生出社長と宮﨑税理士の信頼関係が
OBM導入につながった
株式会社生出(おいづる)は、緩衝包装に関する豊富な知見とノウハウを強みに顧客の信頼を獲得し、創業以来堅実な成長を遂げてきた。同社の経営戦略と海外ビジネスモニター(OBMonitor、以下OBM)を活用した海外子会社の業績管理について、生出治社長と宮﨑純子顧問税理士に聞いた。
──事業内容を教えてください。
生出治社長
生出 当社は1958年の創業以来、製品を輸送する際に用いる包装資材の企画・開発・設計・製造に特化した事業を行っています。主要顧客はコンピューター・サーバーなどの精密機器や、自動車の製造を手がけるメーカーで、その多くは関東地方に拠点を置いていますが、なかには世界的な規模で事業展開しているメーカーとも取引しています。
──強みは?
生出 緩衝包装に関する総合的な知見とノウハウを蓄積していることです。当社は半世紀以上にわたる事業活動のなかで、緩衝包装に関する知識と技術力を蓄えてきました。これらを武器に、顧客から寄せられる高度な要望をしっかりと形にしています。
──顧客から寄せられる要望にはどのようなものがありますか。
東京都瑞穂町にある本社工場
生出 いろいろありますが、とりわけ多いのが、包装材の耐久力の強化やコストダウンに関する要望です。これらを実現するには素材の緩衝性能、コスト、耐久性はもちろん、廃棄のしやすさやリサイクル性能、輸出時の含有物質規制など、幅広い知識を身につけておく必要があります。その点、当社の従業員は、緩衝包装に関する豊富な知識と技術力を身につけており、彼らが設計や試験などを繰り返しながら、顧客の要望や要件を満たした緩衝包装材を形にしています。実際、当社には日本包装技術協会が認定する「包装管理士(※)」の資格を持つ従業員が8人在籍しています。
──包装や輸送に関するコンサルティングも積極的に行っていると聞きました。
生出 すでにお話ししたとおり、当社には緩衝包装に関するさまざまな要望が顧客から寄せられています。その要望にただ応えるだけではなく、顧客にとってより輸送・保管効率の良い梱包方法や、梱包資材の提案を能動的に行うことで信頼を獲得してきました。こうした技術的な提案ができる人材が多く在籍しているところも、当社の強みであると捉えています。
※包装管理士…日本包装技術協会が認定する資格で、商品を安全かつ効率的に包装し、環境にも配慮した梱包を実践できる梱包のスペシャリスト。
「OBM会議」を通じて限界利益率が9%上昇
タイの子会社(写真)と毎月末に
ウェブでつないで会議を行う
──タイに子会社を2社設けておられますが、海外進出の時期と狙いは?
生出 当社の競争力をより強化するべく、2002年にタイに進出しました。それぞれ製造機能、商社機能を持った法人です。進出先として中国とタイが候補にあがっていたのですが、マーケットリサーチの結果を踏まえ、タイの方が事業展開しやすい部分があると判断しました。
──19年にOBMを導入されました。導入の経緯について教えてください。
宮﨑 OBMには海外子会社の仕訳を日本語に自動翻訳する機能が搭載されており、これを活用すれば生出さまの子会社の業績を迅速かつ、詳細に把握できると思い至ったことが、OBMをお勧めした理由です。また、ちょうどこの時期に外国子会社合算税制の改正があり、子会社の業績をより詳細に管理することが求められたので、この点も踏まえてOBMの導入を提案しました。
生出 OBMを導入する前は、タイ子会社から提出された試算表を社内で和訳したうえで、内容をチェックしていました。このことを宮﨑先生に伝えたところ、「OBMを使えば海外子会社の業績を日本語で、かつ、取引単位で速やかに確認できる」と勧めていただいたので、導入を決めました。勘定科目の推移や科目の詳細から、異常値や報告すべき内容を発見できるところが良いですね。子会社のガバナンス強化につながっています。あと、システムの導入後に始めた「OBM会議」を通じて、子会社のコスト削減意識が大幅に上がったところも、OBMを導入した効果だと考えています。
──OBM会議とは?
生出 日本とタイ子会社の業績に関する会議で、毎月末に現地とウェブでつなぎ、OBMの《変動損益計算書》を活用して作成した総括表を参照しながら、月次業績の報告と予算達成に向けた打ち手を議論しています。日本からは私と過去に子会社に駐在していた幹部社員と宮﨑先生が、タイからはそれぞれの子会社の責任者と経理担当者らが参加しています。会議を始めた当初は業績の報告に終始していましたが、回を重ねるにつれて日本とタイの業績比較を通して日本の強みを共有したり、現地の経理担当者から利益率の改善に関する取り組みの報告も受けたりするようになりました。
分析機器用包装材
──例えば、どんな取り組みを?
生出 製造工程では材料のロスが出ないように加工方法を工夫する、管理部門では従業員の送迎バスのルートを時短で回れるよう変更する、閑散期には在宅勤務を奨励し送迎バスの運行本数を減らすといった取り組みを実施しています。こうしたコスト削減の取り組みは現在、「KAIZEN(カイゼン)活動」として定着しており、先ほど説明したように、OBM会議のなかで経理担当者から取り組みの詳しい内容と、その効果に関する報告を受けています。会議を通じて、子会社の従業員が利益率改善に向けて能動的に行動するようになりました。なかには、親会社で実施できていない取り組みを先進的に行うこともあるので、そうした事例は親会社にも積極的に取り入れるよう意識しています。OBMがあったからこそ、結果的にKAIZEN活動のような親子会社間のコミュニケーションの活性化につながったのだと感じています。
宮﨑 OBMの導入当初と現在の限界利益率を比較したところ、数字が9%改善しています。この要因の一つに、タイ子会社が日本との業績比較を通じて、数字のギャップを埋めるための努力を積み重ねてきたことがあります。ちなみに、親会社の業績は『FX4クラウド』で管理されています。
金融機関も海外子会社の業績管理体制を高く評価
──重点的に確認している帳表はありますか。
生出 先述した総括表は、各子会社の業績の進捗状況や前期比較等を確認するうえでとても重宝しています。
宮﨑純子顧問税理士
宮﨑 総括表とは子会社2社分の《変動損益計算書》のデータを切り出し、1枚のエクセルに展開した表のことです。著しく数字が増減しているなど、個人的に気になった科目は取引単位にさかのぼって内容を確認し、疑問点や数字が動いた原因などを、OBM会議の中で現地の経理担当の方に質問しています。
──OBMによって、金融機関との信頼関係がより強化されたとか。
宮﨑 以前、タイの工場で設備投資を行うことになり、取引銀行や国際協力銀行を交えて打ち合わせをする機会がありました。その際に、OBMで子会社の貸借対照表と損益計算書をお見せし、業績や借り入れ返済状況などを説明したところ、金融機関の担当者から「海外子会社の業績もきちんとモニタリングされているんですね」との反応が返ってきました。
生出 金融機関の担当者も安心していた様子でしたね。
──最後に、今後の抱負をお聞かせください。
生出 当社は今年で創業67年を迎えますが、現状に満足せず、お客さまが抱える課題の解決に向けて緩衝包装の知見と技術力を磨き、創業から100年経っても輝きを放つ会社を目指して存在価値を高めていきます。そのための戦略として、「3R」の推進を中心とする環境配慮型経営に取り組みます。具体的には、「3R+Renewable(再生可能な資源の活用)」を積極的に推進し、プラスチックの廃棄量を削減する、環境にやさしい素材を開発し、製品化するといった取り組みを進めていきます。
(取材協力・税理士法人土田会計事務所/本誌・中井修平)
名称 | 株式会社生出 |
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業種 | 包装資材の設計・製造 |
創業 | 1958年1月 |
所在地 | 東京都西多摩郡瑞穂町大字箱根ヶ崎1188 |
売上高 | 12億3,400万円(日本) 16億4,500万円(タイ子会社) |
従業員数 | 日本58名、タイ子会社120名 |
利用システム | OBM、FX4クラウド |
URL | https://www.oizuru.co.jp |
顧問税理士 |
税理士法人土田会計事務所
所長 土田士朗 社員税理士 宮﨑純子 東京都東村山市栄町1-36-84 URL: https://www.tsuchida-office.com |