「カスタマーハラスメント」への対応が話題になっています。最新事情と対応マニュアルの作成法について教えてください。(家具小売業)

 カスタマーハラスメントが注目されてきたのは、2000年前後あたりからです。当時は「悪質クレーマー」と呼ばれており、対面業務を主とするエッセンシャルワーカーやコールセンター担当者などが、これまでにない対応を求められ始めました。

 それから約20年後の22年に厚生労働省が「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を発表したことで、各企業や自治体のカスハラ対策の動きが、大変活発になりました。このマニュアルが出た意義は大きく、北海道や東京都においてカスハラに関わる条例制定が動き出し、JR東日本や東京電力EPなどの大企業が対策ガイドラインを発表し始めています。加えて、同業種や同じエリアで働く会社が、法人を作り組織連携によるカスハラ対策も始まり出しています(全国携帯電話販売代理店協会や空港グランドハンドリング協会など)。

現場の事例を収集する

 これら企業の動きに対し、心理学をベースにしたアドバイスが重要となってきています。厚労省は、「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」とカスハラを定義しています。加えて、心理的負荷による精神障害の労災認定基準の改正においても、具体的な出来事の一つとしてカスハラが追加されています。

 この定義をふまえ、私たち研究グループは二つの心理学変数による「カスハラ基準モデル」を作成しました。図(『戦略経営者』2024年7月号P58)に示した通り、「態度・言動」と「要求内容」の各程度の組み合わせで、さまざまなカスハラ事例を位置づけることが可能となりました。

 カスハラの程度や種類は、業種業態によって異なります。そのため各企業で必要な対策マニュアルには、その企業の固有データが必要となります。すなわち、その企業のカスハラ事案の質問と、精神健康などが測定できる心理尺度で得られるデータです。本格的なマニュアル作りに不可欠なデータとなりますが、ここでは、簡便なマニュアル作りを紹介します。

 まず、これまでお店で発生していたカスハラ事例を収集してください。ある程度の事例が集まったら従業員の皆さんと一緒に、各事例の「態度・言動」レベル(縦軸10段階)と「要求内容」レベル(横軸10段階)を評価して、図の枠内に布置(印をつける)してみてください。これにより、お店の中で発生しているカスハラの傾向を把握することができます。その布置した図に、カスハラ認定のための線引きを行い、悪質なものから順番に具体的な対応を設定してください。それらの情報を、お店のマニュアルに反映させることで具体的な対策が可能となります。ぜひ、お試しいただければと思います。

掲載:『戦略経営者』2024年7月号