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意思決定や進ちょく管理、アイデア出しなど、企業経営に欠かせない機能を持つ社内会議。ただ「大人数で長時間かかる」「座っているだけの人がいる」「結論が出ない」などの課題があるのも事実だ。効率よく成果につながる会議はどのように行うべきか。最新事情に迫った。
- プロフィール
- さとう・まさゆき●アマゾンジャパンに立ち上げメンバーとして2000年7月に入社。サプライチェーン、書籍仕入れ部門を経て、05年よりオペレーション部門にてディレクターとして国内最大級の物流ネットワークの発展に寄与。16年、同社退社。現在は成長企業での15年超の経験を生かし、経営コンサルタントとして企業の成長支援を中心に活動中。著書に『amazonのすごい会議 ジェフ・ベゾスが生んだマネジメントの技法』(東洋経済新報社)などがある。

私は2000年7月にアマゾンジャパンの立ち上げメンバーに加わり16年まで勤務していました。そのときに経験したアマゾン流の会議の手法が、同社が世界屈指の企業に飛躍した一因となったと考えています。同社の会議には、創業者ジェフ・ベゾスを中心としたアマゾンの経営陣が積み重ねてきた知恵が詰まっているからです。アマゾンで開かれていた会議は、目的別に次の4つに分類されます。
まずは意思決定会議。ヒト、モノ、カネといった企業の資本の使い道を決定したり、事業方針や年度予算を決めたりするときに必要になる会議です。
2つ目はアイデア出しの会議です。課題の解決策を1人で考えても、なかなかうまくいく方法は思いつきません。多くの社員の知恵を借りてアイデアを出しあいながら解決方法を模索するのがこのアイデア出し会議で、代表的な手法が「ブレインストーミング」です。
3つ目が進捗管理の会議です。意思決定会議で決定されたプロジェクトの進捗状況を定期的に確認・管理し、スケジュール通りに進んでいるか、それを予定通り進めるために何をしなければならないかを一つ一つ話し合い、その目的に到達するよう導いていくための会議です。
最後が情報伝達会議です。これは意思決定会議で決まったことなどをチーム全員に伝達するための会議です。アマゾンではできるだけこの情報伝達会議は、廃止すべきだと考えていました。なぜなら無駄な会議の典型がこの情報伝達会議だからです。
情報伝達は“1on1”で
会議へ出席するということは、通常業務がその間できなくなるということと同義です。つまり見方によっては時間の搾取といえなくもありません。
例えば月曜日の朝に全員を集めて各人に先週の報告を求め、それに対するフィードバックを上司が行うとします。この場合、Aさんが報告している時間、それをただ聞いているBさん、Cさん……はアイドリング状態といえます。次にBさんの報告が求められた時点ではじめてBさんはアクティブな状態になります。1人10分の報告が4人いるとすると、全員30分間は会議室に拘束され何もしていない時間を過ごすことになります。この種の情報伝達会議は極力なくすべきです。
情報の伝達と共有は重要ですが、基本的にはメールやチャットで十分目的は果たせます。上司と部下の間の報告とフィードバックが目的なら、1on1ミーティングの方が断然よいでしょう。報告や意見も率直に言うことができるし、そこで得られた情報を上司がうまくハブになって管理することもできます。例えばCさんとDさんには関係ない話であれば、Aさんとのミーティング時に「Bさんにも共有しておいてください」と伝えればよいのです。全体での情報伝達会議では内容を聞き流してしまうこともありますが、上司が個別に情報をつなぐやり方であれば、しっかりと記憶に残る形で必要な人だけ情報共有することができます。
物語のように資料を書く
次にアマゾンの会議資料のつくり方をご紹介しましょう。アマゾンでは重要な意思決定会議の冒頭15分間は無言で始まります。各自が資料を読む時間を確保しているのです。会議で使用する資料は「ナレーティブに書く」のが原則です。物語を書く時のように文章形式で書くという意味で、パワーポイントの資料でよくみられる、箇条書きの行間をプレゼンターが補足説明していくスタイルは禁止です。ナレーティブな文章は読み返せばいつでも内容を思い出せますが、プレゼン時の補足説明をいつまでも覚えているのはむずかしいからです。
また資料の種類はA4紙1枚で書く1ページャーと、同6枚で書く6ページャーの2種類に決められています。1ページャーはイベントの報告や企画案など、6ページャーは年度予算の計画やシアトル本部への報告書、大規模プロジェクトの起案文書などと役割が分かれていましたが、いずれもグラフや図表などは添付書類として別資料にまとめるのがルールです。2ページになってしまった資料は1ページにまとめる必要があり、当初8ページかかった書類は6ページに集約しなければなりません。このほかアマゾンでは近年、プレスリリース形式の文書が会議資料となることも増えています。
「3つのW」を明確にする
効率的かつ成果につながる会議のためのポイントについて、会議の種類別に整理していきましょう。まず意思決定会議でしっかりと意思決定を下すためには3つの留意点があります。
1つ目はオーナーをしっかり決めること。決めなければならないことに対し意思決定を行い、最終的に責任を持ち、決定したプロジェクトの責任者となる人が会議を主催し、進行役を務めなければなりません。2つ目は「何を」「誰が」「いつまでにする」かという「3つのW」を明確にして会議を終えること。これが決まらなければ意思決定がされたとはいえません。最後は参加者を絞り込むこと。目的を達成するために必要最少限の人数で、かつ意思決定権を持つ人が集まることが大切です。ともすると部長級以上の役職でいつも同じメンバーになりがちですが、細かく権限移譲をしておくことによって、会議ごとに本当に必要な人だけが出席すれば済むようになります。
同じ部署から複数人が出席するのもやめましょう。会議で発言するのに必要な自部署のデータ等は出席者1人ですべて把握、準備すべきです。このように会議の目的を明確にし、日程と参加者を決め、進行役を務めるのはすべてオーナーの役割です。
また意思決定会議で決定されたプロジェクト等が終了後、成功か失敗かにかかわらず、必ず振り返りの会議も行ってください。アマゾンではこれをポストモーテム(事後検証)と呼び、次のプロジェクトに生かす重要な会議として位置付けています。
アイデア出しのための会議については、ブレインストーミングや4M分析、なぜなぜ分析などすでに確立された多くの手法があります。それぞれの会社にあった手法をとってください。ここではブレインストーミングとオフサイトミーティングについて説明します。
ブレインストーミングを上手に進めるコツは、①議論が散漫になるのでゴールは一つだけにする②会議を活性化するファシリテーターを必ず1人決める(外部からの招へいでも可)③議事録は必要だが、会議中にひたすらメモを取る必要はない(議事録の自動作成ツールの利用やホワイトボードの撮影のみでも可)④斬新な切り口のアイデアを得ることが目的なので、テーマに関係がないように見える部署からも幅広く参加者を募る――などです。
新規のビジネスプランや会社のビジョンなどを決める大きなアイデア出しの会議をするときにアマゾンでは、普段仕事をしている場所から離れる「オフサイトミーティング」を開催することがありました。ホテルや合宿所のようなところに宿泊し、パソコンも開かず、スマホの画面も視線に入れず、資料はバインダーでまとめられ必要であればメモは手書きでする。メールや電話対応で中断されることなく、一つの議題に徹底的に集中して意見を交わすことができるので、長期的視点に立った議論の深まりが期待できます。
KPIを設定して進捗管理
最後は進捗管理の会議です。どんな手法やツールを使うかは企業それぞれが自由に決ることですが、決定的に重要なのは、管理する対象にすべてKPI(重要業績評価指標)を設定することです。定量化した指標を用いないと、現状のステータスが成功なのか失敗なのか不明瞭になってしまい、PDCAサイクルが適切に回りません。KPIが明確であれば、会議を終了し通常の業務プロセスに移管するタイミングも明確になります。ゴールを決めておくということはすなわちKPIを決めておくということです。
KPIを設定するには、裏付けとなるデータが必要です。しかし会議を開催するたびに担当者が手作業で社内データを収集して資料を作成するのは大変な手間で、スピード感も失われます。日頃から社内データをしっかり管理・共有し、必要なデータがすぐに自動で出力できるシステムを構築しておくことが求められます。会議に出席する前に、参加者全員があらかじめ必要なデータにアクセスできれば、効率的な議論を行うことができます。
またよく誤解されるのが、KPIとKGI(重要目標達成指標)の混同です。売上高や利益、顧客数という形で表されることが多いKGIとは異なり、KPIはあくまで行動を定量化した指標を指します。たとえば顧客数の増加が目的であれば「1人当たり1日10本電話をかける」、離職率の減少が目的であれば「1on1ミーティングを月に1回必ずする」など、必ず行動を定量化してください。KGIはあくまで行動の結果でしかありません。進捗管理会議で成果を生みだすために必要なのは、とにかくKPIを管理することなのです。
(インタビュー・構成/本誌・植松啓介)