制度改正

「信用保証協会向けの総合的な監督指針」の一部改正(令和6年6月1日施行)とその影響

TKC全国会中小企業支援委員会 金融機関等関連小委員会委員長 湯川直樹

監督指針改正のねらい

 令和6年3月8日に経済産業省、金融庁、財務省の3省庁連名で「再生支援の総合的対策」が公表され、主な施策の1点目に「信用保証協会による支援の強化」として、信用保証協会向けの総合的な監督指針の改正について明記されました。
 この背景の一つとして次のような問題が挙げられます。2007年に導入された責任共有制度(信用保証協会と金融機関が責任を共有することにより、両者が連携して中小企業の適切な支援を行うことが目的)により、従前の100%保証から原則80%保証に移行が進んできました。しかし、コロナ禍における民間金融機関によるゼロゼロ融資により、信用保証協会の保証債務残高は急増し、保証債務残高に占める100%保証の割合は6割を超えることとなり、2023年3月末における100%保証の債務残高は約25億円まで膨れ上がりました。中小企業政策審議会の公表資料では、100%保証の融資における課題(80%保証と比較してリスケ回数の多さ、代位弁済率の高さ)が挙げられており、100%保証の継続により、中小企業の経営改善等が進まない事例が生じているとされています。
 これらの状況を踏まえ、令和5年4月1日から施行された「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」等の一部改正と平仄を合わせるように、「信用保証協会向けの総合的な監督指針(以下、「監督指針」)」が一部改正され6月1日より施行されました。

監督指針改正のポイント

 改正後に本編に追加された項目として、押さえておきたいと思われる点は次の2点です。

【Ⅱ‐2 金融機関及び各支援機関等との連携等】

 従前の監督指針「金融機関との連携等」から「金融機関及び各支援機関等との連携等」とされ、中小企業者の課題解決に向けて事業者のフェーズに応じたきめ細やかな支援が必要であり、中小企業の経営支援や再生支援に向けて、各支援機関との連携を図ることが明記されました。
 また、信用保証付き融資の割合が高い中小企業者などを特定して主体的に経営支援を行うことが盛り込まれた点も押さえておきたいポイントです。

【Ⅱ‐3 経営者保証に依存しない融資慣行としての浸透・定着等】

 この点が我々の活動において最も重要です。今回の改正で「経営者保証に関するガイドライン(以下、「経営者保証GL」)」を遵守し、次のような対応を取ることが明記されました。

 経営者保証に関し、信用保証制度が原則として経営者保証が必要であるかの誤解を生じないよう説明方法を工夫の上、(中略)信用保証料率の引き上げ等を条件として、経営者保証を提供しないことを中小企業者が選択できる「事業者選択型経営者保証非提供制度」が創設されており、(中略)当該制度の内容を十分に踏まえた適正な説明や提案を行っていることが重要である。

 この「事業者選択型経営者保証非提供制度」は、一定の要件のもと、信用保証協会の所定保証料率に0・25%上乗せすることで、経営者保証を提供することなく融資を受けることができる制度であり、本年3月から開始されています。本制度の活用ならびに活用実績を公表することも監督指針に明記されたことから、信用保証協会では本制度を活用し、経営者保証を提供しない融資を進める動きが見え始めるものと思われます。
 また、事業者から寄せられている課題として、金融機関が経営者保証を不要と判断した場合でも、信用保証協会から必要とされた場合に、事業者に対して適切な説明がされないまま経営者保証の提供が求められるケースがあるとされています。これに対して、今回の監督指針では次のように明記され、金融機関を介して適切な説明を行い、その結果を記録することとされました。

 金融機関が保証人を不要と判断した一方、信用保証協会が保証人を必要と判断し保証契約を締結する場合においては、どの部分が十分ではないために保証契約が必要なのか、どのような改善を図れば保証契約の変更・解除の可能性が高まるかといった客観的合理的理由について、金融機関を介して中小企業者の知識、経験等に応じ、その理解と納得を得ることを目的とした説明を行う(中略)必要に応じて信用保証協会から中小企業者へ直接説明する態勢が整備されているか。

 これらの内容は、令和5年4月1日に一部改正された「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」に新たに明記された内容が信用保証協会向けの監督指針に盛り込まれたものです。これにより、信用保証付き融資において経営者保証を徴求する場合は、事業者への適切な説明が行われることが期待されるとともに、経営者保証に依存しない保証付き融資に向けた取り組みが進展すると思われます。

各地域会において信用保証協会との連携強化を図っていきます

 今回の監督指針改正は、経営者保証に踏み込んだ数年ぶりの改正であり、信用保証協会においても大きなインパクトがあると想定されます。
 中小企業支援委員会では、昨年「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」の一部改正を受けて、全国で「実務者協議」を一斉に実施してまいりました。今回の信用保証協会向け監督指針の改正は、「①中小企業の経営改善支援を主体的に実施すること」「②経営者保証に依存しない融資慣行を推進すること」が大きなポイントであり、まさに我々TKC会員事務所が関与先企業の支援として行っている業務と密接につながるものです。
 これらを踏まえ、中小企業支援委員会では各地域において信用保証協会と連携を図るよう活動を開始します。地域中小企業の支援に向けて、信用保証協会、地域金融機関との「顔の見える関係」の構築につなげてまいりましょう!

民間金融機関による支援の強化

(会報『TKC』令和6年7月号より転載)