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有田焼の手法を用いた焼き物の絵画「陶彩(とうさい)画」。鮮やかな色彩と力強いモチーフが印象的な作品は、多くのファンを魅了してやまない。そんな陶彩画のルーツと魅力を、世界唯一の陶彩画家である草場一壽氏が語る。

プロフィール
くさば・かずひさ●1960年佐賀県生まれ。87年に陶芸家・葉山有樹氏の工房に入り、陶彩画実現のための研究を開始。90年に独立し、以後、オリジナルの芸術として数々の陶彩画を世に出し続けている。日印国交70周年を記念してインド総領事館とインド大使館に「ラクシュミー」が飾られるなど、陶彩画は世界的にも高く評価されている。
草場一壽氏

草場一壽氏

──1987年に創作活動を始めて以来、草場さんは多くの陶彩画を制作してきました。個展にも年齢や国籍にかかわらず、多くの人が観覧に訪れています。

草場 おかげさまで、老若男女を問わず多くの人が私の作品を楽しみにしてくれており、京都、大阪、東京で毎年開催している個展も、回を重ねるごとに来場客が増えてきました。ただ、日本の人口を踏まえて考えると、陶彩画の認知度は決して高いとは言えません。今よりもさらに多くの人に陶彩画の魅力を伝えるためにも、観る人の心を動かすような作品を制作し続けること、作品を披露する機会を積極的に作っていくことがこれからの目標です。

想像を超えた先に感動がある

──あらためて、陶彩画とはどのような芸術作品なのかを教えてください。

草場 一言で言えば、有田焼の手法を用いた焼き物の絵画です。白い陶板に釉薬※で絵を付け、その後、窯で焼く。この工程を10回近く、多いときで15回ほど繰り返すことで作品が完成します。釉薬の選定と配合、陶板への絵付け、窯の温度調整と焼成の時間配分など、窯入れする前はさまざまな要素を緻密にコントロールする必要がある一方、窯入れした後は作り手の思惑は一切届きません。「火に託す」という言葉のとおり、自然の成り行きに任せるしかないのです。偶発性が作品の行方を左右するところも陶彩画の特徴であり、面白みでもあります。
 実際、作品が不本意な仕上がりになるときもあれば、事前のイメージをはるかに上回る、彩りの美しい作品が完成するときもあります。私自身、今まで目にしたことのない、きれいな色味に仕上がったときは感動を覚えますね。

──想像を超えた先に感動が存在するというわけですね。

草場 そのとおりです。これは作品を観る人にとっても同じで、「想像以上の美しさでとても感動した」といった声を、個展などでよくかけられます。

──一つの作品をつくるのにどれくらいの時間がかかりますか。

草場 作品によって多少の違いはあるものの、だいたい1~2年はかかります。例えば昨年の個展で披露した「銀河の夢」は、23年に制作を開始しました。

──その「銀河の夢」は、タイトルどおり銀河を彷彿とさせる背景に、鮮やかに描かれた龍が力強く上昇する姿が印象的です。

草場 この作品で表現したかったことは「真実を求める力強さ」や「新たな自分に目覚めた喜び」です。これまで、龍を色鮮やかに描くことはしなかったのですが、今回は初めての試みとして、龍の体や翼をさまざまな色で表現してみました。

──作品にはすべて自作のメッセージが添えてあります。狙いは?

草場 あまねく芸術作品には、それが生まれるきっかけとなった物語が存在しており、私が手がける作品も何かしらの物語を込めて制作しています。これら一つ一つの作品に込めた思いや物語を読み解くための補助線として、言葉によるメッセージを作品に添えています。「作品を鑑賞する上でのヒント」という位置づけですね。

釉薬…素焼きの陶磁器の表面にかけて、装飾と水分の吸収を防ぐために用いる一種のガラス質のもの(出典:『広辞苑』)

前人未踏の挑戦へ

──芸術家を志した原体験を教えてください。

草場 いろいろありますが、一番のきっかけは高校時代に体育祭・文化祭の実行委員長として、応援合戦や作品制作の指揮をとったことです。チームをけん引する立場としてさまざまな企画を立てたり、マスコットを作ったり、応援合戦の演出を施したりするなかでモノを形にすることの楽しさ、面白さを実感し、生業にしたいと思うようになりました。

──その後、日本大学芸術学部(日芸)に進学されますが中退し、バックパッカーとして世界を巡られたとか。

草場 日芸にはすでに芸能界で活躍している学生など、いわゆる“才能の塊”であふれていました。こうした環境に揉まれるなかで自分自身の経験や実力不足を痛感し、大学を中退。バックパッカーとして4年間、アジアを中心にありとあらゆる国々を旅しました。とりわけカルチャーショックを受けたのはインドでの生活です。5歳の子どもが家計を助けるべくお土産を売り歩く姿を見て、当時バブルの黎明期でのぼり調子だった日本との違いに衝撃を受けました。

──異国の文化や生活に触れるなかで、「いのちの輝きを表現する芸術家になること」を決意し、帰国。「有田焼の技術を用いた焼き物の絵画」を構想されます。

草場 帰国後は陶彩画の構想を具体化するべく、地元の窯元を訪ね歩きましたが、反応は芳しくありませんでした。前人未踏の挑戦でしたから、多くの窯元が「あなたのやりたいことは実現できない」と否定的な姿勢を示したのです。そんななか、私のアイデアを「面白い」と高く評価してくれたのが、陶芸家の葉山有樹さんです。当時、葉山さんは陶芸家として独立した直後でしたが、私のことを快く受け入れてくださり、釉薬のかけ方や絵の付け方、窯の焚き方などを学びました。最初は円を描くこと、絵を器に定着させることすらままならなかったのですが、葉山さんから暗に教わったり、自分自身で試行錯誤したりしながら技術を磨いていきました。その後、梶山工芸所という電気窯を製造している会社の作業スペースを間借りして、本格的に陶彩画の研究を開始。陶彩画特有の技術を徐々に確立していきました。

──例えばどんな技術を?

草場 従来の有田焼では、絵付けと焼成は最大で4回までしか耐えられませんでした。これ以上やると絵が剝がれてしまうのです。しかし、私は幾度となくトライ&エラーを繰り返し、絵付けと焼成に10回程度耐えられる手法を確立しました。その結果、陶彩画特有の深く鮮やかな色彩を表現できるようになりました。

──見る角度によって色が変化するという技術も画期的ですが、これはどのような仕組みですか。

草場 釉薬の種類や焼成温度などを緻密に組み合わせることで色の変化を実現します。万物には美しい面とそうでない面が併存しており、視点によって見え方が変わることをこれまでの経験を通して学びました。「同じ物でも視点によって見え方が変わる」というメッセージを作品に落とし込むべく、試行錯誤の末に編み出したのがこの技術です。

原価管理の大切さを知る

──その後、陶彩画家として独立し、本格的に作品の制作に着手されます。1人の芸術家として大事にしていることは?

草場 やはり、「いのちの輝きを表現する」ことに尽きます。ただし、単に作品をつくるだけでなく、「それをいかにしてお客さまに届けるか」についても深く思案しています。

──なぜ、そのように考えているのですか。

草場 先ほどインドで出会った子どもの話をしましたが、その子は客が商品を買うまでその人の後を追いかけていたのです。その姿を見て、物を売ることの難しさ、自分がつくった作品を自信を持って届けることの大切さを学びました。
 最初は手延べの陶板に絵付けをしたシンプルな作品が多かったのですが、それを陶器市や露天市などで販売していました。福岡の天神、長崎の佐世保といった繁華街で手売りしたり、ハウスメーカーの許可を得て新築のショールームに作品を飾らせてもらい、見学に来た人に自ら営業したこともあります。今、陶彩画がたくさんの人に支持されているのも、私自身が現場に出て多くの人とコミュニケーションを取り、そこから数珠つなぎのように多くのお客さまとつながった結果だと思います。

──ところで、草場さんは草場一壽工房の代表としての顔もお持ちです。経営者として特に重要視していることは何でしょう。

草場 いろいろありますが、一番は「利益を残すこと」ですね。先ほど陶器市の話をしましたが、このときの売れ行きはすこぶる好調で、2,000円の商品200個が2日で完売。短期間で40万円の収入を得たことを喜んでいたら、近くにいた商社の人が「陶板はいくらで仕入れた? 制作に何日かかった?」と尋ねてきたのです。気になって計算したところ、利益がほぼ出ていないことが明らかになりました。喜びから一転、気落ちしたことを今でも覚えています。売り上げを上げることはもとより、利益をしっかり残すこと、そのためにも原価をきちんと管理することの大切さを痛感しましたね。
 この経験から、当社では山浦先生の勧めで会計システムを導入し、自社で経理を行っています。また、小栁さんに毎月来社いただき、前月の業績を振り返りながら今後の事業展開や作品制作について意見交換しています。設備投資や商品展開などの相談にも、数字をもとに的確にアドバイスしてくださるので、山浦会計さんのサポートはとても心強く感じています。

(取材協力・山浦義行税理士事務所/本誌・中井修平)

会社概要
名称 有限会社草場一壽工房
業種 陶彩画の制作・販売、ギャラリー運営等
所在地 佐賀県武雄市山内町鳥海 10088-2
利用システム FX2
URL https://kusaba-kazuhisa.com

コンサルタントの眼
税理士 山浦義行
監査担当(巡回監査士) 小栁靖則

山浦義行税理士事務所 佐賀県伊万里市立花町2404-50
https://yamaura.tkcnf.com

 唯一無二の輝きを放つ「陶彩画」。その創始者であり、草場一壽工房の代表でもある草場社長は、毎月の業績をこと細かくチェックし、事業展開の構想に役立てておられます。

 当事務所でも同社の事業成長を後押しするべく、税務・会計の見地から経営助言を行っています。具体的には、毎月25日ごろに同社を訪問し、巡回監査を行ったのち、草場社長と《365日変動損益計算書》を確認しながら業績の振り返りと意見交換を行っています。会計システムは『FX2』を利用しており、「銀行信販データ受信機能」や「証憑(しょうひょう)保存機能」を活用し、経理業務の合理化も進めておられます。

 予実管理も緻密に実施されています。全社予算を『継続MASシステム』で策定しているほか、個展単位でも予算を策定しており、会場代やスタッフの日当、宿泊費など会期中に発生するすべての費用を見積もったうえで、売り上げ目標を設定。計画した利益を確保するために、作品の制作やグッズ展開など具体的な販売戦略を構想されています。

 芸術家と経営者の二足のわらじを履く草場社長。今後も、多くの人を魅了する素敵な作品づくりに安心して取り組めるよう、巡回監査や経営助言などのサポートを手厚く実施してまいります。

掲載:『戦略経営者』2025年2月号