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左は佐原茂税理士事務所の寺内敏子監査担当
2013年のB-1グランプリで金賞に輝いた福島県の「なみえ焼そば」。その唯一の認定製麺工場である旭屋では、佐原茂税理士の指導のもと、経理業務のシステム化を進めつつ、デジタルインボイスによる請求書発行に取り組み始めた。田河朋裕取締役と佐原税理士に話を聞いた。
──「なみえ焼そば」の製造が事業の柱だとか。
田河 なみえ焼そばは、60年前から浪江町(福島県)周辺で食されてきたいわば地元のソウルフードで、ラードを使ったこってり極太麺です。2013年の「B-1グランプリ」では金賞をいただき、ご当地グルメとして名前が知られるようになりました。当社では、商標権を持つ地元の商工会から唯一認定され、なみえ焼そばを製造しています。
東日本大震災を乗り越える
──浪江町といえば、東日本大震災後しばらくは避難指示区域でしたね。
田河朋裕取締役
田河 はい。震災後、やむを得ず浪江から郡山に事務所を移転し、しばらくは仙台の工場に生産を委託していました。14年に相馬市に現工場を建てて現在にいたります。
──相馬市に工場を建てた理由は?
田河 震災以前に相馬市の学校給食に「ソフト麺」を提供していた業者さんが撤退され、代替として当社に話が来たためです。現在は、なみえ焼そばと学校給食が2本柱で、その他、数年前に販売を開始した「二郎系ラーメン」も売り上げに貢献しています。
──ここ4、5年で売り上げ、利益ともに順調に伸びていると聞いています。理由は?
田河 ひとつは、浪江町や周辺地域の避難指示が解除されたことにより、道の駅などの販売先が増加したことです。道の駅では売店で袋麺を販売し、食堂には麺を卸しています。また、ネット販売も好調で、以前と比べて3倍の月商を稼ぎ出しています。
それともう一つ。2019年に佐原茂税理士事務所に税務顧問をお願いしてから、財務体質が変わりました。これが大きかったですね。それ以前は、毎年かなりの欠損が出ている状態でしたから。
──佐原先生、関与された当初の感想は?
佐原 なみえ焼そばといえば、立派なブランドなので、さぞかし儲かっているだろうと思っていたら、財務内容を見て驚きました。実際、関与した当初は、この会社を利益体質に変えるには7、8年はかかりそうだと感じました。
正確な製造原価を把握する
ご当地グルメとして全国に販路を持つ
──どうやって財務を改善されたのでしょうか。
田河 佐原先生の指導を受けながら、まずは正確な製造原価を把握するようにしました。それ以前も、「材料原価」はつかめていたのですが、光熱費や人件費、減価償却費など込みで、いったいひと玉いくらかかっているかが、まったく分からないまま値付けを行っていました。正確な製造原価がつかめるようになってからは、それに適正な利益をのせて値付けをし、販売先に提案できるようになり、徐々に利益率が改善していったのです。
──つまり、変動費と限界利益を把握するということですね。
佐原 はい。具体的には『FX2クラウド』を導入して自計化(会計ソフトを利用して自社で経理業務を行うこと)を行い、月次決算の徹底によって製造原価と限界利益をリアルタイムに把握できるようにしました。併せて、部門別(郡山営業所と相馬工場)管理も実施しています。
田河 以前は、年に一度の決算時期に、ようやく利益がつかめるという状態だったので、対策のしようがありませんでした。とりわけ、「クラウド化」が大きかったと思います。外出先でも最新の業績を確認できるし、社長が常駐する郡山営業所とも経営情報を共有できるようになったので、圧倒的に経営判断が速くなりました。
佐原 ちょうど私が顧問になったころから、デジタルネーティブの田河さんが経営管理を任されるようになり、デジタル化による業務の効率化に積極的に取り組まれるようになりました。また、計数管理を徹底しつつ、製造原価率を引き下げるために、製造プロセスの改善など現場の効率化も実践されました。結果的にそれらが、以後のV字回復につながったということだと思います。
請求書の半数をデジタル化
──デジタル化ということでいえば、2024年9月からは、請求書のデジタル(ペポル)インボイスでの発行に取り組まれているのだとか。
田河 もともとデジタルインボイスには興味があったのですが、佐原先生に勧められて採用することにしました。TKCシステムを活用すれば簡単にできるとのことでしたので……。当社では約100社の販売先がありますが、すでに、その半分くらいの先にはペポルインボイスで請求書を送っています。
──採用の目的は?
田河 まずは、ペーパーレス化による業務の効率化です。実際、請求書をデジタルインボイスにすることで請求書の印刷、押印、封入、切手貼付、投函という手間とコストをかなり省略することができています。また、その分、担当者の業務負担が減り、近年売り上げが増えてきたECや新製品開発に関連する業務に力を振り分けることができるようになりました。
──取引先への協力依頼が必要だったのでは?
田河 3、4カ月前からデジタルインボイスへ切り替える案内を送付し、メールアドレスを収集しました。そのアドレスをTKCシステムに登録して、デジタルインボイスを送信しています。ITに詳しい取引先は、すぐに対応していただけましたが、当社の取引先には、パソコンのない小さな飲食店などもあり、すべての請求書をデジタルインボイスにすることは難しいですね。継続的な案内を続けて、できる限り100%に近づける努力をしていくつもりです。
10年前から稼働する製麺工場では、日々、製造プロセスの改善が行われている
将来を見据えた戦略
──ペポルネットワークを利用したインボイス発行は、数年後には主流になるといわれています。
田河 近い将来、送付だけでなく、「受信側」としてのメリットも期待しています。
佐原茂顧問税理士
佐原 取引先がペポルインボイスで請求書を送ってくるようになれば、会計ソフト上で受け取ったデータから仕訳データを自動生成し、そのまま計上できます。そうなると、今よりはるかに大きな業務の効率化が期待できます。小さな会社もどんどんペポルインボイスを採用するようになってほしいですね。
──今後はいかがでしょう。
田河 なみえ焼そばのメイン顧客層は40~50代なので、より若い人たちに訴求する新商品の投入を考えています。近々リリースを予定しているのは、油とニンニクたっぷりでこってりとした「二郎系やきそば」です。そのほかには、冷凍麺や調理麺の分野にも参入したいし、チャンスがあれば海外進出にも挑戦したいと考えています。
──海外ですか。
田河 以前、台湾で試食会を行った際には、非常に良い反応でした。東南アジアには、「やきそば」も売られていますし、日本と食文化が似ているので、可能性は十分にあると思います。
(取材協力・佐原茂税理士事務所/本誌・髙根文隆)
名称 | 株式会社旭屋 |
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業種 | 製麺業 |
設立 | 1953年10月 |
所在地 | 本 社 福島県双葉郡浪江町大字権現堂字上柳町11番地 相馬工場 福島県相馬市馬場野字雨田166 |
売上高 | 2億2,000万円 |
社員数 | 15名 |
会計システム | FX2クラウド |
URL | https://asahiyamen.com |
顧問税理士 |
佐原茂税理士事務所
顧問税理士 佐原茂 福島県相馬市中村字本町32-1 URL: https://green.tkcnf.com |