巷はサブスクリプションビジネス花盛り。音楽や動画配信は言うにおよばず、電子書籍、食品・飲料、アルコール、自動車……。市場規模も拡大一途である。もちろん、工夫次第では中小企業も大きなチャンスをつかむことができる。サブスクビジネスの最前線を取材した。

プロフィール
かじやま・けいすけ●1981年、東京生まれ。2005年に慶應義塾大学を卒業。同年、シティバンク銀行へ入行。07年、株式会社エッジコネクションを共同創業し、副社長へ就任。15年、受講した「識学」に感銘を受け、「識学」をより普及させるための株式会社識学へ参画し、同社、取締役へ就任。19年2月、同社が東京証券取引所マザーズへ新規上場を果たす。19年4月より同社の副社長に就任。
サブスクビジネス最前線

──サブスクリプション(サブスク)ビジネスが隆盛している背景は?

梶山 他の新ビジネスの例にもれずサブスクビジネスは欧米で勃興し始めたものですが、日本でも新聞の定期購読などは存在していたわけで、とくになじみのないものというわけではありません。しかし、従来的なビジネスであっても、新たなアイデアや工夫を加えながらサブスク化されるなど、その「領域」がどんどん広がりつつあるのは確かです。理由のひとつは、事業者側に安定的な収益をもたらすビジネスモデルだからです。サブスクビジネスは顧客数、顧客単価、契約期間の3軸で経営状態を把握できるので、計画も立てやすく業績の上下も比較的緩やか。経営者へのストレスもかかりにくいなどのメリットがあります。

身近なビジネスモデルに

──良いことづくめですね。

梶山 ところが、そうとばかりも言えません。私が取締役副社長をつとめる株式会社識学においても、数年前から独自のコンサルティングの内容をパッケージにしたサブスクビジネスを主力事業にしているのですが、当初はこの「事業者目線」のイメージに少し違和感を持っていました。

──なぜですか。

梶山 事業者が儲けるためだけにサブスクを選択するのでは、ユーザーの支持を得ることは難しいと考えたからです。しかし、ここへきて、しっかりとした自らの世界観(目的)を持ち、その世界観を成し遂げるための手段としてサブスクを位置付けている企業が増えてきた印象です。今では、映像や音楽などを代表例として、サブスクはユーザーにとって極めて身近でお得なビジネスモデルとして位置づけられるようになりました。

──ユーザーのお得感はどこからくるのでしょう。

梶山 単純に購入するよりもコストをかけずにモノやサービスに触れることができるところでしょう。たとえばソーシャルインテリア(旧サブスクライフ)という会社では、多彩でおしゃれな家具をサブスクで提供します。また、エアークローゼットという会社のサービスを使えば、コーディネーターが選んだ自分に合う服が毎月送られてきます。これらはいずれもサブスクを活用することによる事業の「利便性」「流動性」「機動性」の高さが若者を中心としたユーザー層に受けているのだと思います。

──サブスクビジネスが社会に与える影響は?

梶山 プラス面でいえば、やはりユーザーの使い勝手の面でしょう。少しのお金で多彩なモノやサービスに触れることができるわけですからね。一方、マイナス面としては、法や規制の整備が追いついていないところです。

──たとえば?

梶山 一部の業界でも問題になったことがありましたが、解約の仕方が分からない、最低契約期間の縛りが途方もないなどのユーザーからの声が増えています。あるいはどう考えても一括購入した方が有利な価格にあらかじめ設定されているというような悪質なケースもあります。

──騙しの手口ですか。

梶山 そう。毎月は安く感じるけど気づいたら3個くらい買える金額を支払っていたとか……。要はサブスクサービスに対してルールがないわけです。ここに対しては消費者庁もメスを入れ始めているし、当振興会でも業界内でのルール作りを進めつつあります。

──悪質な業者が増えると、サブスクそのもののイメージが悪くなりますね。

梶山 はい。何年か先に「昔はサブスクがはやったよね」とならないように、われわれも活動していかなければなりません。

「自社工場」との親和性は良好

──サブスクビジネスで成功する、あるいは失敗しないためのポイントは?

梶山 サブスクはあくまで手段です。これが目的化するとユーザーが離れていきます。われわれが主催する日本サブスクリプションビジネス大賞において、たくさんの成功例を見てきましたが、いずれも独自の世界観や思いを前面に打ち出し、サブスクは手段と位置付けています。

──サブスクに向いている事業はありますか。

梶山 業種ということで言えば何でもいけるのではないでしょうか。ただ、「自社工場」を持っている会社はサブスクビジネスとの親和性がよいかもしれません。
 最近好調なダロワイヨという会社が提供している「マイマカ」というサブスクサービスは、毎日1個ずつ好きなマカロンをユーザーに提供するというものですが、この会社は老舗の洋菓子屋であり自社工場を持つメーカーです。工場を持っていれば、忙しく稼働させることで製造原価率を下げることが可能であり、突発的なニーズに対応することもできる。なにしろ、つくればつくるほど効率化されるので、ますますサブスクの価格優位性をアピールすることができるようになります。

──失敗する企業の特徴は?

梶山 食品系のサブスクが急増した時期もありましたが、最近は減少気味という印象ですね。日本の消費者は価格にシビアなので、食の分野で自社工場を持たず、製品に付加価値がない業者は少し苦しいかもしれません。
 それから、ある外食チェーンが「定額制食べ放題」で人気を博しましたが、外食は設備産業の側面が強いので、お客が殺到し過ぎてうまくいきませんでした。やはりキャパシティーに限界がある産業ではサブスクビジネスは厳しいような気がします。既存客にも迷惑がかかりますしね。

「ありそうでなかった」を模索

──日本サブスクリプションビジネス大賞(『戦略経営者』2023年2月号 P40〜41参照)を開催されていますが、印象的な企業を挙げていただけますか。

梶山 昨年、グランプリを受賞したYAMAP(ヤマップ)はやはり印象深いですね。山登り愛好者というニッチ市場ではありますが、その登山地図GPSアプリは圧倒的な人気を誇っています。電波の届かない山中でも現在地をスマホで確認できるという画期的なサービスで、登山者のコミュニティー形成にも一役買うなど、きめ細かい設計で月間利用者数は66万人を超えています。

──ほかには?

梶山 同じくブロンズ賞を受賞したレジャパスも出色です。これまで、ある施設は入園し放題というサービスはありましたが、レジャパスは毎月一定金額支払うことで150にも上る全国の娯楽施設を利用できるというサービスを展開しています。これが大いに受けて、スタートから半年で会員数が3万人を突破するなど、老若男女の幅広い注目を集めています。
 物販では、サプリノという会社のサプリメント定額制サービスが個性的だと思います。ライフスタイルや食習慣に関する質問に回答すると、その結果をもとに1日の不足栄養分を補うサプリメントが1カ月間届くというサービスを展開しています。
 これらに共通しているのは「ありそうでなかった」サービスであること。単体のモノやサービスは、ほとんどがすでに存在します。そこにひと工夫ふた工夫加えれば、付加価値のついた商品へと変貌します。そして、その商品力を最大限生かすために、サブスクリプションを活用すればよいのです。

──お話を聞いていると、成功しているサブスクビジネスは、すでにそもそものモノやサービスが差別化されているという印象です。

梶山 以前はサブスクというだけでビジネスが成立したのかもしれませんが、今はもうそれだけではダメですね。

──今後のサブスク市場はどうなるのでしょうか。

梶山 ここまで一般化してしまえばあとは伸び続けるだけです。現在、1,000億円前後の市場規模があると見られていますが、2,000億円、3,000億円への到達も遠い未来ではないでしょう。当振興会では、サブスクビジネスの認知度向上という当初の目的はある程度達成しました。次のステップでは、安全性、信頼性を獲得するための法整備を進め、市場規模のより一層の拡大に尽力していきます。

(インタビュー・構成/・高根文隆)

掲載:『戦略経営者』2023年2月号