制度改正
待ったなし!「定額減税」対応のポイント
- ◎出席者(敬称略・順不同)
- TKC全国会システム委員会 PX2システム小委員会
髙谷新悟会員(東北会) 手塚悟会員(関東信越会) 松本浩康会員(中部会) 山本大介会員(南近畿会)
司会/中田和宏会員(静岡会)
6月の実施が間近に迫った所得税・個人住民税の「定額減税制度」。対象者は給与所得者と個人事業主、公的年金受給者であるため、ほぼ全ての関与先企業に影響が及ぶ。会計事務所には、短期間に、早急かつ計画的な関与先企業への支援が求められている。そこで、関与先企業の実務に精通するTKC全国会PX2システム小委員会のメンバー5名が集まり、定額減税制度の概要と会員事務所が関与先企業を支援する上での実務上の留意点、TKCの給与計算システムの対応などについて語り合った。司会は同小委員会委員長の中田和宏会員が務めた。
■とき:令和6年3月19日(火)■ところ:TKC東京本社
定額減税制度の概要は取材日時点の情報をもとに構成しています。最新情報は国税庁ホームページでご確認ください。
中田(司会) 皆さん、定額減税制度への対応準備は万全でしょうか?
本日は、PX2システム小委員会の私を含む5名のメンバーで、6月の実施が間近に迫った定額減税制度について話し合います。
PX2システム小委員会は、TKC全国会システム委員会のもとで、TKCの給与計算システムのPXシリーズ(あんしん給与も含む)と、オプションシステムであるPXまいポータルを担当する委員会です。
TKCシステム開発研究所(シス研)の皆さんとともに、TKC会員から寄せられる改善提案や今回の定額減税のような新たな制度・法改正についてシステムの対応を議論しています。実際にシステムを利用している関与先の実務と需要を知る我々5名のメンバーが、関与先とシス研との架け橋となり、システムを開発しています。
今回の定額減税制度には、賃金上昇が物価高に追い付いていない、国民の負担を軽減するという目的があります。
当座談会では、この制度対応をチャンスと捉え、TKC会員事務所が「税務の専門家」としての力を発揮し、「事務所の方針決定」+「TKCシステムの活用」により関与先の支援にいち早く取り組んでいただくことを目的とし、定額減税制度の概要と留意点だけでなく、各メンバーの事務所の方針や取り組み事例などもお話ししていただきたいと思います。
制度の概要と実務上の留意点
国民の生活に直結する減税制度 人ごとに違う減税額と控除方法
松本浩康会員
中田 最初のテーマは、定額減税制度の概要です。松本先生からお話しいただけますか。
松本 定額減税制度は、ご承知のとおり、令和6年度税制改正により、納税者と同一生計配偶者・扶養親族1人につき4万円(所得税3万円、住民税1万円)の減税を6月1日以降の給与・賞与から実施するというものです。
所得税の定額減税の対象は、令和6年6月1日時点で在籍する従業員のうち、源泉徴収税額表の甲欄に該当する居住者です。そのうちの合計所得金額が1805万円(給与所得のみの場合は給与収入2000万円)以下の方が対象です。
控除方法は、対象となる給与所得者に対して、令和6年6月1日以後最初に支給する給与・賞与の源泉徴収税額から定額減税額(以下、減税額)を控除します。減税額は[(給与所得者本人+同一生計配偶者・扶養親族)×3万円]です。
なお、控除しきれなかった額は、翌月以降順次控除して、令和6年分年末調整までに控除しきれなかった場合は、令和6年分年末調整で控除します。さらに年末調整でも控除しきれなかった分は、令和7年に給付措置が行われる見込みです。
中田 源泉徴収税額から減税額が控除されるということは、給与所得者(従業員)の手取り額が増えるということですね。従業員さんの生活に直結しますので、給与担当者は定額減税の対象者を正確に把握する必要があります。気を付けなければならない点はどこですか。
髙谷 まずは、給与所得者ご本人の所得制限についてです。合計所得金額が1805万円(給与所得のみの場合は給与収入2000万円)を超える方は、定額減税の対象外なのですが、給与計算の手続きとしては、給与所得者の場合は、いったん、減税額を控除しなければならず、年末調整(もしくは確定申告)で精算する必要があります。
山本大介会員
山本 さらに同一生計配偶者と扶養親族の考え方が、所得税の扶養の計算と異なる点も重要なポイントです。
定額減税における同一生計配偶者は、合計所得金額が48万円(給与所得のみの場合は給与収入103万円)以下の居住者です。ここには合計所得金額が900万円超の減税対象者の同一生計配偶者(「非源泉控除対象同一生計配偶者」)も含まれます。一方で、合計所得金額が48万円超の配偶者は源泉控除対象配偶者に該当する場合であっても、同一生計配偶者には該当しないため、定額減税の対象外となります。
また、扶養親族については、定額減税の対象に、所得税法上の控除対象扶養親族(16歳以上)だけでなく、16歳未満の扶養親族(居住者に限る)も含まれている点も勘違いをしやすいところです。
手塚 同一生計配偶者の所得制限について、先ほど、給与収入103万円が定額減税対象者のラインになるとの話がありました。昨今は人手不足を背景とするパート・アルバイトに対する賃上げの動きが加速しています。そこで、6月の時点では配偶者の給与収入が103万円で収まると想定していても、年末には103万円を超えてしまう可能性があります。すると、従業員が定額減税を受けられなくなる(年末調整による精算が必要となる)という大きな問題が出てきます。給与担当者には、従業員ごとに配偶者の給与収入が103万円を超えないかをしっかりと確認することも求められるのではないかと思います。
中田 続いて、個人住民税についても制度の概要とポイントをお聞きします。
髙谷 まず対象者は、令和6年分住民税の所得割の納税義務者で、令和5年の合計所得金額が1805万円(給与所得のみの場合は給与収入2000万円)以下の方です。
控除方法ですが、個人住民税(特別徴収)の定額減税は、令和6年6月分は特別徴収せずに、令和6年度分の住民税の所得割額から減税額を差し引いた額を11等分し、令和6年7月から令和7年5月までの11カ月間で毎月徴収します。
なお、定額減税対象外の方は6月分も従来通り特別徴収をします。また、均等割額からの定額減税はありません。
減税額は[(給与所得者本人+控除対象配偶者・扶養親族)×1万円]です。控除対象配偶者・扶養親族は国外居住者を除きます。
年末調整で一括の減税は不可 6月実施へ向けて円滑な支援を
中田 次に、給与所得者の給与・賞与からの減税に関しては、「6月1日」を基準日としています。この点についても、さまざまなケースが想定されると思いますが、いかがですか。
手塚 多くの給与担当者が気になる点は、6月1日以降の家族の増減や従業員の入退社が生じた場合の対応だと思います。国税庁が公表している「令和6年分所得税の定額減税Q&A」(以下、国税庁Q&A)には、個別の事例が出ています。
ポイントは、令和6年6月1日以降の最初の給与・賞与の支給以降に家族の増減等の異動があった場合でも、給与・賞与における減税額は増減しません。年末調整で調整します。また、令和6年6月2日以降に入社した従業員は、令和6年6月以降の給与・賞与からは控除せず、年末調整で調整します。同様に5月31日以前に退職した従業員についても、6月以降の給与・賞与からは控除しません。
中田 国税庁からの定額減税の案内は給与支払者向けが中心ですが、個人事業主(事業所得者等)のケースも押さえておく必要があります。松本先生からポイントをお願いします。
松本 納税者とその同一生計配偶者または扶養親族の方も要件を満たせば定額減税の対象になります。
事業所得者等の控除方法は、令和6年分の所得税の第1期分予定納税額(7月)から本人分の減税額を控除します。控除しきれない場合は、第2期分予定納税額(11月)から控除します。
気を付けなければいけないのは、予定納税額から同一生計配偶者等の分を控除するためには、予定納税額の減額申請手続きが必要であることです。申請しなかった場合や、もともと予定納税のない事業者は、確定申告で控除されることになります。
中田 ところで、社内の事務が煩雑になるということで、月次の減税は行わずに年末調整の際に一括で実施すればいいのではないかとの声もあるようですが、この点についてはいかがですか。
松本 毎月の給与からの減税対応をせずに、年末調整で一括減税することは認められていません。定額減税制度が設けられた趣旨を考えると、6月の給与・賞与からきっちりと減税を行い、物価高騰に従業員さんの手取りを増やして報いてもらいたいと思います。そのためには、我々TKC会計人が、関与先が6月から円滑に減税対応できるようサポートすることが大事だと思っています。
関与先企業の支援に必要なこと
『事務所通信』とオンデマンド研修で制度を理解し、案内する
『事務所通信 定額減税特集号』
と従業員への案内用の
付録リーフレット
中田 制度の概要を網羅的にポイントを絞ってお話しいただきました。所得税と住民税で減額方法や時期が異なりますし、給与所得者、個人事業者、ここではお話ししていませんが、公的年金受給者であるかによっても対応が異なります。きわめて複雑な制度ですね。しかし、準備に充てられる時間は限られています。
そこで、次のテーマは、会計事務所の対応についてです。複雑な制度に対して、どのように事務所で対応し、関与先に支援していこうとお考えなのかをお聞きします。
松本 まず一番大事なことは、関与先へ案内する前に、職員がしっかりと制度を理解することだと思います。私たち委員の間でも、制度の細かい点になると、お互いに確認し合うほどの複雑さです。まずは事務所の中でしっかりと制度を把握してから、関与先にお知らせしていく必要があると思っています。
手塚 松本先生が言われた通り、減税の対象者を把握するだけでも、私自身ピンとこない部分があります。そこで、まずは自分の家族に置き換えて、私の妻や息子が該当するのかを考えてみたり、関与先で、確定申告を受託している個人事業主や巡回監査を行っている企業の方の顔を思い浮かべて、「この方の場合は減税額はいくらになるのだろう」と、身近なところでイメージしてみると、より理解しやすくなるのではないかと思います。職員にもそのように伝えています。
山本 私の事務所は、確定申告が終わり、業務が一段落したところで、3月に提供された『事務所通信 定額減税特集号』(以下、『事務所通信』)を用いて所内で勉強会を行います。その後は、中田先生が講師を務めているオンデマンド研修「定額減税 制度の概要と会計事務所が準備しておくべきこと」を職員各自で視聴して、理解を深めてもらいます。疑問点は、全員が集まる事務所の定例会議で共有しようと考えています。
髙谷新悟会員
髙谷 私の事務所でも、一度に理解するのは難しいので、職員と一緒に学習する機会を複数回設けました。テキストは山本先生が紹介された『事務所通信』です。私も監修に携わったのですが、ポイントが絞られていて分かりやすいと思います。『事務所通信』が提供される前には「国税庁Q&A」を使った勉強会も行いました。2回目になると1回目で理解し切れなかった部分が出てきます。また、さまざまなケースを想定して生じた疑問点は、事務所の電子掲示板にどんどん書き込んでもらっています。みんなで回答案を出し合うことで、新しい発見があり、お互いの知識が深まります。
中田 私の事務所の対応も、関与先へのご案内方法を含めて紹介します。皆さんと同じですが、制度を理解するために、毎月1回行っている所内研修で、オンデマンド研修を全員で受講します。視聴後に質疑応答の時間を設けて、お互いに制度の趣旨や仕組みを理解していきます。
関与先へは、事務所からお送りする4月分の請求書に『事務所通信』を同封し、読んでもらえるようにします。そして、月次巡回監査時に巡回監査担当者がその内容を解説します。さらに、自計化しているところは、「戦略経営者メニュー21」や「e21まいスターメニュー」にある「なるほど! 定額減税」バナー(29頁参照)から特設サイトを開いてもらい、疑問があれば、その場で関与先に見ていただくことも考えています。
また、5月には、『定額減税実務テキスト』(全国会システム委員会監修)の提供や、オンデマンド研修の第2弾「定額減税の実務とTKCシステムの対応・操作方法」が公開される予定です。新しいツールも活用して、関与先を支援していきます。
定額減税のための申告書を6月の給与・賞与までに回収
司会/中田和宏会員
中田 ここからは、関与先への支援をテーマに、より実務に即したお話をしていきます。関与先が短い期間で円滑に制度対応できるよう支援していくためには、まず、事務所の方針を定めること。次に関与先ごとに支援方法を決定し、実行に移すことが大事です。
関与先では、まず、従業員さんへの周知と、控除対象の配偶者、扶養親族を把握するために必要な書類を回収しなければなりません。皆さんの事務所では、関与先の従業員さんから必要な書類をどのように回収するのかを教えてください。
手塚 今回、減税の対象となる配偶者、扶養親族を把握するために「源泉徴収に係る定額減税のための申告書」が国税庁の定額減税特設サイトに公開されました。この件に関しては、すでに関与先から、「全ての従業員が申告書を提出しなければいけないのか」というお問い合わせが数件ありました。当申告書に関しては、全従業員に一斉に配布して回収する方法もあれば、扶養親族や「源泉控除対象配偶者ではない同一生計配偶者」がいる方にだけ配布して回収する方法などもあります。会社の規模など個別の事情で判断する必要があると考えています。
TKC給与計算システムの対応
PXまいポータルによるWeb入力で申告書を簡単作成
中田 TKCシステムの対応を教えて下さい。
手塚 悟会員
手塚 まず、4月24日に「源泉徴収に係る定額減税のための申告書」の印刷機能を搭載します。そして、5月17日に「定額減税対象の確認・入力機能」の追加と、給与・賞与における減税額の計算への対応を行います(FXクラウドシリーズは4月24日に対応)。また、PXまいポータルに「『源泉徴収に係る定額減税のための申告書』のWeb入力・受理機能」を5月17日に追加します(詳細は31頁参照)。
PXまいポータルを利用すれば、PXシリーズに登録されている家族情報をもとに、Web上で従業員さんに配偶者や扶養親族に関する質問に答えていただくだけで、定額減税の対象となるかが判定され、間違いのない申告書を作成できます。申告書を紙で配布し、回収する手間がなくなりますので、PXまいポータルをまだ利用していない関与先へ提案を行っているところです。
山本 私の事務所では、今のところ、PXまいポータルを使っていない関与先では、「源泉徴収に係る定額減税のための申告書」を一斉に配布しようと考えています。本来は、扶養控除等申告書で対応できますが、「定額減税が始まるんだよ」というアピールになります。そして、「源泉徴収に係る定額減税のための申告書」を提出された方はその内容を反映し、提出されなかった方は、扶養控除等申告書の内容に基づいて手続きを進めます。
髙谷 私の事務所も山本先生と同じく、減税を受けるための手続きとして、全員に申告書を配っていこうと考えております。回収期日を決め、提出があった方は申告書内容を反映させ、提出のなかった方はすでに提出済みの扶養控除等申告書の内容のままで減税額を計算することを検討中です。また、『事務所通信』には付録として、従業員さんへのご案内を目的としたリーフレットも用意されています。申告書を配る前か、申告書と一緒に配布することも検討しています。
PXまいポータルの利用は、私も非常に有効な手段だと思っています。というのも、年末調整は年に1回だけの作業のため、従業員さんが紙で申告する場合は、毎年必ず、記載漏れや記載箇所の誤り、合計所得金額の誤りが見つかり、手直しが発生しています。
PXまいポータルには、必須項目のチェック機能と、画面上に解説ボタンが付いています。これにより「合計所得金額」欄の記載漏れや「収入金額」を入れてしまう間違いも減りました。結果的に給与担当者や総務部門の方の業務の効率化につながっています。今回の定額減税制度についても、そこを関与先への訴求点にして、PXまいポータルを普及させていきたいと考えています。
中田 PXまいポータルには、①マイナンバーのTISC保管、②給与明細等のWeb閲覧、③扶養控除等申告書等のWeb入力・確認──の三つの機能があります。髙谷先生が言われたように、申告書のWeb入力を使えば間違いのない申告書が簡単に作成でき、業務効率が確実に上がります。
私の場合は、会計事務所の職員の年末調整の際に③のWeb入力から始めました。次に②の給与明細のWeb化を行いました。巡回監査担当者がWeb化のメリットを実感したことでPXまいポータル導入推進に弾みがつきました。
今回追加される「『源泉徴収に係る定額減税のための申告書』のWeb入力・受理機能」をきっかけに、PXまいポータルが普及し、給与計算や年末調整業務のDX化、業務効率の向上につながっていくことを期待しています。
髙谷 PXまいポータルについて、これからFXクラウドシリーズの給与計算機能の利用を検討されている方へ注意点があります。Web入力・受理機能を利用される場合は、PXシリーズとPXまいポータルを利用する必要があります。FXクラウド給与計算機能には、「『源泉徴収に係る定額減税のための申告書』のWeb入力・受理機能」を搭載しません。
中田 「源泉徴収に係る定額減税のための申告書」の印刷機能で対応するということですね。
髙谷 その通りです。ただし、FXクラウド給与計算機能をご利用の場合も「源泉徴収に係る定額減税のための申告書」を一から記入していただく必要はありません。お使いのシステムに登録されている家族情報から、明らかに減税対象と判定できる場合と減税対象と判定できない場合にはその旨をあらかじめ印刷します。また、扶養親族については、登録済みの扶養親族を記載し、列挙した以外の親族がいる場合には記載を促す文言を印刷します。従業員さんや給与担当者に、できるだけ負担をかけない仕組みを考えています。
給与計算システム化のメリット
将来の制度対応も見据えて会社の規模によらずシステム化
中田 多くの従業員を抱えている企業ではシステム化がとても有効だと思います。一方で、従業員が1人や2人の小さな企業がシステムを導入する上でのメリットは何でしょうか。
山本 私の関与先で家族経営の方がいらっしゃいます。社長にシステム提案すると、これまでは「うちは収入が毎月同じで、源泉徴収税額も変わらないから不要だよ」と断られてきました。ところが、6月からは毎月、減税額を反映した源泉徴収税額を計算せねばならず、事務処理の負担は大幅に増えます。仮に計算に誤りがあったとしても年末調整で調整することもできるとは思いますが、法令遵守の面からも、システム化して確実に対応する必要があると考えています。
髙谷 その点に関しては、給与担当者が行わなければならないことがまだあります。それは、①令和6年度6月1日以降に交付する給与等の明細書への「当該給与等の所得から控除した定額減税額」の記載と、②年末調整後の源泉徴収票の摘要欄への「所得税の定額減税控除済額および控除しきれなかった額」(控除外額)、そして、「非控除対象配偶者分の控除を実施した場合のその旨の記載」──が求められていることです。
これらを手計算やExcelで計算して管理することは困難です。従業員の人数にかかわらず、正確な給与計算と事務負担軽減のためにも給与計算システムの導入を検討していただいた方がよいでしょう。
中田 定額減税制度は令和6年に行う1度きりの制度ですが、毎年、税制改正があり、給与計算や年末調整の業務に何らかの見直しがあります。将来の制度対応を見据えると、給与計算システムによるシステム化が必要だと思います。
レベルアップするだけで定額減税の機能を全て利用可能
中田 委員会では関与先が定額減税の実務をスムーズに対応できるよう機能を考えました。すでにPXシリーズやPXまいポータルをご利用の方は設定変更が必要でしょうか。
松本 4月のレベルアップで、メニューに「令和6年分定額減税」ボタンが追加されますので、定額減税を「行う/行わない」の設定は不要です。
手塚 PXまいポータルは、先ほど紹介した三つの機能のうち、②「給与明細等のWeb閲覧」機能のみを利用している方が新しい申告書をWebで収集したい場合には、新たに③「扶養控除等申告書等のWeb入力・確認」機能を「利用する」に設定してください。
中田 新規利用についても確認しておきます。TKCにはPXシリーズとFXクラウドシリーズの給与計算機能があります。髙谷先生、これから新規で給与計算システムを導入したい場合は、どちらを利用すればよいのでしょうか。
髙谷 今まで給与計算を手計算やExcelで計算していた方へは、FXクラウドシリーズの給与計算機能をお勧めください。FXクラウドシリーズは会計・給与・販売管理機能が一体となったシステムです。定額減税対応とインボイス対応、電子帳簿保存法対応が一度に全て解決します。FXクラウドシリーズでは給与計算機能だけを先行して利用することもできます。
また、関与先への指導はPXシリーズの方がよいという場合は、FXクラウドシリーズの会計機能とPXシリーズの組み合わせで利用することもできます。なお、PXシリーズからFXクラウド給与計算機能への移行は8月を予定していますので、定額減税対応が落ち着いたあとにご検討ください。
中田 TKCシステムに関する最新情報は、ProFITとOMSメニューの「定額減税最新情報」サイト(29頁参照)で確認できます。『事務所通信』やオンデマンド研修などの支援ツールも掲載していますので、定期的にご確認ください。
会員へのメッセージ
法令遵守と利便性を考えたPX関与先企業のDX推進に貢献を
中田 最後に、これから定額減税制度への対応にあたる会員先生に向けてメッセージをお願いします。
手塚 TKC会員がTKC全国会運動方針にある「TKC方式の自計化」を強力に推進している中で、関与先にFXシリーズ(FX2とFXクラウドシリーズ)の会計システムだけを提案することは非常にもったいないことだと思っています。関与先の業務効率化のためにも、IT導入補助金を活用しながら、PXシリーズをはじめとする給与計算システムの推進もご検討ください。
私の担当で、役員2人だけのため手書きで給与計算を行っていた関与先に、今回の定額減税対応を見据えて、「TKC方式の自計化」を提案したところ、同意していただき、導入に至りました。
山本 PX2システム小委員会で委員を長く務めさせていただいており、PXシリーズには愛着があります。FXシリーズの利用件数(約31万社)を考えると、PXシリーズの普及にはまだまだ伸びしろがあると思っています。会計事務所の職員さんにとって、給与計算処理は月に1回の作業ということもあり、触れる機会が少ないため、関与先への導入をためらわれているという声も聞いています。当委員会では、シス研の皆さんと一緒に、関与先の利便性を考えて改善し続けてきました。今回の定額減税を機会にPXシリーズに触れて、その便利さを実感していただき、より多くの関与先でご利用いただけるよう推進をお願いしたいと思います。
髙谷 もし、会計事務所の職員さんがシステムのサポートの面で不安をお持ちであれば、TKCには「TKCシステムまいサポート」があります。TKCシステムをご利用の関与先からの問い合わせに対して、TKCの専門スタッフが直接電話で回答しますので、ご安心ください。
煩雑な定額減税制度などさまざまな法改正対応についても、法令遵守のTKCシステム活用と我々の支援で迅速・簡単に対応できる点が、TKC会員が関与先からの信頼と評価を得られている理由ではないかと考えます。定額減税制度をきっかけに、関与先の給与計算から年末調整に至るまでを一気通貫でシステム化し、DXを推進していただけると非常にうれしいです。
松本 PXシリーズの利用は業務の効率化の点からも絶対におすすめです。さらに関与先へは「TKC電子納税かんたんキット」の導入も一緒にご案内いただきたいと思います。ご存じのように、国税庁は、キャッシュレス納付の利用拡大に向けて、令和6年5月から電子申告されている方への納付書の事前送付を取りやめることを発表しています。TKC電子納税かんたんキットを導入すると、源泉所得税も個人住民税の納付も窓口に出向く必要がありません。手間が省けて、関与先から大変喜ばれるのではないかと思います。
中田 冒頭にも申し上げましたが、定額減税は政府の政策として出された制度です。面倒なこととは考えずに、関与先のDXのチャンスと捉えて、一人でも多くの会員先生が、TKCの給与計算システムとPXまいポータルで関与先を支援し、DXによる業務効率化と「TKC方式の自計化」推進に貢献していただくことを願っています。
(構成/TKC出版 石原 学)
(会報『TKC』令和6年5月号より転載)