランド代表取締役社長。10年にブランドエンジニアリングを設立し代表取締役に就任。専門は企業ブランディングと次世代マーケティング。15年より現職。著書に『新消費をつくるα世代』(日経BP)など。
○○○○氏

小々馬敦氏

──2010年から24年生まれの「α世代」の特徴について教えてください。

小々馬 まずは人口知能(AI)との親和性が高いことが挙げられます。物心ついた時から日常生活の中でAIに触れてきており、親に買ってもらった最初の家電にすでにAI機能がついていたりします。学校で使うタブレットの中にも、塾で使うアプリにも、自室で遊ぶおもちゃにもAIが搭載されており、安心して使いこなしています。会話を通じAIが日常的に自分の好みをレコメンドしてくれるのを自然なこととらえています。以前開催したイベントに参加した小学生が、AIを「私のことを一番よく知っている話相手」と表現したことがとても記憶に残っています。二つ目はリアルとバーチャルの境目なく生活をしていること。学校に行く前にまず朝、ネットゲームで友達と遊び、学校に登校した後は実際にその友たちと遊び、放課後家に戻ってきたらまたゲームの中で遊ぶ──リアルとかバーチャルとかメタバースなどといった言葉を意識して区別をするのではなく、自然な形で境目なく生活しているのです。

──幼いころからデジタルツールを使いこなしているわけですね。

小々馬 はい。さまざまなデジタルツールを使うことで、「世界を描き出すクリエーター」としての側面を持つのもこの世代の特徴です。ある小学校では、フリーのアプリを使ってプレゼン用のスライドを自在に作成する授業を実施していました。また多くの子どもたちは、ブロックを使って自由に冒険や建築ができるゲーム「マインクラフト」に親しんでいます。デジタルツールを用いて自分の世界観に沿って思い立ったらとりあえず描いてみる、作ってみるクリエーティブな傾向が強いと感じます。
 AIに聞くことが日常になっていることから、答えありきで考えるのもα世代の特徴です。AIに聞けばすぐに出てくる模範解答に慣れているので、答えが出ない問いにモヤモヤすることが他の世代より多いですね。この点、教育的に「答えは一つじゃない」「みんな違ってみんないい」と教わってきたZ世代とは異なります。Z世代は自由に意見を出し合うだけで満足することが多いのですが、α世代は解決方法をまずAIで確認してから議論を始めることが多いようです。

課題解決の成果志向が強い

──Z世代との最大の違いは何でしょうか。

小々馬 Z世代であるゼミ生に聞くと、今の小学生と接した感想で一番多いのは、「成果志向が自分たちより強い」ことでした。Z世代は社会課題に対し非常に高い問題意識を持っているのですが、α世代は課題を解決する手段を探し出すところにより重きを置くというのです。やるべきことをすぐに決め、「誰なら実行できるか」「どの技術が必要か」などを議論するのに時間をかけるそうです。この社会課題を解決する成果志向が5つ目の特徴です。

──日本では少子化で人数が少ない層になりますが、α世代がマーケティング上重要な理由は?

小々馬 企業のなかにはα世代が消費の主役になるのはまだ先のことととらえているところもあります。しかし25年、α世代のなかには15歳になり生産年齢人口に含まれる層も出始めます。さらに数年がたてば新卒で企業に入社してくるし、顧客としても現れてくる。あっという間の出来事だと認識したほうがよいでしょう。
 もう一つは、Z世代もα世代も親や家族と非常に仲が良い傾向が強いということ。α世代の親の世代は、日本では2,500万人ほどいるY世代(ミレニアル世代)にあたりますが、この世代は購買力を持っています。そしてこのY世代は子供たちであるα世代の影響を大きく受けることが分かっています。そして彼らは親の価値観を子供に押し付けるのではなく、親が子供の価値観を尊重し、さらには新しい時代に合わせ自分たちの考えや行動をアップデートしている世代です。デジタルやAIのリテラシーが高いお子さんの横で親も一緒にリテラシーが高くなっていき、心底子供たちを応援していくという気分が強い。つまりα世代市場は、親のY世代さらにはその上の団塊ジュニア世代を含む大きなマーケットへの入り口になっているのです。

始まりは「エンカウンター」

──α世代やZ世代を対象としたマーケティングのモデルは従来とは異なりますか。

小々馬 マーケティングのモデルとしては、1920年代からあるAIDMA、2000年代前半から提唱されているAISASのような有名な既存のモデルがあります。これらはいずれも「A」と「I」ではじまりますが、これはアテンションとインタレストの頭文字です。いずれのモデルも、入り口はマスメディアの広告で非常に強いインパクトを与え、そこで興味をもってもらうのが普通でした。ところがZ世代やα世代は、広告を見て購買行動に至る割合はごくわずかしかないことが分かっています。では消費行動のきっかけは何でしょうか。アンケート調査では9割以上が、たまたまある情報が自分のスマホのスクリーンに現れたことがきっかけだと回答しています。ネットユーザーが自ら作成した画像や、動画コンテンツ(UGC)との「エンカウンター(出会い)」をきっかけとしてはじまる購買行動のモデルを、私たちは「EIEEB」モデルとして提唱しています。

──2番目の「I」の意味は何でしょうか。

小々馬 EIEEBモデルのIは、「インスパイア」を意味します。α世代は自分の世界観に合っているかどうかのほうを最も重要視します。その判断が具体的な行動の表れとなるのが、スクリーンショットをスマホに記憶させるかどうかということです。従来型のマーケティングで言うと、広告やブランディングによって企業名や商品名、商品パッケージのイメージを頭の中に想起集合として記憶させるプロセスになりますが、記憶媒体がスマホに置き換わった形になります。

──3つ目の「E」の示すものは?

小々馬 ゼミ生の意見を取り入れ、「エンカレッジ」のEとしました。彼らはスマホに保存した写真や動画をきっかけにすぐに購買行動に移すことはありません。少し時間が経過したあとにもう1回見直し、企業の公式アカウントやユーザーレビューなどを調べ、本当にその商品が自分に合っているかどうかを確認します。Z世代、α世代とも共通して「後悔したくない」「失敗したくない」という気持ちが非常に強い。そのためユニークで差別化された商品よりも、本当に自分に合っているかどうかを重要視しています。それを自分なりに調べて、「これならいけそうだ」とさまざまな情報を通じて確信を得ていく、いわば背中を押してくれる、勇気づけてくれるプロセスが必須だというのです。

「ときめき」求めリアル店舗へ

──このモデルにおける実際の購買行動の特徴は何ですか。

小々馬 とくに初めての購買行動においては、「ときめき」が重要になります。店員からしっかりとした説明を受けたり、自分で手にとって確かめたりできるリアルの店舗に出向いて買うというケースが意外に多いです。これが4番目の「E(イベント)」です。

──最後の「B」はなんでしょう。

小々馬 AISASモデルの最後の「S」はシェアを意味しますが、今の若者にはどうやらシェアするという感覚は薄いようです。誰かに見てもらいたい、知らせたいというだけの気持ちよりも一歩進んだ、「私はこれを使ってよかったからみんなもやってみて」というお互いに高め合う動機付けが含まれているというのです。そこには、購買行動を通じて誰かの役に立ちたい、社会に貢献したいという利他的な期待が込められています。この感覚について、英語で応援する、高めるという意味の「ブーストアップ」からBで表現しました。

──フェイクニュースの自動生成などAIの活用にともなう倫理的な課題も指摘されています。

小々馬 Z世代やα世代による自浄作用が期待できると思います。すぐに実現するとは思いませんが、5年もすれば彼らが居心地のよい世界を実現するために、悪質な情報源などでバン(禁止、追放)すべきものが速やかにバンされるような環境になっていくのではないでしょうか。それだけのリテラシーとパワーを彼らは持っていると思います。

(インタビュー・構成/本誌・植松啓介)

掲載:『戦略経営者』2025年4月号