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地域金融機関が企業の業況変化や経営課題をリアルタイムに把握し、最適な伴走支援を行うためには、精緻な財務データの適時共有が重要です。本稿では、顧問税理士の関与のもとで月次決算体制を確立し、自己資本比率8割超の堅実な経営基盤を維持する老舗メーカーの事例を紹介します。経営者・顧問税理士・金融機関の三者が一堂に会する業績検討会が、課題の早期把握と実効性の高い支援提案を促す有効な場となっていることを示しています。

【金融機関の視点】岩手銀行が同席した業績検討会
- 対話を通じて企業の経営課題をリアルタイムに把握
福田パンの福田潔社長、顧問税理士である岩手税理士法人、岩手銀行が一堂に会し、毎月の業績報告を行っている。これにより、原材料高騰による限界利益率の推移や人件費上昇による固定費増加など、福田パンの足元の業況と経営課題をリアルタイムに把握でき、設備投資や運転資金の融資など多角的な支援策の提案につながっている。 - 定量・定性情報の解説が機動的な金融支援につながる
福田社長による報告に加え、顧問税理士が専門家の立場から財務データの推移(定量情報)とその背景(定性情報)を解説することで、数字の透明性・信憑性がより一層確保される。これにより、融資判断や支援策の検討をより的確かつスピーディーに実行することができる。また、TKCモニタリング情報サービス(MIS)による毎月のデータ共有も、迅速な金融支援を後押ししている。 - 緻密な月次決算が信頼関係の構築を後押し
福田パンが実践する月次決算を通じて、金融機関の強固な信頼関係の構築につながっている。岩手銀行の担当者も「原価率のコントロールとロスを出さない生産管理の手腕が素晴らしいと感じており、これも月次決算を通じてタイムリーに売上高と利益の状況を把握されているからだと感じています」と高く評価している。
盛岡のソウルフード「福田パン」
岩手県盛岡市の老舗コッペパンメーカーである福田パンといえば、直営店での商品の提供方法が有名だ。定番の小豆餡やカスタードクリームの甘いもの系から、チキンや焼きそばなど総菜系に至るまで、バラエティーに富んだ豊富な具材を購買客がセレクトし、店舗スタッフが目の前でパンに塗りこんでくれる。具材の数はなんと約50種類。二つの食材を指定することができるので、組み合わせの数を考えると無限の楽しみがある。
福田パンのもう一つの特徴は、盛岡市内の高校など教育機関での出張販売、地元スーパーやコンビニへの卸販売など、地域に根差したさまざまな販売チャンネルを設けていること。物心ついたときから福田パンを口にしている地域住民は、親しみを含めて同社のパンを「盛岡のソウルフード」と呼んでいる。
配送ルート見直し効率アップ

3代目の福田潔社長は、高校卒業後に東京製菓学校パン専科でパン作りの基本を学び、その後、新宿中村屋のベーカリー部門で修行。さらに運送会社での勤務を経て、30歳のときに盛岡に帰ってきた。
前職の経験を生かし、まず福田パンで取り組んだのは、配送部門の効率化である。配送ルートを一から見直して組み直した結果、同じ時間でより遠くの場所まで配達できるようになった。
「ジグザクになっていた配送ルートをできるだけ『U』の字になるように見直しました。そのため、配達時間が早くなったり遅くなったりする取引先がありましたが、1社1社お願いしてなんとかご協力いただくことができました。
前職の運送会社では常にトラック1台当たりの売上高や利益を意識していましたが、この考え方を当社にも導入したのです」(福田社長)
経営のデジタル化にも着手した。特に困っていたのは生産管理業務。「先週の販売個数は○万個だったから、今日のあんバターの生産は△千個でいこう」というどんぶり勘定の販売予測だったため、過剰生産による廃棄ロスや欠品による売り上げ機会の損失が度々発生していたのである。
そこで福田社長はパソコンを導入し、エクセルを使って製品種別の生産個数の厳密な管理に着手。情報処理系の専門学校を卒業したパソコン操作に詳しい社員と協力し、1カ月をかけて「1個の狂いもなく生産したパンに無駄を出さない」仕組みを作りあげた。
さらに取引先のスーパーマーケットと交渉し、電子発注システム(EOS)を導入。インターネットを通じ、決められた時間にワンクリックでデータを自動集計できるようになり、手入力による手間と打ち込みミスの頻度を大幅に減らすことができた。受発注業務、生産管理業務の省力化、ペーパーレス化を同時に推進したのである。
月次決算の確認で素早い対応

2024年12月中旬、盛岡市内の岩手銀行材木町支店に姿を見せたのは、福田社長、岩手税理士法人の工藤重信税理士、同法人業務課の竹田隆介主査の3人である。
同社は工藤税理士の指導のもと、「FX4クラウド」を導入し、業績の見える化を実践。工藤税理士や竹田主査が月に1度同社を訪問し、最新業績や予算の進捗状況などを確認する場を設けるなど、月次決算体制を確立している。この日、10月までの業績報告に訪れた一行を迎えたのは、支店長の佐々木学氏だ。
まず工藤税理士が業績の概況を説明する。
「原材料価格の高騰の影響を受け、変動比率がかなり高くなっており、結果的に限界利益率が昨年に比べ落ちこんでいます。さらにそこに追い打ちをかけているのが、最低賃金の上昇や働き方改革など国の政策の後押しもあって、昨年から賃金上昇の傾向が続いていること。限界利益率の低下、人件費上昇にともなう固定費の増加で、経常利益も前年同期比減となりました」


直近の10月決算の内容をもとに、販売先別の売り上げ状況について竹田主査が補足する。
「月次巡回監査では売上高の推移、店舗ごとの売上高、変動費率の推移等を一緒に確認しています。店舗の売り上げが徐々に回復してきている一方で、卸売り部門がやや苦戦しているのが最近の傾向です」
一通り業績の現状に説明を受けた佐々木支店長が口を開いた。
「原価率のコントロールとロスを出さない生産管理の手腕が大変すばらしいと感じており、これも月次決算を通じてタイムリーに売上高と利益の状況を把握されているからだと思います。また、TKCモニタリング情報サービスによって当行に最新の業績に関するデータを送信していただけるので、どんな課題があるのかをオンタイムで知ることができます。工藤先生にご相談しながら、設備投資や運転資金の融資のみならず、さまざまな角度から支援の方法について提案することが可能になっています」
その後3者の間では、高い自己資本比率を維持している同社の筋肉質な財務体質について話題が移った。工藤税理士が言う。
「福田パンさんは、先代を含め代々『無駄な経費は使わない』経営を徹底されてきました。会社で生み出した利益は財政基盤を強固なものにするためにしっかりと社内に残しておく――その理念が自己資本比率8割超の実現につながったのだと思います。高い水準で自己資本比率を維持することが、もはや地域文化ともいえる盛岡のソウルフードを提供する企業として、絶対につぶれない会社にしていくという決意のあらわれになっていると思います」
その後もしばらく4人の間で活発な意見交換が続いた。岩手税理士法人を通じた地元金融機関との良好な関係の維持が、将来取り得る選択肢の幅を広げているのは間違いないだろう。
TKCモニタリング情報サービス
TKC会員事務所が毎月の巡回監査と月次決算を実施した上で作成した月次試算表、年度決算書などの財務情報を関与先企業からの依頼に基づいて、金融機関に開示する無償のクラウドサービス
新商品開発も検討
顧問契約を結ぶ岩手税理士法人のサポートのもと、盛岡のソウルフードとしての味を守り続ける同社だが、課題は少なくない。福田社長は、深夜労働に偏重している製造スケジュールの再検討、人口減による需要減への対応などを検討課題として挙げる。
「現在当社のパンの製造は、夕方から翌日朝にかけてのワンサイクルのみ。深夜の割増賃金によって収入が増えるため、独身社員などは積極的に勤務にあたっていますが、『子供と過ごす時間がとれない』と転職してしまった社員もいました。そこで現在、コッペパンに加えもう一つの柱となる商品を考案し、朝から夕方にかけても工場を稼働させることを検討しています。昼夜の2交代にすれば、製造部門のスタッフが交代で昼の勤務につくことができるようになり、労働環境の改善につながりますからね」
新商品追加による売り上げの増加、昼間の稼働による深夜勤務割り増し賃金比率の低下による人件費の抑制をねらうというわけである。さらに福田社長は、「既存商品のさらなる改良によるリピート率の向上」「メディア出演や物産展での実演販売などの取り組み強化による県外需要の喚起」などを通じ、人口減少にも負けない販売個数の拡大を目指すという。

BS11特別番組「ドキュメント戦略経営者」で動画もご覧いただけます。
| 有限会社福田パン | |
|---|---|
| 業種 | パン製造業 |
| 創業 | 1948年1月 |
| 所在地 | 岩手県盛岡市長田町12番11号(長田町本店) |
| 売上高 | 6億6,000万円 |
| 社員数 | 44名 |
| 会計システム | FX4クラウド |
| URL | https://www.fukudapan.com/ |
| 岩手税理士法人 | |
|---|---|
| 代表社員税理士 | 工藤重信 |
| 所在地 | 岩手県盛岡市高松4-1-8 |
| URL | https://www.iwate-tax.com/ |
『戦略経営者』 2025年3月号より転載


































